122 / 124
三章/夏歌えど、冬踊らず
海神・二
しおりを挟む
これならと当夜はタカクラに乗り込む。普通の者なら、どこをどう操作したものかと手を出しあぐねるだろう。
だが、上半身を起こした時と同じく、当夜は機器類に目を通すと迷いなくエンジンスタートボタンを押してタカクラを立ち上げた。
正面のメインと左右のサブモニターの淡い発光に照らされながら、搭載されている機能を確かめていく。
「ええっと……ううん、おれは使えないのか。うわっ、こっちも!?」
なにせ、どんな武器が付いているのか説明すら受けていないのだ。当夜がタカクラについて知っているのは習と同じで変形するという情報だけ。そんな曖昧な情報だけでは飛び立つことすらできない。
「やっぱり鉄神ってワンオフ機なんだな……本来の搭乗者やなきゃ使えない機能多すぎ。これじゃ基本武装しか使えないじゃん! あ~、鏡子ちゃんのアマツメイラがればなあ」
当夜は大きくため息を吐きながら項垂れる。しかし、今は文句を言っている場合じゃないと起き上ってガシガシと頭を掻き、舌で唇を湿らせた。
「なんとかやるしかないかぁ……」
習が手こずっている変形型だ。余程操作に難があるのだろうが、試しにやってみようと拳を掌に打ち付ける。
形状からしてそうバイクと変わらない運転方法だろうと、当夜は目を閉じた。赤木の兄さんがバイク好きな人で、後ろに乗せてもらった記憶を呼び戻す。
クラッチレバーを握り、足をのせているチェンジペダルを押し下げてギアを一速に入れる。アクセルを少しだけ捻るとエンジンの回転が上がる音がして、ふぅと息を吐く。
クラッチレバーをゆっくり離していくと前に動き出した。操作方法を覚えていたことと、タカクラの操作も同じだったことに安堵する。
「おい豪、大丈夫か!」
元気なら返事せんかいという声が響き、当夜は「俺の方!」と言い返す。カグラヴィーダのようにモニターに顔が表示されたりはしないらしく、声だけだ。
「俺て……お前、東京支部の奴かあ!?」
名乗りながらもクラッチレバーを完全に離し、機体を真っ直ぐに制御するのに慣れてからアクセルを戻す。クラッチをしっかり握りながらペダルの下にあるチェンジペダルを足先で押し上げると加速させる。
「豪は今寝てる。怪我とかはしてないと思うけど、頭打ってるかもしんない」
「はあ……ほんで、なんでお前がタカクラ乗っとんねん」
「俺の機体は修理中だから借りたんだよ。説教は後で!」
通信を切ってどれくらい加速するのか集中して計り、最高速度でアクガミがいると表示されている方向に走らせる。その間に、機体を別の形態へと変えるボタンを押した。
すると、頭部と足が折り畳まれていき、下肢に収納されていたタイヤと当夜の体が外に出ていく。
操縦席が前に倒れていったので、当夜はしっかりとハンドルを握り締めて内腿に力を込めた。龍の頭部を模したバイク状のロボットに変化したタカクラは小回りも推進力もある。
「うわあっ、こういう感じかあ……!」
当夜の光沢のある白い髪が風になびく。胸いっぱいに息を吸うと、夏の青々とした空気が入ってきて、当夜は笑みを浮かべた。
なるほど、アクガミに直接攻撃をされる危険があるとはいえ、視界が格段に広がり、直接目標を見ることができる。
ただ、神装の袴がバタバタと風で広がり、足に絡んで邪魔をするのだけが難点だ。そういえば豪は着てなかったな……と思い返す。
「もうちょっとだけ付き合ってくれよな、タカクラ!」
状況を確認すると、先程涯たちと共に戦っていた地点にはもうアクガミはほとんど残っていないようだった。それ以外にも複数発生している地点があるので、そこの一つに走らせる。
十数機のアクガミの姿はすぐに見えてき、当夜は薄闇に隠れて近寄っていく。背後から銃撃を浴びせかけると、アクガミは獣のような声で吠えた。
地面に降り立って雑木林を掻い潜りながらアクガミを狙う。
当夜のカグラヴィーダと違い、タカクラは中距離での銃撃戦を得意とするタイプの機体らしい。とはいえ、今現在取りつけられている基本武装しか使えないため、本当にそうなのかは分からない。
銃撃戦に不慣れな当夜はとにかく撃てるだけ撃ちっぱなしていく。
何体かは倒せたが、数が多いのでまるで消耗戦を強いられているようで、当夜は唇を噛み締めた。
