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天上の華界 篇
仲の良い兄妹神と切ない想い
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此処は〈華界〉と呼ばれる美しい天上の世界。
人ならざる華神や女神、華精が集う世界には、色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、男神たる華界の最高神華王が統べている。
最初こそ一人であった最高神の男神の華王は、咲き誇る一輪の淡い桃色の大華に自らの生命を分け与え、まずは美しい妹神を造り「彩華」と名付け、情愛を注ぐ。
共に並び立つのは、「艶やかな黒曜の髪」に「光彩を放つ黒曜の瞳」を併せ持つ美しい兄妹神。
次いで最高神華王は、咲き乱れる花々に生命の息吹きを与え、数多の華精を造り、色鮮やかな美しい世界は、こうして出来上がる。
そうした中でも、最高神の兄神と妹神はとても仲睦まじく、常に行動を共にするほど。
「兄神様……! 兄神様……!」
愛らしい声音で駆け寄る妹神彩華。
「ふふっ、どうした彩華……?」
むぎゅっと兄神へと抱きつく彩華。
「ふふっ……何でもないのー……ただ、兄神様とこうしていたいだけー……」
妹神彩華の幸せは、ずっと変わらず兄神の側に共にいる事。そう信じて疑わない。
また兄神の幸せも、この愛しい妹神を護り、その手の内に留めては、ずっとずっと見守り続ける事こそ幸せ。
(我だけの美しい華、彩華ー……おまえが愛おしい……)
兄神華王の秘めた想い。
秘めた想いは、決して口には出さない。
兄妹で睦み合う事は禁忌とされるこの世界。
赦されざる恋情。
(この愛らしい妹神の彩華を、どれほどに愛していることかー……)
美しい美しい華界。
憂いも哀しみもなく、美しいものを愛で、歌や舞いをし、睦み合う者らは番い、豊かな日常を緩やかに生きる。
それがこの世界。
兄神を慕う妹神彩華も「この幸せ」を信じて疑わない。
ずっと続くとー……。
そう思っていた矢先、恋慕う兄神が、ここに来て対となる華妃を迎え入れる。
天上に一つの世界が出来れば、それを統べる神が存在し、男神がいれば女神もいる。
最高神の兄神は、牡丹の花から生まれた女神富貴を伴侶に迎え、より良い華界にするべく、夫婦神として華界を統べる。
折しも、後日に最高神華王と華妃富貴の〈花燭の祭典〉が催される。
此処は〈華王庭園〉の祝いの場。
最高神華王の妹神たる彩華は、華界における順列一位の女神。それ故に、妹神から兄神への祝いの舞いを奉納しなければならない。
「兄神様ー……どうしてー……どうしてー……」
妹神彩華の声は震え、溢れる涙をどうにか押し留め、ただただ祝いの舞いを捧げる。
心は泣くも、顔には笑みを湛え、極上の舞い奉納する妹神彩華。
それを複雑ながらも熱く一心に見つめる兄神華王の心中は、誰にも推し量れない。
次いで、傍らに寄り添う華妃富貴の悋気に湧く心も、妹神彩華には預かり知らぬこと。
最初こそ、華界には兄神と妹神しかおらず、ずっと「自分だけの兄神」と思い、疑いもしなかった妹神彩華。
僅か前。
〈花燭の祭典〉の前夜に、兄神の御殿の寝所へと忍び込む妹神彩華の姿がある。
(……兄神様、どうしてー……どうして今頃になって伴侶を迎えるの? 兄神様の心が何処にあるのかー……彩華は知りたい……)
ーしかし、そこには我が目を疑う辛い光景が彩華を襲う。
兄神華王の広く瀟洒な寝台の上。
薄い紗の垂れ幕の向こうには、睦み合う美しい男神と女神の姿。
最早、それが「誰かー」などは言わずもがな。
甘く艶やかに啼く華妃富貴を寝台に組み敷き、荒々しいまでに男根で貫く兄神華王の姿。
(……兄神様っ! 嗚呼っ、どうしてー……ああっ……)
ぎしぎしと軋む寝台。
兄神の腰が激しく揺れれば、ぬちゅぬちゅと卑猥な音がこだまし、更に喘ぐ華妃富貴の悩ましい姿。
目合う二人には、もはや二人だけの世界がある。
「……あっ、あっ、華王様ー……ああっ! もっと! もっと! 下さいませー……あっ、あっ、あっ、いい……いいの! あっ、あああああっ……! ああんっ……!」
華妃富貴が、惜しみなく喘ぎ快がる。
「……っ!」
うぐっ! 思わず嘔吐く彩華は、その場から一心不乱に逃げ出す。
もはや打ちのめされ、走り去る妹神彩華。
方や、その彩華の惨めな姿を勝ち誇った笑みを湛えては、密かに見つめていた華妃富貴。
兄神の御殿の中にある自身の居室へと戻った彩華。
二人の密な目合いを思い出しては、再び嘔吐き、寝台へと倒れ込む。そして、辛く哀しい現実に涙する。
