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4章
61-2. ルピス・フィス・レーベン ロイド
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レーベン王国女王ルピス・フィス・レーベン。銀髪をお団子にまとめてズボンを穿いた旅装ながらも、その美しい容と立ち姿から滲み出る気品は、彼女が女王であることを物語っていた。
ただそこに佇んでいるだけで、否応なく目が引き寄せられた。
そう――彼女はただそこに佇んでいるだけだった。
喋るのは専ら、女王に従う騎士たち「近衛隊」の隊長・白髪白髭の老騎士フライル・エィ・フッカーで、銀髪の女王様はその隣で澄まし顔して立っているだけだった。なお、まだ黒髪の四十路騎士ビズウィー卿は、二人から一歩下がったとこに立って、フッカー卿の言葉にいちいち重々しく頷く役どころだった。
老騎士の仰々しい口調で語られたのは、運命に翻弄された王女の人生だった。
●
レーベン王国の王女として生まれたルピスには、腹違いの弟がいた。弟のほうが正室の子で、ルピスは側室の子だった。
二人の父である先王は性欲が薄かったのか、はたまた子種が弱かったのか、子供はこの二人だけだったみたいだ。
ルピスのほうが長女だったが妾腹だったこともあり、第一後継者に対して贈られる続柄名「ギス」は正嫡である弟王子へと贈り直された。それまで王太女だったルピスは弟の出生以後、王族に降格したわけだ。なお、「フィス」は王を指すのだそうな。
ところが二年前。ルピスが十四歳(数えではなく満年齢)で弟王子が十歳のとき、弟が乗馬中に落馬。頭を打って意識不明の重体となり、そのまま逝去。幼い息子の唐突な訃報を聞いた王もショックで倒れ、急性心不全か何かで急逝してしまったのだそうだ。
……老騎士フッカーの言いまわしはひどく迂遠だったものの、どうやら先王は子作りのために特別な精力剤を常用していたらしく、それが心臓に負担をかけていたと思われているのだとか。
そうして残されたのが王女ルピスと、王の弟の長男――つまり王甥のアードラー公爵だった。
序列から言えば王女ルピスが即位して然るべきなのだが、王甥アードラーは夭逝した弟王子の後見役として宮廷内に地盤を固めていた。反面、ルピスはそうした政治工作を全くと言っていいほどやっていなかったようだ。いやまあ、王女様なんて究極的には他家への進物なのだから、それも当然だったと言えよう。
だがそれでも、本来ならば跡目争いの余地など起きようはずがなかった。なぜならば、この世界の王様や女王様というのは、王家に伝わる巫術の使い手であるのが絶対条件だからだ。そして、巫覡一族の巫術使用権は当主が自在に管理できる上に、当主の座というのは先代当主が死去した時点で自動的に最も血の近い相手に移譲される。
つまり、普通だったら先王が死去した時点で、王家当主の座は唯一の実子となったルピスに受け継がれて、自動的に戴冠の運びとなるはずだった。
だが、そうならなかった。王統の当主権限を継いだのは王甥アードラーだった。
ルピスが先王の存命中に王統巫術を使っていたことは周知のことで、彼女が先王の実子だという事実は疑いようがない。それなのに、ルピスを差し置いて先王の弟の息子が当主を継いだ――その事実が語るのは、先王は弟の正妻を孕ませたのだということだった。
その事実に誰より打ちのめされたのはアードラー自身だったという。彼が自身の出自を王子と改めずに王甥で通しているのも、己が不義の子であるという事実は海千山千の宮廷人である彼をして容易には受け入れ難いことだからだろう――と、政敵であるフッカー卿も雪眉を労しげに歪めて語った。
――とにかくそうした理由から、俄に後継者争いが勃発。国内は忽ち二分されて、血で血を洗う内戦に発展。それが一年以上続いたおかげで、ファルケン国とレーベン国の国境が曖昧なこの一帯に、冬場の食料を求めた脱走兵やら敗残兵やらが雲霞の如く押し寄せては山賊デビューを目論んだというわけだ。
最後の山賊退治をしてから、まだ半年も経っていないのか……。
俺たちが量産した山賊どもの遺体は、獣たちが人の味を覚えてしまわないように燃やしてから埋めたり、川に流したりするようにしていた。
最初に殺した山賊の死体はどうしったっけ? 首を斬った後の胴体は、その近くに放置していた気もするが……ああ、駄目だ。憶えていない。あのときは初めての殺人に際して、精神的に相当きていたからな……。
……まあいい。いまは女王ルピスの大河ストーリーだ。
国を二つに割って一年余も続けられた内乱は、王甥殿下の勝利で終わった。王統巫術の当主権限がアードラーに引き継がれた以上、当然の帰結と言えた。むしろ、ルピスはよく一年も頑張ったものだ。
王女ルピスは家来に裏切られて捕縛され、王甥殿下の元に引っ立てられた。それから形ばかりの裁判が一日で終わると、後は独房に閉じ込められて処刑を待つばかりの身となった。
そして処刑の日。処刑人の分厚い斧がいざ細首に落とされんとしたその刹那、雷鳴を束ねてもなお及ばぬほどの咆吼が轟き、天が焦げたのだった。
そう――寝起きを有瓜に煽られた竜が天に唾する勢いで火の玉を吐いた、あの日のことだ。あのとき、いま俺の眼前に立つ少女は、首を切り落とされようとしていたのだ。
風が吹けば桶屋が儲かるというか、チベットで蝶が羽ばたけばカンザスで竜巻が起きるというか……あのとき、竜が溜め込んだ魔力を無駄に注ぎ込んで無意味に巨大な火球を放ったからこそ、遠いレーベン王国首都からでも見聞きすることができたのだろう。そうでなければ、この少女はその日に処刑されていて、俺はその存在を知ることもなかっただろう――。
俺はそんな感慨に耽りながら、老騎士が語る立て板に水の講釈に聞き入った。正直、固有名詞を羅列されても鼓膜を上滑りするだけかと思っていたけれど、これが以外にも面白かった。
きっとこの老騎士は、他人に言葉を聞かせることをこの歳になるまで延々続けてきたのだろう。年配の噺家が語る落語を聞いているような心地好さがあった。
――語りは続く。
王女ルピスの処刑は延期になった。処刑人が、竜の巫女を手にかけることを恐れて職務放棄したからだった。
ルピスにはずっと以前から竜の巫女としての名望があった。いくら王女とはいえ、当主権限を受け継げなかった小娘が宮廷貴族の支持を取り付けた遣り手の王甥に長らく対抗することができたのは、その名望があったればこそだった。
しかし、その二つ名は王甥の謀略により失墜し、味方を切り崩されて、ルピスは負けた――のだけれども、竜の咆吼と火球が状況を再び一変させた。
曰く、竜は巫女を処刑しようとした我々に怒っている。竜の巫女は本当に竜の巫女だった。竜は巫女に手を出す者を許さない――。
そうした噂が、王甥が規制を敷く間もなく広まった。処刑人たちは竜の火に焼かれることを恐れて、ルピスの処刑を請け負わなかった。王甥は、手下の貴族たちに処刑人をやらせようとしたが、貴族たちも気味悪がって互いに役目を押しつけ合う体たらく。とうとう業を煮やした王甥は自ら斧を持つことにしたが、その日は訪れなかった。
