悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
上 下
42 / 208
南部編ー後半ー

3.ゴリラ発射扉

しおりを挟む
 


 ――グラグラグラと激しく揺れる。
 これは、このアヒルがわざと揺らしているのだろう。
 そのせいで、水が中にどんどん入ってきて、徐々に身体が沈んでいく。

「やっ、やだ! なんで? 私を助ける為に、来てくれたんじゃないの!?」
『グァ"ア"ア"ーーグァァゲゲゲッ! グァア"ア"ゲゲゲッッ!!』

 笑っている。いや、これは……嘲笑っている。

「そんな……! あなたは、自由に浮けるからいいじゃないっ! 私はそうじゃないの! 可哀想に思わないの!? 出来る人が、出来ない人を助けるのが当たり前じゃないっ!!」

 大きく口を吊り上げ、嗤い、嗤い、嗤われる。

 その嗤い顔や、声を聞きたくなくて。私は耳を押さえ、下を向く。

(嫌だ。こんなの……嫌、嫌、嫌。誰か、誰か、助けて……誰か……――)

 その時――脳裏に、未来ちゃんの温かな笑顔が浮かぶ。

 私は、凜々花たちにいじめられているのをいつも庇ってくれる、未来ちゃんにお礼を言ったことがあった。
 すると――『そんな、お礼なんてしなくていいよ。あっ! でも、もし……私が悲しい時があったら一緒にいて欲しいな。それが、一番嬉しいよ』と未来ちゃんは、温かな笑顔を浮かべていた。

「あ……。悲しい、時に…………」

 未来ちゃんは、泣いていた。ずっと、ずっと、悲しそうに泣いていた。
『一緒にいて欲しい』という、ささやかな願いすら……私は叶えてあげることが出来なかった。


 ――未来ちゃんが、私の代わりになると言ってから。凜々花たちに言われるまま、私は未来ちゃんから自然と離れていった。

 未来ちゃんは傷ついたような、悲しそうな顔を浮かべて私を見ていたのに……。私はそれを分かっていて、見て見ぬふりをした。

 何かを言い返すことは出来なくても。凜々花たちの指示を聞くことをせずに、未来ちゃんと一緒にいることは出来たはずだ。
 2人なら、苦しいことも半々になったかもしれないし、助け合えただろう。

 そもそもは、未来ちゃんは私のせいで辛い思いをすることになったのだから、そうすることは当たり前なことなのに――。

 私は、私をずっと助けてくれた未来ちゃんを、ひどい方法で裏切ったのだ。


「ぁっ、あああああーーー!! 未来ちゃん、未来ちゃん、未来ちゃんっ!!」

 今さら、今さらなことなのに……時間を戻してやり直したい。

 なんで、今になって大事なことに気が付くのだと。むしろ、気が付きたくなかったと――苦しい胸を強く押さえながら、泣きわめく。


 うるさいというように、グワリと足元が傾き。勢いよく水中に放り出された。


「ゲホッ、ゲホッ……!」

 水が鼻に入り、ツンとする。

 しかし、それが治る前に――身体が、強い流れに引っ張られる。
 ゴゥゴゴゴゥウ……! と雷鳴に似た音。
 私が引っ張り込まれた場所。そこは、渦潮の中であった。

 ブクブクブクブクとたくさんの泡が視界を占めている。もみくちゃに回転して、浮上することなど到底無理だろう。

 泡の隙間から顔を覗かせた、白いアヒルが『ギャボッ、ギャボッ、ギャボッ!!』と大きく口を開けて嗤っている。
 口の中は、サメの歯のような何重にもなっている鋭い歯が、ビッシリと生えていた。

 その白いアヒルに、ガブリと肩を齧られ。鋭い歯が、肌にめり込む――そして、じわじわじわと何かを体内に入れられている。

(……っ、いっ、痛っ、痛い、痛い、痛いぃ"い"い"!!)

 身体中が焼けるように痛い。
 体内を、ぐちゃぐちゃに掻き回されているような痛さだ。
 そして直ぐに、私の身体がドロドロと溶けていく。

 それを、悪い視界の中でも理解し。恐怖に叫ぼうと息を吸い込んだことで、ガボガボガボと水を大量に飲み込んでしまった――。


(助け……て、未来ちゃ……――)


 私が、助けを求めた人物は――無情にも、己が裏切り、既にこの世を去ってしまった哀れな女の子であった。


しおりを挟む
WEB拍手設置中。感想などいただければ嬉しいです~。
(現在のお礼SSはランダム2種)
WEB拍手
感想 4

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...