義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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2章

40-3. 兄妹 ロイド

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 一頻り吐き出して落ち着いた有瓜は、まだ少し目元の赤い顔を上げる。

「前置きはこのくらいにして本題に入りましょう。わたしのお腹の赤ちゃんについて、です」
「おぉ……ド直球で来たな」
「だって、我ながら前振りが長すぎましたもん」

 有瓜は自分のお腹を擦りながら、わざとらしく明後日のほうを見る。素振りが大袈裟なのは、本気で照れ臭いからだろう。でも、さっきのを蒸し返すのは俺も照れ臭いので、さっさと話を進めにかかった。

「おまえは前に、自分は妊娠しない身体になった、みたいなことを言っていなかったか?」
「はい、言いましたね。なんとなく自分で分かるんですよ。根拠はって言われると、感覚、としか言えないんですけど。でも現に、ゴブさんたちとは生でヤりまくりですけど出来てませんし」
「じゃあ、妊娠しないのが分かるのと同じ感覚で、竜の子供を妊娠したのも本当だと分かる……と」
「そういうことです」
「矛盾してるな。まあ、だからこそ竜も、魔術だ魔法だと言ったんだろうがな」
「妊娠しない身体の女子でも無理やり妊娠させる魔法……わりと最低な魔法ですね」
「自分以外の雄にかけることができるんなら、最高の不妊治療になるんだけど……」
「どうせ自分にしか使えないんですよ、きっと」
「俺もそんな気がしてる」

 技術的に不可能ということがあるのかもしれないけれど、あの竜は他人のためになるような魔術を創ったりしない奴だ、という印象を持ったのは、有瓜も同じだったようだ。
 問答無用で有瓜を掠って、出すだけ出した後は妊娠させたことを自慢げに語って満足したら寝る――あの竜の行動を一言で表すなら、ヤリ目、だ。

「……あれ、寝てる間に退治できないかな」
「火を焚いて閉じ込める、というのはどうでしょう?」

 俺がぼそりと言った言葉に、有瓜はわりと具体的な案を出してきた。

「うん……狙いは窒息死か。鼻息を鳴らしていたから呼吸しているわけで、つまり酸素を必要としている可能性は高い……毒を盛るより効き目ありそうだな。横穴の上から岩を落とせばいけるか?」

 確か、あの横穴の頭上は丘のようになっていた。総出で掘り返したら、土砂崩れを起こしたりできないだろうか?

「あら? 義兄さん、なんか本気で検討し始めちゃってます?」
「あ……いやぁ、あれを殺せないにしても、慌てるところが見られたら爽快だろうなぁと思ったら……はははっ」
「気持ちはすっごく分かりますけど、触らぬドラゴンに祟りなし、ですよ。そんなことより、わたしのお腹のことを考えてくださいな」
「おう……と言っても、つまりは生むか生まないか、だよな?」
「……ですね」

 有瓜はもう一度、自分のお腹を撫でながら頷いた。
 頷いたまま下を向く横顔からは、上手く表情が読み取れない。だから、有瓜のほうから話し出すのを少し待ったのだけど、沈黙だけがその場を漂う。
 息苦しさに負けて、俺のほうから切り出した。

「自分は母親になるべきじゃないと思っている、か?」
「……ド直球はどっちですか」
「すまん」

 俯いたまま横目で睨めつけてくる有瓜に、俺はふいと顔を逸らして謝った。でも、すぐに続けて口にする。

「でも、おまえは――」
「良い母親になれるぞ、とか言ったら本気で怒りますので」
「……」
「そこで黙られるのもムカムカしますね」
「どうしろっていうんだよ!」
「俺の一番だ、とか言ってくれればいいんですよ」
「それを蒸し返すか!」

 しれっと言ってきた有瓜に、俺の耳は一瞬で熱くなった。横目にそれを見て、ふふっと悪戯を成功させた子供の顔で笑う有瓜。
 ……口では勝てない。さっさと話を進めよう。

「まあ実際、俺もおまえも日本だったら高校生だ。普通に考えて、良いとか悪いとか以前に、親になる年齢じゃない。だから、おまえが良い母親になれるとは、最初から思っちゃいなよ」
「……わりと正論だと思いましたけど、良い母親になれないってはっきり言われるのも、それはそれで……へこみますね」

 言っても言わなくても面倒だな、とツッコミを入れたくなったけれど、それだと話がまた脱線してしまうだけなので、ぐっと呑み込み、違うことを言う。

「ところで、おまえから見てシャーリーとアンは良い母親に見えるか?」
「はい? いきなりですね」
「いいから答えてくれ」
「と言われましても……わたし、あんまり二人が母親しているところを見てないんですよね……」
「……あ」

