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本の蟲編

6.運命確変②証明されし血筋

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「それで、どうやって証明するんだ」
「色んな方法があるけど……例えば、後継者しか使えない魔法を会得するとか」
 ギジア曰く、王侯貴族には一子相伝の秘術があるらしい。しかも教わるのではなく、生まれた時には記憶を受け継いでいるという。
「我が家は察しの通り、変化の魔法だね」
 視線も低くなっているし、別人にしか見えない。この力を利用して密偵や、国の記録を守ってきたのだろう。
「レウの家にもあるのか?」
「二番目の兄貴が、お袋と同じ鉄鎧の魔法を覚えてる」
「長男が継承するってわけじゃないのか」
 レウは忌々しげにそうだと肯定し、性別も関係ないと付け足す。
「面倒だから婿を取る奴が多いけど、女でも家長になったりするな」
 なら今の王家はと訊こうとしたところで、ギジアが「でも」と声を発した。
「今回は別の方法を取ろうと思う」
 まずはこれを見て、と机の上に置いてある物を手で指し示す。
 それは、まるで踊るマンドラゴラのように見える奇妙な物体だった。高さの違う両手の先と、顔の口らしき所に穴が空いている。
「なんだこれ……」
 おもちゃかと思い、怖々触ってみるとギジアが笑った。
「シルベリアくんが作っていた魔力装置を改良してみたんだけど、変かな?」
「変っていうか、なにに使うんだ?」
 奇っ怪な形をしているが、用途が分からない。
「魔力の量や性質の診断ができる物なんだけど、そこから遺伝情報が探れるようにしたんだ」
 遭難者を探すてがかりにならないかと思ってと言うギジアに、エディスはへぇ……と声を漏らした。
「へぇ…そんなことできるんだな」
「うん。魔法と科学が掛け合わさるなんて面白いよね」
 これも時代の進歩だよと、実に面白げに笑ったギジアが機械を見上げる。腰に手を当て、姿勢を正して立つ彼はイーザックと同一人物とは思えない。
 ちょっと待ってねと言って戸棚に近づいたギジアが、小さな引き出したから取り出した物を手に取って見せてきた。
「これ、うちの家に保管されていたエディス殿下と、陛下の魔力なんだけど。これをこの機械に入れて混ぜ合わせます」
 ガラス瓶の中に、それぞれ白銀と黄金の光る球体が入っている。エディスとレウはそれを覗きこんで「へえ」と感嘆の声を出した。
「魔力ってこんななのか」
「アンタが紋章描いてる時にも見えてるけどな」
 そう言われればそうかと頷きを返し、エディスは曲げた背を戻す。
 ギジアは瓶を振りながら「この二つを混ぜた物とエディスの魔力が同じ色なら、君がエドワード王子だね。魔力は生まれつきのものだから」と言う。
「でも、ドゥルース……フィンティア家の一人息子みたいに、魔力異常で一人だけ属性が違うこともあるだろ」
「それでも両親から継いだ魔力の構成要素は変わらないし、色も同じ。それは俺で実験済だから安心して」
 どんと胸に手を当ててから「これ、魔法が使えないくらい魔力が少ない人でも調べられたしね」と余程お気に召したらしい機械に頬ずりまでする。
 外見は別でも中身は同じなんだな……とレウがふっと息を吐いて視線を逸らすのを見て、エディスは手を伸ばした。手の甲をぎゅっと抓ると、レウは小さく悲鳴を上げ、こちらを睨んでくる。それに恩人に失礼なことを言うんじゃないと睨み返してから口を開く。
「混ぜ合わせたら白っぽい金か、黄色っぽい白になるんじゃないか?」
「どうだろうな、エディスの特性からすると陛下寄りな気がするんだけど。同じなんでしょ、魔力異常が」
 「分かるよ」と言って人差し指で下唇を押し上げるギジアに、エディスは手を返して見た。
「……なあ、ギジアって貴族に生まれて幸せだったか」
 顔を上げて少しだけ年上の男を見ると、彼は突拍子もない質問を受けた割にほんのりと口に笑みを湛えていた。
「そんなの、そこそこですよ?」
 うちは母さんたちが使い果たしちゃったからお金ないしねと舌を出したギジアに、エディスはそういうことかよと乾いた笑みを浮かべる。貴族にだって、色んな家がある。その思惑は伝わった。
 姿かたちは変わっても、魔法が好きで、どこか冷めていて――優しい人だ。 
「生まれじゃなくて。いかに努力を諦めないかが大事だと思うなあ、俺は」
 そう言いながら、ギジアは瓶の蓋を開けて真ん中に大きく開いた口から投入する。もう一本注ぎ入れたギジアがこちらを向く。
「君、世渡り上手そうだから大丈夫じゃないかな」
 そう言って機械を動かし始めたギジアに、レウが「躊躇しないな、あの人」と囁いてくる。頷いて上下に揺れる機械を見つめていると、右手に光の玉が出現した。
 それを見たエディスとレウの口から「え……?」「聞いてた話と違うな」と言葉が零れ落ちていく。
 まるで白銀を抱き締めるかのように金がぐるりと取り巻いている。まぜ合わさっていない二色を指差し、「あれって失敗?」と揃ってギジアを見た。
「いや……えぇ? こんなのは初めて見たよ」
 どっちも我の強い魔力なんだなとギジアが困ったように頭を搔く。そして「とりあえず入れてみてよ」と促してきた。
「これだけ遺伝的に持ってる魔力が喧嘩し合うなら、拒否症を患っててもおかしくないね」
 なるほどと一人で納得した風のギジアをおいおいと横目で見ながら機械に近づいていく。紋章を描く時と同じように魔力を体外に放出させ、ぽっかりと空いた口に流し込む。
「入れすぎると割れるよ」とギジアに言われ、難しいなと呟きながらもポタポタと注ぎ入れていく。もういいと言われたところで止め、後ろに引いた。
「さあ、どうなるかな」
 楽しげな声に失笑する。だが、心の奥底では震えていた。恐怖に近い。
 レウが手を伸ばしてくるのが見えたが、誰かと繋がるのが怖くて手を引く。喉に棘が刺さったような痛みが走って、歯を食い締めながら見上げる。
 逆光で顔の見えない貴族が手で差し示す先の天秤の両側には、揃いの光玉があった。
「これで証明完了だ」
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