〈花燭の祭典〉で素晴らしい舞い奉納する妹神彩華。
それが祝いの舞いではなく、「哀しみの舞い」であったとは誰も知らない。
人ならざる華神や女神、華精が集う世界には、色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、男神たる華界の最高神華王が統べている。
最初こそ一人であった最高神の男神の華王は、咲き誇る一輪の淡い桃色の大華に自らの生命を分け与え、まずは美しい妹神を造り「彩華」と名付け、情愛を注ぐ。
共に並び立つのは、「艶やかな黒曜の髪」に「光彩を放つ黒曜の瞳」を併せ持つ美しい兄妹神。
次いで最高神華王は、咲き乱れる花々に生命の息吹きを与え、数多の華精を造り、色鮮やかな美しい世界は、こうして出来上がる。
そうした中でも、最高神の兄神と妹神はとても仲睦まじく、常に行動を共にするほど。
「兄神様……! 兄神様……!」
愛らしい声音で駆け寄る妹神彩華。
「ふふっ、どうした彩華……?」
むぎゅっと兄神へと抱きつく彩華。
「ふふっ……何でもないのー……ただ、兄神様とこうしていたいだけー……」
妹神彩華の幸せは、ずっと変わらず兄神の側に共にいる事。そう信じて疑わない。
また兄神の幸せも、この愛しい妹神を護り、その手の内に留めては、ずっとずっと見守り続ける事こそ幸せ。
(我だけの美しい華、彩華ー……おまえが愛おしい……)
兄神華王の秘めた想い。
秘めた想いは、決して口には出さない。
兄妹で睦み合う事は禁忌とされるこの世界。
赦されざる恋情。
(この愛らしい妹神の彩華を、どれほどに愛していることかー……)
美しい美しい華界。
憂いも哀しみもなく、美しいものを愛で、歌や舞いをし、睦み合う者らは番い、豊かな日常を緩やかに生きる。
それがこの世界。
兄神を慕う妹神彩華も「この幸せ」を信じて疑わない。
ずっと続くとー……。
そう思っていた矢先、恋慕う兄神が、ここに来て対となる華妃を迎え入れる。
天上に一つの世界が出来れば、それを統べる神が存在し、男神がいれば女神もいる。
最高神の兄神は、牡丹の花から生まれた女神富貴を伴侶に迎え、より良い華界にするべく、夫婦神として華界を統べる。
折しも、後日に最高神華王と華妃富貴の〈花燭の祭典〉が催される。
此処は〈華王庭園〉の祝いの場。
最高神華王の妹神たる彩華は、華界における順列一位の女神。それ故に、妹神から兄神への祝いの舞いを奉納しなければならない。
「兄神様ー……どうしてー……どうしてー……」
妹神彩華の声は震え、溢れる涙をどうにか押し留め、ただただ祝いの舞いを捧げる。
心は泣くも、顔には笑みを湛え、極上の舞い奉納する妹神彩華。
それを複雑ながらも熱く一心に見つめる兄神華王の心中は、誰にも推し量れない。
次いで、傍らに寄り添う華妃富貴の悋気に湧く心も、妹神彩華には預かり知らぬこと。
最初こそ、華界には兄神と妹神しかおらず、ずっと「自分だけの兄神」と思い、疑いもしなかった妹神彩華。
僅か前。
〈花燭の祭典〉の前夜に、兄神の御殿の寝所へと忍び込む妹神彩華の姿がある。
(……兄神様、どうしてー……どうして今頃になって伴侶を迎えるの? 兄神様の心が何処にあるのかー……彩華は知りたい……)
ーしかし、そこには我が目を疑う辛い光景が彩華を襲う。
兄神華王の広く瀟洒な寝台の上。
薄い紗の垂れ幕の向こうには、睦み合う美しい男神と女神の姿。
最早、それが「誰かー」などは言わずもがな。
甘く艶やかに啼く華妃富貴を寝台に組み敷き、荒々しいまでに男根で貫く兄神華王の姿。
(……兄神様っ! 嗚呼っ、どうしてー……ああっ……)
ぎしぎしと軋む寝台。
兄神の腰が激しく揺れれば、ぬちゅぬちゅと卑猥な音がこだまし、更に喘ぐ華妃富貴の悩ましい姿。
目合う二人には、もはや二人だけの世界がある。
「……あっ、あっ、華王様ー……ああっ! もっと! もっと! 下さいませー……あっ、あっ、あっ、いい……いいの! あっ、あああああっ……! ああんっ……!」
華妃富貴が、惜しみなく喘ぎ快がる。
「……っ!」
うぐっ! 思わず嘔吐く彩華は、その場から一心不乱に逃げ出す。
もはや打ちのめされ、走り去る妹神彩華。
方や、その彩華の惨めな姿を勝ち誇った笑みを湛えては、密かに見つめていた華妃富貴。
兄神の御殿の中にある自身の居室へと戻った彩華。
二人の密な目合いを思い出しては、再び嘔吐き、寝台へと倒れ込む。そして、辛く哀しい現実に涙する。
〈花燭の祭典〉で素晴らしい舞い奉納する妹神彩華。
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