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地上の大華国 篇
帝宮庭園の惨事と皇妃の最期と後始末
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深淵へと沈む華妃。
眠りに落ちる夢の中。
思い出すのは天上の華界。愛しい兄神華王。
(……兄神様、私の華王……やっぱり私は兄神様がー……華王……華王……私のお腹には華王のー……)
眠りながら涙を流す華妃に寄り添う皇帝王華。そっと涙を拭い取る。
「……泣くな、愛しい余の華妃ー……そなたに災いをもたらす者は処罰したー……御医が言うには、腹の子も問題ないそうだー……我らの子は強い。そなたの側には余がいるー……だから、安心して眠れ」
皇帝王華は、己れの寝所で眠る寵妃華妃の手を握り、その指先へとそっと優しい口付けを落とす。
遡ること。
皇帝王華の執務の間。
〈帝宮庭園〉で、まさかの凶事に見舞われる寵愛華妃。
恐ろしい形相で華妃へと襲いかかった一の皇妃は、当人とは思えない程に禍々しい気に包まれる。
か弱気女とは思えない程の力で、華妃の細い首を締め上げる一の皇妃は、およそ別人。
更には、近侍武官の武威がもたらした報告。
後宮内の一の皇妃の寝所で、二の皇妃が何者かに縊られ、変わり果てた姿で見つかる。
皆を震え上がらせたのが、まるで生気でも吸い取られたかのように干からびた二の皇妃の屍。
「おそらくは異形の者の仕業となりますが、一の皇妃様の仕業で間違いはないでしょう」
近侍武官の武威が告げる。
「……誠に女の執念とは恐ろしいー……だからこそ、後宮妃は不要と申したのだ。二人召し上げただけでも、この様な事態を招くー……これで官吏らも懲りたはずー……もはや、余には華妃さえいれば良い」
「はい、勿論存じ上げておりますー……ですが陛下、皆様方は決して悪気があるわけではー……切に帝国の存続を望めばこその皇嗣誕生の為に用意された後宮妃様ー……ですが、まさか一度も恩寵を与えていないとは思いませんでした」
「ー何故に与える必要がある? 美しさだけが取り柄の後宮妃など、欲情の捌け口ぐらいでしか使い道はない」
非情にも言い捨てる皇帝王華。
「今となっては、それが功を奏しましたー……確かに、あのような心根の浅ましい者らに、陛下の御子を望むのは憚られます。それとー」
更に近侍武官の武威は続ける。
「二人の皇妃様の亡骸ですが、念の為に僧院に託しました。亡骸は清められた後は火葬にし、その灰は丁重に葬られたそうです。咎人である一の皇妃様も同様に葬られましたが、墓碑には、その名は何も刻まれておりません」
「当然であろう? 死者を冒涜する気はないが、余の寵妃と腹の子まで害そうとした者に、これ以上の温情をかける必要はないー……咎人でありながらも、体裁とばかりに僧院で供養されただけでも過分な扱いー……もはや皇妃の話しはするな、不愉快だ」
皇帝王華は、話しは済んだとばかりに近侍武官の武威を下がらせる。
皇帝王華の寵妃華妃を殺めようとした一の皇妃。
その場で皇帝王華自らに斬り捨てられている。
背中から斬りつけられた一の皇妃は、その刹那ー、華妃を手放す。同時に、皇帝王華がその手に取り戻せば、ついで近侍武官の武威が後ろから一の皇妃の心臓を貫き、事なきを得ている。
すぐさま首と胴は切り離され、絶叫のうちに果てた一の皇妃。その怨嗟に湧く見開かれたままの両の眼が、憎しみの深さを物語る。
全ては済んだこと。
今の皇帝王華の心を締めるのは、意識を失っては深淵に沈む寵愛する華妃の事のみ。
「……華妃、そなたの身に何事もなければ良いがー……」
その繊細な心が傷付かないとも限らない。
皇帝王華が情愛してやまない華妃が、心に負担を負うことなく、目覚めるのをただひたすらに待つ。
