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南部編ー後半ー
2.できたてのココロ
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目が痛い程に白い部屋の中央には、ベッドが一つだけ置かれていた。ベッドを挟んで立って見下ろした先には、肩より少し長い黄色の髪をした少年が横になっていた。
以前よりも増して人のように感じられる。
リスティーが厳しい顔つきで機械に入力しているのを見つめていると、アンタなにしてんのと言わんばかりの怪訝な顔をされてしまう。
これから、最終段階の調整に入る。それが終わればこの人造人間は生を得ることになるのだ。
厳重に保管していた鞄の中から、手の平大の白い箱を取り出す。蓋を取って中身を共同制作者に見せると、彼女はパチリと音がしそうな瞬きをした。
「それが感情記憶媒体?」
目を合わせて肯定すると、リスティーが手早く機械に打ち込んで少年の左胸の部分を開ける。
「そこに入れて」
形は合うはずよ、と促されたエディスは、箱の中からそっと取り出した物を少年の胸の中に篭める。
六角形の青い宝石が、照明の光を反射してきらめく。
「心が宝石だなんて、アンタにしてはロマンティックよね」
「別に、宝石をモチーフにしてないぞ。お前がそう思っただけだろ」
聞いたリスティーは右の奥歯を噛み、また機械に向き直る。十分ほど打ち込んでいたかと思うと、ふいに手を止めた。
「よっし、これで完了!」
できたー! と叫んだリスティーがベッドに手を突いて少年の顔を覗き込む。
「カーロルッ」
エディスもベッドに腰掛け、「カロル」リスティーと同じように、顔を覗き込んで呼びかける。
こんな風に囲んでしまったら、怖がってしまうかもしれないと考えた。だが、こんなことぐらいで怖がったりはしないだろうという気持ちが勝る。
もう一度リスティーが名前を呼んだ時、まつ毛が震えた。そして、瞼が持ち上げられて目が開いていく。
「おはようっ、カロル!」
リスティーの嬉しそうな声を聞いて、その少年は確かに笑ったのだ。
「ねーねー、エディス。どこ行くのー?」
小さな子どもというのは、こんなに面倒なものなのかとエディスは苦く思っていた。まとわりついた腕に首を絞められて息が苦しい。
「リスティー……ジェネアス~」
頼みの綱は同室にいる友人くらいのものだというのに、二人ともは面白そうに笑って見ているだけでなにも言わない。
「お前ら面白がってんなよ!」
思い切り叫ぶと、やっと「はいはい」と応えが返ってきたので、引き剥がしてもらえるように頼んだ。
「コイツどうにかしてくれよ」
後ろできゃっきゃと喜びの声を上げ、エディスの結んでいる髪で遊んでいるカロルに向かって指を差す。だが、リスティーは「私のカロル、かわいい~っ。顔が最高にいい!」と指を組んで自己満足している。
「お前、これにどんな性格つけたんだよ!?」
「明るくて、懐きやすくて、素直ないい子!」
完璧な設定だが、軍事利用されるのにそれでいいのかとエディスはうんざりした。こんなに真っさらな子どもを兵器にするつもりかと、考えただけで胸焼けしそうだ。
「そろそろ行った方がいいんじゃないスか?」
後三組みたいッスよと廊下に顔を覗かせて様子を伺っていたジェネアスに促され、エディスは「ありがとう」と返す。
「どこ行くの?」
僕も行く! と無邪気にリスティーにじゃれつき始めたカロルの姿に、エディスは額を押さえた。
「おっ疲れ様ー!」
突き出された手に自分の両手を合わせると、バチンといういい音が鳴った。
「ジェーくんも、ありがとうっ。あんなに質疑応答が上手くいったの初めて!」
「お前の説明が強引すぎるんだろ。こういうのはもうちょっと、研究者以外の奴にも分かるようにしねえと……」
「アンタだって! 理論的すぎてなに言ってるのか分かんない、って顔されてたじゃない!」
いがみ合う二人の間にジェネアスが入り込んで、「ハイハイこれから楽しい祝勝会なんスから」と諌める。
「あたしはカロルと先に帰ってるから。二人はホテルに荷物取りに行くでしょ?」
二人の後ろで交互に顔を見ているカロルの手を、リスティーが握る。
「さ、カロル帰るわよ~!」
「うん、リスティー!」
感情を植え付けられたアンドロイドが満面の笑顔を浮かべて手を振り上げた。並んでスキップをして行く後ろ姿は、なんだか姉弟のように見える。
「エディス、なんで普通じゃないアンドロイドを作ろうって思ったんスか?」
「人間らしくないなら、生活に溶け込めるだろ」
一般市民と一緒に暮らしながら、有事の時はいち早く避難誘導や戦闘に当たるアンドロイドがいれば。紹介の時にも言ったが、これから上手く続けていけるだろうか。
カロルはこれから、入隊するリスティーとともに運用されていくことが決定した。
