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本編
皇帝と近衛騎士の密談ともたらされた慶事
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此処は皇帝アレクシスが住まう〈帝宮〉。
皇帝が寝食が行う〈帝宮〉なだけに、厳重に警護されているのは当然ながら、皇帝アレクシス自らが仕える者達を選抜し、身元が確かな許された者だけが〈帝宮〉に仕えている。
その帝宮内の地下には、四方を壁だけに囲まれた皇帝アレクシスの極々私的な一室が存在する。そうは言っても皇帝の居室なだけあり、装飾は抑えられているとは云え豪華なのは確か。
固く出入り口の扉は閉ざされ、窓のない比較的小さなこの居室は、密談をするには丁度良い。
先に訪れていたのは近衛騎士エヴァン。
静かに出入り口の扉が開けば、深々と頭を垂れ、遅れて参上した皇帝アレクシスを出迎える。
「陛下、お待ちし致しておりました。妃殿下のご様子は如何ですか?」
明日以降には皇后として迎えられる伯爵令嬢セレーナは、近衛騎士エヴァンには、もはや皇帝アレクシスと同等の仕えるべき尊い存在。敬うのは当然。
「ああっ、大事ない。今も睡眠香”のおかげで深く眠っている。疲れもあるだろう。明日から忙しい身だ。今は休ませてある。背中に負わされた傷の状態もあり、その身体に不自由がないか医官長に診てもらっているところだ」
「それならばご安心です。優れた治癒師の医官長様は古くから皇家に仕えるお方。“薬種“を扱わせたら右に出る者はおりません。医術にも長けたお方ならば、傷心の妃殿下をお任せ致すのもご安心です」
「ああっ、まさに……」
そして皇帝アレクシスが着座を促せば、素直にそれに従う近衛騎士エヴァン。
皇帝アレクシスの下命は絶対ながらも、こうして皇帝の面前にもかかわらず着座を許されるのは、およそ近衛騎士エヴァンぐらいなもの。それほどの信頼を得ていると云うこと。
二人の内密な事案が囁かれる。
* * * * * * * * * *
「それで、辺境の地の貴族のほうは……?」
「はい、すでに花嫁を迎えに発たれそうで、三日の後には此方ヘと辿り着くと思われます。ご心配には及びません。それよりも陛下、かねてよりの件ですが……まさに陛下が言われた通り、やはり生きておられました」
「やはり、な……そうでなければ損壊が激しいからと云い、すぐに火葬され、形見の品すら届かないのも腑に落ちない」
皇帝アレクシスの言葉にまさに、仰られる通りです」と同調する近衛騎士エヴァン。
「ご夫妻共に、こちらの申し出にも快諾して頂けましたので、早駆けにて参るそうです。もう発たれておりますので到着も間も無くかと……彼の地は小国ながらも豊かな国……ましてや王族の一員として迎えられておりますので、これで妃殿下の身分を盾に反対する者はおりません。私から言わせれば、陛下の行いに異を唱える者がいるとは思えませんが……」
「念には念だ、ヴァン」
「確かにそうですね。あの母娘を確実に黙らせるには、まさに打って付け。絶望と驚愕に打ち震える顔が私の目にも浮かぶようです」
珍しく皮肉な笑みを浮かべる近衛騎士エヴァン。
偉大な主君の大切な伴侶を傷付け、今日まで貶めて来た伯爵夫人とその娘には、近衛騎士エヴァンも怒りしか湧かない。
伯爵令嬢セレーナは、明日にはこの帝国の皇后となる大切な身。皇帝アレクシスと並び立つ身分へと封じられる。
即ち、それを害する者は帝国皇帝に「叛意あり」と見做され、処罰されるのは当然の事と心得る近衛騎士エヴァン。
全ての段取りは、もはや滞りなく済んでいる。
そして、この居室を後にする二人。
* * * * * * * * * *
そうした最中、皇家専属の医官長よりもたらされたのが、伯爵令嬢セレーナの|
懐妊。
「それは誠に確かか……医官長?」
思わず玉座から立ち上がる皇帝アレクシス。
(あの時の子か……! ああっ、セレーナ! やはり我らは結ばれる運命。今すぐにでもおまえを抱き締めたい……!)