竜の巫女の尊称が本物であると証明されたことで、散っていた味方が息を吹き返してルピスを奪還。純粋な兵力では王甥側と比ぶべくもなかったが、彼らは決死の覚悟で血路を開いて、ルピスを王都から脱出させた。全ては、竜の巫女ルピスを東方の魔境【魔の森】に降り立って巫女の訪いを待ちたりし竜の御許へ送り届けんがためならん。
あ……老騎士の語り口がうつったか。
まあともかく、ルピス女王陛下とお付きの騎士団がここに来たのは、竜を味方に付けるためなのだ――というお話だった。
いや、長かった。あまりに話が長すぎて、俺は途中から草むらに座って聞いていた。ラヴィニエとゴブリンは立ったまま、いつでも剣を抜けるように気を張っているようだった。無論、俺だって完全に気を抜いていたわけではない。片膝を立てた胡座で、何かあればすぐに立ち上がれるようにはしていた。
とはいえ、相当に油断した姿を晒したのは確かだった。しかし、騎士団の連中が動きを見せることはなかった。なんというか……彼らは老騎士の語る自分たちの艱難辛苦な武勇伝に、涙を堪えて聞き入っていた。
もっとも、老騎士フッカー卿の語り口は本当に良いものだったので、彼らの誇らしげな涙顔を見て冷めた気分になっていなかったら、俺のほうが感涙していたかもしれないから、彼らに助けられたと言えよう。
どうにもこの一団、旅芸人一座という印象が拭えない。いや、彼らが騎士だというのは疑っていないのだが、騎士を演じている騎士のように見えるというか……。
あまり近づきすぎないほうがいいだろう。というか、彼らの目的からすれば、俺たちとの関わりはここで終了だ。
「なるほど、話は分った。竜の住処はあちらだ。ここから数時間とかからないし、近くには野犬も寄りつかないようだから野宿も問題ないだろう。では、達者でな」
俺は立ち上がって竜が塒にしている断崖のほうを指差して告げると、踵を返した。何も言わなかったけれど、ラヴィニエとゴブリンも疑問を挟むことなく俺に追随してくれた。
「あいや、待たれよ」
時代がかった台詞で背中を呼び止められる。
一瞬、無視してしまおうかと思ったけれど、穏便に済ませられる目がまだあるのなら……と思い直して、俺は振り返った。
「そちらの話は了解したし、止め立てもしない。それ以上に、まだ何か?」
「憚りながら申し上げまするが、貴殿は竜の従者で在らせられますれば、竜の巫女たる我らが女王陛下の御許に額ずき給いて、竜の御前へと先導致すが道理ではござらぬか?」
どこの道理だよ。というか、その言葉遣いは何なんだよ――と喚き返したくなるのを、喉元でどうにか呑み込んだ。
深い溜め息で気を落ち着かせてから、ああこれ結局戦闘だろうなぁ、と思いながら告げた。
「俺は竜の巫女など知らん。従って、その女を竜のところへ連れて行く義理はない。重ねて言うが、止め立てはしないから、行きたければ自分たちで行ってくれ」
言い放った直後、わんさと返ってくる批難の嵐。
「なんだと、貴様!!」
「おのれ、無礼な!」
「姫さ――女王陛下をその女呼ばわりするか!?」
「ゴブリン一匹連れ歩いている程度のたかが従者の分際で、巫女たる陛下に逆らうか!!」
「そもそも、こいつは本当に従者なのか?」
「あっ、そうか。従者の名を語った偽物だから巫女のことも知らないし、竜の下に案内することもできないんだ!」
「そうか」
「そういうことか!」
そうかそうか、と異口同音の批難が俺を指弾する。
……あ、失敗した。
これ、顔を見せてしまった時点でもう、案内するか問答無用で制圧を試みるかしかないやつだった。案内を断ればこいつらが目の色を変えて敵対してくるのは、火を見るよりも明らかなのだから。
「竜の従者を騙る痴れ者め、我らが引導を渡してくれる!」
中年騎士ビズウィー卿が剣を抜いた。
「止めよ!」
老騎士が声を張るも、他の騎士たちが相次いで抜刀することで起きた刃鳴りの合唱に掻き消されてしまう。
女王ルピスは能面のように表情を固めて立っているだけだ。この状況を止めるつもりはないようだ。
「従者様」
「分ってる」
俺はラヴィニエのささやきに応えながら、ゴブリンの肩に手を置いた。その合図を受けたゴブリンは、本当にそれでいいのかと目線で最終確認してきたけれど、俺が頷き返すと、紐を通して首から提げていた骨笛を咥えて、思いきり吹き鳴らした。
びいいぃ、と甲高い悲鳴のような音色が響いて、剣を構えた騎士たちが眉を顰める。
「何の真似だ――」
ビズウィー卿の発した疑問に、俺が言葉で答える必要はなかった。騎士たちの側面から後方にかけて展開していた忍者ゴブリンたちが一斉に姿を現した。忍者たちは全員、小型の弓に矢を番えて騎士たちを狙っている。
実のところ、この弓も矢も大工ゴブリンの習作であり、そこまで上等なものではない。忍者たちの弓射技術も、村の狩人ギルバートに何度か習っただけのものだ。彼らと騎士たちの距離は二十メートル弱ほどだけど、斉射したら半分も当たらないだろう。……いや、相手は密集しているし、六割か七割くらいは当たるかな?
とはいえ、騎士たちを包囲して鏃を向けているという事実だけで、威圧には十分だ。
「うぬっ……いつの間に……」
「ゴブリンを従えるというのは、一匹だけの話ではなかったのか!」
「や、やはり……この男は本物の、竜の……!」
おぉ……狼狽えている、狼狽えている。
大の男どもが俺の号令ひとつで慌てふためく様は、ちょっと癖になりそうだ。
「ええい、静まれぇ!!」
雷鳴のように響いた老騎士の怒号が、騎士たちを黙らせた。ついでに、最初から黙りっぱなしだった女王も、にやにや笑いそうなのを堪えていた俺も、ビクッとさせられた。
「貴様ら、それでも騎士か!? 女王陛下の御前で無様を晒すでないわ!!」
その一喝に、騎士たちの表情が一瞬で引き締まった。壇上で台詞をド忘れして素に戻っていた役者たちが、一斉に台詞を思い出したかのようだった。
「陛下をお守りせよ!」
中年騎士のビズウィー卿を始めとした数名が、ルピス女王を円陣の中に引き入れる。というか、この時点まで女王が弓矢の前に身ひとつで晒されていたあたり、この騎士団の練度というか意識というかが、実はもの凄く低いのではないか?
先ほどの老騎士の講談に感極まっていた様子からしても、俺と同い年くらいの若い女王陛下に対する忠誠心はあるのだけど、それが行動に結びついていない感じだった。
まあ、その講談では明言されなかったけれど、たぶんルピスも敵対派閥の王甥も、自分たちで勝手に即位の儀式をやって、勝手に王を名乗るようになっただけなのだろう。そう考えると、女王という言葉のありがたみも薄くなる。彼らとしても、そういう気持ちがあるのかもしれない。
「竜の従者殿よ」
老騎士フッカーは腰の剣を抜くこともなく、堂々とした態度で俺に話しかけてくる。
「某の仲間が貴殿をお疑い申したこと、謝罪仕りまする。御無礼の段、平にお許し召されませ」
「……」
俺は口を閉じたまま老騎士を見つめ返しつつ、内心では思考をガリガリと回転させる。
――この状況、さて、どうしたものか?
