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地上の大華国 篇

目覚めない女神を迎えに訪れる者

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いつの間に現れたのか?

それすらもわからない程、その人物は気配を感じさせない。

ゆっくりと振り向くその人物の相貌そうぼうに、驚きを隠せない皇帝王華おうか。そして、全てを納得する。

目の前の人物こそが寵妃ちょうひ華妃かひの「まことの相手」で、おのれはただの身代わりでしかないのだとー。


日々、皇帝王華おうか朝議ちょうぎを終えれば、必ず寵妃ちょうひ華妃かひが眠るおのれの寝所へと足早に戻る。

もはや何も受けつけない華妃かひ。それでも不思議とはらの子は問題なく育つ。さすがは女神たる所以ゆえんか。

何も出来ないままいたずらに過ぎて行く日々も、皇帝王華おうかは出来るだけ華妃かひの側に寄り添う。

皇帝王華おうかの知らない間に「はかなくなってしまうー」のだけは避けたい。それはあまりにもこく

その一方で、それ程に華妃かひの容態がかんばしくないとも。

には、やはり……どうあってもそなたがいとしいー……再び、その愛らしい声音こわねを聞かせて欲しい……」

そう願ってやまない。

もはや華妃かひが誰を求め、誰を愛そうが構わない。

おのれが寵愛ちょうあいする華妃かひが、「兄神あにがみー」と呼ぶ者に恋情れんじょういだき、その心を求めるように、皇帝王華おうか華妃かひを愛し、求めてやまない。

そう、その想いこそが大事。それこそが本質。

「ーだから、何も聞かないー……ただ、そなたが側にいてくれさえすれば良い。の元からは去らないでくれ、いとしい華妃かひ……そなたをどうしようもなく愛している」

何も出来ない無情な日々にも、やがて終わりは来る。

その日は今朝方から妙に心がざわつく。後ろ髪を引かれながらも朝議ちょうぎへとおもむき、やはり急ぎ戻る皇帝王華おうか

何故なぜか胸騒ぎを覚える皇帝王華おうかの予感は当たり、おのれの寝所には人影が。

寝台に眠る華妃かひの側へと寄り添う一人の人物。皇帝王華おうか寵妃ちょうひ華妃かひほほへと平然と触れている。

長くつややかな黒曜こくようの髪を垂らし、およそ上質な衣装をまとう人物は気配なくたたじむも、こちらを振り向いた瞬間、すさまじい威圧感いあつかんを放ち、端然たんぜんと告げる。

「……ようやく見つけた。われ彩華さいかを返してもらうぞ」

「おまえはー……いったいー」

「ーすでに察しているはず。われは天上の華界かかいを統べる最高神華王かおうー……そして彩華さいかわれ生命いのちそのものー……大切なわれの宝だ。華界かかいへと連れ帰り、今度こそ正式にわれの妃に迎える」

そうして皇帝王華おうか相貌そうぼうを見つめれば、薄っすらと笑みをたたえ、さもたのしげに告げる。

「ふふっ、これは面白いー……まさかわれと似た相貌そうぼうの者に出逢えるとはー……だから彩華さいかは、おまえ如き人間にもかかわらず、心を寄せたのか? われの身代わりとしてー……実にあわれな」

無慈悲な現実を突き付け、皇帝王華おうかの目の前にもかかわらず、平然と「女神彩華さいか」をその胸に抱きかかえ、連れ去ろうとする。

「ー待て!!」

皇帝王華おうかか制止しようとするも、この場から一歩も動けない。それでも動かないわけにはいかない。

ここでいとしい華妃かひを奪われてしまえば、おそらくはもう二度と逢えない想いがひしめく。

「……貴様! 奪われてなるものかっーーー! それはのものー……!」

皇帝王華おうかが叫ぶ。

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