義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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1章

3-1. 歓迎の宴 ロイド

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 襤褸布をまとったゴブリンが土下座していた。万歳するように両手を投げ出しているから、土下座と五体投地の合体技かもしれない。

 ああ――ゴブリンというのは、俺が先ほど勝手に決めた緑人間の呼び方だ。
 それなりにゲームを嗜む側の青少年としては、松明の揺れる炎に照らし出された奇怪な生き物を見ているうちに、「あ、これはゴブリンだ」と思わずにいられなかったのだ。
 もう少し詳しく俺の心理を述べるなら、そのくらいの茶目っ気に身を任せでもしなければ、いますぐ絶叫した後に失神してしまいそうだったからだ。
 なのに……そうやって気を張っていたところへの土下座である。完璧に虚を突かれて、思考が止まってしまった。その空白に付け込む絶妙なところで、ゴブリンはずいっと顔を上げ、俺を見上げてきた。
 松明の光では分かりにくけれど、ぎょろりとした目は白目のところが黄ばんでいて、反射的な嫌悪感を与えてくる。

「な、なんだよ……」

 自分を鼓舞するためにも強気に言い返したけれど、それに対して返ってきたのは、唸り声だった。

「ぐるぅぶりゅ、じゅが、ぐうぅれじゃぶぇ」

 無理やり書くなら、このような感じにしかならない声だ。
 早口のイタリア語やスペイン語みたいなものに聞こえなくもなかったけれど、そもそも俺は日本語以外、まともに聞き取れない。英語でギリギリだ。
 なので、ゴブリンの発した声について俺に言えるのは「間違いなく英語でも日本語でもない、その他の言葉に思えなくもない声」だけだった。

 ゴブリンはなおも言葉だか唸りだか分からない声を俺に投げかけてきたが、やがて、俺が黙っているのが意味を理解できていないからだと理解したようだ。ゴブリンは肩を竦める仕草をすると、座ったままパンパンと柏手を打った。
 すると、その拍手が合図だったのか、松明の明りが際どく届かないあたりを囲んでいた連中が、わらわらと俺たちのほうに集まってきた。

「え……なんだよ……」

 俺は有瓜を背中で押しながら、平らな床を尻で押すようにして後退りした。

「――きゃっ」

 背中のほうで有瓜が悲鳴を上げた。慌てて振り返ると、背後からも同じく人影が迫っていた。
 松明の明りの中に入ってきて露わになった連中の姿も、最初に進み出てきたゴブリンと同じく、暗緑色の肌をして、幼児が粘土を捏ねて作ったような大雑把な顔立ちをしている――すなわち、こいつらもゴブリンだ。唯一の違いは、最初に出てきたゴブリンがポンチョのような襤褸布をすっぽり被っていたのに対して、周りを囲んでいたゴブリンたちは辛うじて腰布を巻いているだけという点だ。

 あ、もしかして――と、なぜか無駄に勘が働いた。

 ポンチョも腰布も、布に穴を開けたり裂いたりしただけのものだ。たぶん、ゴブリンたちには裁縫技術がないのだ。布がぼろぼろなのも、自分たちで機織りしたのではなく、どこからか調達してきたものなのだ。ポンチョも腰布もすべからく襤褸なのが、その証拠だ。
 また、そうだからこそ、身につける布の多さが身分の差を表しているのだ。布地の多いポンチョを被ったゴブリンが、腰布を巻いているだけのゴブリンたちに手を叩いて、俺たちを取り押さえるように命じたことがその証拠だ。

 ――待てよ。

 もしそうだとしたら、ひとつはっきりすることがある。ゴブリンたちが俺たちのことを良いと悪いのどちらで認識しているか、だ。
 もし連中が俺たちのことを危険、不審、敵対的な人物と見なしていたなら、最初に命令者であるポンチョのゴブリンが近付いてきたとは思えない。ということは、ゴブリンたちは俺たちを敵とは思っていない可能性が高いということだ。
 さらに言うなら、ポンチョのゴブリンは明らかに無抵抗かつ敬意を示すだろう体勢を取ってみせた。それから察するに、単に敵だと思われていのではなく、もっと積極的に好意を持たれているのかもしれない。いや、きっとそうだ。だってそうでなかったら、いま実際に腰布ゴブリンたちに左右から腕をがっちり抱えられて立ち上がらされ、どこかへ連行されている俺の未来が絶望的なことになってしまうではないか!

 ああ――俺の思考がいきなり緊急性のない考察を始めたのはきっと、現実逃避して恐怖から逃れようという防衛本能によるものだ。
 腰布ゴブリンはポンチョの奴に比べて筋骨隆々で、柔道家やプロレスラーを連想させる。俺も中学高校と卓球部で真面目に活動してきたけれど、力で敵う気はまったくしない。おかげで、身体を洗うという文化を持っているのかすら怪しいほど強烈な体臭のする身体で左右から挟まれている状況でも、刺激に対する反応として溢れてくる涙に堪えながら、暴れる気力を抱けなかった。
 いま下手に暴れて怪我させられるよりは、機会が訪れるのを待ったほうが賢い――自分の恐怖をそんな言葉で誤魔化すことだけが、俺にできる唯一の抵抗だった。

「――あうっ」

 背後で有瓜の呻き声がした。
 その瞬間、恐怖も誤魔化しもまとめて吹き飛んだ。

「有瓜!」

 俺は全力で身を捩り、右側のゴブリンから腕を引き抜いて背後に振り返る。
 さっきまで俺たちがいたところには腰布ゴブリンが集まっていて、有瓜を前後左右から押さえ込みつつ、服を脱がせていた。

「おい、何やってんだ!」

 俺は有瓜のほうに駆け寄ろうとしたけれど、左右のゴブリンを振り解くことはできなかった。
 なんてことだ、俺の考察は大外れじゃないか! こいつら最初から、俺たちのことを性欲の対象にしか見ていなかったんじゃないか!

「有瓜、有瓜ぁ!」

 妹が目の前で怪物どもにレイプされようとしているのに、俺は叫ぶことしかできないのか!?

「有瓜――」

 叫ぶことしかできないのなら、せめて喉が裂けるまで叫んでやる――その決意を声の大きさにして轟かせようとしたのと同時に、ゴブリンどもに囲まれて手足しか見えなくなっている妹の声が、いやにはっきり聞こえてきた。

「あぁ♥ なにこれしゅごおおぉ♥」

 ……ああ、そうだった。
 俺はどうして、たとえ一瞬とはいえ忘れていたのか。
 こいつらが緑の怪人ゴブリンなら、俺の義妹だって筋金入りの性欲魔人ビッチなのだった……。
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