忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

文字の大きさ
上 下
121 / 124
三章/夏歌えど、冬踊らず

海神・一

しおりを挟む
 タカクラの足元まで辿り着いた途端、腕につけたベルトがアラート音を発した。
 アマテラス機関にとってパイロットは何物にも代えがたい財産だ。
 神装には機体から離れた状態でもアクガミの接近を知らせる機能が付いていると聞いてはいたが、これのことだったのかと手を見下ろす。
 再びアラートが鳴り、当夜は目を見開く。それはアクガミがこちらに近づいてきていることを表していた。
 機体を起動しかしていない状態で、使い慣れた愛機でもないタカクラしか動かせないというのにと歯噛みする。
 目の上に手を当てて辺りを見渡すが、残念ながら視認することはできなかった。これが徹なら捉えられたのかもしれないがと、幼馴染が傍にいないことを悔しく思う。
「くそ……っ」
 だが、近辺に潜んでいたのか、アクガミらしき黒い巨大物体がこちらに向かってくるのが見えた。距離はほど近く、数分もしない内にここに辿り着くだろう。
 奥歯を噛みしめた当夜は、どうにか奴が来るまでに現状を打開できる術はないかと頭を巡らせる。
 しかしアクガミは予測していた以上に早く迫ってくる。獣のように四足歩行してくるアクガミが地面を大きく揺らし、カグラヴィーダから頭を出した剣司が息を呑む。
「豪と一緒にカグラヴィーダの中入ってて!」とアクガミから目を離さずに叫んだ。
 打つ手なしかと拳を握る当夜の上に、青い影が落ちる。
 え――と空を仰ぐ当夜を護るように風が吹き、水の粒が頬を濡らす。
 現れ出でた鉄神の色は、群青。
 徹の空を模したような水色とは違う、深海を閉じ込めて作ったような瑞々しさに目を奪われる。
 その鉄神は三又に分かれた槍でアクガミを貫くと、払い落とした。一撃で殺されたアクガミが塵となって消えていく。
 こちらを振り向いた鉄神に、郷愁にも似た気持ちが当夜を襲いかかってきて眦から涙が溢れ出た
「あれっ……な、なんで?」
 涙は次々と出てきて、まるで溺れてしまったようだと顔を顰める。
「――気付くのが遅れてしまって、すまなかった。全員無事か?」
 上から包み込むように降ってきた、柔らかく澄んだ声。喉に言葉がつっかえ、当夜は首を手で押さえた。
「うん……っ!」
 必死の思いで何度も頷くと、声の主が微かに笑うあえかな気配が伝わってくる。
「俺が君を護るよ」
 どこかの夢で聞いたような、小さな希望が当夜を淡く照らす。
「だから、君はその間に立て直すといい」
「分かった、ありがとう」
 そっと肩に手を置いて守ってくれる人がいる気がする。そんな心地になる声だ。夏の温かい水に浸かっているようで、とても安らぐ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。

処理中です...