俺のカグラヴィーダならこんなに動きが遅くないし決定打に欠けることもない。早く、早く、早く早く早くカグラヴィーダの元に行きたい。カグラヴィーダでないといけないんだ! という気持ちが奥から奥から溢れ出てくる。
弾を撃ち放つとアクガミの腹を突き破り、当夜はよっしゃあっと叫んで拳を握った。
「当夜、当夜だよな? 修理終わったぞ!」
タイミングよく通信機器から飛び出してきた剣司の声に当夜は目を輝かせた。一つ返事で機体を旋回させると、元いた場所へと繰っていく。
やがて、暮れなずむ空の下に舞う、群青の巨神の姿が見えてきた。
無駄一つない動きでアクガミを処断する姿には、まるで竜宮城を護る騎士のような優雅さがあり、当夜は息を呑む。
上体をハンドルに被せるように背を伸ばし、腕を突っ張る。のけ反るように上体を倒して前輪を浮かして飛び上がった。
そこまでやってから、これは小学生じゃ無理だなと息を吐く。当夜は力があるので無理矢理上げられるが、もっと体格が良くならないと使いこなせない機体だろう。
機体をギリギリまでカグラヴィーダに寄せ、剣司が開けておいたままにしてくれた操縦席に向かって飛び降りる。「ありがとう、タカクラ!」
無人になったタカクラは滑るように地面に着地し、その動きを止めた。
「ごめん、カグラヴィーダ。しばらく停まってて」
当夜はそう言いながら椅子に乗り上げる。体を伸ばしてシートの後ろに設置されている保管庫から新しい血液パックを取り出す。自分で残り僅かになった物と取り換え、壁に引っ掛ける。
それからシートに腰を下ろして操縦桿を握ると、無数の触手が入り込んできた。「あがッ、ぎ……ッ」と口から苦痛の声が漏れ出て、弛緩した体が正面のコントロールパネルに凭れかかる。
なにが起こったのか理解できない当夜の緩んだ口元から涎が垂れた。痺れの残る手を持っていって拭うと、涎だけでなく血も付着する。鼻を拭った指にべったりと血がついた。
(これがペナルティってことか……)
他人の鉄神に乗ってアクガミを倒した反動か、戒めか。
手を突いた当夜の視界に入ってくるタカクラは、主は彼のみだとでも言いたげに豪の傍に寄り添っていた。
だが、上半身を起こした時と同じく、当夜は機器類に目を通すと迷いなくエンジンスタートボタンを押してタカクラを立ち上げた。
正面のメインと左右のサブモニターの淡い発光に照らされながら、搭載されている機能を確かめていく。
「ええっと……ううん、おれは使えないのか。うわっ、こっちも!?」
なにせ、どんな武器が付いているのか説明すら受けていないのだ。当夜がタカクラについて知っているのは習と同じで変形するという情報だけ。そんな曖昧な情報だけでは飛び立つことすらできない。
「やっぱり鉄神ってワンオフ機なんだな……本来の搭乗者やなきゃ使えない機能多すぎ。これじゃ基本武装しか使えないじゃん! あ~、鏡子ちゃんのアマツメイラがればなあ」
当夜は大きくため息を吐きながら項垂れる。しかし、今は文句を言っている場合じゃないと起き上ってガシガシと頭を掻き、舌で唇を湿らせた。
「なんとかやるしかないかぁ……」
習が手こずっている変形型だ。余程操作に難があるのだろうが、試しにやってみようと拳を掌に打ち付ける。
形状からしてそうバイクと変わらない運転方法だろうと、当夜は目を閉じた。赤木の兄さんがバイク好きな人で、後ろに乗せてもらった記憶を呼び戻す。
クラッチレバーを握り、足をのせているチェンジペダルを押し下げてギアを一速に入れる。アクセルを少しだけ捻るとエンジンの回転が上がる音がして、ふぅと息を吐く。
クラッチレバーをゆっくり離していくと前に動き出した。操作方法を覚えていたことと、タカクラの操作も同じだったことに安堵する。
「おい豪、大丈夫か!」
元気なら返事せんかいという声が響き、当夜は「俺の方!」と言い返す。カグラヴィーダのようにモニターに顔が表示されたりはしないらしく、声だけだ。
「俺て……お前、東京支部の奴かあ!?」
名乗りながらもクラッチレバーを完全に離し、機体を真っ直ぐに制御するのに慣れてからアクセルを戻す。クラッチをしっかり握りながらペダルの下にあるチェンジペダルを足先で押し上げると加速させる。
「豪は今寝てる。怪我とかはしてないと思うけど、頭打ってるかもしんない」