明らかに相貌を緩める皇帝アレクシス。自然と満面の笑みを湛え喜色に富んでいる。
その様子に医官長も相好を崩す。
「おめでとうございます、皇帝陛下。お美しい皇后陛下は、間違いなく陛下の御子を身籠られておられます。御子の為にも皇后陛下を存分に労ってあげて下さい」
「言われずとも……!」
医官長が告げれば、近衛騎士エヴァンも続く。
「おめでとうございます、皇帝陛下。私からもお祝い申し上げます。久しぶりに帝国にもたらされた慶事。皆も喜びましょう」
近衛騎士エヴァンも祝いの言葉を述べる。
しかし、皇帝アレクシスはと云えば、もはや居ても立っても居られない様子で、すでに退席してしまっている。
後に残された近衛騎士エヴァンと医官長は互いに笑みを交わし、この場から去った皇帝アレクシスの待ち望んだ慶事に歓び露わに讃え合う。
皇帝が寝食が行う〈帝宮〉なだけに、厳重に警護されているのは当然ながら、皇帝アレクシス自らが仕える者達を選抜し、身元が確かな許された者だけが〈帝宮〉に仕えている。
その帝宮内の地下には、四方を壁だけに囲まれた皇帝アレクシスの極々私的な一室が存在する。そうは言っても皇帝の居室なだけあり、装飾は抑えられているとは云え豪華なのは確か。
固く出入り口の扉は閉ざされ、窓のない比較的小さなこの居室は、密談をするには丁度良い。
先に訪れていたのは近衛騎士エヴァン。
静かに出入り口の扉が開けば、深々と頭を垂れ、遅れて参上した皇帝アレクシスを出迎える。
「陛下、お待ちし致しておりました。妃殿下のご様子は如何ですか?」
明日以降には皇后として迎えられる伯爵令嬢セレーナは、近衛騎士エヴァンには、もはや皇帝アレクシスと同等の仕えるべき尊い存在。敬うのは当然。
「ああっ、大事ない。今も睡眠香”のおかげで深く眠っている。疲れもあるだろう。明日から忙しい身だ。今は休ませてある。背中に負わされた傷の状態もあり、その身体に不自由がないか医官長に診てもらっているところだ」
「それならばご安心です。優れた治癒師の医官長様は古くから皇家に仕えるお方。“薬種“を扱わせたら右に出る者はおりません。医術にも長けたお方ならば、傷心の妃殿下をお任せ致すのもご安心です」
「ああっ、まさに……」
そして皇帝アレクシスが着座を促せば、素直にそれに従う近衛騎士エヴァン。
皇帝アレクシスの下命は絶対ながらも、こうして皇帝の面前にもかかわらず着座を許されるのは、およそ近衛騎士エヴァンぐらいなもの。それほどの信頼を得ていると云うこと。
二人の内密な事案が囁かれる。
* * * * * * * * * *
「それで、辺境の地の貴族のほうは……?」
「はい、すでに花嫁を迎えに発たれそうで、三日の後には此方ヘと辿り着くと思われます。ご心配には及びません。それよりも陛下、かねてよりの件ですが……まさに陛下が言われた通り、やはり生きておられました」
「やはり、な……そうでなければ損壊が激しいからと云い、すぐに火葬され、形見の品すら届かないのも腑に落ちない」
皇帝アレクシスの言葉にまさに、仰られる通りです」と同調する近衛騎士エヴァン。
「ご夫妻共に、こちらの申し出にも快諾して頂けましたので、早駆けにて参るそうです。もう発たれておりますので到着も間も無くかと……彼の地は小国ながらも豊かな国……ましてや王族の一員として迎えられておりますので、これで妃殿下の身分を盾に反対する者はおりません。私から言わせれば、陛下の行いに異を唱える者がいるとは思えませんが……」
「念には念だ、ヴァン」
「確かにそうですね。あの母娘を確実に黙らせるには、まさに打って付け。絶望と驚愕に打ち震える顔が私の目にも浮かぶようです」
珍しく皮肉な笑みを浮かべる近衛騎士エヴァン。
偉大な主君の大切な伴侶を傷付け、今日まで貶めて来た伯爵夫人とその娘には、近衛騎士エヴァンも怒りしか湧かない。
伯爵令嬢セレーナは、明日にはこの帝国の皇后となる大切な身。皇帝アレクシスと並び立つ身分へと封じられる。
即ち、それを害する者は帝国皇帝に「叛意あり」と見做され、処罰されるのは当然の事と心得る近衛騎士エヴァン。
全ての段取りは、もはや滞りなく済んでいる。
そして、この居室を後にする二人。
* * * * * * * * * *
そうした最中、皇家専属の医官長よりもたらされたのが、伯爵令嬢セレーナの|
懐妊。
「それは誠に確かか……医官長?」
思わず玉座から立ち上がる皇帝アレクシス。
(あの時の子か……! ああっ、セレーナ! やはり我らは結ばれる運命。今すぐにでもおまえを抱き締めたい……!)
明らかに相貌を緩める皇帝アレクシス。自然と満面の笑みを湛え喜色に富んでいる。
その様子に医官長も相好を崩す。
「おめでとうございます、皇帝陛下。お美しい皇后陛下は、間違いなく陛下の御子を身籠られておられます。御子の為にも皇后陛下を存分に労ってあげて下さい」
「言われずとも……!」
医官長が告げれば、近衛騎士エヴァンも続く。
「おめでとうございます、皇帝陛下。私からもお祝い申し上げます。久しぶりに帝国にもたらされた慶事。皆も喜びましょう」
近衛騎士エヴァンも祝いの言葉を述べる。
しかし、皇帝アレクシスはと云えば、もはや居ても立っても居られない様子で、すでに退席してしまっている。
後に残された近衛騎士エヴァンと医官長は互いに笑みを交わし、この場から去った皇帝アレクシスの待ち望んだ慶事に歓び露わに讃え合う。
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