義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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3章

47-4. 愛の玉子 ロイド

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 それはユタカが体育座りで動かなくなってから、ほぼ一日が経った頃だった。
 日中は俺もユタカのことを気に懸けていたけれど、夜間は夜番のゴブリンたちに任せて、「何かあったら遠慮なく起こしてくれ」とだけ言っておいて普通に就寝していた。
 だから、夜番だった戦士ゴブリンに叩き起こされたときは、ユタカに何かあったのだと察して、すぐに意識をはっきりさせることができた。
 でも……出産までは察せられなかったよ……。

「出産って……これか、ユタカの卵ってのは」

 本日の夜番三交代目だったうち、戦士が俺を起こしに行っている間もユタカのことを見守っていた忍者が指差したのは、確かに卵のような形をしたものだった。
 昨日は一日、折り畳んだ膝と膝とをくっつけた体育座りで過ごしていたユタカだが、いまは大股開きで仰向けに倒れている。があるのは、そのがばっと広げられた両足の間だった。
 卵も気になったけれど、まずはユタカの安否確認だ。
 これはすぐに終わった。昨日のようにユタカの口元まで耳を寄せていくまでもなく、ユタカが普通に呼吸しているのが見て取れた。どうやら、いまはただ寝ているだけのようだった。

「無理に起こさないほうがいいんだろうな」

 ユタカのことはひとまず、朝日の当たるこの場所にこのまま放置することにして、卵だけを足の間から回収しておくことにした。
 ――卵とは言っているけれど、どうも卵ではないような気もする。これは鶏卵よりもずっと大きいし、色も淡い黄色なので、林檎か和梨のようにも見えるのだ。
 ただし、ユタカの膣から産み落とされたことは間違いないだろう。卵の表面は透明な液体でべっとりと濡れているのだが、それと同じ液体がユタカの少し緩んでいるからも零れ出ているからだ。
 というか、実際に産み落とされる瞬間を、この場に居残って監視していた忍者ゴブリンが目撃していた。

「へぇ……たすかに見ますただ」

 そのときのことを、忍者はこう語ってくれた。

「こん子さ、ずぅっと瞬きひとつせんと丸くなったままさいたんだすが……空ば明るぅなって、そんそろ日ぃも見えてくっかぁつぅときぃ、突然こう、がばぁっと足さ開いて、目ぇもカッと見開かせたんだす」
「それで、戦士に俺を起こさせたんだな」
「へぇ、そうでがす。そんで俺ぁ、一人でここさ残っとったんだすが、したっけこん子、急にビクビク震えだすたが早ぇか、ぽっこーんと産んだんだすよ。ぽっこーんと」
「ぽっこーん……」
「んだす。ぽっこーんと!」

 この忍者ゴブリンにとっては、実際起きた以上に衝撃的な出産シーンだったみたいだ。
 卵が転がっていたのはユタカの足の間だ。ということは、実際はせいぜい、ころーん、ぽーん、くらいの勢いでしかなかったと思う。本当にぽっこーんだったら、もっと遠くに転がっていただろう。

「あん二人さも、こんくれぇぽっこーんだったら良かっただがよぉ」

 忍者はそう言って、遠い目をする。
 ああ……なるほど。シャーリーとアンの出産を見ていたからこそ、ユタカが比較にならないくらいぽんと産んだことに驚いたのか。それこそ、に思えるくらいに。

「……でも確かに、軽く産みすぎのような気も……あ、いや、軽くもないのか?」

 ユタカはおよそ丸一日、仮死状態というか植物状態だった。おそらく、栄養を卵の成長に集中させるために、生命活動を極限まで抑えていたのだ。妊娠期間を短くするために獲得した生態なのだろうけど、出産は命懸け、を地で行く大胆な生態をしていやがる。

「ただまあ、卵かどうかも分からないんだよなぁ……」

 俺は布で包んで回収した卵を、両手で押し頂くようにして眼前に持ち上げ、改めて矯めつ眇めつする。

「……どちらかというと、果実、だよな」

 見た目の印象に、布越しに感じる手触りや重さも加味して考えると、やはり黄色の林檎か和梨としか思えない。秘所から出てきたということで卵と考えたけれど、ユタカの見た目や生態は非常に植物的なのだから、卵よりも果実と見るほうが自然なのように思えてくる。

「どっちにしても、問題は……」

 卵からは雛が、果実からはやがて芽が出てくる、ということだった。

「やったね家族が増えるよ……ははっ」

 我ながら乾いた笑い声で、どこかで見たような台詞を言っていると、有瓜がやってきた。俺を起こした戦士ゴブリンに、有瓜にも声をかけてくるよう頼んでいたのだ。

「義兄さん、産まれたってなんですか!?」
「ほれ、これだ」

 息を切らせている有瓜に、俺は両手に捧げ持っていたユタカの卵だか果実だかをずいと差し出した。

「えっ……メロン?」
「いや、メロンは緑だろ」
「黄色いメロンもありますよ。あっ、先に言っておきますけど、網が掛かっていないツルツルのメロンもあるんですから……って、メロンの話じゃなぁい!」

