義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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3章

44-5. 騎士との遭遇 アルカ

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 ダイチくんとミソラちゃんは毎日、元気です。
 いきなり知らないひとたち(後から義兄さんに聞いたら、騎士とか言ってました)がやってきたときは、その元気さが爆発して大変なことになったりしないよね、という心配もちょっぴりしていたのですけど、朝方だったこともあって、二人ともぐっすり眠っていてくれました。
 義兄さんたちが騎士さんたちを捕まえた後、外に出て朝ご飯の準備を始めた途端に二人ともぱちっと目を覚ましたのには、少し笑っちゃいました。

 ダイチくんもミソラちゃんも、ご飯をよく食べます。よく寝て、よく食べます。寝る子は育つと言いますけれど、二人は寝るのに加えて食べる子でもあるからなのか、とにかくもう育ちまくりです。だって、生後二ヶ月くらいでもうを卒業しようとしているんですから。
 ……じつは最初、赤ちゃんの成長って、みんなこんなに早いんだー、とか思ってました。というか、義兄さんにそう言ったことがありました。そうしたら義兄さんに思いっきり、馬鹿を見る目で見られたものです。

「有瓜、人間の赤ん坊が掴まり立ちを始めるのは生後半年以降が普通だ」
「……うちの子たち優秀なんですね」

 そう返したら、もっと残念なものを見る目で見られたものです。
 でもあのときは、アンちゃんとシャーリーさんがわたしに加勢してくれましたっけ。

「はい、その通りですよっ」
「なんたって、姐さんに名付けてもらった子っすからね!」

 この辺りでは、偉いひとに名付けてもらった子供は立派な子供に育つ、という言い伝えがあるそうです。なので、わたしが名前をプレゼントしたダイチくんとミソラちゃんが生後二ヶ月で立ち上がるのは当然なのだそうです。……当然なのですかね?
 わたしとしては、わたしが名前を付ける前からこの子たちは規格外だったと思うのですけど、それを言うのは野暮というものでしょう。いいんです、みんなが笑顔なら。
 そんなことを思い出しながら赤ちゃん二人を探して視線を揺らすと、二人はちょうど出来立てほかほかの朝ご飯をお母さん二人に食べさせてもらっているところでした。
 今日は朝から焼き肉です。

「むっふん」
「あっ、あーっ」

 ダイチくんは一切れ食べ終わるたびに鼻を鳴らして次を食わせろと催促しています。ミソラちゃんはその逆に、ちょっと食べては他のひとが食べているものに手を伸しては困らせています。
 食事以外だと、ダイチくんのほうが活発やんちゃで、ミソラちゃんは大人しいというか手が掛からないのに、食事だけは逆になるのが不思議なものです。
 でも、どっちにしてもやっぱり、ちょっと人間離れしているなぁと思うのは、生後二ヶ月でお肉大好きさんなところですかね。掴まり立ちはとくになんとも思わなかったわたしですが、二人ともすでに丈夫な歯が生えていて、朝からお肉を平然と食べていることには、ちょっぴり違和感を覚えるのと同時に、残念に思ってしまいます。

「離乳食を食べさせるの、ちょっと楽しみにしていたんですけどね」

 まずはお粥をスプーンで一口啜ってもらうところから……みたいなことを、二人の名前を付けた日から何度か想像していたのですが、ふと気がつけばお肉をがっつりですもん。もう少しゆっくり育ってくれてもいいんですよ、って言いたいです。
 あ、でも基本的に二人が食べられるのは柔らかいヒレ肉だけで、硬いロースやもも肉は口に入れても何度か噛んだだけでと吐き出してしまいます。硬いお肉が食べられないなんて、ちゃんと赤ちゃんしているじゃない、なんて思っちゃうのでした。
 ちなみに、ダイチくんは本当にヒレ肉しか好みませんけど、ミソラちゃんのほうは生後六十日にしてレバーの美味しさに目覚めていました。義兄さんが作ったレバーペーストの香味野菜(的な葉っぱとか草とか)和えを、黄色くて甘くないプルーン的な果物にこんもり載せて食べるのがお気に入りです。