ここで彼らと戦闘する意味、特にないよな。勝っても得るものがないし、負けたら沽券に関わる。あと、勝っても負けてもたぶん痛い。
よし、許そう。で、帰ろう。
「いいだ――」
「お待ちを、フッカー卿!」
いいだろう、と言おうとしたら、四十路騎士ビズウィーの濁声に邪魔された。
「ビズウィー卿、如何したか?」
「フッカー卿、この場は私にお任せを!」
「ふむ……?」
訝しむフッカーの前方にビズウィーはずいっと踏み出すと、手にした剣の切っ先を俺に向けてきた。
「おい貴様、私と決闘せよ。貴様が正真正銘、竜の従者だと宣うのなら、決闘にてその証を立ててみせるがいい!」
「……マジか」
思わず呻いてしまった。
こういうことを言い出す輩が本当にいるとは思わなかった。こういうのはお話の中だけの生き物だと思っていた……あ、いや、だからこそか。
彼らは騎士物語に酔っている。騎士物語の騎士を演じている。だからこそ、こういうときの解決手段として決闘を選ぶのだ。というか逆に、憂いなく決闘できる機会があるなら嬉々として決闘するのだ。
つまりこの男は、一対一なら俺に余裕で勝てる、と思っているわけだ。
……少しムカつくな。
「従者様」
ラヴィニエが小声で呼びかけてくる。それが「戦うべきです」という意味なのか、それとも「無益な戦いです」と言いたいのか、分るわけもない。視線と表情で察せ、と言われても無理だ。
だから、俺は俺のやりたいように決める。
「いいだろう。余興に付き合ってやる」
俺は前に進み出ながら抜剣した。
「なんだ、その剣は」
ビズウィーが嘲笑してくる。俺の剣は兵士崩れの山賊から奪い取った鋳物の鉄剣だ(青銅などではなく、鉄だ。村の鍛冶屋や行商人に確認したから間違いない)。けっして剣の形をした棒というほど刃が丸いわけではないが、ビズウィーが構えている剣のように白刃煌めくとはいかない。
ビズウィーが身につけているのは戦国武者を思わせる具足だけど、構えているのは反りのない剣だ。鉄と言うより鋼って感じで、おそらく鍛造だろう。この世界でも鉄を叩くという技法が確立されているそうだし。
「身につける武具も実力のうちだ。そのような鈍しか持てないことを後悔しながら死ぬがいい」
いや、殺す気かよ。ここで俺を殺しても、その後が進退窮まるだろ。って、それを言ったら、そもそもこの決闘自体が無意味か――よし、意味とかはこの際、忘れよう。
「要らん心配だ。無駄な喧嘩を吹っかけて無駄な恥を掻いたと後悔するのは、おまえのほうだからな」
俺はにやっと笑って言い返してやった。
うん、大丈夫だ。身体は硬くなっていない。いつもの稽古通りに動けるぞ。
「おのれ、減らず口を……!」
騎士ビズウィーは形相を歪めると、剣を八相に構える。切っ先を上に向けた、野球の打者みたいに構えるやつだ。対する俺は切っ先を正面四十五度に向けた、正眼に構える。剣道でよくあるベタな構えだ。……というか、丸盾が左腰に吊られたままだ。これは盾を持つと思いきり剣を振れないから装備しないのだ、とかではなく、単純に俺が舐められているのかね。
とまれ、彼我の距離は三メートル強といったところか。いつもの稽古だったら、相手の出方を窺うところだが、今回その必要はなかった。
「死ねえぇッ!!」
ビズウィーは動きを全く隠すことなく、こちらに飛び込みながら袈裟懸けに斬りつけてきてきた。
それなりに距離がある上に見え見えだったから、余裕を持って対処できた。右足を退くことで、半歩下がって右を向く。そうしながら剣の切っ先を捻るように上げて、相手の剣の横腹を俺から見て右から左へと押してやった。
「あっ」
ビズウィーは四十路男のくせに意外と可愛い悲鳴を上げて、俺に往なされた剣で地面を斬りつけた。切っ先で掘られた土と下草が数センチほど舞い上がる。ビズウィーは腰を屈めて田植えするような格好になる。
ところでビズウィーは具足を身につけていたけれど、仰々しい兜は被らずに、半球型の鉄製ヘルメットを被っている。鉢金というやつだ。具足の物々しさと不釣り合いに思えるけれど、たぶん頭に重たいものを被って山歩きするのは辛いと考えて妥協した結果なのだろう。
実際はどうだったのか知らないけれど、ともかく俺の振り下ろした剣は、無防備に露出しているビズウィーの頸部をぺしっと叩いた。刃ではなく腹でだが、勝負あったことは誰の目にも明白だった。
……と思ったのに、
「うおぉッ!!」
「うわっ」
ビズウィーはいきなり喚声を張り上げながら飛び退り、八相に剣を構え直した。
え……こいつまさか、いまのを無かったことにするつもり……だと?
「お、おのれ! 貴様、姑息な真似を!」
えぇ……。
「小僧相手に本気を出すのも大人げなかろうと手加減してやるつもりだったが、いいだろう。そちらがその気ならば仕方あるまい。私も本気で相手してやろう。精々、あの世で後悔するがいい!」
いやだから、殺す気なのかよ、と。俺を殺しちゃったら周りのゴブリンたちに射殺されるとは思わないのか? それとも、殺すって言葉だけなのか?
「キエエェッ!!」
――って、考えている暇はない。猿みたいな雄叫びを上げたビズウィーが斬りかかってきた。
さっきのような大振りではない。八相に構えていた剣を正眼に付け直して、切っ先で俺の小手を狙ってきている。なるほど、さっきよりも小さくて避けにくい動きだ。激昂していても計算はできるらしい。
だが、小賢しい。
というか、初手飛び込み突きって、俺がラヴィニエにやって余裕の返り討ちに遭ったやつじゃないか! あのときの無様な自分を再現されているみたいで、一瞬で頭がカッとなった。
正眼に構えた剣はしっかりと握ったまま、両腕から一瞬、力を抜く。それと同時にこちらから一歩踏み込むと、手首を返しながら腕を振り上げた。
「あっ」
ビズウィーの剣は俺の剣に巻き込まれて、横に大きく逸らされる。そして無防備になった彼の首筋を、俺は剣の刃でざっくりと――ではなく、剣の腹でべしっと打ち据えてやった。
「うっ……うがあぁッ!!」
はいはい、そう来ると思っていたよ。
俺は余裕をもって背後に飛び退き、ビズウィーが振りまわした剣に空を切らせた。
ビズウィーは結局、寸止めで負けを認めるつもりはないのだろう。しかし、そうすると困ったな。こいつが疲れ果てるまで、このチャンバラごっこに付き合えって? さすがにそれは御免被る。
だとすると、気絶させるか? でも俺には、首筋に手刀トンで気絶させるような技術はないから、頭部をぼこぼこに打ちまくるとか、裸締めで締め落とすとか、そういう手段しかないぞ。でも、ぼこぼこに打ちまくるのはともかく、裸締めはちょっと危険だな。こちらを殺す気で真剣を振りまわす輩に組み付くのは、怪我の危険が高すぎる。
となると、ぼこぼこにする方針で決定か。気絶する前に戦意喪失するほうが早いかもだが、どちらでも良しだ。
よし、決まった。ぼこぼこに――
「糞がぁ死ねええぇッ!!」
……あれ?
