義妹ビッチと異世界召喚

Merle

文字の大きさ
上 下
142 / 150
5章

71-3. 晩夏の日々 シャーリー

しおりを挟む
 アンと一緒に赤ん坊二人をお昼寝させていたら、自分も一緒に寝こけちまった。
 はっと目が覚めて起き上がったら、なぜか全裸のラヴィニエさんが一緒に昼寝していた。

「って、くさ!」

 ラヴィニエさんは全身、よく見るとベトベトしたものに覆われている。それが何かは、ラヴィニエさんの普段の生活を見知っているので、すぐに分かった。

「……せめて、ヤッたら身体を洗ってから来てくれねぇかな」

 ラヴィニエさんはとくに顔や体へ精液ザーメンを浴びせかけられるのが好きだ。おかげで、体力の限界を迎えるまでゴブリンたちとヤッた後のラヴィニエさんは、そりゃもう臭い。風上に立たれたら、寝ていても目が覚めちまうぞってくらいにザーメン臭いことになっている。
 本人はそのままでも全然気にならないみたいで、身体中をザーメンでべっとべとに汚したまま寝ちまうことも、たまにあるのだ。

「本当にこのひと、騎士だったのかよ?」

 いまのラヴィニエさんは、ザーメン臭をぷんぷんに纏わりつかせて気持ちよさそうに涎を垂らしながら熟睡している全裸女だ。それ以外の何者にも見えない。

「でも、剣を振ってるときは格好いいんだよなぁ」

 河原でゴブリンたちに稽古をつけているときのラヴィニエさんは「ラヴィニエの姐御!」なのに……いつも、だいたい稽古の途中で「剣をなくしたときの戦い方も鍛えましょう」と言い出すあたりからおかしくなって、気がつくと服を脱ぎ捨ててゴブリンたちに四方から揉みくちゃにされて媚びた鳴き声を上げる全裸女になっているのだ。
 このひと、どうしてこうなったのか……。

「……でも寝顔、幸せそうなんだよなぁ」

 乾いた精液でガビガビの顔なのに、どうして洗い流しもせずに寝られるんだか。

「まあ、いいか」

 ラヴィニエさんは自分の好きな匂いに包まれて昼寝してもいいくらい働いているんだし、起こすのは悪いだろう。それよりも、そろそろ夕飯の支度を始めるとするか。

「……おっし!」

 あたいはひとつ気合を入れて立ち上がると、竈のあるほうへと向かった。

 ロイドは男のくせに料理が趣味だし、ゴブリンの中にもなんて呼ばれている料理上手なやつがいるけれど、この二人が毎日料理しているわけじゃない。板前はなんて呼ばれているけれど、他のゴブリンと一緒に河原で剣の稽古を受けている日もあるし、ロイドも細々とした雑用で駆けずり回っていることが多い。今日だって、話し合いだか取り引きだかで村のほうまで行っている。
 ロイドのやつはここで二番目に偉いはずなのに、使い走りみたいなことを一番やっている。村の連中と話をしたり取り引きするのにはゴブリンよりも俺のほうがいいだろう、だとか言って。そういう理由なら、あたいやアンに頼めばいいだろうに。

「おまえたちは子守りって大変な仕事があるだろ」

 ロイドはそう言って取り合わなかったけれど、あたいたち姉妹が村に近づかなくてもいいようにしてくれたんだろうってことくらい、あたいにだって分かっている。
 あたいとアンは村を飛び出してきた身だ。山賊に捕まって酷い目に遭わされたアンは、村で暮せばって目で見られることになる。それならいっそ、ここで暮らせばいい――と、あたいとアンをまとめて引き取ってくれたのがロイドと姐さんだ。
 ここで暮らすことになってすぐの頃は、緊張も後悔もあった。あたいとアンの仕事が、ゴブリンたちと身体を重ねることだと分かった上で引き取られたのだし、覚悟だってしていた。……でも、当時にあたいは男を知らなかったんだ。怖いに決まっているじゃないか。
 アンにだけ辛い思いはさせない。アンが感じた辛さなら、あたいもそれを感じないのは公平じゃない。それじゃ姉妹でいられない。

 ――なぁんてふうに思い詰めていたんだろう、当時にあたいはさ。
 実際にそうなった今となっては、思い出すたびに変な笑いが込み上げてきてしまう“若かりし頃の恥ずかしい思い出”ってやつだ。……ロイドとも色々あったしな。
 まあともかく、最初は「我慢すればいい」と思っていたゴブリンたちとのアレも、早々に気持ち良さを覚えてしまって、あとはまあ……男と女ってのはゴブリンも人間も関係なしに、そういうものなんだろうな。
 隠すもののない姿になって重なり合えば、相手が自分をどう思っているのかが身体全部に伝わってくる。ゴブリンたちはあたいらを抱くとき、いつだって気遣ってくれる。姐さんが一番で二番は存在しないってのも伝わってくるけど、その上で最大限、あたいらを優しく抱いてくれるんだ。そうされると身体から余計な力が抜けて、あいつらがくれる気持ち良さが素直に入ってくるようになるんだ。

