忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

森に解ける灰・四

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「じゃあ、さっき名前も出たし俺からでいいかな」
 手を挙げて発言をすると、徹と習は肯定をする。涯もチラリと横目で見て頷いた。
「東京支部から来た、渋木当夜です。俺の鉄神の名前はカグラヴィーダ。近接と中距離攻撃が得意だ。俺は……」
 ごくりと唾を飲みこんだ後、拳を握って「俺は、アクガミの撲滅を目指している。よろしく」と一息に言い切り、座る。なにも言われない内に「じゃあ次は徹な!」と正面の徹に両手を向ける。
「僕は……その、徹……」
 だが、当の徹は名乗ってすぐに押し黙ってしまう。
「徹、どうしたんだ?」
 当夜に声を掛けられてようやく顔を上げる。真剣な眼差しを、涯も敬哉も受け止めた。
「僕は、暁美徹だ。これだけで、自己紹介には十分足り得るだろうか」
「は? あ、あぁ……暁美て。まあ、せやな」
「……そうでしたか。すみません、言い出し辛かったですよね」
「いいや、構わない。気にしないでほしいんだ」
 暗く沈んだ顔になってしまった敬哉の腕を引っ張り、豪は「なんだよ」と訊ねた。だが、敬哉はそっとその手を外し、静かに首を振る。
「豪、あなたも僕たちと同じ立場。いずれ知らされます」
「え、なに。この兄ちゃんたち、そんなスゲー奴なの?」
「うそっ、そうなのか!?」
 習が慌てふためいて当夜と徹を交互に見るが、どちらも苦笑いでしか応えられない。
「てか、アンタあれやんな。ちこが拾ってきた……?」
 生きとって良かったわと涯に笑いかけられ、習は戸惑いの目を向ける。「初めて鉄神に乗った時、落っこちたやろ」と言われ、習は首を振った。
 後頭部に手を当てて「覚えてないんスよ、俺」と言うと、涯はなるほどなと椅子に背を預ける。
「誰かに助けられたってのは岩草先輩から聞いたッス」
「アイツが空中で受け止めへんかったら即死やったらしいから、いつか会ったら礼言っとけや」
 あ~……と躊躇った上で涯がそう言い、習は満面の笑みで「はい!!」と返す。
「もしかして父が言っていた変型機体のパイロットですか?」
「あっ……多分。そうだよな?」
 習が徹に訊くと、彼は「変型するのは習のトマドイだけだな」と首を頷かせた。
 機体名を聞いた大阪支部の面々が「トマドイ?」「戸惑うなや」と小声で話すのを聞いた習は、恥ずかしそうに俯きながら「そのまんまっていうか、難しすぎてまだ一度も動かせたことないッスから……」と呟く。
「あ、でも分かるぜ。変型って難しいやんな!」
 そう豪が片手を挙げて同意したが、涯がちゃうちゃうと手を振る。
「豪、コイツが言うてんのお前とはちゃう理由や」
「えっ、そうなん?」
 涯は多分なと応えてから手を伸ばし「お前は身長足らんくて形態変えたら足届かんくなるだけやろ」と言いながら豪の頭を突く。
「でもコイツが難しい言うてんのは操縦すること自体や」
 親指で差され実力不足だと言われた習は顔を真っ赤にし、唇を噛み締める。だが、頭を激しく横に振り、両手で膝を掴むと、「そうなんス!」と笑った。
「俺、本当に全然ダメダメな奴なんスよ! けどっ、精一杯頑張るから!!」
 怒涛の如く言い切ってから立ち上り、深く頭を下げた。手を体の横につけ、まっすぐに背を伸ばしてお辞儀をする。それを見た涯はほおーっと口をすぼませた。
「超新人、土槻習ッス! 先輩ら、よろしく頼んます!!」
 涯以外は圧倒されたようにぽかんと口を開けて銃を見ていたが、我に返って大きな拍手で彼の想いを受け入れる。
「アンタええなあ、おもろいわ」
 涯は手を軽く叩きながら、笑みを向ける。習はどうもどうも、と後頭部に手を当てながら何度も頭を下げた。
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