悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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能力者編

1.間違えた選択肢

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 シルクと合流してからミシアに連れられて来たのはアクセサリーのお店だった。なんでもない普通のお店に王女が入ってもいいのか? と不安に思いながら扉を潜り抜ける。
「わーっ、これ可愛い!」
「きっとお似合いになりますよー」
 だが、にこにこと店員と話している姿を見て、大丈夫そうだなと結論づけた。そして、自分も商品を見る。
 宝石をあしらった物、なにかを象った物、金属を使った物と様々な種類のアクセサリーが並んでいる。その中の一つをエディスが手にとってまじまじと見ていると、「アンタなら右のシンプルなのが似合うと思うぞ」と間近から声を掛けられた。
「うっ、うわ! ビックリした……なんでお前いるんだよ」
 いきなり背後から声を掛けられたエディスが振り返ると、そこにはレウがいた。いつもの軍服ではなく、黒の半袖シャツにズボンという軽装だ。
「なんでって、暇で歩いてたら見かけた顔がいたんでね」
 エディスがさっと商品を元に戻そうとすると、その手を握り込まれる。目の高さまで持っていかれ、細部を確認された。
「綺麗な細工品だな。……買ってやろうか?」
「なんでお前に。いい!」
 アクセサリーを奪い返して、元の場所に戻す。
「俺じゃなくて、シルクにでも買ってやれば。王女様だぞ」
 なんでアクセサリー屋で男にべったり引っ付くんだ、お前もシルクとは話したことあるだろうがと睨む。だが、レウは涼し気な顔で、「アンタが一番目立ってたからですかね」と平然と珍妙な答えを出してきた。
「はあ? そんなわけ……」
 抗議をしようとして周りを見渡してみると、数人の男と目が合った。意味ありげな視線とぶつかったエディスは、ぱっと別の方向に顔をやる。
「な? 俺の言った通りだろ」
 したり顔のレウに覗きこまれて、動揺で早鳴っている心臓の辺りの服を握り込んだ。
「な、なんで俺見て……っ」
 他にもっと見るとこあるだろと困惑しているエディスに、レウはそうだなあと考える素振りを見せた。だが、すぐにエディスの顎を節が目立つ長い指で捉え、視線が合うように仕向けてくる。
「可愛いから」
 ふざけるなと言って手を払いのけたエディスが背を向けると、肩を抱いて引き寄せてきた。
「俺がいなくなったらアイツら来ると思うぞ」
「そっ……れは」
 困るけどと尻すぼみになったエディスの手を、大きな手が包み込む。
「ならそんな顔で一人でいない方がいいんじゃないですかね。危険なんで」
「わ、分かった」
 頷いて、少しだけ身を寄せる。上背もあり筋肉質な体のレウは、見るからに一般人ではない。そんな彼が傍にいると、誰も近寄れなくなった。不躾な視線も散らばっていき、エディスは息を吐く。
「どれが見たいんだ」
「じゃあ……あっち」
 指差した所まで手を引かれて歩いていき、シンプルな宝石がついたピアスを見る。大小さまざまな色のそれを見ていたエディスは、その中の一つを手にとった。
「それか?」
「え? うん」
 値札を見ると少々値が張る代物だったが、まあ値段相応だろうとレジに持っていく。
「プレゼントか?」
「そうだけど、なんなんだよ」
 綺麗に包装してもらうのを見ていたレウだったが、なにかに気が付いたのか口を弓の形にして「へえ~」と笑った。
「お優しい上官だな」
「……ちょっとは黙ってろよ」
 顔が赤くなってきているのを感じて、頬を手で拭う。店員に微笑ましげに見守られていることに気が付いたエディスは、「ありがとう」と言って商品を受け取ってから店を出る。袋を鞄の中に入れていると、レウが「それじゃ、俺はここで」と離れようとするので思わず腕を掴んでしまった。
