忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

感受する青い夏・四

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「しっかし、お前らホント大変だよな。京都まで来て特別プログラムって!」
 頭良すぎるのも問題だよなーと、赤木が同情するように乾いた笑いを零す。
「帝花の奴らもいるんだよな」
「まさかアホ高も一緒とか……?」
 それはないだろと加護が鼻で笑う。それを横目で見ていた当夜は「行ってくる」と低く声を落とした。
「帰るのは遅くなるから先に寝てくれ」
 徹がドアを開けてそう言うと、二段ベッドから頭を出した赤木が「おー、分かった!」と片手に持ったタオルを振り回す。
「おやすみ」
 先に出た当夜の後ろで、徹が締めたドアが冷蔵庫が閉まったような音を立てる。車のすぐ傍に置いていた靴を履き、外へと歩いていく。
 薄暗くなってきた道を並んで歩いていると、出入り口の門に立っている人影が見えてきた。
「すまない、遅れた」
 舗装道路から砂利道に下りて足を速めて駆け寄っていくと、ライトに照らされて顔がくっきりと浮かび上がってくる。
「遅いですよ、二人共」
 中指で眼鏡を押し上げた男がわざとらしくため息を吐いた。それに徹は眉を引き寄せ、なんだと顎を上向ける。
「文句を言うなら来なければ良かっただろう」
「子どもだけで行かせる者がどこにいるんです。馬鹿を言っていないで行きますよ」
 あなたは全く、と背を向けられた徹は右の奥歯を噛み締めた。お前の付き添いなど必要ないんだ、とありありと顔に書かれている徹を当夜と習が両側から突っつく。
「まあまあ、いいじゃん。こんなでも大人が付いてきてくれるんだからさ」
「そーそー。俺らだけってのはちょっと怖いしさ」
「まあ、俺もほんとは雅臣さんのが良かったけど」
 そう言って当夜は真夏なのに黒いスーツを身に纏っている男を仰ぎ見た。彼を見るとできれば思い出したくない記憶と共に、口の中に苦いものが感じられてくる。
「鏡子も雅臣もここへは来られないので、私で我慢して頂くしかないですね」
 あれらは東京支部の付属品のような物ですから、と淡々と宣う黒馬を、当夜は不快感を露わに睨み付ける。
 どういった訳か、何故か鏡子と雅臣は全幅の信頼を置いている。鉄神のパイロット研究に置いては有効な手段を生み出してもいるらしい。
 その一つが、東京支部の地下施設にあるプールだ。あれは入るだけで健康診断や鉄神との適合率を調べることができる物だった。
 今現在、東京支部での適合率は当夜が断トツで高い。他はドングリの背比べくらいでしかないが、特に徹と習は極端に低いとも聞いた。
 それは凄いとも思う。だからどんなにセクハラ魔で少年愛好家でも頼れる大人であるはずだと、当夜は尻を擦りながらも自分に言い聞かせる。
 それに、自分までもが毛嫌いしてしまうと、過保護で黒馬と気質の合わない幼馴染は本格的に彼を嫌ってしまうだろう。
 そうなってしまわないよう、当夜は努めて明るい声色で、「戦艦に入るの楽しみだな!」と言って習の肩を叩いた。
 すると、習もニッと歯を見せて笑い、「そうだな!」と返してくれる。それに安堵した当夜は駆け足気味に、暗く日の落ちた方へと歩いていった。
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