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本編

仮面舞踏会の出逢いと月姫の月夜の秘め事

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※R描写があります。苦手な方はご注意下さい。




* * * * * * * * * *


夢なんてみないはずだった。

(でも、今だけは……)

見知らぬ貴公子にもかかわらず、無垢な花を差し出した伯爵家の令嬢セレーナ。

大胆な自分に驚きながらも少しの後悔もしていない。

(そう、儚い夢だからこそ私でも大胆になれる……)

今だけは夢心地の伯爵令嬢セレーナ目の前。おそらく高位の貴公子。

誰も見ていない秘事ひめごとを見守るのは、柔らかな月明かりだけ。

素顔は仮面で覆われているせいで身元も知れない。

誰も地味で控えめな「月姫つきひめ」伯爵令嬢セレーナだとは思わない。


そう、そのはずだった。




* * * * * * * * * * 


此処ここは偉大な皇帝アレクシスが治めるルーカニア帝国。

平和な治世が続いている。

そして数多あまたに存在する貴族の一つ。と或る名門伯爵家の令嬢セレーナ。

伯爵令嬢セレーナの父で商才のあった伯爵家当主ヘンリーが、かなりの財を成したおかげで、およそ貧しさとは無縁な暮らしをする令嬢セレーナ。

その一方で、伯爵令嬢にもかかわらず、常に慎ましく、贅沢を謳歌する事もない。

それと言うのも伯爵令嬢セレーナは妾腹めかけばらの娘。その為、正妻腹せいさいばらの娘フラヴィアより、セレーナが前に出る事は決して許されない。

父である伯爵家当主には認知され、表面上は伯爵令嬢とは言いつつも所詮はめかけの娘。身分社会において、その差は歴然。

商売で不在がちな伯爵家当主ヘンリーに変わり、屋敷を預かる正妻のエミリアが、妾腹の娘セレーナを良く思わないのは当然。ーしかも、当主の心を奪ったアラナの娘。

体裁上は本邸には住まわすも、セレーナに与えられたのは小さな屋根裏部屋。それでもセレーナは、文句一つも言わない。言えるはずもない。


伯爵令嬢セレーナが誕生する以前。

商談で各地を飛び回っていた伯爵家当主ヘンリーが、美しい平民の娘を見初め、手籠てごめにしては欲情の赴くままに子種を注ぎ、孕ませてしまう。

本人の想いとは裏腹に、温厚な伯爵ヘンリーを血迷わせる程に美しい娘アラナ。

ただの平民の娘アラナが貴族に抗えるはずもない。

最早もはや、そのはらに伯爵家当主ヘンリーの子を宿した平民の娘アラナは、有無を言わさずめかけとして身請けされ、伯爵家の別邸に攫われるように囲われる。

その際に生まれたのが娘のセレーナ。

伯爵家当主の若気の至りだったのかもしれない。

更に云えば、愛してもいない正妻エミリアへの当て付けだったにしろ、意外にも伯爵家当主ヘンリーは、めかけのアラナを大切にしていた事は確か。

めかけのアラナ母娘おやこを別邸へと住まわせたのも、正妻エミリアの悪意から守る為。生まれた子にもみずからが「セレーナ月の女神」と名を授け、可愛がっていた事も確か。

ただ、「幸せ」は突然壊れる。

美しいめかけアラナに執着していた伯爵家当主ヘンリーは、娘のセレーナを乳母へと預け、アラナを伴い商談へと。そして不幸にも商談先で暴漢に襲われ、二人共に命を落とす。

亡骸なきがらの損壊が激しく、その地で葬られた訃報だけが伯爵邸にもたらされる。

当然、一人残された妾腹の娘セレーナの状況が悪化するのは目に見えている。

その日から妾腹の娘セレーナは、正妻エミリアの手にゆだねられる。

そして当主ヘンリーの早逝した伯爵家が、これまで膨大な財産を有していたとしても、正妻母娘おやこが慎む事を知らず、残された財産の蓄えを顧りみる事なく、そのまま贅沢に暮らしていけば、当然ながらゆっくりゆっくりと落ちぶれて行くのは目に見えている。

そこで伯爵家を維持する為に犠牲を強いられたのが、体良く存在する妾腹の娘セレーナ。正妻のエミリアが、自分の可愛い娘を差し出すはずがない。

そうした色々な事情が相まり、今に至る伯爵令嬢セレーナ。


今この時は、人気ひとけのない美しい東屋あずまやで、まさかの秘めやかな時を過ごしている。

この夢のような時間ときが終われば、いずれ辺境の裕福な田舎貴族の後妻として、嫁ぐ事が決まっている伯爵令嬢セレーナ。

なかば強制的に、没落寸前の伯爵家への援助と引き換えに、無情にも交わされた身売り同然の婚姻。

婚姻相手は伯爵令嬢セレーナとは、かなり歳のかけ離れた田舎貴族の当主。若い娘を好み、人を皇都へと遣り、花嫁となる娘を探させていた矢先に、没落寸前の名門貴族の惨状を知り、話しを持ち掛ける。

