上 下
9 / 35
本編

月夜の婚姻と歓びに泣く月姫に訪れた奇跡

しおりを挟む
※R描写があります。苦手な方はご注意下さい。




* * * * * * * * * *


皇帝アレクシスとの濃密で快美に酔いしれる素晴らしい蜜夜を過ごした伯爵令嬢セレーナ。

それが、どれ程の至福であったかなどは云うまでない。




* * * * * * * * * * 


これまで味わった事のない肌触りの良い上質な敷布に包まれる伯爵令嬢セレーナは、長年暮らしていた伯爵家の屋根裏部屋の簡素な寝台とは違う寝心地に、初めて心地良い安眠を得る。

そして、目覚めれば伯爵令嬢セレーナの目の前には、月夜の仮面舞踏会で出逢った美しい貴公子の姿。

最早もはや、ルーカニア帝国の皇帝アレクシスとも。

普段から伯爵夫人母娘おやこに虐げられ、めかけの娘だからと粗雑に扱わる日々を送っていた伯爵令嬢セレーナ。そのせいもあり、煌びやな社交の場に出る事は叶わず、皇帝アレクシスに拝謁する事もない。

当然、皇帝アレクシスの尊顔をじかに拝する機会に恵まれる事はない。

おおやけの舞踏の場には、義妹いもうとフラヴィアの引き立て役として、ごく稀に参加する事ぐらい。

その伯爵令嬢セレーナでも、ルーカニア帝国の皇家に生まれる者が「輝く黄金の髪」と「深きあおい瞳」を持つ事ぐらいは周知している。

だから、目の前に横たわる人物が、紛れもなく皇帝アレクシスである事に驚愕と感嘆の吐息を付く。

皇帝アレクシスが、しがない伯爵家の妾腹しょうふくの娘セレーナを相手にするなど、いまだに信じられない面持ちで見つめる。

美しい琥珀色の瞳で一心に皇帝アレクシスを見つめる伯爵令嬢セレーナ。その視線を受け、皇帝アレクシスも己れのいとしい伴侶つがいセレーナを見つめ返す。

「どうした、セレーナ……?」

「いまだに信じられなくて……私のような身分の者が……まさか偉大な皇帝陛下とこうしているなん……うっ、ううんっ」

突如として唇を塞がれ、しかといだかれる。

皇帝アレクシスの差し込まれる分厚い舌が、伯爵令嬢セレーナの舌をも絡め取り、ぬちゅりぬちゅりと淫靡いんびな音を立てては、深く甘い接吻が繰り返される。

長い長い接吻に、もはや目眩めまいを覚えそうになる伯爵令嬢セレーナ。ようやくにして離される唇。

いとしい私のセレーナ、自分を卑下してはいけない。私が愛するセレーナは、誰よりも美しく洗練された素晴らしい女性だ。恥じ入る事は何一つない。皇帝に愛される唯一無二の存在は何者にも勝る。それに皇帝の子を宿せるのは唯一の伴侶つがいのみ。いとしいセレーナ、私の子を孕んでくれた礼を云う……おまえがいとおしい」

再び接吻を交わす二人。


その後はやはり……。




* * * * * * * * * *   


気が付けば、すでに宵の口。

蜜月に溺れる伯爵令嬢セレーナの元には、いつの間にか多くの侍女らがかしずいている。

そして伯爵令嬢セレーナの目の前には、金色の豪華な婚礼衣装が掛けられ、加えて見事な装飾品までもが並べられている。

改めて金色の婚礼衣装を見れば、その素晴らしさがわかる。

「陛下っ、この衣装は……?!」

身に覚えのある婚礼衣装に驚愕する伯爵令嬢セレーナ。

「そうだよ、セレーナ。この金色の婚礼衣装は、あの時に私が指示し、身に纏わせたものだ。愛するセレーナの為に特別に仕立てさせた一級品だ。皇家の色を纏うセレーナは、やはり誰よりも美しい……」

