悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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軍師准尉編

8.悪役王女は呪いを放って

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「エディス軍師准尉!    城にご用ですか?」
    南部に行く前に父親(仮)の顔を見ていこう。そう思ったのが悪かったのか、門でレイヴェン中尉が待ち受けていた。ただ彼が門番の時間に当たっていたことをエディスが把握していなかっただけなのだが。
「……はい。ちょっと、ビスナルク教官に頼まれていまして!」
 はははと笑い声が出る。髪のせいなのか、目のせいなのか、もう顔や全体のせいなのか分からないが、城に近づくと妙に目立つのだ。早く入りたい、人のいない所に行きたいと思っていると、レイヴェンが隣の軍人に耳打ちする。
「さ、行きましょうか!」
 後ろから肩を掴まれて押される。まさかついてくるつもりかと焦り「一人で大丈夫ですよ!」と言うが、やんわりと流されてしまう。穏やかなようで押しが強い男だ。
「受付までご一緒します」
 後ろに隠れてくれてもいいですよと囁かれ、エディスはそっと目を閉じる。
(悪い人じゃあ……ないんだけどな)
 疑われていることが明白だと逆にやり辛い。レイヴェンに聞こえないように細く息を吐いて受付までと条件をつける。
「南部に行くとシュウから聞きました」
 大丈夫ですかと訊ねられる彼の顔を見上げた。眉を下げ、黒い目が心配を露わにこちらを見てきていて言葉に詰まる。
「大丈夫だ」
 風に揺れて、知らない女とよく似た銀髪が視界に映り込む。
「だと……いいんですが」

 南部は反軍地域でもあるが、王政反対を謳ってもいる。
 その原因は恐らく俺の母親だと思われる元王妃にあるらしい。当時王女だったエディス・ティーンスは魔物と知己であり、彼らの人権を人民に説いた。
 その結果、全面反対を喰らっている。当然だ。いくら人型といえど、人間を家畜扱いする魔物の隣で穏やかに眠れるはずもない。それに激情したエディスさんは国土に対して呪いを放った。
『この国は間もなく亡びる』
『死ねば皆、魔物になる』
 およそ千年前、この星に一つの巨大な隕石が衝突した。それによって人類は滅亡するかと思われていたらしいんだが、それどころか人類が使ったことによって減った資源が潤った。ただ、その代わりに何処からか魔物が出現するようになったのだと。
 異星人か異世界か、侵略者の仕業となり全面戦争をしたらしい。未だに戦い続けているし、なんなら増えているんだけどな。
 当時の政府は魔物討伐を主に活動する「黒杯の軍」と神殿で神に祈りを捧げる「聖杯の軍」を作った。
 そこで奇妙なのが、「聖杯の軍」だ。なにを祀っているのかというと、落ちてきた隕石らしい。星空のように光が籠った黒い、女性の形をした巨大な岩。飾られている部屋には封印がされているらしくて、神官も入ったことがないから形状は噂なんだけどな。
 俺が生まれたこの国は小さな島国で、周囲の国とは国交を断絶している。それでも俺が生まれる前はまだ南では海の向こうの国と僅かながらも交流があったらしい。逆上したエディスさんに乞われた父(仮)が禁止としたと昔の新聞に書かれてあった。
 だから俺たち子どもはなにも知らない。
 神と崇める隕石の正体はなんなのか、海の向こうにも魔物が住んでいるのか、世界中にどんな魔法が存在しているのか――それとも、存在しないのか。
 そもそも魔物とは、魔法とはなになのか。それを構成する物質の研究を禁止としたのも今の王だ。曰く「理解している」からだという。
 じゃあ、理解している本人に訊いてみようかと。
 そう思った時もあった。父親としても為政者としても尊敬できるかどうか悩む男に、これ以上幻滅したくなくて逃げてきた。
 南部との軋轢はアンタが作ったんだぞと胸倉を掴んで怒鳴ることだって出来る。
 民を恐怖に陥れる国の母なんて必要とされるはずがない。隣にいたのに止めなかったのか、その理由を説明しなかったのか。今も寄り添ってはくれない。
 惑わせの魔法で操ることができても、人を正気に戻すことはできない。

 次の王になる人は、優しいといい。捨てられた子どもにも寄り添って、笑いかけてくれるような。
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