 言われてみれば、確かにそうだ。暴君のような赤ん坊たちと格闘するのに手一杯で気にする余裕がなかったけれど、思い返してみれば、有瓜は姉妹二人や赤ん坊たちと積極的に関わろうとしていなかった。いまにして思うと、むしろ避けていたのではないか、という気さえする。

「赤ちゃんと接するの、怖かったんですよね。ほら、育児放棄されてたじゃないですか。だから、普通のひとなら無意識に分かっている、とか、とか、わたしはきっと分かってないと思うんですよ。だから、怖くて……」

 有瓜はそう言って苦笑を浮かべるけれど、俺は笑えない。
 俺は兄として、有瓜が赤ん坊に関わろうとしていないことに気がつくべきだったのに――。

「あ、義兄さんがそんな顔するのは間違いですから」

 悔しさや申し訳なさで唇を歪ませたら、すぐにそう言って指を突きつけられた。

「間違いって……」
「もし、いまみたいにわたしから打ち明ける前に義兄さんから問い詰められてたら、追い詰められたわたしは崖落ちしてましたよ」
「犯人かっ」
「気分的にはそれですよ。だから、義兄さんが鈍ちんで本当に良かったです」
「そうか、そりゃ良かった……って、だから話が脱線してる!」

 有瓜と話していると、いつもこんな感じで煙に巻かれてしまう気がする。俺が単純なのか?

「ごめんなさい。義兄さんと話しているとつい、からかいたくなっちゃって」

 ふふっと可愛らしく笑った有瓜は、俺が二の句を継げないでいるうちに、ささっと話題を戻してしまう。

「んっ……まあ、なので、あんまりちゃんと二人のお母さんっぷりを見ていたわけじゃないんですけど、それでも二人が頑張っていたことは分かります。見ようとしなくても見えちゃうくらい、二人とも頑張ってましたもん――二人だけじゃなくて、義兄さんも、みんなも」
「あ……俺の言いたいこと、分かられてるか?」
「はい」

 確信を持って頷かれてしまった。

「わたしが良い母親をできなくても、義兄さんやみんながフォローしてくれる、ということを言いたかったんですよね?」

 そして、追い打ちのように内心をずばり言い当てられた。こういうのを先読みで言い当てられるのは、かなり恥ずかしい。その恥ずかしさを吹き飛ばしたくて、俺は少しぶっきらぼうに言う。

「分かってるなら、上手くできるかは考えなくていい。生みたいか生みたくないか、自分の望みだけで決めろ」
「……そんなこと言って、わたしが生みたくないって言ったら――」
「言わない――おまえがどう決めても文句は言わない」

 有瓜の言葉を先回りして、そう宣言してやった。
 有瓜は丸く見開いた目で俺を見つめて、固まる。見つめられた俺のほうも、呼吸と瞬きをしばし忘れた。

「……」
「……」

 先に息を吐いたのは、有瓜だった。吐いた分だけ、すぅと静かに息を吸い込み、ゆっくりと瞬きをする。

「わたしの望みを言う前に、義兄さんにひとつ約束してほしいことがあるんです」
「なんだ?」
「名前――わたしが生む、わたしの赤ちゃんの名前。義兄さんが付けてください。それを約束してくれたら、望みを言います」
「いや、もうそれ言ってるだろ」
「あ、ほんとーですねー」
「棒読みの上手いことで!」

 有瓜がわざとらしい棒読みをして、俺が大袈裟なツッコミをする。
 二人して不出来な漫才みたいなことをしたのは、二人とも恥ずかしいことを言った自覚があるからだ。その証拠に、俺の耳はじんじんするくらい熱くなっていたし、有瓜の目は泳ぎっぱなしだった。
 ああ……今日は二人して慣れないことばっかり言い合っているな。

「義兄さん」

 有瓜の視線が俺に合わさる。

「うん」

 目を逸らさないよう、顎を引くことで頷きに代えた俺に、有瓜ははっきりと告げた。

「わたし、赤ちゃん、生みたいです。義兄さんに名前を付けてもらいたです。……いいですか?」

 決意に満ちた視線と声音。そこに混ざる一握の不安。俺は目と耳とで、そのどちらも確かに受け取った。
 だから、どんっと自分の胸を叩いて自信満々に言い切った。

「最高に格好いい名前を考えるから期待してろよ!」
「あ、普通でいいです」

 有瓜は最高の愛想笑いで即答した。
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