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別離編
7.模造品は水を求める
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「……シルベリアとシュウって、幼なじみなんだよな?」
「そうだよ。って言っても、俺が王家に売られるまでなんだけど」
売られる? と眉を顰めたエディスに、シルベリアは俺の髪ってお前のと似てるだろと笑って自分の髪を摘み上げた。
「これが国王に気に入られてさあ。ちっせえ時に身請けされたんだよ」
わははと大きな声で笑って、シルベリアはベッドに寝転んだ。頭の下で腕を組んで、目を閉じる。
「レストリエッジ子爵家は、俺が十一歳の時に取り潰しになったんだ。しかも、エンパイア家……っていうか、貴族会議の了承なしで」
うちの親が馬鹿でさー事業に失敗して借金作ったんだよと言うシルベリアに、エディスは首を傾ぐ。
「親は北のド田舎のちっぽけな村の管理役に回されたからいいとして、俺は王家に引き取るとかで王様が迎えに来てさ」
俺の髪しか見てねえのとため息を吐くシルベリアに、エディスは親父(仮)を思い浮かべる。――ありえそうだ。なにせ、もしかしたら息子相手なのに勃起するような奴だからな。
「周りも媚びるだけで助けてくれねえの」
「……シュウだけが助けてくれた、とか?」
「当たり。王様思いっきり突き飛ばして、二人で決死の大脱走」
お向かいさんのエンパイア家までなと言うシルベリアに、貴族の住まいが分からないエディスはへえと言う。
「まあ捕まったんだけど。俺たちの愛の逃避行、二十分そこそこな」
寝返りを打ったシルベリアがこちらを向く。額に被さる髪を指ではらい、顔を覗き込んでくる。
「エディス、ってな。呼んだんだよ」
国王がと囁かれ、胸が鼓動を打つ。母親だと思われる女性の名前、今は神の間に封印されている女の――
「ソイツはシルベリアだ。シルベリアを誰かの代わりになんてするな! なんてシュウが怒って」
王様のふくらはぎに噛み付いて、父親に顔がそっくりなシュウを罵倒するんだよとシルベリアの眉がなだらかに落ちる。
「キシウに惑わされた犯罪者の息子が。王の血が入ったからとて、下賤の血は綺麗になどならぬぞ! ってな」
「キシウ……?」
知らない名前を呟いたエディスの唇を、シルベリアの指がなぞった。
「シュウの義理の母親の名前、な」
「義理の母親? じゃあ、シュウには王家の血が入ってないんじゃ」
「今の王妃の姉で、アイツの母親が亡くなった後に自分の息子だって戸籍を改ざんさせたんだ。だから、戸籍上は王家ってことになる」
お前と同じ、と青い目が訴えかけてくる。
「でも、王位継承権は与えられない。キシウ・ティーンスはシュトーさんと一緒になる為に王族を抜けたからな」
キシウ……初めて聞いたのに、どこか馴染みのある言葉だ。
もし、もし本当にあの魔女の言うことが事実なら、俺が出会ったのはエディスさんではなくキシウなのだろうか? そう確信に近いものを感じた。
だが、今それは口に出すべきではない。なぜなら、誘拐したのがキシウだと決定づけるようなものだからだ。
「それで? 愛の逃避行の結果はどうなったんだよ」
額を小突くと、シルベリアは目を丸くして――それからニヤッと小憎たらしい顔で笑った。
「たまたまお庭でピクニックをしてたエンパイア公子とシルク様がいて、助けを求めたんだよ」
すごい偶然だろと笑うシルベリアに、エディスは呆気に取られた。父親が自分より少し上のお兄さんたちを追いかけてるシーンなんて見たくなかっただろうに、なんて可哀想なお姫様たちだと眉間に皺が寄る。
「変態オヤジは二人が呼んだビスナルクさんに怒られて王宮に帰り、俺はブラッド家で暮らすことになりましたとさ」
良かったと息を吐くエディスに、シルベリアは「お前は?」と訊いてきた。それになにがと訊き返すと、「王宮に呼ばれたことないのか? こんなに王子っぽいのに」と髪を掬い上げる。サラサラと落ちる銀の髪を見て、エディスの目が細まっていく。
「あるよ。でも、アイツ変な薬飲まされて話もあんまできないじゃん」
惑わせの魔法をかけたらふっ飛ぶみたいなんだけどと言うと、シルベリアはぽかんと大口を開けた。
「お前、それ不敬罪……」
「俺が本当に血が繋がってた方がヤバいだろ」
抵抗しなかったら親子でってなっちゃうじゃんと言うエディスに、シルベリアは体を傾けて、そうか? いや、そうだなと悩む。
「ブラッド家が盛ってるって本当なのか?」
「それは……多分。何回か見たことあるから」
なにかあったら証言できると言うのだから本当なのだろう。
「随分キナ臭い話になってきたな……」
「おい、知ってる奴なんてほとんどいないんだから誰にも言うなよ」
ツン、と額を小突き返されたエディスは唇を尖らせて「わかってるよ」と言う。
「嫌われ者の二世ばっか集めて、どうするつもりだ? 向こうでリスティー・フレイアムとも仲良くなったんだろ?」
「うん……そうだな」
ロクでもない親ばっかで、国の行先とか未来とかそんなのはなにも分からないけど……一つだけ断言できることがあった。
