忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

森に解ける灰・四

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 ボートを降りて、代わりに浮き輪を取り出して、湖の中に入る。

 冷たい湖水こすいに一度身体を震わせるアシュリンだったが、すぐに慣れてバシャバシャと音を立てて泳ぎ出した。

「気持ちいいー!」

 やっぱりこのみずうみで泳ぐのは格別だと感じる。小さい頃はあまりにも大きな湖で怖かったが、一度湖に入ってしまえばその冷たさと浮遊感のとりこになった。

「ラルフ、こっちこっち!」

 大きく手を振ってラルフを誘う。

 ラルフは辺りを見渡して、浮き輪を使ってアシュリンのほうにゆっくり移動した。

「……あれ、もしかして、泳いだことない?」
「うん。なんかこの浮遊感、不思議な感じ」

 ぷかぷかと浮いているのは浮き輪のおかげだ。だが、まだ浅いところだから危険ではないだろうと判断して、アシュリンのあとを追ったラルフ。

 アシュリンの質問に軽く頬をかくのを見て、「そっかぁ」と小さく言葉をこぼした。

「海では泳がなかったの?」
「見ただけで、入りはしなかったな。そういえば」

 ラルフは以前見た海を思い出し、目を閉じた。今でもハッキリとあの日見た海の光景がよみがえる。

「じゃあ、今度行ったら泳いでみようよ! わたしも泳いでみたいし」

 当たり前のように未来のことを言われて、ラルフはぽかんと口を開け、それからふっと笑みを浮かべた。

「そうだね。今度行ったらそうしてみよう」

 一緒に海ではしゃいでいる姿を想像して、アシュリンはきっとすっごく目を輝かせるんだろうなぁと考えていると、それは今もかと考えを改める。

「アシュリンは泳ぐの好き?」
「うん! だってぷかぷか浮いていると、気持ち良いもん!」
「アシュリンはお風呂でもぷかぷか浮いてるにゃ」
「温泉も好きそう」
「温泉は行ったことないなぁ。いつか行ってみたい!」

 その言葉は少し意外だった。ラルフは目を瞬かせ、それからぴっと人差し指を立てる。

「じゃあ、神殿都市の近くに温泉があるから、まずはそこを目指そうよ」
「さんせーいっ!」

 アシュリンが右手を高く上げた。

 ノワールは「どんどん目的地が増えていくにゃあ」と言葉をこぼし、アシュリンの頭の上に乗る。

 ルプトゥムは湖水の冷たさが気に入ったのか、バシャバシャと音を立てて泳いでいて、楽しそうだ。

 たくさん泳いで、遊んで、メイソンとロッティに「そろそろ帰るよー」と声をかけられるまで、アシュリンとラルフは湖で遊んだ。こんなに遊んだことは初めてかもしれないとラルフは思う。

「楽しかった?」
「……うん、アシュリン、ありがとう」
「どういたしまして?」

 ラルフがどうしてアシュリンにお礼を伝えたのか、彼女にはわからなくて首をかしげながらも答えて、メイソンとロッティが待っている湖岸こがんまでいそいで戻った。
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