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本編

愚かな伯爵夫人と令嬢の裁きの刻・中

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※断罪回となる為、残酷な描写などがあります。




* * * * * * * * * *


皇命こうめい封書ふうしょたずさえ、皇城こうじょうへと招かれたはずの伯爵夫人エミリアと愛娘まなむすめフラヴィア。

意気揚々いきようようと道中を楽しむも、気が付けば馬車の外を取り囲むように敷かれたわらに火を放たれ、あわや焼け死ぬ寸前のところで馬車の外へとのがれる。

二人共にすすまみれ、身にまとう豪華な衣装は見るも無惨むざんに焼け落ち、さらされた素肌。令嬢フラヴィアに至っては、片方の乳房ちぶさが衣装からはみ出し、貴族の品位の欠片かけらもない。

最早もはや、伯爵夫人エミリア母娘おやこ身体中からだじゅうのあちらこちらの皮膚は焼けただれている。

「「痛い痛いっ! いやぁ! 痛い痛い痛い! ああっ! あああっ! ああああああっーーー!!」」

焼けただれた皮膚は赤黒くれ、いたる所から血さえにじみ、こくな痛みに絶叫を上げては仰反のけぞる伯爵夫人エミリア母娘おやこ

その二人を冷めた眼差まなざしで、ただ傍観ぼうかんする貴公子に哀れみの心は皆無かいむ。同情すらしない。

貴族としての品位や矜持きょうじにも欠け、強欲で手前勝手てまえがってな伯爵夫人エミリアと令嬢フラヴィア。

「ーまさにみにくい二人だ」

そう断言する。

今更、母娘おやこと言えるかどうかも疑わしい伯爵夫人エミリアと令嬢フラヴィア。

ーと云うのも、みずからの母エミリアを炎が立ち込める中へと蹴落けおとした伯爵令嬢フラヴィアは、もはや愛娘まなむすめとは言いがたく、みにくい争いを繰り広げた伯爵夫人エミリア母娘おやこは、やはり自分本位ほんいな身勝手な性格が浮き彫りになる。

ーましてや、そのようないやしい品性ひんせいの者が、皇后に選ばれるはずもない。

あざける貴公子は、まるで汚物でも見るかのような冷めた眼差まなざしで二人を見つめる。




* * * * * * * * * *


馬車外へと飛び出した伯爵夫人エミリア母娘おやこの目の前にたたずむ貴公子。

目深めぶかく黒衣をかぶ所為せいで、その身姿みすがたうかがい知れないまでも、その澄んだ声音こわね外衣がいいからわずかに見える黄金の髪が、その貴公子のたぐまれな身分を物語る。

「「こっ……皇帝陛下っ!! どうしてーーー……!!」」

驚愕きょうがくすると同時に、大きな叫び声を上げる伯爵夫人エミリア母娘おやこ

「おまえ達の強欲さは、見るにも聞くにも堪えないー……浅ましいことだ」

嘲笑ちょうしょうする貴公子は、もはや皇帝アレクシスに他ならない。

大声で叫んだ途端に、やはり痛みにのたうち回る伯爵夫人エミリア母娘おやこ。特に、顔の半分が焼けただれた伯爵夫人エミリアの絶叫音はすさまじい。

「ぎゃぁああああ……!! 痛い痛い痛いっ!! ああっ! 顔が熱いっーーー!!」

「エヴァンー……あまりにもさわがしい」

近衛騎士このえきしエヴァンへと告げる皇帝アレクシス。

すぐに、その意図を察する近衛騎士このえきしエヴァンが片手を上げれば、何処どこからともなく現れる“かげ”と呼ばれる暗躍部隊あんやくぶたいの二人。その顔すらも黒衣こくいにはおおわれている所為せいで身元は知れない。

すぐさま伯爵夫人エミリア母娘おやこの両手首を後ろ手に縛り上げ、その口を強引に開かせれば、穴の空いた筒状つつじょうの物を差し込み、何やら液体を注ぎ込む。

ごぼごぼとあふれる程に飲まされる所為せいで「うぐぐぅっ、うげぇっ……!」と嘔吐えずく伯爵夫人エミリア母娘おやこ

それに構う事なく、今度は口枷くちかせまでまされる二人は沈黙を余儀よぎなくされ、言いようのない恐怖が襲うのか、高慢こうまんな態度が一変して、カタカタと激しく身慄みぶるいを始める伯爵夫人エミリア母娘おやこ

「安心しろ、毒ではないー……痛みを止める為の強力な薬酒やくしゅだ。ふふっ、ただ少々きめが良すぎる所為せい依存性いぞんせいが高く、おまけに悪夢まで見る事もあるがー……今更だ」

辛辣しんらつな物言いをする皇帝アレクシス。

かたや目の前の皇帝アレクシスの非情ひじょうな仕打ちの意味さえ理解出来ず、ただ身を震わす伯爵夫人エミリア母娘おやこ

その一方で、飲まされた薬酒やくしゅのおかげか、ひど火傷やけどにもかかわらず、確かに痛みは遠のいて行く様子にいぶかしがる二人。

「ー知っているか? その薬酒やくしゅ拷問ごうもんを課せられた者に、更なる拷問ごうもんを課す為に作られた特別製の代物しろものだ。故意こいに罪人の痛みを取り、繰り返し……そう繰り返しに課すのだよ、終わらない拷問ごうもんをー……」