「……いや、飯を作りながら考えるこっちゃねぇよな」

 あたいは汲み置きの水で芋を洗いながら、軽く頭を振って苦笑した。
 うちのご飯は基本的に朝昼夕の三食だ。村では朝と夕の二食だったから、最初の頃は贅沢すぎるだろうと思っていたのに、いまじゃすっかり一日三食で慣れちまった。
 でも、食べる回数が増えたということは、作る回数が増えたってことでもあるのだ。そして、ここで暮らすゴブリンたちの人数は十人じゃきかないし、どいつもこいつも大食らいだ。忍者どもだって、小柄なくせしてよく食べやがる。
 だから結局、作る手間との兼ね合いで、昼飯はだいたい朝食の残り物を温め直すくらいが精々だったりする。ついでに言うと、朝食はよっぽど早起きしないと手の込んだものは作れないので、とにかく量を作る感じになる。
 というわけで、手の込んだものを作るなら夕飯になるわけなんだが……まっ、そういうのはロイドと板前が暇なときに任せるや。今日は手隙があたいだけだし、洗った芋を蒸すだけでいいやな。
 大工ゴブリンの大きい方と小さい方どっちだったかが作った特大の、三段重ねの蒸籠せいろを用意して、一番下の段に水を張り、二段目と三段目は洗っただけの芋と、小麦粉を水で練って千切って団子にしたので満杯にする。そうしたら後は、その蒸籠を竈にぶち込み、灰に埋めていた熾火を掘り起こして竈が温まるようにしてやれば、日暮れまでには蒸し上がっている。塩なり香草の粉末なりは、食べるひとが好みでかけろ。
 ……と言うと手抜き料理もいいところのように思われるかもしれないけれど、実際は作る量が山程なので、けっこうな重労働だ。ロイドや板前だったら、ここからさらにスープなりソースなりと手間をかけていくんだろうけど、あたいにはここまでが精一杯。いちおう、子守りをしながらでもあるし。
 あたいの赤ちゃんダイチと、アンの赤ちゃんミソラ。どちらも額にぴょこっと生えた角がお茶目な、可愛い赤ちゃんだ。アンと一緒に木陰で三人並んで寝ている姿を見ていると、それだけで胸が一杯になる(もう一人、全身ベトベトの全裸女が寝ているけれど、それは見ないことにした)。

「おまえら、いっぱい食べて大きくなれよ」

 この子らが元気に食べる姿を想像すると、料理の疲れも吹っ飛んでいく。
 竈のほうは熾火ならしばらく放っておいても平気だろうし、あたいはアンたちのところに戻った。寝顔をもっと近くから眺めたかったから。毎日見ているんだけど、全然飽きない。

「ほっぺた、ぷにぷにか」

 寝ているダイチのほっぺは、そっと押し付けたあたいの人差し指を柔らかく押し返してくる。炭を塗したような浅黒い肌の色は、最初に見たときは病気なのかと心配にもなったけれど、そんなことがないと分かってみれば、強そうで良い色じゃないか。

「んぅ……」

 ダイチの眉がひくひくしたので、あたいはそっと指を遠ざけてやる。すると、ダイチは寝顔のままで小さな手を伸ばしてきて、あたいの指をきゅっと握ってきた。

「お、なんだ。ダイチはお母ちゃんと一緒にいたいのか。そっかそっか」

 あたいはダイチが起きないようにひそひそ声で笑いかけると、その隣に横向きで寝そべった。
 握られたままの人差し指から、ダイチの体温と、ぷにぷにの手触りが伝わってくる。柔らかくて、すべすべの、きれいな手だ。あたいの手はガサガサにひび割れていて、こんなきれいな手に触ったら傷つけてしまうんじゃないか――とか思っていたかもしれない。
 ここで暮らすようになるまでは、父ちゃんの形見の弓で狩人の真似事をしていたから、柄を握る左手には胼胝たこが、弦を引く右手には擦り傷の痕がいくつもある(形見には革手袋もあったのだけど、ボロくてすぐに破れた)。
 ――おっと。じゃなくて、だ。
 緑色の少女みたいな植物(なのか?)のユタカから採れる樹液(汗や涎と思うよりは、樹液と思いたい)を、獣脂を一日がかりで煮込んで採った油の塊と合わせて練った「ハンドクリーム」を使うようになったら、あたいの手は生まれたときに戻ったみたいに、柔らかですべすべになっていた。
 だから、ダイチのぷにぷにお手々をどれだけにぎにぎもみもみしても問題ないのだ。
 にぎにぎもみもみ。
 にぎにぎにぎにぎ、もみもみもみもみ。

「あぁ……うちの子、可愛い……この世で一番可愛いぞぉ……!」
「お姉ちゃん……」
「ひゃッ⁉」

 夢中になってにぎにぎもみもみしていたら、いつの間にか目を開けていたアンに呆れた顔を向けられていた。

「い、いや……いいだろ、べつに」
「いいよ、べつに。でも、ひとつだけ言わせて」

 気恥ずかしさで火照った顔を冷ますように横を向いたあたいに、アンはくすっと微笑んで言った。

「一番はうちのミソラだから」

 それからしばらく、どっちの子が一番かを言い合ったけど、最後まで答えは出なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...