 有瓜はから、草地で心地好さそうに寝息を立てているユタカへと視線を移す。

「ユタカちゃん、無事なんですよね?」
「たぶんな。見たところ、もう普通に息もしているし、身体の硬直も解けている。脈もしっかり感じ取れる強さに戻っていた。そのうち目を覚ますんじゃないか?」
「そうですか……よかったぁ」

 有瓜は大きな吐息を零して安堵する。落ち着いたおかげで、好奇心が鎌首を擡げてきたようだ。

「起こしてくれたゴブさんには詳しく聞く余裕がなかったんですけど、ユタカちゃんがこのメロンを産んだんですね……ん、あれ? 産んだんじゃなく、実を付けた、です?」
「やっぱり、そこは迷うところだよな!」

 俺と同じことで首を傾げる有瓜に、ぶんぶんと激しく頷いた。

「でも、卵にしろフルーツにしろ、気になる点は同じですよね」
「だよな!」
「どんな味がするんでしょうね」
「……、……え?」

 ……同じではなかった。有瓜は、俺と違うことを考えていた。全然、同じではなかった。

「有瓜……おまえ、これ、食べる?」
「なんで片言なんですか。というか、食べちゃ駄目なんですか?」

 不思議そうに聞き返されて、こっちが不思議だよ!

「いっ、いやいや! 食べないだろ! だって卵だぞ!?」
「フルーツかもですよ」
「どっちにしても食べんなよ!」
「え、なんでです?」
「むしろ逆に、なんで食べるんだよ!?」
「卵あるいはフルーツだから?」
「フルーツだから食べるは、まだギリギリ分かる。けど、卵だから食べるはない! ありえないだろ!!」
「……なんで?」
「なんでって……だっておまえ、卵は孵化するじゃないか。何か産まれてくるじゃないか……」
「……あぁ」

 ここまで説明してやっと、有瓜は俺の言わんとすることを理解してくれた……と思ったら、

「――ぶふっ」

 いきなり吹き出された。

「なんで笑うんだよ!?」
「ふふっ……だって義兄さん、たぶん勘違いしてるんですもん」
「勘違い?」
「これが卵だったとしたら、無精卵ですよ」
「……ん?」

 有瓜が笑いながら言った言葉を理解するのに、数秒の時間を要してしまった……いや、でもやっぱり理解できないぞ。

「待ってくれ。ユタカはゴブリンとヤったから産んだんだろ? 俺はそう聞いているぞ」

 ユタカが動かなかったとき、俺を呼びに来た忍者ゴブリンは、射精して気がついたら動かなくなっていた、と言っていた。そしてを産んだのだから、卵なら有精卵になるはずだ。

「あっ、その情報は微妙に間違ってます」
「なに!?」
「広い意味ではヤったんですけど、実際にしたのはフェラというかイラマからのだけです。中出しはしてません」
「……は?」

 あっけらかんと並べられたエロワードに、いまさら照れも狼狽えもしないけれど、最後の一言には思考が飛んでしまった。
 中出しされていない……だと?

「じゃあ、ユタカは口に射精されて孕んだのか?」
「いえいえ、わたしはだから、孕んだんじゃないのだと思うんです。ユタカちゃんはあくまでも、口からエネルギーを吸収しただけ。そのエネルギーで実を付けただけ――と、そう思うのですよ」
「なるほど……いや、でも待て。ユタカが口で受精する身体をしている可能性も……ああ、うん、ないだろうな。膣があるのに、口から精子を取り込むってのは違うが気がする」

 口から取り込んだのなら、栄養としてしか吸収していないと考えるのが自然だろう。とすれば、いま俺の手の中にあるは無精卵、あるいは種なし果物である可能性のほうが高いと思う。

「まぁ、俺たちで考えたところで、とかとかまでしか言えないけどな」
「ユタカちゃんが目を覚ましたら聞いてみればいいだけですしね」
「早く目を覚ましてくれると良いんだけどな」

 俺は溜め息混じりに呟きながらユタカを見る。
 ユタカはじつに気持ちよさそうな寝息を立てていた。


 ユタカが目を覚ましたのは、それから三十分もしない頃だ。
 俺は途中まで進めていた朝食作りを有志のゴブリンたちに引き継いでもらうと、有瓜と一緒にユタカから事情聴取した。ユタカはほぼジェスチャーと眉毛でしか話さないので、その意味をフィーリングで感じ取ってくれる有瓜の通訳はありがたかった。
 そうして話を聞いた結果、分かったことは――ユタカが産んだのは種なし果実だったことと、ユタカはそれを食べてもらいたがっていることだった。
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