「ーーなんですか。まだなんかあります?」
 訊ねられても困る。体が勝手に動いただけで、用事も言うこともなに一つないのだから。
「あ……えっと、行くのか」
「は? そりゃそうだろ。アンタならともかく、休日にルイース大佐と一緒に歩きたくないからな」
 護衛はここまで、と体の方向を変えさせられて前に押し出される。
「後はお父さんと一緒に休みを過ごすんだな」
 そう言って離れていく熱に、エディスは後ろ髪を引かれるような心地で振り返った。もうすでに歩き出していたレウの後ろ姿が見え、ここから走って追いかけたらどうなるんだろうかと心が揺れ動く。
 だが、口を開いたり足が動く前に「エディスー、どうした」とミシアに声を掛けられた。
「なんだ、ナンパでもされたか」
 店にいなくて驚いたぞと言われるが、素直にレウといたと言えなくて首を振るだけで済ませる。ミシアは勝手に解釈したようで「離れるなよ」と父親然とした顔になった。
「飯食って、映画でも観に行くか」
「映画?」
「それともビスクも誘ってオペラに行くか」
「オペラ……」
 ただ言葉を繰り返して言うだけのエディスに、ミシアはどちらも観たことがないんだな、と眉を下げる。
「今日がビスクが休みだから一緒にオペラ行って、明日映画に行こうな」
「よくわかんねえけど、わかっ――」
 エディスが話し出した時、大きな爆発音が聞こえてまだシルクたちがいるはずの店内が暗くなった。たちまち周りは悲鳴の渦と変わる。
「大丈夫だ、落ち着け!」
 エディスがその悲鳴に負けないくらいの声量でそう叫ぶと、しゃがんで頭を押さえたり、背を丸めて耳を塞いでいた人たちは顔を上げた。
「すぐに倒す。安心してくれ。……ミシア」
 傍らのミシアを見上げると、はーっと大きなため息が出される。
「シルクを頼む」
「……なにも休みまで働かなくても。おい、シトラス!」
「はっ、ははははいぃ!?」
 店の隅でシルクの足にかじり付くようにしてしがみ付いているシトラスにミシアが叫ぶと、情けない声が返ってきた。
「お前、コイツについていけ」
「えええ! いっ、嫌ですよ!」
「コイツと一緒なら安全だ」
 そう言うと、シトラスは生まれたばかりの仔馬のごとき震えようで立ち上がる。そして、頑張れ、と背中をシルクに叩かれながら来る。
「お前が正式に軍に入るつもりなら行ってこい、これを最終試験とする!」
 ひいっと泣き声を出すのに、エディスは哀れだと思いながらも先を促す。爆発音は止んでいない。被害が広がる前にどうにかしないといけない。
「先に行くぞ」
「い、一緒に行きます……っ!」
 ドアを開けてそう言うと、へっぴり腰ながらもついてくる。どうやら、離れたら死ぬと思っているようだ。エディスはシトラスにでも追いかけられる速さで走り始めた。
「見えた、急ぐぞ!」
「は、はい!」
 走っている内に冷静になってきたのか、走って疲れたのか、言葉尻が強くなってきた。それに唇の端を上げる。
 エディスはくぼみに足を入れ、門に上った。
「そこにいろ! 近い!」
「えっ、えええ!?」
 屋根の上まで跳び上がったエディスは、宙に複雑な紋章を描いていく。白みを帯びた水色に発光していく紋章の中心に手を触れながら口を開く。
【聖天のラグリドリス
 曇天のドゥーラグオウス
 涙天のシューラアッガーシャン
 雷天のイシュトギルス

 今この紋章を描きし者にその力を渡し、振るえ!
 我 紋章術師エディスの名の元に
 暴走せよ 荒れ狂え 天の魔人達よ!】
 唱えると、紋様から出でた雷撃が周りにいる魔物を一掃していく。空を見上げたシトラスは、自分よりも年下の少年が起こしていることに、魅了された。
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