「市民第一。治安維持科の正しい在り方ッスよねえ」
軍の運営が同じ方向を見てくれればと願うばかりッスと呟くジェネアスに、「そうだな」と同意する。
「皆で守っていければ楽なんスけどね~……」
以前よりも増して人のように感じられる。
リスティーが厳しい顔つきで機械に入力しているのを見つめていると、アンタなにしてんのと言わんばかりの怪訝な顔をされてしまう。
これから、最終段階の調整に入る。それが終わればこの人造人間は生を得ることになるのだ。
厳重に保管していた鞄の中から、手の平大の白い箱を取り出す。蓋を取って中身を共同制作者に見せると、彼女はパチリと音がしそうな瞬きをした。
「それが感情記憶媒体?」
目を合わせて肯定すると、リスティーが手早く機械に打ち込んで少年の左胸の部分を開ける。
「そこに入れて」
形は合うはずよ、と促されたエディスは、箱の中からそっと取り出した物を少年の胸の中に篭める。
六角形の青い宝石が、照明の光を反射してきらめく。
「心が宝石だなんて、アンタにしてはロマンティックよね」
「別に、宝石をモチーフにしてないぞ。お前がそう思っただけだろ」
聞いたリスティーは右の奥歯を噛み、また機械に向き直る。十分ほど打ち込んでいたかと思うと、ふいに手を止めた。
「よっし、これで完了!」
できたー! と叫んだリスティーがベッドに手を突いて少年の顔を覗き込む。
「カーロルッ」
エディスもベッドに腰掛け、「カロル」リスティーと同じように、顔を覗き込んで呼びかける。
こんな風に囲んでしまったら、怖がってしまうかもしれないと考えた。だが、こんなことぐらいで怖がったりはしないだろうという気持ちが勝る。
もう一度リスティーが名前を呼んだ時、まつ毛が震えた。そして、瞼が持ち上げられて目が開いていく。
「おはようっ、カロル!」
リスティーの嬉しそうな声を聞いて、その少年は確かに笑ったのだ。
「ねーねー、エディス。どこ行くのー?」
小さな子どもというのは、こんなに面倒なものなのかとエディスは苦く思っていた。まとわりついた腕に首を絞められて息が苦しい。
「リスティー……ジェネアス~」
頼みの綱は同室にいる友人くらいのものだというのに、二人ともは面白そうに笑って見ているだけでなにも言わない。
「お前ら面白がってんなよ!」
思い切り叫ぶと、やっと「はいはい」と応えが返ってきたので、引き剥がしてもらえるように頼んだ。
「コイツどうにかしてくれよ」
後ろできゃっきゃと喜びの声を上げ、エディスの結んでいる髪で遊んでいるカロルに向かって指を差す。だが、リスティーは「私のカロル、かわいい~っ。顔が最高にいい!」と指を組んで自己満足している。
「お前、これにどんな性格つけたんだよ!?」
「明るくて、懐きやすくて、素直ないい子!」
完璧な設定だが、軍事利用されるのにそれでいいのかとエディスはうんざりした。こんなに真っさらな子どもを兵器にするつもりかと、考えただけで胸焼けしそうだ。
「そろそろ行った方がいいんじゃないスか?」
後三組みたいッスよと廊下に顔を覗かせて様子を伺っていたジェネアスに促され、エディスは「ありがとう」と返す。
「どこ行くの?」
僕も行く! と無邪気にリスティーにじゃれつき始めたカロルの姿に、エディスは額を押さえた。
「おっ疲れ様ー!」
突き出された手に自分の両手を合わせると、バチンといういい音が鳴った。
「ジェーくんも、ありがとうっ。あんなに質疑応答が上手くいったの初めて!」
「お前の説明が強引すぎるんだろ。こういうのはもうちょっと、研究者以外の奴にも分かるようにしねえと……」
「アンタだって! 理論的すぎてなに言ってるのか分かんない、って顔されてたじゃない!」
いがみ合う二人の間にジェネアスが入り込んで、「ハイハイこれから楽しい祝勝会なんスから」と諌める。
「あたしはカロルと先に帰ってるから。二人はホテルに荷物取りに行くでしょ?」
二人の後ろで交互に顔を見ているカロルの手を、リスティーが握る。
「さ、カロル帰るわよ~!」
「うん、リスティー!」
感情を植え付けられたアンドロイドが満面の笑顔を浮かべて手を振り上げた。並んでスキップをして行く後ろ姿は、なんだか姉弟のように見える。
「エディス、なんで普通じゃないアンドロイドを作ろうって思ったんスか?」
「人間らしくないなら、生活に溶け込めるだろ」
一般市民と一緒に暮らしながら、有事の時はいち早く避難誘導や戦闘に当たるアンドロイドがいれば。紹介の時にも言ったが、これから上手く続けていけるだろうか。
カロルはこれから、入隊するリスティーとともに運用されていくことが決定した。
「市民第一。治安維持科の正しい在り方ッスよねえ」
軍の運営が同じ方向を見てくれればと願うばかりッスと呟くジェネアスに、「そうだな」と同意する。
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