方針を決める寸前。俺は狛犬のような形相で斬りかかってくるビズウィーの剣を打ち払いながら、根本的な疑問に思い当たった。
なんでこいつを殺しちゃいけないんだ?
ラヴィニエ、シャーリー、アンの関係者というのなら考えるけれど、こいつらは縁も所縁もない隣国の人間だ。俺がさんざん殺してきた兵士崩れの山賊たちと、どこも変わらない。殺して埋めた後、何も見なかったことにすれば、たぶん問題ないだろう。
「避けるな、卑怯者! ……糞が! このっ、糞がぁッ!!」
ぶんぶんと雑に振りまわされて、鋼の剣が泣いている。持ち主を選べぬ悲嘆に、俺まで貰い泣きだ。でも大丈夫だ。すぐ、俺のものにしてやるからな。
「死いぃいいぃッ!!」
もはや言葉にすらならない奇声を上げて、型も構えもなしに剣を振りまわしてくるビズウィー。体幹も足捌きもあったものじゃない。棒振り剣術なんて言葉も烏滸がましい。三歳児に金属バットを振らせようとしたら、バットの重さでいちいち転びそうになる姿がちょうど重なるんじゃないかというくらい、惨憺たる有様だ。
きっとこいつは、俺がこいつを殺さないよう気をつけていることに気づいたのだ。そのために、安心して防御も何もない棒振りを始めたのだろう。
重心ぶれぶれ刃筋ひょろひょろの剣が、たぶん一応は、俺の首を目がけて迫ってくる。
――これを打ち払って斬り捨てよう。
そう決めて、そう動く。
「あっ」
打ち払うだけのつもりだったのに、ビズウィーの手から剣を撥ね飛ばせてしまった。まあ、どっちでもいい。俺のやることは変わらない。
「そこまでぇッ!!」
……!
雷鳴のような大音声に、鼓膜が一瞬で麻痺した。老騎士フッカーが叫んだのだ。この爺さん、音響兵器か!?
本物の雷に打たれたかのように瞬間的な痙攣を起こした俺の身体は、ビズウィーの喉笛を掻き切るために、いままさに剣を振り抜かんとしたところで強制停止させられたのだった。
「ひっ……ぁ……」
どさっと音を立てて、ビズウィーが崩れ落ちる。腰が抜けたのだろう。興奮が冷めたことで、自分が仲間の騎士たちの見えている前でどのような戦い振りを披露したのか自覚したらしい。顔を青白くして、両目を忙しなく泳がせている。
……タイミングを外されてしまった。
「この勝負、竜の従者殿の勝ちである。異論ある者は名乗り出よ!」
老騎士の大声に応える者はいない。当事者のビズウィーも顔面蒼白で尻餅をついたまま、ぷるぷると唇を噛み締めているのみだ。
「異論なしであるな。では、このフライル・エィ・フッカーが立会人として、竜の従者殿と騎士レイン・ビズウィーの決闘は、従者殿の勝利であることを宣言致す!」
くどくどしい宣言に、俺はすっかり醒めてしまった。剣を握っているのが馬鹿らしくなって、さっさと鞘に収めた。
ああ、なんかもう、どうでもいいな……あ、違う。最初からどうでも良かったんだった。
「じゃあ、そういうことで――」
後は勝手にどうぞ、と手を振ってお別れしたかったのだけど、
「お待ちを、従者様」
ずっと騎士たちに守られていたルピス女王陛下が進み出てきて、俺を呼び止めた。
「陛下――」
フッカーが何か言いかけたのを手振りで止めて、ルピスは俺を見る。
「従者様、私の臣下が働いた無礼、改めて謝罪いたそう。誠に相済まなかった。この通りである」
ルピスがそう言って、頷くよりもやや深い程度に頭を下げた。
俺からすると到底、頭を下げているようには見えないのだけど、周りの騎士たちは驚きと不快感を露わにしている。封建社会で生きる騎士にとって、自分たちの奉じる女王が他者に頭を下げて謝罪するというのは、在ってはならないことのようだ。俺の感覚に当て嵌めて考えるなら、日本の総理大臣が名も知らぬ外国のよく分らない役人の代理みたいな相手に土下座した、みたいなことなのかもしれない……たぶん。
「ああ、ええと……うん、はい。謝罪、受けました。許します」
お座なりな気分になると敬語になるのはどうしてだろうか。
「寛恕、痛み入る」
「だけど、竜のところまで案内はしない。行きたければ止めないけれど、それ以上は知らん」
また余計な頼み事をされる前に、こちから言ってやった。
「ああ、分っているとも」
……あら? 女王様はあっさりご納得なさってくださった。
「皆にも先ほども言ったが、竜の御座に至る道程もまた、竜よりその巫女たる私に科せられたる試練と心得ている。ここで従者殿の手を借りて労なく向かうことは、竜の御心に反すること。故に、従者殿の助太刀は不要。そのお心ばかり、頂戴致す」
ルピス女王は俺の前に立ちながら、しかし、背後に居並ぶ騎士たちに向かってそう宣言した。
――それは表面だけを捉えれば、竜の巫女としての堂々たる意思表示にも思えた。年若い女王陛下の背中を見つめる騎士たちには、きっとそう見えただろう。
だけど、正面に立っている俺には、彼女の目が見えていた。
鉛色にも見える銀髪よりも透明度の高い、銀色の瞳。水銀だとか、雫状に融かしたはんだだとかにも見えて、意思を押し隠す覆いのようにも思える。
だけど、俺にはその覆いの奥が見える気がした。
だから、こうしてやらないといけない――そんな気がした。
「えっ」
ルピスが思わず漏らした声は、意外にも――そして思った通りの、年相応の愛らしいものだった。
俺はルピスを両肩に担ぎ上げていた。彼女をうつ伏せにして、尻を右肩に、頭は左肩にだ。訓練のお陰というか、最近また原因不明に上がっている身体能力のお陰で、彼女の腋の下に頭を押し込む感じで担ぎ上げてみたら、ぐるりんひょい、だった。
「え、えっ……なっ、何を――」
「竜のところに行きたいんだろ。連れて行ってやる」
「……え」
「ラヴィニエ、後は任せた」
「えぇ……まあ、では、適当なところで待たせておきましょう」
ラヴィニエは呆れ顔をしながらも、そう言ってくれた。
「へば、おらさぁ先導すますだ」
ラヴィニエとは反対側の隣に立っていた忍者ゴブリンがそう言って、さっと動き出す。
弓矢を手にして周りを囲んでいる忍者たちは、弓を持つ手を軽く挙げたり頷いたりして、俺の突飛な行動を了解してくれている。
俺は仲間に恵まれている。
「そんな感じでよろしく……じゃ!」
出発の挨拶を告げるや、俺はルピスを両肩担ぎしたまま駆け出した。
「……あっ、待たれよ!」
遠くなる背後で老騎士の焦り声がしたけれど当然、立ち止まりはしなかった。
ただそこに佇んでいるだけで、否応なく目が引き寄せられた。
そう――彼女はただそこに佇んでいるだけだった。
喋るのは専ら、女王に従う騎士たち「近衛隊」の隊長・白髪白髭の老騎士フライル・エィ・フッカーで、銀髪の女王様はその隣で澄まし顔して立っているだけだった。なお、まだ黒髪の四十路騎士ビズウィー卿は、二人から一歩下がったとこに立って、フッカー卿の言葉にいちいち重々しく頷く役どころだった。