「はあ……ほんで、なんでお前がタカクラ乗っとんねん」
「俺の機体は修理中だから借りたんだよ。説教は後で!」
通信を切ってどれくらい加速するのか集中して計り、最高速度でアクガミがいると表示されている方向に走らせる。その間に、機体を別の形態へと変えるボタンを押した。
すると、頭部と足が折り畳まれていき、下肢に収納されていたタイヤと当夜の体が外に出ていく。
操縦席が前に倒れていったので、当夜はしっかりとハンドルを握り締めて内腿に力を込めた。龍の頭部を模したバイク状のロボットに変化したタカクラは小回りも推進力もある。
「うわあっ、こういう感じかあ……!」
当夜の光沢のある白い髪が風になびく。胸いっぱいに息を吸うと、夏の青々とした空気が入ってきて、当夜は笑みを浮かべた。
なるほど、アクガミに直接攻撃をされる危険があるとはいえ、視界が格段に広がり、直接目標を見ることができる。
ただ、神装の袴がバタバタと風で広がり、足に絡んで邪魔をするのだけが難点だ。そういえば豪は着てなかったな……と思い返す。
「もうちょっとだけ付き合ってくれよな、タカクラ!」
状況を確認すると、先程涯たちと共に戦っていた地点にはもうアクガミはほとんど残っていないようだった。それ以外にも複数発生している地点があるので、そこの一つに走らせる。
十数機のアクガミの姿はすぐに見えてき、当夜は薄闇に隠れて近寄っていく。背後から銃撃を浴びせかけると、アクガミは獣のような声で吠えた。
地面に降り立って雑木林を掻い潜りながらアクガミを狙う。
当夜のカグラヴィーダと違い、タカクラは中距離での銃撃戦を得意とするタイプの機体らしい。とはいえ、今現在取りつけられている基本武装しか使えないため、本当にそうなのかは分からない。
銃撃戦に不慣れな当夜はとにかく撃てるだけ撃ちっぱなしていく。
何体かは倒せたが、数が多いのでまるで消耗戦を強いられているようで、当夜は唇を噛み締めた。
俺のカグラヴィーダならこんなに動きが遅くないし決定打に欠けることもない。早く、早く、早く早く早くカグラヴィーダの元に行きたい。カグラヴィーダでないといけないんだ! という気持ちが奥から奥から溢れ出てくる。
弾を撃ち放つとアクガミの腹を突き破り、当夜はよっしゃあっと叫んで拳を握った。
「当夜、当夜だよな? 修理終わったぞ!」
タイミングよく通信機器から飛び出してきた剣司の声に当夜は目を輝かせた。一つ返事で機体を旋回させると、元いた場所へと繰っていく。
やがて、暮れなずむ空の下に舞う、群青の巨神の姿が見えてきた。
無駄一つない動きでアクガミを処断する姿には、まるで竜宮城を護る騎士のような優雅さがあり、当夜は息を呑む。
上体をハンドルに被せるように背を伸ばし、腕を突っ張る。のけ反るように上体を倒して前輪を浮かして飛び上がった。
そこまでやってから、これは小学生じゃ無理だなと息を吐く。当夜は力があるので無理矢理上げられるが、もっと体格が良くならないと使いこなせない機体だろう。
機体をギリギリまでカグラヴィーダに寄せ、剣司が開けておいたままにしてくれた操縦席に向かって飛び降りる。「ありがとう、タカクラ!」
無人になったタカクラは滑るように地面に着地し、その動きを止めた。
「ごめん、カグラヴィーダ。しばらく停まってて」
当夜はそう言いながら椅子に乗り上げる。体を伸ばしてシートの後ろに設置されている保管庫から新しい血液パックを取り出す。自分で残り僅かになった物と取り換え、壁に引っ掛ける。
それからシートに腰を下ろして操縦桿を握ると、無数の触手が入り込んできた。「あがッ、ぎ……ッ」と口から苦痛の声が漏れ出て、弛緩した体が正面のコントロールパネルに凭れかかる。
なにが起こったのか理解できない当夜の緩んだ口元から涎が垂れた。痺れの残る手を持っていって拭うと、涎だけでなく血も付着する。鼻を拭った指にべったりと血がついた。
(これがペナルティってことか……)
他人の鉄神に乗ってアクガミを倒した反動か、戒めか。
手を突いた当夜の視界に入ってくるタカクラは、主は彼のみだとでも言いたげに豪の傍に寄り添っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる