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2章
34. ファンタジーの代名詞 アルカ
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アンちゃんと義兄さんがたまにヤってます。これは見て見ぬふりを貫くべきなのでしょうか?
いえ、べつに恋愛もセックスも自由だと思うんですけど、義兄さんが「姉妹の味比べ美味しいです」なんて鼻の下を伸ばしているのかと思うと、なんとも名状しがたいもやもや感に見舞われるのです。
もういっそ、二人で正面切って「僕たち、わたしたち、セックスしてます」って言いにきてくれませんかね? そうしてくれたら、このもやもやもすっきりすると思うんですけど。
「……って、そんなことより名前ですよ、名前」
自分の頬をぴしゃんと叩いて、非生産的なもやもやを頭の中から振り落とします。
「っていうか、もう……ええと、一ヶ月くらい経つんですか? ……うわぁ」
一ヶ月も赤ちゃんを名無しのままにしちゃってるとか、わたしってこんなに優柔不断だったんですね……と言いますか、なんでわたしが考える流れになっているのでしょうか?
「一番偉いひとに名付けてもらうと長生きできるって言うじゃねっすか」
というのがシャーリーさんの意見で、
「わすらぁ、名前っちゅうのがねぇだすば、アルカ様ぁ決めるんがええ思いますだ」
ゴブさんたちも似たようなものでした。
義兄さんに助けを求めてみると、
「名前を考えるのは吝かじゃないけれど、みんながおまえに名付けてもらうことを望んでいるからなぁ」
そう言われちゃうと、義兄さんに丸投げするわけにもいきません。わたしが考えたのでなきゃ……ああ、重圧感で胃が重いです。
「……あ、胃が痛いのって初めての経験かも?」
ちょっと得した気分になりました。
……なぁんて冗談めかしてみたところで、お腹にずっしり来ている胃もたれ感がなくなるわけではありません。とにかく名前を考えないと、です。
「ああ、シャワーが欲しいです……」
久々に日本が懐かしいです。
無い物ねだりをしても仕方がないので、川での水浴びで満足していますけど、熱いシャワーを頭から浴びる快感が欲しくなります。シャワーを考えた人は天才でした。
「アンちゃんかシャーリーさんか、誘えばよかった……」
姉妹のどちらかに髪を洗ってもらえたら、シャワーがなくても、もっと気分転換できたでしょうに。
いまは昼時で、姉妹二人は赤ちゃん二人に義兄さんと一緒にお昼寝タイムです。ゴブさんたちは狩りと見回りで森に行っていて、わたしの傍には護衛役の忍者ゴブさんと戦士ゴブさんが一人ずついるだけです。
わたしの護衛役は、戦士さんと忍者さんから数日交替で各一名ずつが受け持ってくれています。村から請け負う形で山賊退治をするようになった頃から、そういうシステムになっていました。
まあ、護衛と言っても、ここにはわたしたち以外に誰も住んでいないし、猛獣が迷い込んでくる可能性がもしかしたらゼロではないのかも、くらいの危険しかないので、護衛という名のセックス相手です。
なんですが……ここ最近はセックスしてません。赤ちゃんの名前を考えるのに頭と胃がいっぱいで、ち○ぽに集中できそうにないのでした。期待していた護衛役の二人には申し訳ないのですが、惰性でするセックスほど後で空しくなるものはないですからね。
「というか、もう一ヶ月……よし! もう今日、決める!」
川面の水を掬った両手で頬をぴしゃっと叩いて、自分で自分に宣言です。
何も今日まで悩んでいるふりをしていたわけじゃありません。ちゃんと、名前の候補はいくつか出しているんです。でも、絶対にこれ以外なしっ、という気持ちになるものがもっと他にありそうで、なかなか決められないのです。みんなの期待が重いんです。
でも、そんな言い訳も、もう面倒。今日、決めると決めたら、もう決めます。今夜、みんなでご飯を食べるときに発表します。それで、変更は受け付けません。わたしに決めさせるんだから、余計なことは言わせません!
