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後日譚

幼い皇女の想いと恋情に疎い近衛騎士

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皇家こうけに生まれた美しい双子星の皇太子ルークと皇女おうじょエレナ。

今では成年貴族へと見事な成長を遂げ、雄々おおしい皇太子ルークに、女神のごとく麗しい皇女おうじょエレナ。

皇家こうけの「大切な宝」ともする眉目秀麗びもくしゅうれいな双子星。

今や独身貴族達の関心事は、いまだ浮いた話もなく、婚約者もいない「美しい双子星の心を射止いとめるかー」とまことしやかにささやき、ひそかに盛り上がっては、賭け事まで行われる始末。

大いに盛り上がれば、父帝ふていともするの帝国の皇帝アレクシスに見咎みとがめられかねない。それでも関心は高まる一方。

いまだ婚約者もいない皇家こうけの双子星。ましてや母后ぼこうセレーナーに生写いきうつしの絶世の美姫びき皇女おうじょエレナ。

当然ながら諸外国からも引く手は数多あまた

これには父帝ふていアレクシスが蹴散けちらし、歯牙しがにもかけない。

皇帝夫妻には皇女おうじょエレナを自国ルーカニア帝国から出す気は毛頭もうとうない。

皇女おうじょエレナの想いを知っているからともー……。


それは、皇家こうけの直系の血を受け継ぐ者だけが持つ「唯一無二ゆいいつむに伴侶つがい」と云う存在を見つけ出す為の嗅覚きゅうかく由来ゆらいする。

皇家こうけの血を濃く受け継ぐ者ほど、必ず「運命の伴侶つがい」に巡り合い、永久とこしえ至福しふくを得る。




* * * * * * * * * *


さかのぼれば、双子星が誕生した日。


生まれたばかりの双子星は、その存在を主張するかのように殊更ことさらによく泣く御子おこら。

それが不思議と皇女おうじょエレナに限っては、常に皇帝アレクシスの側に控える近衛騎士このえきしエヴァンが抱き上げれば泣き止み、愛らしい笑みを浮かべる。

面白い事に、皇女おうじょエレナが最初に発した言葉が「ヴっ……ヴァ……」と誰かの名前を思い起こさせ、多少なりとも父帝ふていアレクシスの気をませていたとも。

皇帝アレクシスはおのれの近衛騎士このえきしエヴァンのことを「ヴァン」と呼ぶ。当然ながら、皇女おうじょエレナが「それ」を真似まねて呼んでいたに他ならない。

次第に言葉が話せるようになる皇女おうじょエレナ。

「エヴァン、好き……大好き! エレナはヴァンが大好きー……好き好き!」

そう言っては近衛騎士このえきしエヴァンへとむぎゅっと抱き付く幼な皇女ひめエレナ。

「私もですよ、皇女おうじょ様」

やわらかな笑みを向ける近衛騎士このえきしエヴァン。

幼い子供の冗談だと思いに受けないまでも皇家こうけの大切な皇女おうじょエレナ。皇帝アレクシスと同様に、仕えるべきあるじには違いない。敬愛けいあいするのは当然。

けるヴァレリア公爵家の嫡子ちゃくしとしてせいを受けた近衛騎士このえきしエヴァンは、主君しゅくんまもる事こそが生き甲斐がい

まさに皇帝アレクシスの忠臣と呼べる存在。


さらりとした“青銀せいぎんの髪”には、冷たさの混じる“碧眼へきがん”を持つ見目麗みめうるわしい近衛騎士きのえきしエヴァン。

皇女おうじょエレナの心は余計に浮き立つも、それ以上に近衛騎士このえきしエヴァンを本能で求める。

そうは言っても、この時の皇女おうじょエレナと近衛騎士このえきしエヴァンの関係は、ただの主従しゅじゅう関係でしかない。

ーだが、皇女おうじょエレナが、近衛騎士このえきしエヴァンの側に居たいが為に、武闘ぶとうまで始めるとは思わず。

皇女おうじょエレナをまもる立場の近衛騎士このえきしエヴァンにしてみれば、まさに青天の霹靂へきれき

大いにあせ近衛騎士このえきしエヴァン。

皇女おうじょ様……お怪我けがでもされたら困りますー……どうか程々になさいませー……騎士きし皇女おうじょのお遊びではありません」

「あらっ、ヴァン! 私はいつでも本気よ」

エヴァンにはね……と、心の中ではそっと告げる。

「エヴァン……勝気なエレナは、一度言い出したら聞かないよ。ふふっ、もはや観念かんねんしてー……お手柔てやわらかに皇妹こうまいの相手を頼む」

共に武闘ぶとうはげむ皇太子ルークも助け船を出す。

いとしい片割れの妹皇女いもうとひめエレナの想いは知るところ。

「仕方がありませんね……」

思わず溜息ためいきこぼ近衛騎士このえきしエヴァン。


まさか、この時の恋情れんじょううとエヴァンには分かるはずもない。

幼い身でありながらも皇女おうじょエレナが、自身を「唯一無二ゆいいつむに伴侶つがい」と認識し、その想いを健気けなげにも見せていたとは、全くもって知るよしもない。


そうした最中さなか、皇后セレーナが後押しをする。




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