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2章
33-3. 子守の随に ロイド
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「頑張らないとな」
独り言のつもりで呟いたのに、返事があった。
「何をです?」
「えっ……!?」
いきなり声をかけられて、俺は座ったままびくっと肩を跳ねさせた。
「きゃっ、ごめんなさい。そんなに驚くと思わなくって」
「あ……アンか。いや、悪い。こいつらを寝かしつけているうちに考え込んでた」
俺はいま、赤ん坊二人に姉妹二人と一緒に、洞窟前の広場に敷いた毛皮に寝転がって、日向ぼっこしながら昼寝する赤ん坊二人を眺めているところだった。
心地好い日差しと風の中、赤ん坊二人とも安らかな寝顔をしているけれど、うっかり目を覚まそうものなら、どこへハイハイしていくか分かったものではない。この子たちから片時も目を離すわけにはいかないのだ。
――というわけで、身体能力が衰えてしまってゴブリンたちについていけなくなった俺は、狩りと警邏の行動隊長を辞任して子守役に就任し、こうして赤ん坊の番をしているというわけだった。
シャーリーとアンの母親姉妹も赤ん坊たちと一緒に寝ているけれど、夜中何度も起こされては授乳させていたから、いまは赤ん坊のことを俺に任せて熟睡していた――いや、アンは目を覚ましたわけだが。
「もしかして、俺の独り言で起こしてしまったか?」
「いえいえ。十分に休ませてもらいましたから、声がしなくても起きていたと思います」
「そう言ってもらえると助かるよ」
小声で問いかけた俺に、アンも同じく小声で返して頬笑んだ。その微笑みに俺も自然と笑みを誘われ――
「……アン?」
「はい、なんですか?」
「なんで近寄ってきてるんだ?」
「起き抜けって妙にムラムラしません?」
「それ、答えになって……なってるな!」
そんなことを言っている間にも、アンは四つん這いで近づいてきて、横臥している俺に胸元に潜り込んできた。赤ん坊と俺の間に割り込んできた形だ。
「……アン、なぜわざわざ抱きつく?」
「人肌って落ち着くんですよね」
「山賊に掠われていた娘とは思えない発言だな」
「あっ、いまのはデリカシーなさすぎです。アルカさんに言いますよ?」
「……止めてくれ。俺が悪かった。全面的に謝るから」
アルカから白い目で見られるということは、ゴブリンたち全員から白い目を向けられるということだ。ただでさえ、できる仕事が子守とシェフしかなくなって忸怩たる思いをしているというのに、これ以上の心労は負いたくない。いや、子守だって立派な仕事だと思うけれど、それはそれだ。
「ロイドさん……謝るということは、わたしの言うこと、なんでもひとつ聞いてくれるということですよね」
俺の胸元に顔を顔を埋めたアンが、その位置から上目遣いで俺を見つめてくる。押しつけられた華奢な身体がもぞりと揺らめき、細いが健康的な太ももが俺の足に絡みついてくる。
お互いに簡素なシャツを着ているけれど、その肌触りさえ艶めかしく感じさせられるほど、俺を見つめるアンの瞳は蠱惑的だった。
「アン……」
「いまから言うこと、聞いてくれますよね?」
「……この前みたいなことをしろ、か?」
「この前? ……ああ、しゃぶらせてもらったときのことですか」
「まあ、うん」
「そういうの期待してるんですね」
「そういうわけじゃないが!」
「本当に?」
俺の胸元から、ずいっと顔を寄せてきたアンが囁く。悪戯っ子のように楽しげな瞳と、あどけない顔立ちとは不釣り合いに淫靡な表情での舌舐めずり。
「……っ」
無意識に喉が、ごくりと鳴る。
「あ……ロイドさん、心臓がどくどく言ってます。身体は素直だな、と言うんですよね、こういうの」
「どこでそういう言葉――ああ、聞くまでもなかったよな」
アルカ以外の誰が教えるというのか。
「それで……いいんですよね、しても」
ぎゅっと押しつけられるアンの胸。授乳中で張っているその胸から、アンの鼓動の高鳴りが俺にも伝わってくる。
