義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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5章

74-1. 王の使者 ロイド

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 昨日は結局、お祭りをどうするのかという話題はうやむやになってしまった。
 アンはあれから特に何も言いはしなかったのだけど、俺を含めた周りの連中は話題の蒸し返しになることを恐れて、当たり障りのない会話に終止した。俺は自分のことをわりとオタク気質のほうだと自己分析しているので、俺よりもずっと空気を読める有瓜が敢えて触れようとしなかったから、右に倣えの精神で追従したのだった。
 そんなこんなで昨日は話しそびれてしまったけれど、さて今日こそは建設的な話し合いまで進められるだろうか――と考えながら、河原で歯ブラシ(繊維の柔らかな木の枝の先っぽをブラシ状に解したもの)を使っていたのがフラグになったのか、この日は朝食の準備を終えて早々、イベントが起きた。

 ピイイィ――。
 甲高い骨笛の音が、森の奥から聞こえてきた。朝飯前から走破訓練ランニングを兼ねた近隣の巡回に出ていたゴブリンたちの誰かが鳴らしたものだ。
 最近は忍者だけでなく戦士たちも巡回に参加するようになっていた。なんでも、有瓜がセックスに参加しないと体力が有り余るらしい。剣やらプロレスもどきやらの稽古に、危険地帯での狩りに、と十分に体力を使っている気がするのだが、そんなゴブリンたちの体力を根刮ぎにするセックスをするって……有瓜はヤった相手の精力を啜り取る淫魔か何かなのか?
 それはともかく、笛の音だ。鳴らし方で符丁を決めているのだが、いまの鳴らし方は「差し当たっての危険なし」「現場では判断しかねる状況」「応援を請う」か。

「ふむ……何か変なものでも見つけたのか?」

 俺は首を傾げつつ、朝から日向ぼっこしているユタカを見やる。こいつみたいな正体不明サムシングをまた見つけてきたのだろうか。
 そこに笛の音が再び響く。今度は別のところからで、「了解」を意味するフレーズだ。
 朝の巡回は戦士と忍者が一名ずつの二人組ツーマンセルで別々の順路を巡回していて、いまのは何かを発見した組からの合図の笛に、近くにいた別の組が笛で応答したのだった。
 食事の支度を進めながら待っていると、茂みの奥から忍者が一人、わざとガサガサと音をさせて姿を現した。

「巫女様、従者様。変なんば、来たんず」

 忍者の第一声は、骨笛の符丁をなぞるものだった。その後に説明が続けられたけれど、それでもよく分からないままだった。

「ふむ……謎の男が、俺に会いに来た……ね」

 忍者が持ち帰った報告は、この辺りでは見かけたことのない旅装束の中年男性が「竜の従者であるロイド殿に会いに来た。連れて行ってくれ」と言って、自分から忍者に接触してきた――というものだった。
 この報告内容に含まれる問題点は、ぱっと気づいたところで二点ある。一点目は、俺の名前だ。
 べつに意図して俺の名前を伏せているわけではないが、近隣に広まっている俺たちの噂には人名が含まれていない。「緑の守護者、竜の従者、竜の巫女、ゴブリン」といった通称ばかりが独り歩きしていて、俺や有瓜の名前は全く知られていないと言っても良かろう。
 ――それなのに、この謎の男は俺の名を知っていた。どこかで噂を聞いたというレベルではなく、もっと積極的に調べてきたということだ。直接の交流があるの村長だとかなら俺たちの名前も覚えているかもしれないけれど、村人たちは例外なく余所者に敏感だ。余所者が話しかけてきたら気にしないはずがないし、そうなれば俺たちにも報告してくれていただろう。
 ……あ、余所者の中でも、ずっと前から付き合いのある行商人は例外だった。最近は村側に商材が増えたため、彼も頻繁にやって来るようになっていた。この行商人氏なら、村人たちとの雑談で俺の名前を知り得ていた可能性はあり得るし、それをどこかで第三者に話していてもおかしくないか。

 さて、問題点の二点目だ。それは、一点目のものよりずっと純粋に脅威的なことである。すなわち、このが、森の中で隠密していた忍者に自分から近づいてきたという点だ。
 忍者たちにとって、この近辺の山林は庭も同然だ。余所者を隠れて見張るくらい、お手の物である。事実、去年の冬に大発生した隣国産の山賊どもや、先だってルピスと共に落ち延びてきた騎士たちにだって、忍者たちのほうから飛び出さないかぎり、気づかれることはなかった。
 それなのに、このは隠れて監視していた忍者を見つけ出してみせたのだ。脅威度を高く見積もるのは当然だろう。
 ただ、攻撃ではなく接触を図ってきた点から、脅威的ではあるが直ちに敵と断定するべきではない、と判断する。

「というか、敵にならないように立ち回らないといけないのか……」

 相手の肩書も目的もさっぱり分かっていない状況で、唯一分かるのは相手が只者ではないということだけ……。
 ……うん、よし。

「俺が今からそっちに行く。他の連中はここに戻って、有瓜たちを守るように。以上、笛で伝えてくれ」
「分ぁったがす」

 報告に来た忍者は首肯すると、紐を通して首から提げていた骨笛を口に付けて、ぴぃ、ぴぴ、っぴ、とタンギングの利いた俺には難しすぎるリズムで吹き鳴らした。するとすぐに、了解を意味する短い笛の音が方々から返ってきた。

「――よし、行くか。じゃあ、そういうわけなんで、有瓜たちは先に食べててくれ」
「えぇ……先に食べててって言われてもぉ……」
「最悪、この後もう食べる余裕がなくなるかもしれないし、いまのうちに食べとけ」
「うえぇ……」
「それからラヴィニエ、もしものときはよろしく」
「お任せを」

 冗談めかした不満顔で不安を押し隠そうとしている有瓜を敢えて無視して、俺はラヴィニエにそのうちに戻ってくるゴブリンたちの指揮を託すと、忍者に先導させての下へと向かった。
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