「好色漢で変わった嗜好の持ち主」だと正妻腹せいさいばら義妹いもうとが笑いながら告げていた。

「へぇ、良かったわね。お義姉ねえさま! 地味で美しさの欠片かけらもないお義姉ねえ様でも引き取り手があるなんて! しかも、かなりの財産家らしいから私達も援助してもらえるし、まさに一石二鳥よね?」

愛らしい顔で平然と毒を吐く義妹いもうとフラヴィア。

「私だったらそんな年寄りの好色漢なんてお断りよ。絶っーーー体に嫌っ!」

大袈裟に身震いまでして見せ、くすくすと笑う義妹いもうとフラヴィア。

「ふふんっ、地味なお義姉ねえ様なら案外お似合いよね」

底意地の悪い笑みを浮かべる。

同じ伯爵家当主ヘンリーを父に持ちながら似ていない二人は、母違いの義姉妹しまい。互いの母親の容姿を色濃く受け継いでいる。

義妹いもうとフラヴィアは、金色の巻き髪に翡翠の瞳。母親も貴族出身と確かな血筋。

艶かで派手好きに加え、明るく陽気な性格が、一部の貴族からは密かに称賛され、伯爵家の美しい「の姫」と呼ばれる。

反対に、母親が平民出身の義姉あねセレーナは、暗い黒曜の髪に瞳は琥珀色。見た目も大人しく控えめなせいで「月姫つきひめ」と呼ばれているセレーナ。

決して、称賛されてそう呼ばれるているわけではなく、ただ「の姫」と呼ばれる義妹いもうとと比較されているだけのこと。

見た目の綺麗さとは反して、底意地の悪さが目立つ義妹いもうとフラヴィア。

「卑しい血が流れるお義姉ねえ様が、後妻とは云え正妻になれるだけでもありがたいお話しよね? せいぜい好色親爺こうしょうくおやじのお相手を頑張って……あははっ、傑作よね!」

義姉あねセレーナの不幸を喜ぶ義妹いもうとフラヴィア。

(そんな男に奪われるぐらいなら……)

だから、伯爵令嬢セレーナは心を決め、無謀な行動に出る。




* * * * * * * * * * 


朝から忙しく身支度に追われる義妹いもうとフラヴィア。

粋な皇帝アレクシスの計らいで、半年に一度の割合で開催される皇家主催の仮面舞踏会。

いまだ后も迎えず、独り身の皇帝アレクシス。

この機会に乗じて貴族の令嬢達が、あわよくば皇帝アレクシスの皇后の座を狙っているのは目に見えている。

義妹いもうとフラヴィアもしかり。

義母ははエミリアと義妹いもうとフラヴィアが出掛けた後に、義姉あねセレーナも亡き母アラナが持つ衣装に身を包み、目深まぶかに外衣を被り、辻馬車を利用しては、密かに仮面舞踏会へ。


壮麗にして豪華な皇城。皇帝アレクシスの|居城。

生まれてこの方、伯爵令嬢セレーナが初めて足を踏み入れる会場となる豪華な大広間はまさに圧巻。

豪華なシャンデリアが煌々こうこうと輝く中、色とりどりの艶やかな衣装に身を包む貴族達。

思わず身をすくめる伯爵令嬢セレーナ。それでも仮面で顔を隠しているせいかすぐに気を持ち直し、そっと大広間へと足を踏み入れる。

置かれた酒盃を軽く煽れば気分は落ち着くどころか、反対に高揚してしまう伯爵令嬢セレーナ。

不意に視線を感じて振り返れば、自分自身を見つめる一人の名も知らない貴公子。

ただ、身を包む衣装は漆黒ながらも見事な装飾が施れ、見るからに上質。高位の貴族なのは一目瞭然。

「お美しいご令嬢……どうか一曲だけでもわたくしのお相手を願えませんか?」

「喜んで……」

その手を取る伯爵令嬢セレーナ。

仮面で覆われている今の自分に怖いものはない。見咎みとがめる者もいない。

今までの自分とは違い、大胆に優美に振る舞う伯爵令嬢セレーナ。この大広間の熱がそうさせるとも。

互いの身体からだを密に寄せ合い、踊る伯爵令嬢セレーナの耳元で囁く貴公子の甘い誘い。

「二人で抜け出しましょう……誰も入らない良い場所へとご案内します」

こくりと頷く令嬢セレーナ。

そして貴公子は二人分の酒盃を手に、伯爵令嬢セレーナを誘い出す。

最初からそれとなく惹かれていた伯爵令嬢セレーナ。誰とも知らない貴公子に誘われるままに、その身をゆだねる。

互いに仮面をつけるせいで、正体も身分も顔さえもわからない。

この先も知る事はない。

だからこそ、秘めた自分をさらけ出し、欲望の赴くままに貪り合う。

(一度くらい夢を見たって良い……)