「ああっ……! 陛下っ……」

賢明な伯爵令嬢セレーナのこと、遡れば、あの時には助け出されていた事にようやくにして気付く。


実際に皇帝アレクシスは、伯爵家に皇帝の手足となって働く“影”と呼ばれる存在を侍女として忍ばせている。

「どうか赦して欲しい、セレーナ。いくら伯爵夫人らを欺く為とはいえ、あの女の暴挙から守れず、いとしいセレーナに傷を負わせてしまった事が悔やまれる」

「いいえ、いいえ、陛下! あの場所から私を救い出してくれただけでも充分です。それに……今はこうして貴方あなたのお側に寄り添う事ができるのです。これ以上は何も望みません。私はこうして貴方あなたのお側にいられるだけで……とても……とても幸せなのです」

皇帝アレクシスへとすがる伯爵令嬢セレーナは、その胸へと顔をうずめる。

「ならば、セレーナ。私の為にもっと欲張りになって欲しい。それに私の事はと……その愛らしい口で私の名を呼んで欲しい」

軽く口付けを落とす皇帝アレクシス。

「そのような畏れ多いことを! 皇帝陛下を真名でお呼びすることなど私には出来ません。どうかお赦しを……」

「呼んで……セレーナ」

「ですが……」

「ふふっ、名を呼んでくれなければ、侍女達の目の前でも構わず、私はもっと激しい接吻を浴びせるよ」

「そんなっ……」

「呼んでセレーナ……どうかアレクと呼んで欲しい。いとしいセレーナ……私達は情熱的に愛を交わした仲だ。今更恥ずかしがる必要はない」

皇帝アレクシスの言葉に、余計に恥ずかしげに俯く伯爵令嬢セレーナ。その耳元へと甘く囁く皇帝アレクシスは、存外たちが悪い。

もはや観念する伯爵令嬢セレーナ。

「……アっ、アレク……様……」

美しい顔を一気に赤らめる伯爵令嬢セレーナ。

「ふふっ、やはり私のきさきは愛らしい。いとしい私のセレーナ、私達の婚礼の為にも美しく装われておいで……」

あまりにも優しい声音で告げる皇帝アレクシス。

いとしいセレーナ、私はもう待てない。今宵には婚礼を挙げ、セレーナを私の“皇后”として迎える……いいね?」

そう断言する皇帝アレクシスは、しかと伯爵令嬢セレーナへと告げる。

急な展開に戸惑う伯爵令嬢セレーナ。その一方では、歓びに泣く伯爵令嬢セレーナもいる。

尊大な皇帝アレクシスは、もはや伯爵令嬢セレーナを侍女達へと託し、自身も身支度の為にと寝所を後にする。




* * * * * * * * * * 


月の輝く美しい夜。


月の女神さながらに美しい伯爵令嬢セレーナが、皇帝アレクシスの元へと輿入れする。

皇城内に建造されている皇家ゆかりの壮麗な白亜の神殿。

しめやかに厳かに行われたのは、皇帝アレクシスと伯爵令嬢セレーナの内々の婚礼。それを見守り、祝福するのは僅かな許された者達だけ。

当然ながら近衛騎士エヴァンは、護衛も兼ねている為、皇帝アレクシスの側へと控えている。

静寂の中、密かに、それでいて甘やかに帝国皇帝アレクシスの婚礼が執り行われる。

晴れて皇后セレーナとして封じられた伯爵令嬢セレーナ。

皇帝アレクシスの唯一無二の伴侶つがいとして、皇家の一員に迎え入れられる。

更には、歓喜にむせび泣く伯爵令嬢セレーナをさらに感涙させる者が、いつの間にか現れ、参列しては月夜の婚礼を見守る。

そう、そこに現れたのは、紛れもなく皇后セレーナの美しい母アラナ。

不慮の事故により早逝したはずの母アラナが夫君と共に佇み、いとしい娘セレーナの成長した姿に胸を詰まらせ、こちらも感涙にむせび泣いている。

どちらからともなく歩みより、抱き締め合うアラナ母娘おやこ。積年の想いが溢れ出し、しばらく離れる事はない。

それを見つめる皇帝アレクシスの眼差しは、限りなく優しい。

皇帝アレクシスには、いとしい伴侶つがいセレーナの幸せこそが我が身の幸せ。

「セレーナ、いとしい私の伴侶つがい……おまえのその微笑みこそが私の心さえも満たす」

そう呟く皇帝アレクシスからも美しい笑みが零れ落ちる。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...