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本編

皇帝の措置と断罪のその後・伯爵夫人の場合

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※一部、不快な表現や残酷な描写などがあります。




* * * * * * * * * *


皇帝アレクシスが治めるルーカニア帝国。

壮麗そうれい皇城こうじょうそびえ建つ皇都こうとにぎわいを見せる。

それと云うのも、ルーカニア帝国の偉大な皇帝アレクシスとブレイディ王国王女セレーナとの「婚儀こんぎ」が執り行われ、久しぶりの帝国の慶事けいじ

皇家こうけからは、全ての帝国民に祝いの酒が振る舞われ、咎人とがびとに至っても恩赦おんしゃが与えられるなど、偉大な皇帝アレクシスの寛容さが広く知らしめられる。

ルーカニア帝国中がよろこびにあふれては、その祝いのうたげは一週間程も続くと云う熱狂振り。

ーしかも、他国のブレイディ王国からも美しい国王夫妻が祝いに駆け付け、それが皇后セレーナの父母とくれば、あまりにも豪華な顔触かおぶれに、にぎわいはいっそう高まりを見せる。

最早もはや、両国の友好も揺るぎない。

皆が偉大な皇帝アレクシスと美しい皇后セレーナをたたえ、街中も喜色きしょくに彩られてははなやぐ。


ーしかし、華やかな慶事けいじの一方では、その恩恵にあやかれない者がいるのも確か。




* * * * * * * * * * 


過去には名門と云われた「とる伯爵家」が爵位しゃくいを廃され、お取りつぶしというき目を見る。今では伯爵家の豪華な屋敷自体も取り壊され、何も残らない。

一方、帝国の市井しせいでは、まことしやかに「る噂」が流れる。

それと云うのも、今は亡き伯爵家当主であった者が、他国の美しい王妃に懸想けそうし、国王夫妻が遊行ゆうこうの際には、愚かにも王妃の誘拐ゆうかいまでも目論もくろむと云う大罪を犯す。

王族ともする王妃に手を出せば、それは「国王に叛意はんいあり」とみなされ、即ち大逆罪たいぎゃくざい

当然ながら、当主以下の一族も連座れんざされ、大逆罪たいぎゃくざいに問われる。

これは皇帝アレクシスにより意図的に、多少の事実を織り交ぜながら「もはや事実であるかの様に」故意こいに流された噂とも。

全ては情愛じょうあいする「皇后セレーナのまわしい過去」と、今やブレイディ王国王妃として立后りっこうする「アラナ妃の凄惨せいさんな過去」の両方を払拭ふっしょくする為に講じられた皇帝アレクシスの措置そち

名門伯爵家が、急な家督かとくの取り潰しのき目を見れば、事情を知らない者達は、その内情を余計に探ろうとする。

えて真相を織り交ぜた噂を流した方がたみも納得し、色々と噂をするのも一時いっときで済む。


のちに、その事については誰も詮索せんさくする事もなく、過ぎた事に対しては興味すらいだかず、やがてたみの意識からは薄れてゆく。

おかげで、今やルーカニア帝国の皇后セレーナは、ブレイディ王国の正統な元王女としての身分を得、それが浸透しんとうしては定着している。

皇帝アレクシスの御子おこも宿し、皇后セレーナの至福しふくは、まだ始まったばかり。




* * * * * * * * * *


幸福があれば不幸があり、明があれば暗が存在する。


皇都こうとから離れた鬱蒼うっそう樹々きぎが生い茂る森の中。

およそ誰も近寄らない森の奥にいるのは、腹を空かせた獰猛どうもうけものぐらい。

そして、やたらとけものが群がる大木を見れば、太い枝には「何か」がぶら下がり、幾度もけものが喰らいついては、やがて引きり落とし、余計にそれを喰い荒らす。

辺りには血生臭ちなまぐささが漂い、不快な死臭さえも立ち込める。

獰猛どうもうけものが去った後には、そこに残されているのは人の骨とおぼしき物。

いて言えば、かつては伯爵夫人であった者の骨とも。




* * * * * * * * * *


さかのぼること。あの時。


非情ひじょうな皇帝アレクシスと国王レナルドより、容赦なく断罪された伯爵夫人エミリア。

口枷くちかせませられる所為せいで、沈黙を余儀よぎなくされる伯爵夫人エミリアは、弁明も釈明しゃくめいも必要とされていない。

即時そくじ、断罪される。

数々のとがにより、重度の火傷やけどを負った状態のまま太い縄で首をくくられ、そのまま大木へと吊るされた伯爵夫人エミリアは、その場へと捨て置かれる。

伯爵夫人エミリアの足元には、爪先つまさきかすめる程度の位置に木箱が置かれ、運良く縄が切れるような事があれば、助かるようにはなっている。

全ては伯爵夫人エミリアの運次第。それも気休めとも。

「ううぅ! ううっ、うぐっー……!」

(……ぐっ、ぐるじ……い! 息がっ、息がー……!!)

太い縄が容赦なく首を締め上げ、もがき苦しむ伯爵夫人エミリア。

半分焼けただれ顔は苦悶くもんと恐怖でゆがみ、その身体中からだじゅうを血にまみれさせ、強引に飲まされた薬酒やくしゅが、今頃になって更なる効果をもたらす。

拷問ごうもんを課される罪人の為に用いられる秘薬ひやく

「悪夢を見せるー」

薄っすらと笑みを浮かべては、そう告げた皇帝アレクシス。

おかげで自分の身体中からだじゅうには数多あまた蛆虫うじむしい、体内からも湧く蛆虫うじむしによりむしばまれ、恐ろしい悪夢を見る伯爵夫人エミリア。

必死にもがき暴れる所為せいで、足場さえり倒せば、やがて呼吸を止めるのも時間の問題。

薄れゆく意識の中。

(……何故なぜ何故なぜ……私がこの様な目にー……悪いのはあのアラナ……! 憎いのはあのセレーナ……!)

壮絶そうぜつ最期さいごを迎えながらも、やはりエミリア嫉妬しっとの炎は、そう簡単に消えるものではないらしい。

冥土めいど土産みやげ話しに聞かされたのは、皇后となった義娘むすめセレーナの懐妊かいにん

(……美しいフラヴィアを出し抜いて、いつの間に皇帝陛下とー……あの淫売いんばいがー……!)

うらつらみの伯爵夫人エミリアにも、刻一刻こくいっこく最期さいごときが訪れる。

伯爵夫人エミリアが流す血の匂いを嗅ぎつけた獰猛どうもうけもの達が、その足やその腹を喰いちぎり、やがて臓物さえも喰い荒らす。


くして、完全に生命いのち灯火ともしびが消えた伯爵夫人エミリア。

ものの見事に、絶命し果てる。

もううらみを吐く事もない。


そして、その娘ともするフラヴィアはー……。



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