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三章/夏歌えど、冬踊らず
急流直下・三
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「現存している戦艦は三つ。九州の高千穂、大阪、それに関東。全部は明かされてないし、僕もよくは知らないんだけどね」
照明の当たり具合で光る丸眼鏡に徹は背筋をゾッとさせながら、唾を飲みこむ。
超大型の鉄神があるなどということは今まで知らされていなかったし、そんな物のパイロットともなると負担は相当だろう。
「今回協力してもらうのは、大阪支部所属のイワナガだよ。パイロットの赤木敬哉くんは司令官の息子さん。まだ十二歳だけど、将来はかなりの逸材になりそうな子だね」
「えっ、十二歳!? って……」
えーっとと手を使って計算をし始めた習に徹が「小学生だな」と言うと、習はぐっと手を握って「すっげ――!!」と叫んだ。
「はいはーいっ、しつもーん! 他の増援ってどんな人らなんスか?」
勢いよく手を挙げる習に、雅臣は目を瞬かせた。手に持っているファイルで口元を隠し、くすっと息を漏らして笑う。
「全員エースパイロットと呼ばれてもいい技量を持ってる子たちだよ。一人は徹くんも会ったことがあるね」
「僕もですか?」
「そう。仲上涯くん。知ってるでしょ」
「ああ、アイツですか」
誰? といった顔で他のパイロットに視線を送られた徹は肩眉を下げた、気まずそうな表情になる。顎で雅臣の方を差すと、「んーじゃあ僕が説明するね」とファイルをもう片方の手に軽く打ち付けた。
「涯くんは徹くんと同じで遠距離タイプの鉄神に選ばれた子だよ。人型で主にライフルを好んで使用する……所謂スパイナーってとこかな」
「スナイパー!? な、なんかカッケー!!」
「響きが格好いいなあ」
わあわあと騒ぎ出した二人の頭には、漫画やアニメに出てくる暗殺者のような渋い人物が思い浮かべられていることだろう。
そう感じ取った雅臣は思わず口元に笑みを浮かべ、徹は額に手を当ててため息を吐いた。
「それと、もう一人。呉服豪くん。この子の鉄神は複雑な作りになっていてね。バイク型と人型、両方の形態を取れるんだよ。いや~一度見せてもらったけど、アレは面白かった! 是非もう一度、いや二度、三度……何度でも見て、研究してみたいものだよ!!」
白熱してきた雅臣に徹が手を前に押し出すことで制止を促した。
首を振られた雅臣は、徹の後ろに見える習もぽかんと口を開けて呆けた顔になっていることに気が付くとあははっと笑って、後頭部に手を当てる。
雅臣の鉄神好き派それはもう、十分という程理解しているし、普段とてもお世話になっているので語らせてあげたい気持ちもなくはない。だが、何分話が長くなる傾向にあるので、できれば当夜相手にしてほしいところだ。
「とにかく、将来有望な子たちばかりだから安心してね!」
「生き残れればの話でしょう。関西ではそんなに小さな子どもまで戦闘に出しているんですか」
だが、徹に鋭く睨まれると雅臣は笑みを消し、指を組む。口元に笑みを浮かべて、静かに言葉を吐き出した。
「徹くんは、鉄神が出現するきっかけを忘れたのかな」
それは叱咤とも違う声色で、冷淡な響きを持っていた。訊ねられた徹は、目を見開いて胸を詰まらせる。
そう、彼は今の今まで忘れていたのだ――――
「……アクガミと、出会うことです」
鉄神に選ばれ、その贄となる不可欠な絶対条件。その一つがアクガミと遭遇することである。
「そうだね。それだけ西ではアクガミの出現率が高いんだ。関西ではすでに、こちらでは未確認の新型のアクガミも頻繁に確認されている」
次元が違うのだと雅臣に諭された徹を後ろから見ていた当夜は、首を傾ぐ。奥歯を噛みしめる音がしてきそうだと嘆息する。
世間一般的に子どもだとされている自分たちよりも、さらに幼い子どもが命を削っている事実が受け入れ辛い。
それが子どもめいていて、感情で物を考えている者の意見だと徹も頭では理解できている。だが、胸の内にどうしようもなくぬかるんだ泥のようなものが広がっていくのを抑えられない。
そう、優しい徹なら考えるんだろうな。当夜は視界に映り込む幼馴染の心中を察して、目を閉じる。
「そんな所に君たちを行かせてしまうのは、僕も不安だよ。だけど仲間もいることだし、どうか悔やまないようにしてほしい」
日常を楽しんでね、と雅臣が笑う。習が踵を合わせ、腕を足の側面にくっつけて直立し、腹の底から雅臣の気持ちに応じる声を出した。
しかし、徹は目を伏せた暗鬱とした表情を隠そうとしなかったし、当夜はなにを考えているのか判別しがたい笑顔で手を振るだけだ。
それを見た雅臣は軽い笑い声を立て、「ああ、そうだ」と手を叩く。
「引率には黒馬がついていくことに決まったから。よろしくね」
だが、天敵ともいえる男の名前が転がり出てきた途端、二人して跳ねあがったように顔を上げ、「は!?」と叫んだ。愕然とした表情で唇を震わせる子どもに、雅臣は手を叩いて喜ぶ。
