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地上の大華国 篇

華界の最高神と対峙する下界の皇帝

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いとしい華妃かひを想えば、みずからを奮い立たせ、一歩を踏み出す皇帝王華おうか。ーしかし、その行手ゆくてを見えない壁がはばむ。

「それ程に彩華さいかを想うか?」

「ー当然だ! が初めて心を寄せたのは華妃かひだけー……だからこそ、いとしい華妃かひを奪われるわけにはいかない……ここで引くわけにはー……!」

おそらくはかなわないまでも、佩刀はいとうする刀に手を掛ける皇帝王華おうか躊躇ためらいはない。

「やめておけ。人間風情ふぜいおまえがわれかなうはずもない。ふふっ、だが皮肉なものだー……」

皇帝王華おうかを見つめる最高神華王かおうは、皮肉な笑みをたたえては告げる。

「ーまさか、下界において“華妃かひ”とはー……華界かかいにおいては最高神とつがう者に与えられる称号しょうごう。それをこうも容易たやすく与えるおまえをうらやましいと思うとはー……まさに皮肉ー」

ーしかし、その胸にいだく女神彩華さいかを見つめれば、最高神華王かおうの表情が、次の瞬間にはゆるむ。

いとしいわれ彩華さいか……余計な回り道をしたが、今度こそは間違えない。われの子を宿した二人のえにしは強い。おまえを正式な妃として迎えるー……天上の華界かかいへと帰ろう」

最高神華王かおうおのれの伴侶に、あえて華妃かひ富貴ふうきを迎えたのは、皆からのすすめもあるが、心の奥底では女神彩華さいか嫉妬心しっとしんあおる為とも。

おのれを兄神あにがみとして慕い、一線を越えることに躊躇ためらう女神彩華さいか。その想いを自覚させる為とも。

(ふっ、われながらゆがんでいる……)

いとおしげに女神彩華さいかを見つめる最高神華王かおうからは、美しい程の微笑びしょうこぼれる。

人間ひとの世界のおうよー……もはや、彩華さいかとおまえとのえにしは切れた。おまえもわかっているはずだ?」

「何を言っているー」

彩華さいかはらに宿る子は、おまえの子ではないー……だが、ここまで彩華さいかはらの子をまもってくれた事には礼を言う。悪鬼あっきと化した咎人とがびと富貴ふうきの魔の手からもなー……おなごの執念は恐ろしいものだが、もはや彩華さいかおびやかす者はいない。安心して連れ帰る事が出来る。さぁ、彩華さいかー……共に帰ろう」

天上界の最高神華王かおうが、あえて人間ひとの世界のおうに断りを入れる必要はない。

もはや、立ち去ろうとする。

「ー行かせるものか! 華妃かひの居場所はの側だ!」

その刹那せつな、寝所の扉ごと吹っ飛ばされる皇帝王華おうか。その口からは血がにじむ。

がはっ!

思わずひざを突く皇帝王華おうか。これ程のいさかいにもかかわらず、駆け付ける者はない。

「ー安心するが良い。われ彩華さいかを連れ帰るのに、余計な邪魔立てをされても困るからな。全ては眠らせてある。それにしても……おまえも存外あきらめが悪い」

吐息といきを突く最高神華王かおうは、しかと告げる。

人間ひとおうよ、この際はっきりと言っておく。彩華さいかをこのままけがれた下界においておけば、もはや目覚めないどころか、はらの子にまで影響する。清浄な天上世界の神気しんきの中で生きる女神には、この汚れた下界はまさに毒。おまえは彩華さいかが消滅しても良いのかー……」

その言葉が皇帝王華おうかの胸へと突き刺さる。

消滅ー。

させられるわけがない。





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