老騎士の仰々しい口調で語られたのは、運命に翻弄された王女の人生だった。
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レーベン王国の王女として生まれたルピスには、腹違いの弟がいた。弟のほうが正室の子で、ルピスは側室の子だった。
二人の父である先王は性欲が薄かったのか、はたまた子種が弱かったのか、子供はこの二人だけだったみたいだ。
ルピスのほうが長女だったが妾腹だったこともあり、第一後継者に対して贈られる続柄名「ギス」は正嫡である弟王子へと贈り直された。それまで王太女だったルピスは弟の出生以後、王族に降格したわけだ。なお、「フィス」は王を指すのだそうな。
ところが二年前。ルピスが十四歳(数えではなく満年齢)で弟王子が十歳のとき、弟が乗馬中に落馬。頭を打って意識不明の重体となり、そのまま逝去。幼い息子の唐突な訃報を聞いた王もショックで倒れ、急性心不全か何かで急逝してしまったのだそうだ。
……老騎士フッカーの言いまわしはひどく迂遠だったものの、どうやら先王は子作りのために特別な精力剤を常用していたらしく、それが心臓に負担をかけていたと思われているのだとか。
そうして残されたのが王女ルピスと、王の弟の長男――つまり王甥のアードラー公爵だった。
序列から言えば王女ルピスが即位して然るべきなのだが、王甥アードラーは夭逝した弟王子の後見役として宮廷内に地盤を固めていた。反面、ルピスはそうした政治工作を全くと言っていいほどやっていなかったようだ。いやまあ、王女様なんて究極的には他家への進物なのだから、それも当然だったと言えよう。
だがそれでも、本来ならば跡目争いの余地など起きようはずがなかった。なぜならば、この世界の王様や女王様というのは、王家に伝わる巫術の使い手であるのが絶対条件だからだ。そして、巫覡一族の巫術使用権は当主が自在に管理できる上に、当主の座というのは先代当主が死去した時点で自動的に最も血の近い相手に移譲される。
つまり、普通だったら先王が死去した時点で、王家当主の座は唯一の実子となったルピスに受け継がれて、自動的に戴冠の運びとなるはずだった。
だが、そうならなかった。王統の当主権限を継いだのは王甥アードラーだった。
ルピスが先王の存命中に王統巫術を使っていたことは周知のことで、彼女が先王の実子だという事実は疑いようがない。それなのに、ルピスを差し置いて先王の弟の息子が当主を継いだ――その事実が語るのは、先王は弟の正妻を孕ませたのだということだった。
その事実に誰より打ちのめされたのはアードラー自身だったという。彼が自身の出自を王子と改めずに王甥で通しているのも、己が不義の子であるという事実は海千山千の宮廷人である彼をして容易には受け入れ難いことだからだろう――と、政敵であるフッカー卿も雪眉を労しげに歪めて語った。
――とにかくそうした理由から、俄に後継者争いが勃発。国内は忽ち二分されて、血で血を洗う内戦に発展。それが一年以上続いたおかげで、ファルケン国とレーベン国の国境が曖昧なこの一帯に、冬場の食料を求めた脱走兵やら敗残兵やらが雲霞の如く押し寄せては山賊デビューを目論んだというわけだ。
最後の山賊退治をしてから、まだ半年も経っていないのか……。
俺たちが量産した山賊どもの遺体は、獣たちが人の味を覚えてしまわないように燃やしてから埋めたり、川に流したりするようにしていた。
最初に殺した山賊の死体はどうしったっけ? 首を斬った後の胴体は、その近くに放置していた気もするが……ああ、駄目だ。憶えていない。あのときは初めての殺人に際して、精神的に相当きていたからな……。
……まあいい。いまは女王ルピスの大河ストーリーだ。
国を二つに割って一年余も続けられた内乱は、王甥殿下の勝利で終わった。王統巫術の当主権限がアードラーに引き継がれた以上、当然の帰結と言えた。むしろ、ルピスはよく一年も頑張ったものだ。
王女ルピスは家来に裏切られて捕縛され、王甥殿下の元に引っ立てられた。それから形ばかりの裁判が一日で終わると、後は独房に閉じ込められて処刑を待つばかりの身となった。
そして処刑の日。処刑人の分厚い斧がいざ細首に落とされんとしたその刹那、雷鳴を束ねてもなお及ばぬほどの咆吼が轟き、天が焦げたのだった。
そう――寝起きを有瓜に煽られた竜が天に唾する勢いで火の玉を吐いた、あの日のことだ。あのとき、いま俺の眼前に立つ少女は、首を切り落とされようとしていたのだ。
風が吹けば桶屋が儲かるというか、チベットで蝶が羽ばたけばカンザスで竜巻が起きるというか……あのとき、竜が溜め込んだ魔力を無駄に注ぎ込んで無意味に巨大な火球を放ったからこそ、遠いレーベン王国首都からでも見聞きすることができたのだろう。そうでなければ、この少女はその日に処刑されていて、俺はその存在を知ることもなかっただろう――。
俺はそんな感慨に耽りながら、老騎士が語る立て板に水の講釈に聞き入った。正直、固有名詞を羅列されても鼓膜を上滑りするだけかと思っていたけれど、これが以外にも面白かった。
きっとこの老騎士は、他人に言葉を聞かせることをこの歳になるまで延々続けてきたのだろう。年配の噺家が語る落語を聞いているような心地好さがあった。
――語りは続く。
王女ルピスの処刑は延期になった。処刑人が、竜の巫女を手にかけることを恐れて職務放棄したからだった。
ルピスにはずっと以前から竜の巫女としての名望があった。いくら王女とはいえ、当主権限を受け継げなかった小娘が宮廷貴族の支持を取り付けた遣り手の王甥に長らく対抗することができたのは、その名望があったればこそだった。
しかし、その二つ名は王甥の謀略により失墜し、味方を切り崩されて、ルピスは負けた――のだけれども、竜の咆吼と火球が状況を再び一変させた。
曰く、竜は巫女を処刑しようとした我々に怒っている。竜の巫女は本当に竜の巫女だった。竜は巫女に手を出す者を許さない――。
そうした噂が、王甥が規制を敷く間もなく広まった。処刑人たちは竜の火に焼かれることを恐れて、ルピスの処刑を請け負わなかった。王甥は、手下の貴族たちに処刑人をやらせようとしたが、貴族たちも気味悪がって互いに役目を押しつけ合う体たらく。とうとう業を煮やした王甥は自ら斧を持つことにしたが、その日は訪れなかった。
竜の巫女の尊称が本物であると証明されたことで、散っていた味方が息を吹き返してルピスを奪還。純粋な兵力では王甥側と比ぶべくもなかったが、彼らは決死の覚悟で血路を開いて、ルピスを王都から脱出させた。全ては、竜の巫女ルピスを東方の魔境【魔の森】に降り立って巫女の訪いを待ちたりし竜の御許へ送り届けんがためならん。