潤んだ瞳、渇きを癒そうとして何度も唇を舐める舌の艶めかしさ。上がっていく体温と、温められて漂ってくる甘い体臭――。
こんな蠱惑的な誘いに堪えきれるわけがない――が、それを良しとしない高楊枝な矜持が嫌味を言わせた。
「アンさ、妊娠してから淫乱になったよな」
するとアンは、きょとんとした後、真面目な顔をする。
「あ……言われてみると、そうですね。最初は悪阻のせいでムラムラするのかと思ってましたけど、もう悪阻はないですし……赤ちゃんを授かるとムラムラするようになるんですね」
「えっ……女の子って、みんなそうなるの?」
危うく大声を出しそうになった俺に、アンは小首を傾げる。
「ん……お姉ちゃんはなっていないから、わたしだけかもですね」
「……それは単に、アンが淫乱だってだけでは?」
「本当、デリカシーがないですね」
にっこりと、それはもうにっこりと頬笑まれた。
「ごめんなさい」
反射的に謝ってしまった俺は、何もおかしくないと思う。
「まあ、そんなことより――」
アンの手が俺の脇腹から腰へと撫でながら下りていき、股間をふわりとくすぐる。
「んぁ」
……反射的に高い声を出してしまった俺は、やはり何もおかしくない。というか、いい感じに話題を逸らせたなと思ったのだけど、回り込まれてしまったようだ。
「ロイドさん、しますよ」
アンはやる気だった。
「赤ちゃんが見て――」
「寝てるから見てません」
「シャーリーもそこで寝てるんだが――」
「お姉ちゃんは起きても寝たふりします」
それはそれでどうなんだ。いや、アンとしては、寝たふりする姉に見せつけたいのか? そういうのが興奮するのか? とにかく、もうスイッチの入ってしまっているアンを止めるのは無理そうだ。いや、俺だってもう、股間のレバースイッチを引き起こされてしまっている。
だから、俺に言えたのはこれだけだった。
「この子たちやシャーリーを起こさないよう、静かに、な」
それに対するアンの返事は、
「はい。お互い、気をつけましょう……ふふっ♥」
最後の“ふふっ”が非常に身構えさせるものだった。
独り言のつもりで呟いたのに、返事があった。
「何をです?」
「えっ……!?」
いきなり声をかけられて、俺は座ったままびくっと肩を跳ねさせた。
「きゃっ、ごめんなさい。そんなに驚くと思わなくって」
「あ……アンか。いや、悪い。こいつらを寝かしつけているうちに考え込んでた」
俺はいま、赤ん坊二人に姉妹二人と一緒に、洞窟前の広場に敷いた毛皮に寝転がって、日向ぼっこしながら昼寝する赤ん坊二人を眺めているところだった。
心地好い日差しと風の中、赤ん坊二人とも安らかな寝顔をしているけれど、うっかり目を覚まそうものなら、どこへハイハイしていくか分かったものではない。この子たちから片時も目を離すわけにはいかないのだ。
――というわけで、身体能力が衰えてしまってゴブリンたちについていけなくなった俺は、狩りと警邏の行動隊長を辞任して子守役に就任し、こうして赤ん坊の番をしているというわけだった。
シャーリーとアンの母親姉妹も赤ん坊たちと一緒に寝ているけれど、夜中何度も起こされては授乳させていたから、いまは赤ん坊のことを俺に任せて熟睡していた――いや、アンは目を覚ましたわけだが。
「もしかして、俺の独り言で起こしてしまったか?」
「いえいえ。十分に休ませてもらいましたから、声がしなくても起きていたと思います」
「そう言ってもらえると助かるよ」
小声で問いかけた俺に、アンも同じく小声で返して頬笑んだ。その微笑みに俺も自然と笑みを誘われ――
「……アン?」
「はい、なんですか?」
「なんで近寄ってきてるんだ?」
「起き抜けって妙にムラムラしません?」
「それ、答えになって……なってるな!」
そんなことを言っている間にも、アンは四つん這いで近づいてきて、横臥している俺に胸元に潜り込んできた。赤ん坊と俺の間に割り込んできた形だ。
「……アン、なぜわざわざ抱きつく?」
「人肌って落ち着くんですよね」
「山賊に掠われていた娘とは思えない発言だな」
