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本編

〈閑話〉アラナの事情と伯爵家当主の最期・前

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伯爵令嬢セレーナの美しい生母せいぼアラナ。

娘のセレーナと同じつややな黒曜こくようの髪に、美しい琥珀色こはくいろの瞳をあわせ持つ美しいアラナ。

平民でありながらもたぐまれ美貌びぼうに恵まれた為に、名門伯爵家当主ヘンリーに見初みそめられ、伯爵家の別邸へと囲われながら、愛娘まなむすめのセレーナを産み落とす。

ーだが、事実はことなる。

それは事実をじ曲げた伯爵家当主ヘンリーの都合の良い解釈かいしゃくでしかない。

何故なぜなら、アラナはそのような事を砂粒すなつぶほども望んではいない。

想いとは裏腹に、不幸に見舞われたあわれなアラナ。

ひたすらに、伯爵家当主ヘンリーを憎んでいたとも。




* * * * * * * * * *


伯爵令嬢セレーナの母アラナは、実は皇帝アレクシスがべるルーカニア帝国の生まれではない。

遠く離れた異国の地のさる王族の落としだね

貴族の娘である美しいアラナの母が、私的に狩りへと訪れた国王と出逢い、すぐさま恋に落ち、ひそかに情を交わした際に宿したのが娘のアラナ。

ーしかし、アラナの母はひどい難産がたたり、御子おこを産み落とすと同時にはかなくも命を落とす。

なげく国王は、一人残された娘のアラナを守る為に、知己ちきの友とするブレイディ王国の国王の息子、嫡太子ちゃくたいしレナルドと娘のアラナとの婚姻こんいんの約束を交わし、後ろだてとする。

アラナが成人を迎えたあかつきには、その約束が果たされる事を願い、アラナの小さな指には、とる王国の紋章が刻まれた「婚姻を約束する指環ゆびわ」が贈られる。

アラナはブラッド王国国王の落としだね出自しゅつじは確かながらも、やはり王宮はみにくい権力争いや嫉妬心しっとしん跋扈ばっこする。

アラナの存在をよく思わない国王の正妃せいひともする王妃デラニーにより、幼いアラナは人買いへと売られ、巡り巡って遠い異国の地であるルーカニア帝国へと流れ着く。




* * * * * * * * * *


やがて帝国騎士団の一斉捕縛ほばくにより、悪辣あくらつな人買が捕まり、そこから助け出されたアラナ。

子供のいない気の良い若い夫妻の元へと引き取られ、愛情を注がれては美しく成長する。

やはり、美しいアラナの不幸は終わらない。

しくも商談で各地を回る伯爵家当主ヘンリーに目を付けられ、人気ひとけのない小屋へと連れ込まれてすぐに無垢むくな花を散らされる。

(……どうして! どうしてこの様なひどい事ばかりが起きるのー……私が何をしたと云うの……誰か、助けてー……)

絶望に泣くアラナ。助けなど来るはずもない。

あわれにも凌辱りょうじょくされたアラナは、そのまま薬で意識を奪われ、伯爵家当主ヘンリーが滞在する常宿じょうやどへと監禁された挙句あげく、幾度も犯され、身も心もくじかれる。

「美しい私のアラナ! おまえは私のものだ! 逃しはしないー……だから、私の子をはらめ……!」

なかば狂気じみた伯爵家当主ヘンリーに犯される度に、アラナのはらには、あふれ出る程の多量の子種が注がれる。

すぐさま伯爵家当主ヘンリーの子を身籠みごもるアラナは、もはや逃げ道を断たれ、その身の自由を完全に失う。


その後。

名門伯爵家の別邸へと監禁される事になるアラナ。

まさに不幸と不運に見舞われるも、アラナの唯一の救いが可愛い娘のセレーナ。憎い伯爵おとことの間に出来た子でも、けがれを知らない無垢むくな存在の娘セレーナは、アラナにはかけがえのない宝。

娘セレーナが憎いはずもなく、ひたすらセレーナだけに情愛じょうあいを注ぎ、不幸の中にも「小さな幸せ」を見い出すアラナがいる。




* * * * * * * * * *


名門伯爵家に生まれながら、「アラナという美しい極上の花」を見つけたが為に、情愛じょうあいに狂う伯爵家当主ヘンリー。

ただのお飾りの妻でしかない正妻エミリアの嫉妬心しっとしんからめかけとしたアラナを守る為と云うよりは、美しいアラナをのがさない為に別邸へと閉じ籠め、その足にはかせまで付けて囲う伯爵家当主ヘンリーは、執拗しつような周到さを見せる。

幼い娘のセレーナには、そうした事情などがわかるはずもなく、あくまでも表面上は優しい父ヘンリー。

更に、伯爵家当主ヘンリーが商用しょうようの際に、常に美しいアラナを連れ歩くのは、万が一の事を考えての行動。

伯爵家当主ヘンリーが居留守いるすの間に、美しいアラナが逃げ出さないとも限らない。

常に側に置き、監視する伯爵家当主ヘンリー。

移動中の馬車内でも、アラナの両手首へと装飾品と見違える程の美しいかせめ、時にはそのまま犯す事もいとわない。

(……もういやっーーー!!)

アラナの絶望が、もはや心を壊すのも時間の問題。

かたや、美しいアラナを逃がさない為に、念には念を入れ拘束こうそくし、病的にアラナに溺れる伯爵家当主ヘンリー。


それ程にアラナは美しいー……とも。


そうした最中さなかとらわれのアラナに、ようやく転機が訪れる。

救いの手は、もう間も無く。

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