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天上の華界 篇

憂う女神と忍び込む影

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最高神華王かおうが在する美しい御殿ごてんの〈奥宮おくみや〉には、妹神いもうとがみともする女神彩華さいかが住まう。

何者からも御殿ごてんの最奥ともする〈奥宮おくみや〉へと部屋を与えられている妹神いもうとがみ彩華さいか

今時分いまじぶん湯浴ゆあみを終え、広い寝台の上にて微睡まどろむ。

一面を薄いまくおおわれた寝台に横たわる彩華さいか。その優美な肢体したいが、ほのかにともされる明かりによって、やわらかに照らし出されている。

「……兄神あにがみ様……」

自然と口をつくのは、恋慕こいした兄神華王あにがみかおう

(……きっと、今頃もー……華妃かひ様とー……)

はらはらと涙が流れてはほほを伝い、敷布しきふを濡らす。

(……なぜ? どうして……兄神あにがみ様の隣りにいるのが私ではないの……どうして私だけが妹なのー……どうしてー……)

自問じもんしたところで、何が変わるわけでもない。

それでも思わずにはいられない。

兄神あにがみ生命いのち欠片かけらから生まれなければー……兄妹けいまいでなければー……と、今更な想いが胸に渦巻うずまく。

ーしかし、同じ生命いのちを分け合うからこそ、互いを求め合い、かれ合うとも。

様々な想いが渦巻うずまいては、彩華さいかを悩まし、苦しめ、気力を奪う。

今宵こよいあでやかで美しい華妃かひ富貴ふうきいだいていると思えば、目合まぐわう二人の「あの時の情景」が思い出され、苦しい程の胸の痛みに、息苦しさを覚える彩華さいか

「……いやっ!」

忘れたい光景が忘れられず、やはり嘔吐えず彩華さいか

寝台へと顔をうずめ、泣き濡れる。

そのおり

不意に気配を感じる彩華さいか

「誰っ……誰かいるのー……?」

妹神いもうとがみ彩華さいかの開け放たれた豪華な居室きょしつ御簾みすが、風もないのに揺れる。

「……誰っ? 誰もいないのー……」

泣き濡れた顔を上げ、辺りを見回すも誰もいない。

その刹那せつな、寝所にともされていた明かりが消える。

「……?」

ぎしりっときしむ寝台。

後ろに何かの気配を感じた彩華さいかは、思わず叫び声を上げそうになるも、咄嗟とっさにその唇を塞がれる。

いで、そのまま寝台へと組み敷かれるやいなや、両手首を薄衣うすぎぬで縛り付けられ、一気に引き裂かれる彩華さいかの美しい夜着やぎ

「……!」

突然の凶事きょうじおのの彩華さいか

ーしかし、なつかしい香りが、彩華さいか鼻腔びこうかすめる。

(……この香りはー……!)

もはや誰であるかなどは、知るところ。

再び寝台脇しんだいわきの小さな燭台しょくだいともされる。


当然、そこにいたのはー……。
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