「あっ、いまのはデリカシーなさすぎです。アルカさんに言いますよ?」
「……止めてくれ。俺が悪かった。全面的に謝るから」
アルカから白い目で見られるということは、ゴブリンたち全員から白い目を向けられるということだ。ただでさえ、できる仕事が子守とシェフしかなくなって忸怩たる思いをしているというのに、これ以上の心労は負いたくない。いや、子守だって立派な仕事だと思うけれど、それはそれだ。
「ロイドさん……謝るということは、わたしの言うこと、なんでもひとつ聞いてくれるということですよね」
俺の胸元に顔を顔を埋めたアンが、その位置から上目遣いで俺を見つめてくる。押しつけられた華奢な身体がもぞりと揺らめき、細いが健康的な太ももが俺の足に絡みついてくる。
お互いに簡素なシャツを着ているけれど、その肌触りさえ艶めかしく感じさせられるほど、俺を見つめるアンの瞳は蠱惑的だった。
「アン……」
「いまから言うこと、聞いてくれますよね?」
「……この前みたいなことをしろ、か?」
「この前? ……ああ、しゃぶらせてもらったときのことですか」
「まあ、うん」
「そういうの期待してるんですね」
「そういうわけじゃないが!」
「本当に?」
俺の胸元から、ずいっと顔を寄せてきたアンが囁く。悪戯っ子のように楽しげな瞳と、あどけない顔立ちとは不釣り合いに淫靡な表情での舌舐めずり。
「……っ」
無意識に喉が、ごくりと鳴る。
「あ……ロイドさん、心臓がどくどく言ってます。身体は素直だな、と言うんですよね、こういうの」
「どこでそういう言葉――ああ、聞くまでもなかったよな」
アルカ以外の誰が教えるというのか。
「それで……いいんですよね、しても」
ぎゅっと押しつけられるアンの胸。授乳中で張っているその胸から、アンの鼓動の高鳴りが俺にも伝わってくる。
潤んだ瞳、渇きを癒そうとして何度も唇を舐める舌の艶めかしさ。上がっていく体温と、温められて漂ってくる甘い体臭――。
こんな蠱惑的な誘いに堪えきれるわけがない――が、それを良しとしない高楊枝な矜持が嫌味を言わせた。
「アンさ、妊娠してから淫乱になったよな」
するとアンは、きょとんとした後、真面目な顔をする。
「あ……言われてみると、そうですね。最初は悪阻のせいでムラムラするのかと思ってましたけど、もう悪阻はないですし……赤ちゃんを授かるとムラムラするようになるんですね」
「えっ……女の子って、みんなそうなるの?」
危うく大声を出しそうになった俺に、アンは小首を傾げる。
「ん……お姉ちゃんはなっていないから、わたしだけかもですね」
「……それは単に、アンが淫乱だってだけでは?」
「本当、デリカシーがないですね」
にっこりと、それはもうにっこりと頬笑まれた。
「ごめんなさい」
反射的に謝ってしまった俺は、何もおかしくないと思う。
「まあ、そんなことより――」
アンの手が俺の脇腹から腰へと撫でながら下りていき、股間をふわりとくすぐる。
「んぁ」
……反射的に高い声を出してしまった俺は、やはり何もおかしくない。というか、いい感じに話題を逸らせたなと思ったのだけど、回り込まれてしまったようだ。
「ロイドさん、しますよ」
アンはやる気だった。
「赤ちゃんが見て――」
「寝てるから見てません」
「シャーリーもそこで寝てるんだが――」
「お姉ちゃんは起きても寝たふりします」
それはそれでどうなんだ。いや、アンとしては、寝たふりする姉に見せつけたいのか? そういうのが興奮するのか? とにかく、もうスイッチの入ってしまっているアンを止めるのは無理そうだ。いや、俺だってもう、股間のレバースイッチを引き起こされてしまっている。
だから、俺に言えたのはこれだけだった。
「この子たちやシャーリーを起こさないよう、静かに、な」
それに対するアンの返事は、
「はい。お互い、気をつけましょう……ふふっ♥」
最後の“ふふっ”が非常に身構えさせるものだった。
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