告げられた無慈悲むじひな事実に、驚愕きょうがくに目を見開き、青褪あおざめる伯爵夫人エミリア母娘おやこ

口枷くちかせがきつくませられている為、話せないながらもその眼が「何故なぜ!」と訴えているのが一目瞭然いちもくりょうぜん

傲慢ごうまん貴様きさまらには、無情むじょうにもしいたげられ続けてきた哀れなセレーナの痛みがわかるはずもない。貴様きさまらは知らないが、美しいセレーナは私の唯一無二ゆいいつむに伴侶つがい。今やその腹には皇帝の子を宿し、皇后として帝宮ていぐうおだやかに暮らしている」

いっそう目を見開く伯爵夫人エミリア母娘おやこ

伯爵夫人に至っては、たたでさえき出しとなっている眼球が、余計に飛び出して見える程に驚愕きょうがくしている。

かたわらにひざまずく令嬢フラヴィアは許せないのか、その表情かおは憎しみに満ちている。あまつさえ不敬もかえりみずに、皇帝アレクシス目掛けて詰め寄ろうとする。

その刹那せつな、ガッ! と近衛騎士このえきしエヴァンにより、容赦なく地面へと踏みつけられる令嬢フラヴィア。

「ううっ!!」

口枷くちかせはまりながらもうめき声が漏れる。

「罪人風情ふぜいが不敬だ。はじを知れー」

冷たく言い放つ近衛騎士このえきしエヴァン。

ついで、同じく憎しみの炎を燃やす伯爵夫人エミリアにも視線を向ける近衛騎士このえきしエヴァンは、腰に帯刀たいとうする剣の先端を振り下ろし、その背中を地面へと叩き付ける。

「うぐっ……!!」

貴様きさまも不敬だ。罪人なら尚更なおさらこうべを垂れろ。皇帝陛下の身前みまえだという事を忘れるなー」

云うが早いかー、伯爵夫人エミリア母娘おやこ共々、地面へとめり込む程にじ伏せる。

近衛騎士このえきしエヴァンは、敬愛けいあいする皇帝アレクシスに刃向はむかう者には、一切の容赦はしない。




* * * * * * * * * * 


長年の間、しいたげ続けてきた憎いめかけ義娘むすめセレーナ。その義娘むすめセレーナが、まさかの皇后にほうじられているとなれば、伯爵夫人エミリア母娘おやこ驚愕きょうがくして当然。

ーしかし、今や地面へと 無様ぶざまにもじ伏せられる伯爵夫人エミリア母娘おやこには抵抗はおろか、ませられる口枷くちかせのおかげで、ひたすらの沈黙に耐えるしかない。

「憎いー……憎いー……」と皇后セレーナへの怨嗟えんさに湧く伯爵夫人エミリア母娘おやこは、どうにか顔を上げようともがく。

皇后セレーナへとゆるしを乞うどころか、更なる憎しみをたぎらせる二人に改心の余地よちは無い。

「何度言えばわかる? 不敬だー」

近衛騎士このえきしエヴァンは、またたく間に帯刀たいとうする剣のつかで、二人の後頭部を激しく打ち据える。

「「うううぅっ……!!」」

あまりの容赦のない仕打ちに、悶絶もんぜつする伯爵夫人エミリア母娘おやこの口からは鮮血が飛び散る。

「まったくもって愚かなー……」

皇帝アレクシスは淡々と告げる。

「確かに、皇家こうけからは“伯爵令嬢を皇后とする”との皇命こうめいを送ったがー……愚かにも、それがわなだとも知らず、あの様な簡素な馬車でも疑う事なく乗車してくるとはー……やはり浅ましい。皇家こうけからの迎えの馬車であれば、必ず〈皇家こうけの紋章〉が刻印されている。そのような事も知らないのかー……」

皮肉な笑みをたたえる皇帝アレクシス。そして令嬢フラヴィアを一瞥いちべつする。

高慢こうまんさもここまで来ると救いようがないー……何故なぜ? 貴様きさまごと心根こころねいやしい娘が、帝国の皇后に選ばれると思うのか理解に苦しむ」

侮蔑ぶべつの表情を浮かべる皇帝アレクシスの視線にするどさが増す。

「今こそ犯した罪の全てをあがなってもらう。私の美しいセレーナしいたげた者は、誰一人としてゆるしはしない」

皇帝アレクシスは無情むじょうにも告げる。


其処そこへ、一台の黒塗くろぬりの馬車が到着する。

まるで申し合わせたかのように、現れたその二頭立にとうだての馬車は、簡素によそおわれていながらも、明らかに上質なさまうかがい知れる。

いまだ地面にじ伏せられる伯爵夫人エミリア母娘おやこには、「誰が」来たかなどが分かるはずもなく、「何が」起こるのかさえも予想すらしていない。

「ーどうやら、御仁ごじんも到着したようだ。いよいよ全てのむくいを受けるときがきた」

冷笑をたたえる皇帝アレクシスの表情かおは、これ以上ないほどに美しい。

「ーもはや、断罪の時間ときだ」

そう無慈悲むじひにも言い放つ。










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