あ……老騎士の語り口がうつったか。
まあともかく、ルピス女王陛下とお付きの騎士団がここに来たのは、竜を味方に付けるためなのだ――というお話だった。
いや、長かった。あまりに話が長すぎて、俺は途中から草むらに座って聞いていた。ラヴィニエとゴブリンは立ったまま、いつでも剣を抜けるように気を張っているようだった。無論、俺だって完全に気を抜いていたわけではない。片膝を立てた胡座で、何かあればすぐに立ち上がれるようにはしていた。
とはいえ、相当に油断した姿を晒したのは確かだった。しかし、騎士団の連中が動きを見せることはなかった。なんというか……彼らは老騎士の語る自分たちの艱難辛苦な武勇伝に、涙を堪えて聞き入っていた。
もっとも、老騎士フッカー卿の語り口は本当に良いものだったので、彼らの誇らしげな涙顔を見て冷めた気分になっていなかったら、俺のほうが感涙していたかもしれないから、彼らに助けられたと言えよう。
どうにもこの一団、旅芸人一座という印象が拭えない。いや、彼らが騎士だというのは疑っていないのだが、騎士を演じている騎士のように見えるというか……。
あまり近づきすぎないほうがいいだろう。というか、彼らの目的からすれば、俺たちとの関わりはここで終了だ。
「なるほど、話は分った。竜の住処はあちらだ。ここから数時間とかからないし、近くには野犬も寄りつかないようだから野宿も問題ないだろう。では、達者でな」
俺は立ち上がって竜が塒にしている断崖のほうを指差して告げると、踵を返した。何も言わなかったけれど、ラヴィニエとゴブリンも疑問を挟むことなく俺に追随してくれた。
「あいや、待たれよ」
時代がかった台詞で背中を呼び止められる。
一瞬、無視してしまおうかと思ったけれど、穏便に済ませられる目がまだあるのなら……と思い直して、俺は振り返った。
「そちらの話は了解したし、止め立てもしない。それ以上に、まだ何か?」
「憚りながら申し上げまするが、貴殿は竜の従者で在らせられますれば、竜の巫女たる我らが女王陛下の御許に額ずき給いて、竜の御前へと先導致すが道理ではござらぬか?」
どこの道理だよ。というか、その言葉遣いは何なんだよ――と喚き返したくなるのを、喉元でどうにか呑み込んだ。
深い溜め息で気を落ち着かせてから、ああこれ結局戦闘だろうなぁ、と思いながら告げた。
「俺は竜の巫女など知らん。従って、その女を竜のところへ連れて行く義理はない。重ねて言うが、止め立てはしないから、行きたければ自分たちで行ってくれ」
言い放った直後、わんさと返ってくる批難の嵐。
「なんだと、貴様!!」
「おのれ、無礼な!」
「姫さ――女王陛下をその女呼ばわりするか!?」
「ゴブリン一匹連れ歩いている程度のたかが従者の分際で、巫女たる陛下に逆らうか!!」
「そもそも、こいつは本当に従者なのか?」
「あっ、そうか。従者の名を語った偽物だから巫女のことも知らないし、竜の下に案内することもできないんだ!」
「そうか」
「そういうことか!」
そうかそうか、と異口同音の批難が俺を指弾する。
……あ、失敗した。
これ、顔を見せてしまった時点でもう、案内するか問答無用で制圧を試みるかしかないやつだった。案内を断ればこいつらが目の色を変えて敵対してくるのは、火を見るよりも明らかなのだから。
「竜の従者を騙る痴れ者め、我らが引導を渡してくれる!」
中年騎士ビズウィー卿が剣を抜いた。
「止めよ!」
老騎士が声を張るも、他の騎士たちが相次いで抜刀することで起きた刃鳴りの合唱に掻き消されてしまう。
女王ルピスは能面のように表情を固めて立っているだけだ。この状況を止めるつもりはないようだ。
「従者様」
「分ってる」
俺はラヴィニエのささやきに応えながら、ゴブリンの肩に手を置いた。その合図を受けたゴブリンは、本当にそれでいいのかと目線で最終確認してきたけれど、俺が頷き返すと、紐を通して首から提げていた骨笛を咥えて、思いきり吹き鳴らした。
びいいぃ、と甲高い悲鳴のような音色が響いて、剣を構えた騎士たちが眉を顰める。
「何の真似だ――」
ビズウィー卿の発した疑問に、俺が言葉で答える必要はなかった。騎士たちの側面から後方にかけて展開していた忍者ゴブリンたちが一斉に姿を現した。忍者たちは全員、小型の弓に矢を番えて騎士たちを狙っている。
実のところ、この弓も矢も大工ゴブリンの習作であり、そこまで上等なものではない。忍者たちの弓射技術も、村の狩人ギルバートに何度か習っただけのものだ。彼らと騎士たちの距離は二十メートル弱ほどだけど、斉射したら半分も当たらないだろう。……いや、相手は密集しているし、六割か七割くらいは当たるかな?
とはいえ、騎士たちを包囲して鏃を向けているという事実だけで、威圧には十分だ。
「うぬっ……いつの間に……」
「ゴブリンを従えるというのは、一匹だけの話ではなかったのか!」
「や、やはり……この男は本物の、竜の……!」
おぉ……狼狽えている、狼狽えている。
大の男どもが俺の号令ひとつで慌てふためく様は、ちょっと癖になりそうだ。
「ええい、静まれぇ!!」
雷鳴のように響いた老騎士の怒号が、騎士たちを黙らせた。ついでに、最初から黙りっぱなしだった女王も、にやにや笑いそうなのを堪えていた俺も、ビクッとさせられた。
「貴様ら、それでも騎士か!? 女王陛下の御前で無様を晒すでないわ!!」
その一喝に、騎士たちの表情が一瞬で引き締まった。壇上で台詞をド忘れして素に戻っていた役者たちが、一斉に台詞を思い出したかのようだった。
「陛下をお守りせよ!」
中年騎士のビズウィー卿を始めとした数名が、ルピス女王を円陣の中に引き入れる。というか、この時点まで女王が弓矢の前に身ひとつで晒されていたあたり、この騎士団の練度というか意識というかが、実はもの凄く低いのではないか?
先ほどの老騎士の講談に感極まっていた様子からしても、俺と同い年くらいの若い女王陛下に対する忠誠心はあるのだけど、それが行動に結びついていない感じだった。
まあ、その講談では明言されなかったけれど、たぶんルピスも敵対派閥の王甥も、自分たちで勝手に即位の儀式をやって、勝手に王を名乗るようになっただけなのだろう。そう考えると、女王という言葉のありがたみも薄くなる。彼らとしても、そういう気持ちがあるのかもしれない。
「竜の従者殿よ」
老騎士フッカーは腰の剣を抜くこともなく、堂々とした態度で俺に話しかけてくる。
「某の仲間が貴殿をお疑い申したこと、謝罪仕りまする。御無礼の段、平にお許し召されませ」
「……」
俺は口を閉じたまま老騎士を見つめ返しつつ、内心では思考をガリガリと回転させる。
――この状況、さて、どうしたものか?