「その顔、最っ高! 黒馬が見たら嫌がりそうだよ」
僕よりマシなのにねえと面白がる雅臣に、当夜は「性格わっりぃ……」と声を落とした。
照明の当たり具合で光る丸眼鏡に徹は背筋をゾッとさせながら、唾を飲みこむ。
超大型の鉄神があるなどということは今まで知らされていなかったし、そんな物のパイロットともなると負担は相当だろう。
「今回協力してもらうのは、大阪支部所属のイワナガだよ。パイロットの赤木敬哉くんは司令官の息子さん。まだ十二歳だけど、将来はかなりの逸材になりそうな子だね」
「えっ、十二歳!? って……」
えーっとと手を使って計算をし始めた習に徹が「小学生だな」と言うと、習はぐっと手を握って「すっげ――!!」と叫んだ。
「はいはーいっ、しつもーん! 他の増援ってどんな人らなんスか?」
勢いよく手を挙げる習に、雅臣は目を瞬かせた。手に持っているファイルで口元を隠し、くすっと息を漏らして笑う。
「全員エースパイロットと呼ばれてもいい技量を持ってる子たちだよ。一人は徹くんも会ったことがあるね」
「僕もですか?」
「そう。仲上涯くん。知ってるでしょ」
「ああ、アイツですか」
誰? といった顔で他のパイロットに視線を送られた徹は肩眉を下げた、気まずそうな表情になる。顎で雅臣の方を差すと、「んーじゃあ僕が説明するね」とファイルをもう片方の手に軽く打ち付けた。
「涯くんは徹くんと同じで遠距離タイプの鉄神に選ばれた子だよ。人型で主にライフルを好んで使用する……所謂スパイナーってとこかな」
「スナイパー!? な、なんかカッケー!!」
「響きが格好いいなあ」
わあわあと騒ぎ出した二人の頭には、漫画やアニメに出てくる暗殺者のような渋い人物が思い浮かべられていることだろう。
そう感じ取った雅臣は思わず口元に笑みを浮かべ、徹は額に手を当ててため息を吐いた。
「それと、もう一人。呉服豪くん。この子の鉄神は複雑な作りになっていてね。バイク型と人型、両方の形態を取れるんだよ。いや~一度見せてもらったけど、アレは面白かった! 是非もう一度、いや二度、三度……何度でも見て、研究してみたいものだよ!!」
白熱してきた雅臣に徹が手を前に押し出すことで制止を促した。
首を振られた雅臣は、徹の後ろに見える習もぽかんと口を開けて呆けた顔になっていることに気が付くとあははっと笑って、後頭部に手を当てる。
雅臣の鉄神好き派それはもう、十分という程理解しているし、普段とてもお世話になっているので語らせてあげたい気持ちもなくはない。だが、何分話が長くなる傾向にあるので、できれば当夜相手にしてほしいところだ。
「とにかく、将来有望な子たちばかりだから安心してね!」
「生き残れればの話でしょう。関西ではそんなに小さな子どもまで戦闘に出しているんですか」
だが、徹に鋭く睨まれると雅臣は笑みを消し、指を組む。口元に笑みを浮かべて、静かに言葉を吐き出した。
「徹くんは、鉄神が出現するきっかけを忘れたのかな」
それは叱咤とも違う声色で、冷淡な響きを持っていた。訊ねられた徹は、目を見開いて胸を詰まらせる。
そう、彼は今の今まで忘れていたのだ――――
「……アクガミと、出会うことです」
鉄神に選ばれ、その贄となる不可欠な絶対条件。その一つがアクガミと遭遇することである。
「そうだね。それだけ西ではアクガミの出現率が高いんだ。関西ではすでに、こちらでは未確認の新型のアクガミも頻繁に確認されている」
次元が違うのだと雅臣に諭された徹を後ろから見ていた当夜は、首を傾ぐ。奥歯を噛みしめる音がしてきそうだと嘆息する。
世間一般的に子どもだとされている自分たちよりも、さらに幼い子どもが命を削っている事実が受け入れ辛い。
それが子どもめいていて、感情で物を考えている者の意見だと徹も頭では理解できている。だが、胸の内にどうしようもなくぬかるんだ泥のようなものが広がっていくのを抑えられない。
そう、優しい徹なら考えるんだろうな。当夜は視界に映り込む幼馴染の心中を察して、目を閉じる。
「そんな所に君たちを行かせてしまうのは、僕も不安だよ。だけど仲間もいることだし、どうか悔やまないようにしてほしい」
日常を楽しんでね、と雅臣が笑う。習が踵を合わせ、腕を足の側面にくっつけて直立し、腹の底から雅臣の気持ちに応じる声を出した。
しかし、徹は目を伏せた暗鬱とした表情を隠そうとしなかったし、当夜はなにを考えているのか判別しがたい笑顔で手を振るだけだ。
それを見た雅臣は軽い笑い声を立て、「ああ、そうだ」と手を叩く。
「引率には黒馬がついていくことに決まったから。よろしくね」
だが、天敵ともいえる男の名前が転がり出てきた途端、二人して跳ねあがったように顔を上げ、「は!?」と叫んだ。愕然とした表情で唇を震わせる子どもに、雅臣は手を叩いて喜ぶ。
「その顔、最っ高! 黒馬が見たら嫌がりそうだよ」
僕よりマシなのにねえと面白がる雅臣に、当夜は「性格わっりぃ……」と声を落とした。
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