14 / 35
本編
浮き立つ伯爵夫人母娘の勘違い
しおりを挟む
伯爵夫人当主ヘンリーが、異国の地で非業の死を遂げた為に落ちぶれた名門伯爵家。
落ちぶれても名門は名門。
だからこそ、嘗ての栄華を望むもの。
これまで欲するままに、贅の限りを尽くしていた伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。長年培った見栄と虚栄心は、そうそう消えない。
その為に邪魔な義娘セレーナを辺境の財産家の田舎貴族へと身売り同然に嫁がせ、自分達はその持参金と支援金で体裁を保つ伯爵夫人エミリア母娘に待つのは、幸か不幸か。
言わずもがな。それは目に見えている。
皇帝アレクシスの大切な伴侶セレーナを貶めた者に、平穏などあり得ない。
その先に待つのは、やはり……。
* * * * * * * * * *
皇家からの迎えの馬車へと乗り込む伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
急遽この日の為に、義娘セレーナの婚姻の支度金に手を付け、惜しみなく金貨を注ぎ込んでは買い漁った豪華な衣装。無駄に艶やかな衣装と豪華な装飾品の数々に身を包む伯爵夫人エミリア母娘。その様な装いは必要とされてはいないのに、哀れと言うよりは愚か。
実は悪辣な伯爵夫人エミリアは、義娘セレーナへと贈られた婚姻の支度金や豪華な装飾品を「少しぐらいなら……」と辺境から絶えず贈られてくる度に密かに抜き取り、自分の懐へと着服している。
全ては自身の私利私欲を満たす行為とも。
そうした強欲な正妻エミリアだからこそ、今は亡き夫君の伯爵家当主ヘンリーも嫌気がさし、余計に美しい妾アラナに執着しては傾倒していったとも。
どちらにしても碌な夫婦ではないことは確か。
名門伯爵家と呼ばれるのは、優れた先代伯爵以前の話し。威光は嘗てのもの。
端的に言えば、嫡子は商才には恵まれるも人格は破綻。おかげで「蝶よ花よ……」と育てられた驕り高ぶるその娘も性格は難あり。
要は、自分本位な伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
* * * * * * * * * *
僅か前。
伯爵邸の目の前に停まる皇家からの迎えの馬車に、あからさまに顔を浮き立たせ、喜び合う伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。
迎えの馬車の様子に、そこで「気付くべき事」にも気付かない程に浮かれていた様子。
皇家からの迎えの馬車にしては簡素で、しかもあるべきはずの〈皇家の紋章〉すら刻印されていない黒塗りの馬車は、二頭立てどころか一頭立てと質素。
皇帝アレクシスも乗車する皇家の馬車ともなれば、名馬が引く四頭立ての豪華な馬車と車内も広く、最高の乗り心地を誇る。
皇后となる令嬢を迎える皇家からの迎えの馬車が、駄馬が引く一頭立てであるはずもなく、しかも小ぶりで乗り心地も最良とは言えない。
それでも気付かない伯爵夫人エミリア母娘の頭の中には、「皇后」と云う言葉が占めているせいで、全く疑いもしない。
「嗚呼っ、お母様! もうすぐ偉大な皇帝陛下にお会いできるのね! あの見目麗しい皇帝陛下の妃に迎えられるなんて、まさに夢みたい……!」
そう、まさに夢のまた夢。
そうとも思わない伯爵夫人エミリア母娘は、互いに喜び合うばかり。
「美しいフラヴィアなら素晴らしい皇后となるわ。あの卑しい義娘セレーナとは大違い。貴女は名門伯爵家の令嬢にして、皆様からは美しい“陽の姫”と讃えられているのよ。皇帝陛下が美しいフラヴィアを見初めるのは当然のこと。貴女は今日より貴族令嬢の頂点に立つのよ。嗚呼っ! これほどに素晴らしい事はないわ! そして私は美しい皇后の美しい母として崇められるのよ!」
伯爵夫人エミリアは愛娘フラヴィアを惜しみなく褒め讃えながらも自画自賛するあたり、やはり強欲で烏滸がましい。
今となっては、伯爵令嬢フラヴィアが「美しい陽の姫」と讃えられているのは何処か腑に落ちない。
それもそのはず。
当人の伯爵令嬢フラヴィアは知ってか知らずかー、「美しい陽の姫」と謳われていたのは、実際は揶揄とも嘲笑とも。
「美しさしかない!」
所謂、知性の欠片もない伯爵令嬢フラヴィアを皮肉ってのこと。貴族達は真逆の意味で、実しやかに囁き合っていたに過ぎない。
「|勘違いも甚だしい」
まさに伯爵夫人エミリア母娘にこそ送られるべき言葉。
* * * * * * * * * *
喜びに浮き立つ伯爵夫人エミリア母娘を乗せる皇家からの馬車は、皇城へと向かうどころか違う道を突き進む。
一頭立ての馬車の窓は、全面を黒い垂れ幕で覆われているせいで、その事に気付く様子もないエミリア母娘は、やけに長い道のりにすら訝しがらない。
それも全ては「皇后」と云う輝かしい未来が待つおかげ。
