義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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2章

33-2. 子守の随に ロイド

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 日々の糧を得るための狩りと、村との契約である森の見回り。俺はその両方をゴブリンたちに任せて、自分はのんびりと子守をすることにした。
 狩りも見回りもゴブリンたちと一緒にやり方を模索してきたのだから、俺が抜けても全く問題ないだろうと思ったし、実際いまのところ、そうなっている。
 気がかりなのは、村人代表で監査役として同行しているギルバート青年のことだったけれど、彼ももうゴブリンたちとは顔見知りなので、俺が間に入る必要もなくなっていたようだ。

 つまり、少し釈然としない気持ちはあるものの、俺はゴブリンたちのほうを心配しなくてもよかった。安心して、余裕を持って子守に専念できた。だというのに……。

「やべぇ……あいつらにどころか、赤ん坊にも体力負けしてるぞ……」

 いや、まだ負けてない。赤ん坊に負けるはずがない! ……と思いたいけれども、正直、時間の問題だ。こいつらがこの調子で成長すると、半年後には鬼ごっこで勝てなくなっていることだろう。

「……いや、それはだ」

 俺の身体に漲っていた不思議な力は抜けたけれど、この一年弱で鍛えられた分はしっかり身についている。この調子で鍛えていけば、半年後ならまだぎりぎり赤ん坊たちに勝てているはずだ!
 ……全然、誇って言うことではなかった。それに、半年後はいいとしても、一年後には鍛えたところで確実に抜かれているだろう。

「つまり、あの不思議な力がなければ、俺は今後、肉体労働において足手まといコース一直線ということだ」

 口に出してみると、その言葉は胸にぎりりと食い込んだ。

 俺の身体を強くしていたあの不思議な力が戻ってくればいい――それは勿論、考えた。
 でも、あの力が湧き出してきた時期と、なくなった時期とから考えるに、あれは姉妹の出産に関連する力だったのだと思う。姉妹が出産するのはゴブリンの子供であり、つまりあの力はゴブリンたちに関係した力だ。
 ゴブリンたちに関係した不思議な力といえば、彼らの身に起きた――起きていると言えるほど劇的な成長が、まず真っ先に思いつく。彼らの成長を促した力がどこから来たのかは不明だが、それと同じ力が俺にも及んだ結果が、あの身体能力の異常な向上だったのではないだろうか。

 ……まあ、じつは無理のある仮説だとは自分で分かっている。
 もしゴブリンたちのと俺の身体強化が同根だとすると、タイミングが合わないことになる。ゴブリンたちは姉妹が妊娠するよりも、いや子作りを始めるよりも前から進化を始めていた。それに対して、俺が身体能力の向上を自覚したのは、子作りが始まった後だ。が作用し始めた時期が離れすぎている。その理由が説明できない――

「――いや、待て。説明できるか」

 が作用し始めた時期は、俺もゴブリンも同じだったのだ。でも、ゴブリンにはすぐさま効果が出たけれど、俺にはなかなか効果が現れなかったのだ。
 このは、ゴブリンにはとても強く作用するもので、すぐに劇的な効果を発現させて、しかも効果が永続する。だけど人間には影響しにくくて、効果が出るまでには時間がかかるし、進化とはとても呼べない程度の強化としか効果が出ない。そして、効果は永続しない――

「――ん? これじゃまた説明できなくなるか?」

 俺の力は姉妹の出産に立ち会ったあの日、赤ん坊が生まれたのとほとんど同時に消え失せた。あれは自然消滅ではなかった。姉妹が出産したからが消えた、と考えるほうが自然だった。

「あ、やっぱ説明できるか」

 の供給は消滅したけれど、それまでに受けた効果が消えたわけではないのだ。人間の俺は親和性が低いから、力の影響も程度だったし、効果が肉体にほとんど根付いていなかったけれど、ゴブリンたちは親和性が高かったために、力はと呼べるほど強く作用したし、力の供給が終わっても残るほどしっかりと肉体に根付いているのだ――。