「みんなで、ハッピーエンドって笑え合えればいいかな」
好きな人に囲まれて死ねれば満足とまではいかないが、嫌いな奴よりかはマシだ。
「そうだよ。って言っても、俺が王家に売られるまでなんだけど」
売られる? と眉を顰めたエディスに、シルベリアは俺の髪ってお前のと似てるだろと笑って自分の髪を摘み上げた。
「これが国王に気に入られてさあ。ちっせえ時に身請けされたんだよ」
わははと大きな声で笑って、シルベリアはベッドに寝転んだ。頭の下で腕を組んで、目を閉じる。
「レストリエッジ子爵家は、俺が十一歳の時に取り潰しになったんだ。しかも、エンパイア家……っていうか、貴族会議の了承なしで」
うちの親が馬鹿でさー事業に失敗して借金作ったんだよと言うシルベリアに、エディスは首を傾ぐ。
「親は北のド田舎のちっぽけな村の管理役に回されたからいいとして、俺は王家に引き取るとかで王様が迎えに来てさ」
俺の髪しか見てねえのとため息を吐くシルベリアに、エディスは親父(仮)を思い浮かべる。――ありえそうだ。なにせ、もしかしたら息子相手なのに勃起するような奴だからな。
「周りも媚びるだけで助けてくれねえの」
「……シュウだけが助けてくれた、とか?」
「当たり。王様思いっきり突き飛ばして、二人で決死の大脱走」
お向かいさんのエンパイア家までなと言うシルベリアに、貴族の住まいが分からないエディスはへえと言う。
「まあ捕まったんだけど。俺たちの愛の逃避行、二十分そこそこな」
寝返りを打ったシルベリアがこちらを向く。額に被さる髪を指ではらい、顔を覗き込んでくる。
「エディス、ってな。呼んだんだよ」
国王がと囁かれ、胸が鼓動を打つ。母親だと思われる女性の名前、今は神の間に封印されている女の――
「ソイツはシルベリアだ。シルベリアを誰かの代わりになんてするな! なんてシュウが怒って」
王様のふくらはぎに噛み付いて、父親に顔がそっくりなシュウを罵倒するんだよとシルベリアの眉がなだらかに落ちる。
「キシウに惑わされた犯罪者の息子が。王の血が入ったからとて、下賤の血は綺麗になどならぬぞ! ってな」
「キシウ……?」
知らない名前を呟いたエディスの唇を、シルベリアの指がなぞった。
「シュウの義理の母親の名前、な」
「義理の母親? じゃあ、シュウには王家の血が入ってないんじゃ」
「今の王妃の姉で、アイツの母親が亡くなった後に自分の息子だって戸籍を改ざんさせたんだ。だから、戸籍上は王家ってことになる」
お前と同じ、と青い目が訴えかけてくる。
「でも、王位継承権は与えられない。キシウ・ティーンスはシュトーさんと一緒になる為に王族を抜けたからな」
キシウ……初めて聞いたのに、どこか馴染みのある言葉だ。
もし、もし本当にあの魔女の言うことが事実なら、俺が出会ったのはエディスさんではなくキシウなのだろうか? そう確信に近いものを感じた。
だが、今それは口に出すべきではない。なぜなら、誘拐したのがキシウだと決定づけるようなものだからだ。
「それで? 愛の逃避行の結果はどうなったんだよ」
額を小突くと、シルベリアは目を丸くして――それからニヤッと小憎たらしい顔で笑った。
「たまたまお庭でピクニックをしてたエンパイア公子とシルク様がいて、助けを求めたんだよ」
すごい偶然だろと笑うシルベリアに、エディスは呆気に取られた。父親が自分より少し上のお兄さんたちを追いかけてるシーンなんて見たくなかっただろうに、なんて可哀想なお姫様たちだと眉間に皺が寄る。
「変態オヤジは二人が呼んだビスナルクさんに怒られて王宮に帰り、俺はブラッド家で暮らすことになりましたとさ」
良かったと息を吐くエディスに、シルベリアは「お前は?」と訊いてきた。それになにがと訊き返すと、「王宮に呼ばれたことないのか? こんなに王子っぽいのに」と髪を掬い上げる。サラサラと落ちる銀の髪を見て、エディスの目が細まっていく。
「あるよ。でも、アイツ変な薬飲まされて話もあんまできないじゃん」
惑わせの魔法をかけたらふっ飛ぶみたいなんだけどと言うと、シルベリアはぽかんと大口を開けた。
「お前、それ不敬罪……」
「俺が本当に血が繋がってた方がヤバいだろ」
抵抗しなかったら親子でってなっちゃうじゃんと言うエディスに、シルベリアは体を傾けて、そうか? いや、そうだなと悩む。
「ブラッド家が盛ってるって本当なのか?」
「それは……多分。何回か見たことあるから」
なにかあったら証言できると言うのだから本当なのだろう。
「随分キナ臭い話になってきたな……」
「おい、知ってる奴なんてほとんどいないんだから誰にも言うなよ」
ツン、と額を小突き返されたエディスは唇を尖らせて「わかってるよ」と言う。
「嫌われ者の二世ばっか集めて、どうするつもりだ? 向こうでリスティー・フレイアムとも仲良くなったんだろ?」
「うん……そうだな」
ロクでもない親ばっかで、国の行先とか未来とかそんなのはなにも分からないけど……一つだけ断言できることがあった。
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