「ミソラは味の分かる子だな」
「きゃっきゃっ」

 ミソラちゃんは食べるときにご満悦の顔で義兄さんに笑いかけるので、義兄さんの料理熱が加速しそうです。
 もっとも今朝は、義兄さんは朝早くからやってきたお客さんの相手をするために洞窟奥の祭壇にまだ籠もったままなので、ミソラちゃんも黙々と食べています。これは、義兄さんの料理がないから、テンションが上がらないみたいです。煮るか焼くか以上のことをしないわたしたちには、営業スマイルする価値を感じていないようです。そういう猫被りなところ、嫌いじゃないですよ。

 そうそう、ちょっと話が逸れちゃいますけれど、義兄さんはダイチくんとミソラちゃんが生まれた頃から、内臓料理に取り組み始めていました。それまでは山賊退治のほうに集中していて、河原で獲物を解体するときに内臓はそのまま川に流すか、手伝ってくれたゴブさんたちのおやつになっていたのですが、お留守番に専念するようになってからは解体作業に時間をかけられるようになったので、内臓の下処理を頑張り始めたのでした。
 洞窟のほうには、わたし、アンちゃん、シャーリーさんにゴブさんたち――と揃っていますから、義兄さんがしばらく席を外していても赤ちゃん二人の面倒を見るのに支障はありません。料理についてはゴブさんたちも非常に協力的なので、「あいつばっかり遊びやがって!」と怒ることもないです。

 そうした周囲の理解と弛まぬ努力の甲斐あって、肝臓レバー心臓ハツフワだとかの、いわゆる赤モツはすんなりと食卓に出てくるようになりました。
 あ、わたしがお肉の部位の名前をけっこう知っているのは、焼き肉をたくさん奢ってもらっていた時期があったからです。スーツの似合うおじさま方が連れて行ってくれる焼き肉は、珍しい部位も普通のお肉も美味しいものでした。最近、その味を思い出してしまって、ちょっと切ないです。お肉の鮮度や肉質は負けていないと思うのですけど、熟成とかとか、そういうのがここにはないですからね。味噌と醤油が恋しいです。
 でもまあ、無い物ねだりをしても始まりません。義兄さんの肉料理だって日々、着々と美味しさを上げていっているんですから。

「そりゃ、ありがとう。でも、俺の腕がどうこうというより、みんなが強くなって、こいつら獰猛な草食獣を狩るのに慣れてくれたおかげというのが一番の理由だな」

 料理の腕がどんどん上がってますねっ、と褒めたら、義兄さんは照れ笑いしつつもそう言っていました。
 義兄さん曰く、狩るときにいきなり殺してしまうと肉にも内臓にも血が染み込んでしまって、生臭くて不味くなるのだそうです。なので、足を縛る罠に引っ掛けたり、死なないで程度に頭を殴って脳震盪にさせたりしたところで、これまた即死しない深さで首を掻き切って逆さ吊りにすると、いい感じに血抜きできるんですって。
 正直、食欲のなくなる話ですよね。それに、危険地帯の中でこれをやると、流れ出る血の匂いで近くの獣が興奮することもあるから危険度が上がるのだとか。
 そんなに危険なら、無理しなくてもいいじゃないですかね……と思った頃もありましたけど、実際に血抜きしたお肉は美味しかったので、わたしは即落ちしたのでしたっけ。

「みんな、なんか強くなってるし大丈夫ですよね! 無理しちゃ駄目だけど、できるだけ美味しいお肉をよろしくです!」

 わたしがそう言うと、ゴブさんたちは本当に頑張ってくれてしまうので、嬉しい反面、ちょっぴり怖くもなってしまいます。みんなに何かあったとき、わたしはどうやって責任を取ったらいいのでしょうか……。

「……本当に無理しないでくださいね」

 そう言うことしかできないのが申し訳ないと思う心のもう半分で、早く白モツも食べたいな、と思っちゃっているのは、みんなを信頼しているからです。

 ……とかなんとか、朝焼き肉を食べながら白モツに思いを馳せていると、背の低い忍者ゴブさんが一人、洞窟から出てきて言いました。
 これから捕虜を竜のところまで連れて行くけれど、こちらの人数などを知られたくないので音を立てないようにしていてください――と。
 どうして騎士さんたちを竜のところまで連れて行くのか気になりましたけど、後で聞けばいいでしょう。