「――うん、この説はかなり正しいんじゃないかな」

 もっとも、ではとは何なのか、という疑問には全く考えも及ばないのだが。なんとなく言えるのは、ゴブリンを強くするための力なんだろうなぁ、くらいだった。

「……いや、ゴブリンだけとは限らない?」

 このは「魔物」あるいは「人間以外」という大きな括りの存在に強く影響するもの、という可能性もある。だけど、それを確認するためには、ゴブリン以外の魔物を使って検証しなければならない――

「――って、どうやって?」

 いや、いちおうもしかして、これが切欠での影響が始まったのでは? ――と疑っている出来事はある。
 それは、アルカとの接触だ。
 ゴブリンたちはアルカと性交渉を持ったことで、俺は兄として近くで過ごしていたことで、アルカのDNAか何かを摂取した。そのことが切欠になっての影響を受けるようになったのではないだろうか。
 ……根拠があって言っていることではない。なんとなく、不思議なことの中心にいるのはアルカのような気がするのだ。

「――ということは、ゴブリン以外の魔物にアルカの髪の毛なりを食べさせてしたら、この仮説は検証されたってことになるか。まあ、もっとも――が用意できなきゃ検証のしようもないけどな」

 ゴブリン以外の魔物――そういうものも、この世界には存在しているらしい。そして呼称も、オークやオーガ、ドラゴン等と言うらしい。
 それらの名前はシャーリー、アンから聞いていた。二人とも村から出たことはなかったけれど、隊商にくっついてやってくる詩人の弾き語りで、幼い頃から何度も聞いていたのだそうだ。姉妹から聞き取りをしてみたところ、詩人の語ったオークやオーガの特徴は、俺が想像するものと概ね合致していた。
 オークは豚人間という見た目で、オーガは巨漢で角の生えた鬼だそうだ。ドラゴンは姿に多様性があるようだけど、だいたいは翼があって空を飛ぶ爬虫類、といった感じのようだ。

「……うちの子、オーガか?」

 いまふと思ったわけだが――うちの子は巨漢とは真逆の小ささだけど、角が生えているところはオーガと同じではないか。

「……って、角しか同じじゃないじゃないか!」

 思わず手振りまでつけて自分にツッコミしてしまった。
 角が生えている魔物はきっとオーガの他にもいる。ゴブリンだって、角っぽい瘤が張り出しているわけだし、きっと角や角っぽいもののある魔物は少なくないのだ。たまたま以前にオーガの特徴を聞いていたことがあるからと言って、角の生えているうちの子とオーガに関係性があると思うのは飛躍が過ぎる。

「まあ、でも……何者なのかは調べたいよなぁ」

 アルカあたりは「別に何者でも良くないです? それより名前……」と言いそうだけど、俺は気になるのだ。もしかしたら魔物の種類ごとに、食べるとアレルギー反応が起こる食べ物等があるかもしれないのだし。
 ……まあ、ゴブリンの種と人間の母胎から全く別種の魔物が生まれてくるとは考えにくい。オーガを連想したのだって、角の生えている魔物をたまたまオーガしか知らなかったからだ。たぶん、なんの関係もないのだろう。強いて言うなら、うちの赤ん坊たちはというところだ。普通のゴブリンとは少し違うかもしれないけれど、それはも同じだ。

「あ……」

 そうか。
 赤ん坊たちはおそらく、の影響を胎児の時点――いや、受精の時点から受けているのだ。だからこそ、戦士や忍者たち以上にした見た目になっているのだ。そう考えると、この子たちはゴブリンの亜種というか、ゴブリンの完全進化形――ゴブリンとでも言うべき存在なのかもしれない。

「……末恐ろしいな」

 この子たちが将来、比類なき力を持つことは間違いない。そのとき、手のつけられない乱暴者に育たっていないように、倫理や道徳をしっかりと教育しければならない。それが親である俺たちの責務だろう。

「頑張らないとな」

 俺に何ができるか分からないけど、自然と言葉が口を突くほど、そう思った。
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