ーしかし、運命は時として惨酷にも、そう上手くは回らない。
眠りに落ちる夢の中。
思い出すのは天上の華界。愛しい兄神華王。
(……兄神様、私の華王……やっぱり私は兄神様がー……華王……華王……私のお腹には華王のー……)
眠りながら涙を流す華妃に寄り添う皇帝王華。そっと涙を拭い取る。
「……泣くな、愛しい余の華妃ー……そなたに災いをもたらす者は処罰したー……御医が言うには、腹の子も問題ないそうだー……我らの子は強い。そなたの側には余がいるー……だから、安心して眠れ」
皇帝王華は、己れの寝所で眠る寵妃華妃の手を握り、その指先へとそっと優しい口付けを落とす。
遡ること。
皇帝王華の執務の間。
〈帝宮庭園〉で、まさかの凶事に見舞われる寵愛華妃。
恐ろしい形相で華妃へと襲いかかった一の皇妃は、当人とは思えない程に禍々しい気に包まれる。
か弱気女とは思えない程の力で、華妃の細い首を締め上げる一の皇妃は、およそ別人。
更には、近侍武官の武威がもたらした報告。
後宮内の一の皇妃の寝所で、二の皇妃が何者かに縊られ、変わり果てた姿で見つかる。
皆を震え上がらせたのが、まるで生気でも吸い取られたかのように干からびた二の皇妃の屍。
「おそらくは異形の者の仕業となりますが、一の皇妃様の仕業で間違いはないでしょう」
近侍武官の武威が告げる。
「……誠に女の執念とは恐ろしいー……だからこそ、後宮妃は不要と申したのだ。二人召し上げただけでも、この様な事態を招くー……これで官吏らも懲りたはずー……もはや、余には華妃さえいれば良い」
「はい、勿論存じ上げておりますー……ですが陛下、皆様方は決して悪気があるわけではー……切に帝国の存続を望めばこその皇嗣誕生の為に用意された後宮妃様ー……ですが、まさか一度も恩寵を与えていないとは思いませんでした」
「ー何故に与える必要がある? 美しさだけが取り柄の後宮妃など、欲情の捌け口ぐらいでしか使い道はない」
非情にも言い捨てる皇帝王華。
「今となっては、それが功を奏しましたー……確かに、あのような心根の浅ましい者らに、陛下の御子を望むのは憚られます。それとー」
更に近侍武官の武威は続ける。
「二人の皇妃様の亡骸ですが、念の為に僧院に託しました。亡骸は清められた後は火葬にし、その灰は丁重に葬られたそうです。咎人である一の皇妃様も同様に葬られましたが、墓碑には、その名は何も刻まれておりません」
「当然であろう? 死者を冒涜する気はないが、余の寵妃と腹の子まで害そうとした者に、これ以上の温情をかける必要はないー……咎人でありながらも、体裁とばかりに僧院で供養されただけでも過分な扱いー……もはや皇妃の話しはするな、不愉快だ」
皇帝王華は、話しは済んだとばかりに近侍武官の武威を下がらせる。
皇帝王華の寵妃華妃を殺めようとした一の皇妃。
その場で皇帝王華自らに斬り捨てられている。
背中から斬りつけられた一の皇妃は、その刹那ー、華妃を手放す。同時に、皇帝王華がその手に取り戻せば、ついで近侍武官の武威が後ろから一の皇妃の心臓を貫き、事なきを得ている。
すぐさま首と胴は切り離され、絶叫のうちに果てた一の皇妃。その怨嗟に湧く見開かれたままの両の眼が、憎しみの深さを物語る。
全ては済んだこと。
今の皇帝王華の心を締めるのは、意識を失っては深淵に沈む寵愛する華妃の事のみ。
「……華妃、そなたの身に何事もなければ良いがー……」
その繊細な心が傷付かないとも限らない。
皇帝王華が情愛してやまない華妃が、心に負担を負うことなく、目覚めるのをただひたすらに待つ。
ーしかし、運命は時として惨酷にも、そう上手くは回らない。
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