忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

感受する青い夏・二

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「キャンピングカーだ!」
「うわカッケエ!!」
 当夜が大きな声を出して指を差すと、赤木がわーっと掛け寄っていく。それに当夜がえっと小さく呟き、加護と徹はおい! と制止の声を上げる。
 目と鼻の先程の距離だった為に程なくして追いついたが、
「鍵持ってないのに先に行くなよ」
 馬鹿かと加護はキャンピングカーの周囲を見渡していた赤木の頭を小突いた。怒られた赤木は舌を出して悪い! と言うが、嬉しさが顔いっぱいに溢れていた。
「俺キャンピングカー初めてでさ。なーんかこう、やっぱお嫁さんと子どもを連れて来たくなるよな」
 白く、ころりと角の丸いキャンピングカーはどことなく可愛くも見える。でれでれと締まりっけのない顔をしている赤木は女性ウケもいいということばかり考えているのだろう。
「せめて彼女ができてから言うんだな」
「そっ、それより中がどうなってるから見よう!」
 当夜がなっと言いながら腕を抓むと、徹はいっと小さく悲鳴を上げてから当夜を見下ろした。こらっという意思を混めて睨んだが、何故か徹は唇の端をきゅっと押し上げる。
 それに対しての疑問が形になる前に徹は口を手で隠し、加護の方に逃げていってしまったので、当夜は首を傾げさせた。
「当夜、開いたぞ」
「中入ろうぜ~」
 すでに靴を脱いでキャンピングカーの中に上がっている赤木に誘われると、「はーい!」と叫んで寄っていく。狭い間口に男が四人も連なっているのは息苦しかった為、先に入って者からどんどん奥に進んでいく。
「ヤッベエ、秘密基地みたいじゃん!」
「へー、冷蔵庫もテレビもついてるんだな」
「奥のはダブルベッドか?」
 思い思いのことを呟きながら見ていく。
 体の大きい男子に囲まれて働きづらさを感じた当夜だけが、早々に根を上げて備え付けのソファーに鞄を下ろして座った。
 二段ベッドの下段内に置かれていた梯子を手に取った赤木は留め金を引っ掻ける。よっと言いながら上がっていき、狭いベッドスペースの中二体を縮こませて入り込む。
「なあなあっ、ここ使っていい!?」
 頭だけ出して叫ぶと、ソファーで鞄の中を漁っていた当夜がうわっと仰天する。
「うるさいよお前、静かにしろ」
「好きにすればいい。暴れるな」
 加護と徹に注意されると、赤木は「はーい」とすごすご頭を引っ込めた。加護はまったくと腰に手を当てると、奥に視線をやって口に悪い笑みを浮かべる。
「じゃあ当夜は俺とダブルベッドで寝るか?」
 あらかじめ教員から渡されていたペットボトルのお茶を冷蔵庫に入れていた当夜は、名前を呼ばれて振り返った。きょとんと目を丸くして、ベッドに腰かける加護を見つめる。
 悪戯っ子のような笑みを浮かべている加護の真意が測り切れない。そもそも男同士なので当夜は別にどうでもいいけどと口を開こうとする。
 だが、皆の荷物を窓際に併設されている共有収納棚に収めようとしていた徹が動揺のあまり、手を離した。徹も加護の方に顔を向けていたので、横っ面に赤木のボストンバッグが命中した。
「徹! 大丈夫か!?」
「お前ねー、顔と頭だけが取り柄なのになにやってんの」
 顔を手で押さえてしゃがみこんだ徹に慌てて駆け寄った当夜を腕で制止させる。反対側から寄ってきた加護の胸倉を引っ掴んで低く囁く。
「加護。お前、なにを」
 金の目を怒らせて睨み見てくる徹に、加護はふっと体の力を緩める。
「冗談だ。お前から当夜を奪ったりしないって」
 両手を挙げて降参を示したが、徹はまだ納得ができないようで手に力を入れたまま解かない。
 その様子を後ろから見ていた当夜はふうと息を吐き、腕を組んだ。
 徹を羽交い締めにして引き離すことも、殴って諍いを止めることも当夜の腕力を持ってすれば可能だ。だが、それでは徹の気持ちは収まってくれない。
 後々恨み言を連ねられても困るので、当夜は彼の肩をちょんちょんと指で突いた。
「取り込み中だ、後にしろ!」
 鋭い口調でそう叫ばれ、ピキリと自分の肩眉と口の端が動くのを感じたが、んんっと咳ばらいをして誤魔化す。
「俺、徹と寝たいな~駄目?」
 頭の中でうわキッモ無理! なんでいっつも俺から? という気持ちでいっぱいだったが、それをおくびに出さず精一杯可愛く微笑んでみせる。
「…………あ、ああ! 無論、一緒に寝てやる」
 徹は一瞬だけ目を輝かせて満面の笑みを浮かべたが、我に返って腕を組んでそっぽを向いた。本当は抱き付きそうなくらい嬉しいくせに虚勢を張り続ける恋人に、当夜は仕方がないなと笑う。
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