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南部編-前半-
5.めちゃくちゃ庶民派です
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「審査員やってた軍人だって分かってたけどね、そんな任務を受けてるなんて思わないじゃない」
ハメられた気分だわ……と額に手を当てて落ち込むリスティーの肩に、ジェネアスがぽんと手を置く。
「それで、なにを作るつもりなの?」
魔法かと訊ねられたエディスは首を振って否定する。
「そうだな、感情を持つアンドロイドを作りたいんだ」
リスティーはあっけに取られた様子でエディスを見返し、「感情?」と首を傾げた。エディスは微かに苦笑いを含め、上目がちに彼女を見つめる。
「ああ。……手伝ってくれないか? リスティー」
水晶のように澄んだ眼差しを向けられたリスティーは、ほのかに頬を赤らめて押し黙った。しかし、隣に立っているリキッドから脇を肘で突かれると我に返り、体を震わせる。
「そっ、それ! あたしの腕を見込んでってことよねっ?」
間にあった壁が崩れ落ちていったような、晴れやかな笑みで「勿論」と応じられて今度は視線をうろつかせた。
「し、仕方ないわね。いいわよ、協力してあげる!」
その様子を見ていたジェネアスとリキッドは「顔がいい男ってズルいッスよねー……」「あんなリスティー初めて見たよ」と密やかに言葉を交わす。
「あたし用事があるから、詳しい話は明日でもいい?」
頷くとリスティーは「ありがとう、ごめんね!」と手を合わせて小さく頭を下げる。じゃあと急ぎ足で駆けていこうとする背中にリキッドが「帰るのかい?」と声を掛けた。
「うん。今日は父さんに早めに帰ってこいって言われたから」
「そっか。それは大変だね」
振り返って笑うリスティーに、リキッドは弱弱しい笑みを浮かべる。朝と同じに置いて行かれそうになっていることに気が付き、慌ててエディスたちの方に顔を向けた。
「ごめん、僕も行くよ。この間のこともあるし」
待ってくれと走り出そうとするリキッドを見据え、口を開く。
「……リスティーの親父さんが反軍のリーダーだからか」
場に響いた声に、リキッドの足が蹈鞴を踏む。よたよたと数歩進んでからこちらを向いたリキッドの顔は見るからに引き攣っていて、冷や汗が額に浮いてくる。
「あ……えっと、勘違いしないでくれよ。リスティーの親父さんは面白いし、いい人なんだ。誰よりも強くて、頼りになる人で」
だから許してくれ、と語る彼を感情を消した目が射止めた。
「まさか、」
「リスティーの親父さんを殺すのが目的か?」
グレイアスに言いたかった台詞を奪われたリキッドはぶすくれと彼を見上げた。それからエディスに対し”そうなのか”と言いたげな顔を向ける。じっとりと陰気な視線を受けたエディスはふぅと息を吐いた。
「厳密に言うと不正解だ」
否定されたリキッドはそんなはずはないだろうと睨み付けてくる。その顎を掴んで自分の方に引っ張り「お前みたいな奴の排除を任されて来たんだよ」と睨み返すと、リキッドは怖気づいて腰を引く。
「あの人はいい人なんだ。ぼ、僕みたいなのも見捨てたりしない」
「そんなの自分の努力次第で変わるだろ」
他人の審美眼に委ねるなよと言うと、リキッドは顔を真っ赤にして叫んだ。
「うるっさいなあ、君になにが分かるんだ!! 僕たち庶民の辛さが!」
「いや、俺……奴隷出身なんだけどよ」
そっちのもと親指をジェネアスを差すと、彼も指でピースを作って見せる。すると、リキッドは息を吐き出してから物が言えなくなった。
「え……えっ、嘘だよね。軍がそんな、重用するわけが」
「あるんだよなあ、それが」
あるんスよ~努力次第でねと両手でピースを作り、舌を出すジェネアスを後ろに下がらせる。リキッドは眉間に青筋を立てんばかりに拳を握っていたが、少しすると細く長く息を吐き出して胸を擦った。
「それで、僕たちみたいなのを排除ってどういうことだい」
「立場上、市民の安全を脅かす奴らを放っておけないからな」
「僕たちはそんなことはしない!」
エディスの胸倉を掴んできたリキッドの腕を、ジェネアスが間髪入れず掴んで捻り上げる。痛い痛いと泣くリキッドを見て、エディスが止めろと手を上げると離す。
「軍にとっての邪魔者だからだろ」
「反軍がいることで無駄な犠牲が出てんの分かってねえのか」
最近の軍も軍だけどな、お前らも褒められたことばっかやってねえぞと腰に手を当てると、リキッドは腕を押さえながら咎めるような目線を向けてくる。その向こう側で陽が沈んでいった空が、赤を群青に染め上げていく。夕暮れの去った空に、感傷じみた情が湧き出てくる。
「お前らがいることで軍の要請ができない市民がいる。それに、お前たちの活動資金は一体どこから出てんだ」
募金や謝礼だけじゃ収まらねえだろと見据えると、リキッドは大きく口を開け――戸惑いから口を震わせた。
「有名な話だろ? フィンティア家を反軍が襲ったっていうのは」
ドゥルースは夕暮れのような温かい人だった。あの頃のエディスは希望も救いもなく、彼だけが生きている実感をくれた。
「それは……っ」