「……よしっ!」
もう一度、頬にぱしゃっと水を浴びせて気合いを入れたそのとき、春の盛りの麗らかな日差しがさっと陰りました。
その瞬間は、太陽が雲に隠れたのかなと思っただけで気にしなかったのですが、間もなく、ばっさばっさと大きな布が風に翻っているような音が頭上からしてきました。
それでもまだ、大きな鳥が飛んでいるのかな、と思っただけでしたが……川縁で待機していた護衛のゴブさん二人が急に喚き始めたのを見て、何かおかしいなと思ったときに気がつきました。
ゴブさんたちが喚いているのが見えているのに、聞こえてこないのです。鳥の羽ばたきかと思っていたばっさばっさが、ゴブさんたちの声を掻き消すくらいに大きくなっていたのです。
ヘリコプターの発着場、飛行機の滑走路。そんなところに立っているような錯覚。そして、陰ったままの日差し。
とても嫌な気がして見上げたわたしが見つけたものは――
――ドラゴンでした。
いえ、べつに恋愛もセックスも自由だと思うんですけど、義兄さんが「姉妹の味比べ美味しいです」なんて鼻の下を伸ばしているのかと思うと、なんとも名状しがたいもやもや感に見舞われるのです。
もういっそ、二人で正面切って「僕たち、わたしたち、セックスしてます」って言いにきてくれませんかね? そうしてくれたら、このもやもやもすっきりすると思うんですけど。
「……って、そんなことより名前ですよ、名前」
自分の頬をぴしゃんと叩いて、非生産的なもやもやを頭の中から振り落とします。
「っていうか、もう……ええと、一ヶ月くらい経つんですか? ……うわぁ」
一ヶ月も赤ちゃんを名無しのままにしちゃってるとか、わたしってこんなに優柔不断だったんですね……と言いますか、なんでわたしが考える流れになっているのでしょうか?
「一番偉いひとに名付けてもらうと長生きできるって言うじゃねっすか」
というのがシャーリーさんの意見で、
「わすらぁ、名前っちゅうのがねぇだすば、アルカ様ぁ決めるんがええ思いますだ」
ゴブさんたちも似たようなものでした。
義兄さんに助けを求めてみると、
「名前を考えるのは吝かじゃないけれど、みんながおまえに名付けてもらうことを望んでいるからなぁ」
そう言われちゃうと、義兄さんに丸投げするわけにもいきません。わたしが考えたのでなきゃ……ああ、重圧感で胃が重いです。
「……あ、胃が痛いのって初めての経験かも?」
ちょっと得した気分になりました。
……なぁんて冗談めかしてみたところで、お腹にずっしり来ている胃もたれ感がなくなるわけではありません。とにかく名前を考えないと、です。
「ああ、シャワーが欲しいです……」
久々に日本が懐かしいです。
無い物ねだりをしても仕方がないので、川での水浴びで満足していますけど、熱いシャワーを頭から浴びる快感が欲しくなります。シャワーを考えた人は天才でした。
「アンちゃんかシャーリーさんか、誘えばよかった……」
姉妹のどちらかに髪を洗ってもらえたら、シャワーがなくても、もっと気分転換できたでしょうに。
いまは昼時で、姉妹二人は赤ちゃん二人に義兄さんと一緒にお昼寝タイムです。ゴブさんたちは狩りと見回りで森に行っていて、わたしの傍には護衛役の忍者ゴブさんと戦士ゴブさんが一人ずついるだけです。
わたしの護衛役は、戦士さんと忍者さんから数日交替で各一名ずつが受け持ってくれています。村から請け負う形で山賊退治をするようになった頃から、そういうシステムになっていました。
まあ、護衛と言っても、ここにはわたしたち以外に誰も住んでいないし、猛獣が迷い込んでくる可能性がもしかしたらゼロではないのかも、くらいの危険しかないので、護衛という名のセックス相手です。
なんですが……ここ最近はセックスしてません。赤ちゃんの名前を考えるのに頭と胃がいっぱいで、ち○ぽに集中できそうにないのでした。期待していた護衛役の二人には申し訳ないのですが、惰性でするセックスほど後で空しくなるものはないですからね。
「というか、もう一ヶ月……よし! もう今日、決める!」
川面の水を掬った両手で頬をぴしゃっと叩いて、自分で自分に宣言です。
何も今日まで悩んでいるふりをしていたわけじゃありません。ちゃんと、名前の候補はいくつか出しているんです。でも、絶対にこれ以外なしっ、という気持ちになるものがもっと他にありそうで、なかなか決められないのです。みんなの期待が重いんです。
でも、そんな言い訳も、もう面倒。今日、決めると決めたら、もう決めます。今夜、みんなでご飯を食べるときに発表します。それで、変更は受け付けません。わたしに決めさせるんだから、余計なことは言わせません!
「……よしっ!」
もう一度、頬にぱしゃっと水を浴びせて気合いを入れたそのとき、春の盛りの麗らかな日差しがさっと陰りました。
その瞬間は、太陽が雲に隠れたのかなと思っただけで気にしなかったのですが、間もなく、ばっさばっさと大きな布が風に翻っているような音が頭上からしてきました。
それでもまだ、大きな鳥が飛んでいるのかな、と思っただけでしたが……川縁で待機していた護衛のゴブさん二人が急に喚き始めたのを見て、何かおかしいなと思ったときに気がつきました。
ゴブさんたちが喚いているのが見えているのに、聞こえてこないのです。鳥の羽ばたきかと思っていたばっさばっさが、ゴブさんたちの声を掻き消すくらいに大きくなっていたのです。
ヘリコプターの発着場、飛行機の滑走路。そんなところに立っているような錯覚。そして、陰ったままの日差し。
とても嫌な気がして見上げたわたしが見つけたものは――
――ドラゴンでした。
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