ここで彼らと戦闘する意味、特にないよな。勝っても得るものがないし、負けたら沽券に関わる。あと、勝っても負けてもたぶん痛い。
よし、許そう。で、帰ろう。
「いいだ――」
「お待ちを、フッカー卿!」
いいだろう、と言おうとしたら、四十路騎士ビズウィーの濁声に邪魔された。
「ビズウィー卿、如何したか?」
「フッカー卿、この場は私にお任せを!」
「ふむ……?」
訝しむフッカーの前方にビズウィーはずいっと踏み出すと、手にした剣の切っ先を俺に向けてきた。
「おい貴様、私と決闘せよ。貴様が正真正銘、竜の従者だと宣うのなら、決闘にてその証を立ててみせるがいい!」
「……マジか」
思わず呻いてしまった。
こういうことを言い出す輩が本当にいるとは思わなかった。こういうのはお話の中だけの生き物だと思っていた……あ、いや、だからこそか。
彼らは騎士物語に酔っている。騎士物語の騎士を演じている。だからこそ、こういうときの解決手段として決闘を選ぶのだ。というか逆に、憂いなく決闘できる機会があるなら嬉々として決闘するのだ。
つまりこの男は、一対一なら俺に余裕で勝てる、と思っているわけだ。
……少しムカつくな。
「従者様」
ラヴィニエが小声で呼びかけてくる。それが「戦うべきです」という意味なのか、それとも「無益な戦いです」と言いたいのか、分るわけもない。視線と表情で察せ、と言われても無理だ。
だから、俺は俺のやりたいように決める。
「いいだろう。余興に付き合ってやる」
俺は前に進み出ながら抜剣した。
「なんだ、その剣は」
ビズウィーが嘲笑してくる。俺の剣は兵士崩れの山賊から奪い取った鋳物の鉄剣だ(青銅などではなく、鉄だ。村の鍛冶屋や行商人に確認したから間違いない)。けっして剣の形をした棒というほど刃が丸いわけではないが、ビズウィーが構えている剣のように白刃煌めくとはいかない。
ビズウィーが身につけているのは戦国武者を思わせる具足だけど、構えているのは反りのない剣だ。鉄と言うより鋼って感じで、おそらく鍛造だろう。この世界でも鉄を叩くという技法が確立されているそうだし。
「身につける武具も実力のうちだ。そのような鈍しか持てないことを後悔しながら死ぬがいい」
いや、殺す気かよ。ここで俺を殺しても、その後が進退窮まるだろ。って、それを言ったら、そもそもこの決闘自体が無意味か――よし、意味とかはこの際、忘れよう。
「要らん心配だ。無駄な喧嘩を吹っかけて無駄な恥を掻いたと後悔するのは、おまえのほうだからな」
俺はにやっと笑って言い返してやった。
うん、大丈夫だ。身体は硬くなっていない。いつもの稽古通りに動けるぞ。
「おのれ、減らず口を……!」
騎士ビズウィーは形相を歪めると、剣を八相に構える。切っ先を上に向けた、野球の打者みたいに構えるやつだ。対する俺は切っ先を正面四十五度に向けた、正眼に構える。剣道でよくあるベタな構えだ。……というか、丸盾が左腰に吊られたままだ。これは盾を持つと思いきり剣を振れないから装備しないのだ、とかではなく、単純に俺が舐められているのかね。
とまれ、彼我の距離は三メートル強といったところか。いつもの稽古だったら、相手の出方を窺うところだが、今回その必要はなかった。
「死ねえぇッ!!」
ビズウィーは動きを全く隠すことなく、こちらに飛び込みながら袈裟懸けに斬りつけてきてきた。
それなりに距離がある上に見え見えだったから、余裕を持って対処できた。右足を退くことで、半歩下がって右を向く。そうしながら剣の切っ先を捻るように上げて、相手の剣の横腹を俺から見て右から左へと押してやった。
「あっ」
ビズウィーは四十路男のくせに意外と可愛い悲鳴を上げて、俺に往なされた剣で地面を斬りつけた。切っ先で掘られた土と下草が数センチほど舞い上がる。ビズウィーは腰を屈めて田植えするような格好になる。
ところでビズウィーは具足を身につけていたけれど、仰々しい兜は被らずに、半球型の鉄製ヘルメットを被っている。鉢金というやつだ。具足の物々しさと不釣り合いに思えるけれど、たぶん頭に重たいものを被って山歩きするのは辛いと考えて妥協した結果なのだろう。
実際はどうだったのか知らないけれど、ともかく俺の振り下ろした剣は、無防備に露出しているビズウィーの頸部をぺしっと叩いた。刃ではなく腹でだが、勝負あったことは誰の目にも明白だった。
……と思ったのに、
「うおぉッ!!」
「うわっ」
ビズウィーはいきなり喚声を張り上げながら飛び退り、八相に剣を構え直した。
え……こいつまさか、いまのを無かったことにするつもり……だと?
「お、おのれ! 貴様、姑息な真似を!」
えぇ……。
「小僧相手に本気を出すのも大人げなかろうと手加減してやるつもりだったが、いいだろう。そちらがその気ならば仕方あるまい。私も本気で相手してやろう。精々、あの世で後悔するがいい!」
いやだから、殺す気なのかよ、と。俺を殺しちゃったら周りのゴブリンたちに射殺されるとは思わないのか? それとも、殺すって言葉だけなのか?
「キエエェッ!!」
――って、考えている暇はない。猿みたいな雄叫びを上げたビズウィーが斬りかかってきた。
さっきのような大振りではない。八相に構えていた剣を正眼に付け直して、切っ先で俺の小手を狙ってきている。なるほど、さっきよりも小さくて避けにくい動きだ。激昂していても計算はできるらしい。
だが、小賢しい。
というか、初手飛び込み突きって、俺がラヴィニエにやって余裕の返り討ちに遭ったやつじゃないか! あのときの無様な自分を再現されているみたいで、一瞬で頭がカッとなった。
正眼に構えた剣はしっかりと握ったまま、両腕から一瞬、力を抜く。それと同時にこちらから一歩踏み込むと、手首を返しながら腕を振り上げた。
「あっ」
ビズウィーの剣は俺の剣に巻き込まれて、横に大きく逸らされる。そして無防備になった彼の首筋を、俺は剣の刃でざっくりと――ではなく、剣の腹でべしっと打ち据えてやった。
「うっ……うがあぁッ!!」
はいはい、そう来ると思っていたよ。
俺は余裕をもって背後に飛び退き、ビズウィーが振りまわした剣に空を切らせた。
ビズウィーは結局、寸止めで負けを認めるつもりはないのだろう。しかし、そうすると困ったな。こいつが疲れ果てるまで、このチャンバラごっこに付き合えって? さすがにそれは御免被る。
だとすると、気絶させるか? でも俺には、首筋に手刀トンで気絶させるような技術はないから、頭部をぼこぼこに打ちまくるとか、裸締めで締め落とすとか、そういう手段しかないぞ。でも、ぼこぼこに打ちまくるのはともかく、裸締めはちょっと危険だな。こちらを殺す気で真剣を振りまわす輩に組み付くのは、怪我の危険が高すぎる。
となると、ぼこぼこにする方針で決定か。気絶する前に戦意喪失するほうが早いかもだが、どちらでも良しだ。
よし、決まった。ぼこぼこに――
「糞がぁ死ねええぇッ!!」
……あれ?