「互いに罪を押し付け合って、道理を曲げたら駄目だと思う」
殺しに来たんじゃねえよと静かに言うと、リキッドは上げた手の行き場を失くす。下ろされた手を見たエディスは、「解決策を探しに来たんだ」と手を差し出した。
「俺なりのな」
ハメられた気分だわ……と額に手を当てて落ち込むリスティーの肩に、ジェネアスがぽんと手を置く。
「それで、なにを作るつもりなの?」
魔法かと訊ねられたエディスは首を振って否定する。
「そうだな、感情を持つアンドロイドを作りたいんだ」
リスティーはあっけに取られた様子でエディスを見返し、「感情?」と首を傾げた。エディスは微かに苦笑いを含め、上目がちに彼女を見つめる。
「ああ。……手伝ってくれないか? リスティー」
水晶のように澄んだ眼差しを向けられたリスティーは、ほのかに頬を赤らめて押し黙った。しかし、隣に立っているリキッドから脇を肘で突かれると我に返り、体を震わせる。
「そっ、それ! あたしの腕を見込んでってことよねっ?」
間にあった壁が崩れ落ちていったような、晴れやかな笑みで「勿論」と応じられて今度は視線をうろつかせた。
「し、仕方ないわね。いいわよ、協力してあげる!」
その様子を見ていたジェネアスとリキッドは「顔がいい男ってズルいッスよねー……」「あんなリスティー初めて見たよ」と密やかに言葉を交わす。
「あたし用事があるから、詳しい話は明日でもいい?」
頷くとリスティーは「ありがとう、ごめんね!」と手を合わせて小さく頭を下げる。じゃあと急ぎ足で駆けていこうとする背中にリキッドが「帰るのかい?」と声を掛けた。
「うん。今日は父さんに早めに帰ってこいって言われたから」
「そっか。それは大変だね」
振り返って笑うリスティーに、リキッドは弱弱しい笑みを浮かべる。朝と同じに置いて行かれそうになっていることに気が付き、慌ててエディスたちの方に顔を向けた。
「ごめん、僕も行くよ。この間のこともあるし」
待ってくれと走り出そうとするリキッドを見据え、口を開く。
「……リスティーの親父さんが反軍のリーダーだからか」
場に響いた声に、リキッドの足が蹈鞴を踏む。よたよたと数歩進んでからこちらを向いたリキッドの顔は見るからに引き攣っていて、冷や汗が額に浮いてくる。
「あ……えっと、勘違いしないでくれよ。リスティーの親父さんは面白いし、いい人なんだ。誰よりも強くて、頼りになる人で」
だから許してくれ、と語る彼を感情を消した目が射止めた。
「まさか、」
「リスティーの親父さんを殺すのが目的か?」
グレイアスに言いたかった台詞を奪われたリキッドはぶすくれと彼を見上げた。それからエディスに対し”そうなのか”と言いたげな顔を向ける。じっとりと陰気な視線を受けたエディスはふぅと息を吐いた。
「厳密に言うと不正解だ」
否定されたリキッドはそんなはずはないだろうと睨み付けてくる。その顎を掴んで自分の方に引っ張り「お前みたいな奴の排除を任されて来たんだよ」と睨み返すと、リキッドは怖気づいて腰を引く。
「あの人はいい人なんだ。ぼ、僕みたいなのも見捨てたりしない」
「そんなの自分の努力次第で変わるだろ」
他人の審美眼に委ねるなよと言うと、リキッドは顔を真っ赤にして叫んだ。
「うるっさいなあ、君になにが分かるんだ!! 僕たち庶民の辛さが!」
「いや、俺……奴隷出身なんだけどよ」
そっちのもと親指をジェネアスを差すと、彼も指でピースを作って見せる。すると、リキッドは息を吐き出してから物が言えなくなった。
「え……えっ、嘘だよね。軍がそんな、重用するわけが」
「あるんだよなあ、それが」
あるんスよ~努力次第でねと両手でピースを作り、舌を出すジェネアスを後ろに下がらせる。リキッドは眉間に青筋を立てんばかりに拳を握っていたが、少しすると細く長く息を吐き出して胸を擦った。
「それで、僕たちみたいなのを排除ってどういうことだい」
「立場上、市民の安全を脅かす奴らを放っておけないからな」
「僕たちはそんなことはしない!」
エディスの胸倉を掴んできたリキッドの腕を、ジェネアスが間髪入れず掴んで捻り上げる。痛い痛いと泣くリキッドを見て、エディスが止めろと手を上げると離す。
「軍にとっての邪魔者だからだろ」
「反軍がいることで無駄な犠牲が出てんの分かってねえのか」
最近の軍も軍だけどな、お前らも褒められたことばっかやってねえぞと腰に手を当てると、リキッドは腕を押さえながら咎めるような目線を向けてくる。その向こう側で陽が沈んでいった空が、赤を群青に染め上げていく。夕暮れの去った空に、感傷じみた情が湧き出てくる。
「お前らがいることで軍の要請ができない市民がいる。それに、お前たちの活動資金は一体どこから出てんだ」
募金や謝礼だけじゃ収まらねえだろと見据えると、リキッドは大きく口を開け――戸惑いから口を震わせた。
「有名な話だろ? フィンティア家を反軍が襲ったっていうのは」
ドゥルースは夕暮れのような温かい人だった。あの頃のエディスは希望も救いもなく、彼だけが生きている実感をくれた。
「それは……っ」
「互いに罪を押し付け合って、道理を曲げたら駄目だと思う」
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