名も知らない者同士。

仮面を付ける貴公子と思わず視線が合えば、差し出された手を迷わずに取る伯爵令嬢セレーナ。

今宵は仮面舞踏会。

一夜限りの背徳な夜。

月夜だけが知る秘事ひめごと

美しい庭園の東屋あずまやに置かれた広い長椅子の上に組み敷かれる伯爵令嬢セレーナ。

その身にまとう衣装の上衣は脱がされ、さらされた白磁器はくじきの肌に隆起する豊かな乳房に魅入る貴公子。

「美しい……」

恍惚と告げる貴公子。

そのまま伯爵令嬢セレーナの乳房の頂きを口に含み、こりこりと舐め回しては、軽く甘噛みをしてみせる。

「あっ……!」

自然と漏れる甘いあえぎ。

口移しで飲まされる酒盃を全て飲み干せば、身体からだの奥底から熱に侵され、下腹部が何故なぜか疼き出す伯爵令嬢セレーナ。

「……はぁっ……あんっ……」

あらがうな……全て私にゆだねれば良い……おまえは美しい」

甘い声音で囁きながらも、尊大さが滲み出す貴公子。

もはや抗わず、淫欲へといざなわれる伯爵令嬢セレーナ。

誰もいない静寂の夜に響くのは、ぬちゅんっ、ぬちゅんっ、ぬちゅりぬちゅりと途切れる事なく響く艶かしい摩擦音。

名も知らない貴公子の肉楔くさびが、先程までは確かに青いつぼみであった無垢な伯爵令嬢セレーナの秘所を犯す。

淫らにあえぐ伯爵令嬢セレーナの秘所は、もはやたぎ肉楔くさびを欲しがる淫花いんかとも。

繰り返し打ち込まれる肉楔くさびが、伯爵令嬢セレーナの秘所を荒々しく犯せば、濃い芳香を放つ蜜液みつえきが溢れ出し、そこは淫靡いんび蜜穴みつあなへと化す。

淫靡いんびな粘着音に激しい息遣い、ずちゅずちゅと次第に激しくなる律動。

貴公子のそれに呼応するかのように自然と漏れる令嬢のあえぎ声。

「ああんっ……ああんっ、やぁ、ああん…っ……」

「可愛い人……共に行こう……」

そう告げる貴公子にずちゅりっと打ち込まれる肉楔くさびが、伯爵令嬢セレーナの蜜壁みつへきを犯し、やがて子宮の奥深くへと放たれる子種含まれる熱い情欲のたぎり。

「あっあっあっ……だめぇ、いやぁ……あっ、ああっ、あああああっーーー!!」

その瞬間、背をらせ、天にも昇るような快美な絶頂へと導かれる伯爵令嬢セレーナ。

「あっ……ああっ……」

たまらない……と思う。

(……こんな甘美な世界があるんて私は知らない……)

もはや力が抜け、貴公子へとしなだれ掛かるように身体からだを痙攣させる伯爵令嬢セレーナ。

貴公子のたぎ肉楔くさびが引き抜かれれば、伯爵令嬢セレーナの蜜穴みつあなからは、互いの情欲の名残りがどろりっと溢れ出し、白く柔らかな内腿うちももへと滴る。

「おまえはだ。いとしい人、まだ終わりではない」

その後は幾度も伯爵令嬢セレーナを抱き続ける貴公子は、「逃がさない……」と呟いては、そのはらに溢れる程の多量の子種汁を注ぎ込む。

やがて快楽の週末を迎えれば、共に眠りに落ちる伯爵令嬢セレーナと貴公子。


空が白み始める頃。

不意に目を覚ましわれに帰る伯爵令嬢セレーナは、自分をいだく貴公子の手からそっと抜け出し、手早く衣装を整えれば告げる。

「……素晴らしい思い出をありがとう」

そっと貴公子の頬へと口付けを落とし、この場を後にする伯爵令嬢セレーナ。もはや振り返らない。

当然、すでに目覚めている貴公子は見事な体躯を起こし、去り行く伯爵令嬢セレーナの背を見つめては、薄っすらと笑みを浮かべる。

「ようやく見つけたいとしい伴侶つがい。私はおまえを……」

そう確かに囁く。

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