上 下
70 / 195
能力者編

8.強襲、そして絶望

しおりを挟む
 はっはっと荒い息をしながら、エディスは膝に手をつく。周りを見てみると、皆ほぼ軽傷しか負っていないように見えた。よかった、と胸を撫でおろしたが、なぜかぐっとこみ上げてくるものを感じた。不思議に思ったが、それは上手く止まらず、溢れ出てくる。
「アンタもついに負傷したか?」
 エディスの様子に異変を感じたレウが寄ってきた。大丈夫だと声をかけたかったが、抑えようのない感覚に体が震えてくる。
「う、え……っ」
 口から出てきたのは、血だった。手で押さえても止まらないそれに、憎まれ口を叩いていた者も目を丸くする。
「中尉!?」
「おいアンタ、大丈夫か!?」
 手を上げて大丈夫だと伝えるが、どの人も曇った表情を隠さずに見ている。
「ただの魔力の使い過ぎだ」
「使い過ぎって、そんな……」
 背を丸めて血を吐くエディスから目を反らす者もたくさんいた。
「毎日殺してばっかいるからだろ」
「それが俺の仕事だ」
 ようやく収まったエディスは、胸を押さえながら背を伸ばす。ぐっと指で血を拭い、後ろを向いた。
「さ、帰るぞ」
 と言って歩き出そうとした時、前方から悲鳴が聞こえてきた。エディスは駆け出し、周りの者たちも振り返る。
「今のっ、なんですかね!?」
「わからん、とにかく走れ!」
 叫びながら後方まで戻っていくと、銃部隊が逃げようとしてか、自分たちの方に向かってくる。その内の一人の腕を掴んで問いただそうとするも大声で悲鳴を上げて、腕をひっ叩かれた。
「おい、どうした!」
 叫ぶが、皆逃げ惑うばかりで説明をしようともしない。エディスは舌打ちをしようとしたが、随伴していたレウが指を差して口を開いた。
「オイッ、アンタ! 上だ!」
 エディスが上を見ると、そこには大量の魔物がいた。上半身は人間で下半身は鳥という、鋭い鉤爪を持ち、超音波を放つ魔物だ。
「厄介な奴が……!」
 素早く剣や銃ではなかなか倒せない。だからといって魔法に耐性があるので小さい魔法では倒すことができない。苦手とする者が多い魔物だ。
「伏せろ!!」
 大声でそう叫ぶと、皆、地に伏せる。エディスは足を踏み鳴らし、片手を上に伸ばした。
【護り神よ 我らの上へ!】】
 唱えると、頭上にシールドが張り巡らされていき、魔物を弾き出す。それからエディスは、左手も頭上に上げた。
【聖天のラグリドリス
 曇天のドゥーラグオクス
 涙天のシューラアッガーシャン
 雷天のイシュトギルス】
 円を描くように腕を振るい、複雑な紋章を宙に作り上げていく。八つもある紋章を描ききったエディスは、声を張り上げた。
【今 この紋章を描きし者の命に従い
 その力を振るえ!
 暴走せよ 荒れ狂え 天の魔人達よ!】
 ザッと槍のような雨と雷が降り注ぎ、撃たれた魔物がシールドの上に落ちてきた。まだ残党がいるのを見たエディスは、もう一度口を開く。
【ランドラギルスの槍よ
 振り落ち 穿ち 空を開けよ!】
 目に焼き付くかと思う程の苛烈な稲妻が空を一閃した。黒い煙が晴れた空に、雲以外のものが浮かんでいないことを確認したエディスは、地に膝をつける。
「あっ、が……がはっ!」
 がぼりと開いたエディスの口からまた血が吐き出された。
「お、おい! アンタ、無茶すっから!」
 それを見たレウが慌てて立ち上がり、駆け寄る。他の者も声をかけたり、起き上がったりなどする。
「コイツのパートナー呼べ! 連れて帰るよか早いだろ!」
「い、いい」
「は?」
 肩を抱えてくるレウとアイザックの腕を掴んだエディスは、口の周りを汚す血も気にせずに言いきった。それにレウは思い切り眉をしかめる。
「よくねえよ! おい、誰か」
「中尉!」
 鉤爪で肩を抉られたのか、破れた服と溢れる血を布で押さえた軍人がエディスたちの方にやって来た。後方の銃部隊の者だ。
「あなたのパートナーが!」
 エディスは近づいてくる者の顔を見て、足の感覚がなくなっていく気がした。真っ白な顔が、血を失っただけだとはどうも思えなかったのだ。
「どうした」
「……あなたのパートナーを、庇って」
 嫌だ、聞きたくない、と頭の中で声がした。
「庇われて……シルク様が」
 ぼろぼろと涙を零す軍人を見ているエディスは、腕をだらんと伸ばして崩れ落ちるように地面に膝をつく。
「シルク様が、戦死されました……っ!」
 目の前が急に暗くなったように感じられた。今まで自分の傍にあった光が、消えていく。
「そんな。うそだろ……」
 愕然としていたエディスだったが、地面に手を突いて立ち上がる。そして、部下の制止も聞かず、走っていった。
「シルク、シルクッ!」
 エディスが辿り着くと、辺りはすでに血だらけの状態だった。鉄の臭いに、鼻を塞ぎたい気持ちになってくる。
 嘆きの中心に座っているシトラスの姿を見つけ、傍に寄った。
「シト……」
「寄るな!!」
 だが、思い切り力を入れて胸を押された。ふいに押されたエディスは、後ろに尻餅をつく。
「シルクに触るな、この……人殺し!」
「あぁ!?」
 シトラスを見ると、暗く黒い目を血走らせて、エディスを睨み付けていた。涙を流している目に映る悲しみに、エディスはたじろぐ。
「僕らを守るって言ったくせに。お前は、お前のせいで!!」
 お前がシルクを殺したんだ! と叫ぶシトラスから、エディスは目が離せなくなった。地についた手に柔らかいものが触れ、思わずそれを握り締める。
「許さない。一生お前を恨んでやる!!」
「お前、能力は……」
 かろうじて出た声に、シトラスはさらに目尻を吊り上げた。
「僕までも殺す気だったのか!?」
「そんなことは言ってないだろ、一人でも能力は使えるはずなんだ!」
「能力なんか使ったら死んじゃうだろ! 僕が苦しんでいることを、お前はいつも理解してくれない!」
 たたみかけるように言ってくるシトラスに、エディスは困惑するばかりだった。
 シルクを腕に抱えたシトラスは、エディスを蹴り倒してから去っていく。倒さ伏したままのエディスは、強く握りしめていた手を開く。すると、ぽとっと地面に肌色のものが落ちた。くしゃっと醜く歪んでしまったそれは、人の耳だった。
「シルク……!」
 赤いルビーのピアスを見たエディスは、声もなく泣き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

君なんか求めてない。

ビーバー父さん
BL
異世界ものです。 異世界に召喚されて見知らぬ獣人の国にいた、佐野山来夏。 何かチートがありそうで無かった来夏の前に、本当の召喚者が現われた。 ユア・シノハラはまだ高校生の男の子だった。 人が救世主として召喚したユアと、精霊たちが召喚したライカの物語。

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...