方針を決める寸前。俺は狛犬のような形相で斬りかかってくるビズウィーの剣を打ち払いながら、根本的な疑問に思い当たった。
なんでこいつを殺しちゃいけないんだ?
ラヴィニエ、シャーリー、アンの関係者というのなら考えるけれど、こいつらは縁も所縁もない隣国の人間だ。俺がさんざん殺してきた兵士崩れの山賊たちと、どこも変わらない。殺して埋めた後、何も見なかったことにすれば、たぶん問題ないだろう。
「避けるな、卑怯者! ……糞が! このっ、糞がぁッ!!」
ぶんぶんと雑に振りまわされて、鋼の剣が泣いている。持ち主を選べぬ悲嘆に、俺まで貰い泣きだ。でも大丈夫だ。すぐ、俺のものにしてやるからな。
「死いぃいいぃッ!!」
もはや言葉にすらならない奇声を上げて、型も構えもなしに剣を振りまわしてくるビズウィー。体幹も足捌きもあったものじゃない。棒振り剣術なんて言葉も烏滸がましい。三歳児に金属バットを振らせようとしたら、バットの重さでいちいち転びそうになる姿がちょうど重なるんじゃないかというくらい、惨憺たる有様だ。
きっとこいつは、俺がこいつを殺さないよう気をつけていることに気づいたのだ。そのために、安心して防御も何もない棒振りを始めたのだろう。
重心ぶれぶれ刃筋ひょろひょろの剣が、たぶん一応は、俺の首を目がけて迫ってくる。
――これを打ち払って斬り捨てよう。
そう決めて、そう動く。
「あっ」
打ち払うだけのつもりだったのに、ビズウィーの手から剣を撥ね飛ばせてしまった。まあ、どっちでもいい。俺のやることは変わらない。
「そこまでぇッ!!」
……!
雷鳴のような大音声に、鼓膜が一瞬で麻痺した。老騎士フッカーが叫んだのだ。この爺さん、音響兵器か!?
本物の雷に打たれたかのように瞬間的な痙攣を起こした俺の身体は、ビズウィーの喉笛を掻き切るために、いままさに剣を振り抜かんとしたところで強制停止させられたのだった。
「ひっ……ぁ……」
どさっと音を立てて、ビズウィーが崩れ落ちる。腰が抜けたのだろう。興奮が冷めたことで、自分が仲間の騎士たちの見えている前でどのような戦い振りを披露したのか自覚したらしい。顔を青白くして、両目を忙しなく泳がせている。
……タイミングを外されてしまった。
「この勝負、竜の従者殿の勝ちである。異論ある者は名乗り出よ!」
老騎士の大声に応える者はいない。当事者のビズウィーも顔面蒼白で尻餅をついたまま、ぷるぷると唇を噛み締めているのみだ。
「異論なしであるな。では、このフライル・エィ・フッカーが立会人として、竜の従者殿と騎士レイン・ビズウィーの決闘は、従者殿の勝利であることを宣言致す!」
くどくどしい宣言に、俺はすっかり醒めてしまった。剣を握っているのが馬鹿らしくなって、さっさと鞘に収めた。
ああ、なんかもう、どうでもいいな……あ、違う。最初からどうでも良かったんだった。
「じゃあ、そういうことで――」
後は勝手にどうぞ、と手を振ってお別れしたかったのだけど、
「お待ちを、従者様」
ずっと騎士たちに守られていたルピス女王陛下が進み出てきて、俺を呼び止めた。
「陛下――」
フッカーが何か言いかけたのを手振りで止めて、ルピスは俺を見る。
「従者様、私の臣下が働いた無礼、改めて謝罪いたそう。誠に相済まなかった。この通りである」
ルピスがそう言って、頷くよりもやや深い程度に頭を下げた。
俺からすると到底、頭を下げているようには見えないのだけど、周りの騎士たちは驚きと不快感を露わにしている。封建社会で生きる騎士にとって、自分たちの奉じる女王が他者に頭を下げて謝罪するというのは、在ってはならないことのようだ。俺の感覚に当て嵌めて考えるなら、日本の総理大臣が名も知らぬ外国のよく分らない役人の代理みたいな相手に土下座した、みたいなことなのかもしれない……たぶん。
「ああ、ええと……うん、はい。謝罪、受けました。許します」
お座なりな気分になると敬語になるのはどうしてだろうか。
「寛恕、痛み入る」
「だけど、竜のところまで案内はしない。行きたければ止めないけれど、それ以上は知らん」
また余計な頼み事をされる前に、こちから言ってやった。
「ああ、分っているとも」
……あら? 女王様はあっさりご納得なさってくださった。
「皆にも先ほども言ったが、竜の御座に至る道程もまた、竜よりその巫女たる私に科せられたる試練と心得ている。ここで従者殿の手を借りて労なく向かうことは、竜の御心に反すること。故に、従者殿の助太刀は不要。そのお心ばかり、頂戴致す」
ルピス女王は俺の前に立ちながら、しかし、背後に居並ぶ騎士たちに向かってそう宣言した。
――それは表面だけを捉えれば、竜の巫女としての堂々たる意思表示にも思えた。年若い女王陛下の背中を見つめる騎士たちには、きっとそう見えただろう。
だけど、正面に立っている俺には、彼女の目が見えていた。
鉛色にも見える銀髪よりも透明度の高い、銀色の瞳。水銀だとか、雫状に融かしたはんだだとかにも見えて、意思を押し隠す覆いのようにも思える。
だけど、俺にはその覆いの奥が見える気がした。
だから、こうしてやらないといけない――そんな気がした。
「えっ」
ルピスが思わず漏らした声は、意外にも――そして思った通りの、年相応の愛らしいものだった。
俺はルピスを両肩に担ぎ上げていた。彼女をうつ伏せにして、尻を右肩に、頭は左肩にだ。訓練のお陰というか、最近また原因不明に上がっている身体能力のお陰で、彼女の腋の下に頭を押し込む感じで担ぎ上げてみたら、ぐるりんひょい、だった。
「え、えっ……なっ、何を――」
「竜のところに行きたいんだろ。連れて行ってやる」
「……え」
「ラヴィニエ、後は任せた」
「えぇ……まあ、では、適当なところで待たせておきましょう」
ラヴィニエは呆れ顔をしながらも、そう言ってくれた。
「へば、おらさぁ先導すますだ」
ラヴィニエとは反対側の隣に立っていた忍者ゴブリンがそう言って、さっと動き出す。
弓矢を手にして周りを囲んでいる忍者たちは、弓を持つ手を軽く挙げたり頷いたりして、俺の突飛な行動を了解してくれている。
俺は仲間に恵まれている。
「そんな感じでよろしく……じゃ!」
出発の挨拶を告げるや、俺はルピスを両肩担ぎしたまま駆け出した。
「……あっ、待たれよ!」
遠くなる背後で老騎士の焦り声がしたけれど当然、立ち止まりはしなかった。
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