「ダイチ、しーな」
「ミソラもそのままね」

 シャーリーさんとアンちゃんが銘々、自分の赤ちゃんを抱っこして言い聞かせています。赤ちゃん二人は聞いているのかいないのか、お肉の入ったお口をもっきゅもっきゅさせています。その様子だとたぶん、口にものが入っているうちは大人しくしているでしょう。
 ほどなくして、義兄さんたちが騎士さんたちを伴って洞窟から出てきました。騎士さんたちはなぜか目隠しをして、後ろ手に縛られていました。

 うわぁ……絵面がもう、うわぁ……って思いました。
 忍者ゴブさんたちにときどき鞘の先で小突かれながら、おっかなびっくり進んでいく、村のひとたちとは一線を画した身形みなりの騎士さんたち。あ、洞窟の中では気がつきませんでしたけど、一人は女性ですね。他の男性騎士さんたちより安堵した顔に見えるのは、乱暴されずに済んだからでしょう。
 黙って肉を食べているわたしたちの中を縫って、騎士さんとゴブさんが通り過ぎていきます。義兄さんも列の最後を歩いています。
 義兄さんも竜のところまで行くんですか、と目で問いかけたら、頷きが返ってきました。
 竜がいるところまで、片道一時間はかかりますよね。途中でバテちゃわないように、せめてこれだけでも食べていってくださないなっ……という心を込めて、ちょうど焼き上がったハラミを義兄さんの口に押し込んであげました。
 ふと見れば、義兄さんと一緒に行くらしい忍者ゴブさんたちも、焼けた肉をひょいひょい摘まんで頬張りながら歩いています。
 ゴブさんたちが囚われの騎士さんたちを囲んで、無言で口をもきゅもきゅさせながら歩いていく光景は厳かな宗教行事のようで、笑いを堪えるのが一苦労でした。

 義兄さんたちは帰ってきたのは、日が落ちてからでした。
 夕食の席で、いつもよりずっと分厚く切ったお肉に、塩とカレーっぽい香辛料をいつもよりずっとたっぷり塗して焼き上げて、むっしゃむっしゃ頬張っていたのが印象的でした。

「ところで義兄さん、聞いていいです?」
「ん……食べながらでいいなら」
「はい、それでいいです」

 肉を頬張りながら頷いてくれた義兄さんに、わたしは疑問を投げかけました。

「どうして騎士さんたちを竜のところに連れて行ったんですか?」

 すごく疲れた様子の義兄さんを見ていると、本当どうして、そんな面倒なことをしたのか分かりません。

「あぁ、うん……つまりな、あの騎士たちをそのまま帰せば、騎士団にゴブリンが群れを作っていたと報告されてしまう。そうなったら、もっと大勢で俺たちを駆逐しに来る可能性が高いだろ。だから、そのまま帰すわけにはいかなかったんだ」
「なら、その……口封じ、しなくて良かったんですか?」

 それは簡単に口にして良い言葉ではないと思っているけれど、そうしないとみんなが危険に晒されるというのなら、わたしだって頑張って受容します。というか、義兄さんがずっとやっている山賊退治の退がどういう意味かくらい、分かっていますし。

「今回のケースに関しては、口封じは不味いんだ」
「え、なぜです?」
「送り出した調査隊が帰ってこなかったら、何かあったと思って、もっと大勢で武装もがっちり整えて再調査しに来るからだ」
「あ……ですねぇ」
「だから、あの騎士たちには無事に帰ってもらって、“調べた結果、問題ないことが分かりました”と報告してもらう必要があったんだ」
「なるほどー……ん? でも、それがどうして竜に会わせることに繋がるんです?」
「そこはあれだ。竜を実際に見れば、あれが寝ているから殺せるなんて次元の生き物じゃないことが実感できるだろ。そうすれば、後はあの騎士たち自身が全力で、竜や、竜の従者を名乗った俺たちと関わらずに済む方向で動いてくれるはずだ……はずだ」
「二回言いましたか」
「大事だからじゃない。不安だからだ。いや、大事は大事だけど」
「はぁ」

 実のところ、いま聞いたことを全部理解できたわけではないのですけど、とりあえず義兄さんは色々考えていたんだなぁということは理解しました。

「義兄さん、お疲れさまでした。今夜はいっぱい食べてください」
「もう十分いただいてるよ」

 と言いつつ、義兄さんはさらにもう一枚、カレー風味の厚切りステーキをお代わりするのでした。
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