果てして、向かうその先に待つのは……。
落ちぶれても名門は名門。
だからこそ、嘗ての栄華を望むもの。
これまで欲するままに、贅の限りを尽くしていた伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。長年培った見栄と虚栄心は、そうそう消えない。
その為に邪魔な義娘セレーナを辺境の財産家の田舎貴族へと身売り同然に嫁がせ、自分達はその持参金と支援金で体裁を保つ伯爵夫人エミリア母娘に待つのは、幸か不幸か。
言わずもがな。それは目に見えている。
皇帝アレクシスの大切な伴侶セレーナを貶めた者に、平穏などあり得ない。
その先に待つのは、やはり……。
* * * * * * * * * *
皇家からの迎えの馬車へと乗り込む伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
急遽この日の為に、義娘セレーナの婚姻の支度金に手を付け、惜しみなく金貨を注ぎ込んでは買い漁った豪華な衣装。無駄に艶やかな衣装と豪華な装飾品の数々に身を包む伯爵夫人エミリア母娘。その様な装いは必要とされてはいないのに、哀れと言うよりは愚か。
実は悪辣な伯爵夫人エミリアは、義娘セレーナへと贈られた婚姻の支度金や豪華な装飾品を「少しぐらいなら……」と辺境から絶えず贈られてくる度に密かに抜き取り、自分の懐へと着服している。
全ては自身の私利私欲を満たす行為とも。
そうした強欲な正妻エミリアだからこそ、今は亡き夫君の伯爵家当主ヘンリーも嫌気がさし、余計に美しい妾アラナに執着しては傾倒していったとも。
どちらにしても碌な夫婦ではないことは確か。
名門伯爵家と呼ばれるのは、優れた先代伯爵以前の話し。威光は嘗てのもの。
端的に言えば、嫡子は商才には恵まれるも人格は破綻。おかげで「蝶よ花よ……」と育てられた驕り高ぶるその娘も性格は難あり。
要は、自分本位な伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィアがいる。
* * * * * * * * * *
僅か前。
伯爵邸の目の前に停まる皇家からの迎えの馬車に、あからさまに顔を浮き立たせ、喜び合う伯爵夫人エミリアと愛娘フラヴィア。
迎えの馬車の様子に、そこで「気付くべき事」にも気付かない程に浮かれていた様子。
皇家からの迎えの馬車にしては簡素で、しかもあるべきはずの〈皇家の紋章〉すら刻印されていない黒塗りの馬車は、二頭立てどころか一頭立てと質素。
皇帝アレクシスも乗車する皇家の馬車ともなれば、名馬が引く四頭立ての豪華な馬車と車内も広く、最高の乗り心地を誇る。
皇后となる令嬢を迎える皇家からの迎えの馬車が、駄馬が引く一頭立てであるはずもなく、しかも小ぶりで乗り心地も最良とは言えない。
それでも気付かない伯爵夫人エミリア母娘の頭の中には、「皇后」と云う言葉が占めているせいで、全く疑いもしない。
「嗚呼っ、お母様! もうすぐ偉大な皇帝陛下にお会いできるのね! あの見目麗しい皇帝陛下の妃に迎えられるなんて、まさに夢みたい……!」
そう、まさに夢のまた夢。
そうとも思わない伯爵夫人エミリア母娘は、互いに喜び合うばかり。
「美しいフラヴィアなら素晴らしい皇后となるわ。あの卑しい義娘セレーナとは大違い。貴女は名門伯爵家の令嬢にして、皆様からは美しい“陽の姫”と讃えられているのよ。皇帝陛下が美しいフラヴィアを見初めるのは当然のこと。貴女は今日より貴族令嬢の頂点に立つのよ。嗚呼っ! これほどに素晴らしい事はないわ! そして私は美しい皇后の美しい母として崇められるのよ!」
伯爵夫人エミリアは愛娘フラヴィアを惜しみなく褒め讃えながらも自画自賛するあたり、やはり強欲で烏滸がましい。
今となっては、伯爵令嬢フラヴィアが「美しい陽の姫」と讃えられているのは何処か腑に落ちない。
それもそのはず。
当人の伯爵令嬢フラヴィアは知ってか知らずかー、「美しい陽の姫」と謳われていたのは、実際は揶揄とも嘲笑とも。
「美しさしかない!」
所謂、知性の欠片もない伯爵令嬢フラヴィアを皮肉ってのこと。貴族達は真逆の意味で、実しやかに囁き合っていたに過ぎない。
「|勘違いも甚だしい」
まさに伯爵夫人エミリア母娘にこそ送られるべき言葉。
* * * * * * * * * *
喜びに浮き立つ伯爵夫人エミリア母娘を乗せる皇家からの馬車は、皇城へと向かうどころか違う道を突き進む。
一頭立ての馬車の窓は、全面を黒い垂れ幕で覆われているせいで、その事に気付く様子もないエミリア母娘は、やけに長い道のりにすら訝しがらない。
それも全ては「皇后」と云う輝かしい未来が待つおかげ。
果てして、向かうその先に待つのは……。
335
お気に入りに追加
895
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる