忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

夏、足音・四

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「なあ! 俺たち一緒の班になろうぜ」
 喧騒に包まれる駅の改札を抜けたところで出会った赤木に開口一番にそう言われ、当夜は「えっ」と顔を強張らせた。
「なんの班だっけ」
 昨日なにか約束をしただろうか? 科学の実験の話だろうか、それとも家庭科の調理実習かと当夜はぐっと口を引き結び、俯く。
「そんな悩むことないじゃん? ほら、あれだって。林間学校の班分け!」
 今日のホームルームで決めるって先生言ってたろと肩を叩かれ、当夜は口の端を引き上げる。「そうだったな!」と言いながら顔を赤木の方に向け、「なろう、なろう」と取り繕う。
「……徹も。同じでいいよな」
 加護に声を掛けられた徹は、構わないと目を閉じて小さく首を頷かせた。
「僕も、気心が知れてる相手の方が楽だからな」
 口ごもってから加護の方を向いて発した言葉に、赤木がにひひと歯を見せて当夜の肩に腕を置く。
「あっ、てかさぁ今日部活休みなんだけど! どっか行かねえ?」
 二人と遊んだことねーよなと手を差し出され、当夜は声を出しながら後頭部を掻いた。「ごめん、無理」と断りの言葉を口にすると、赤木はええ~~っと大袈裟なまでに残念がって両こめかみに手を当てる。
「なんで!? なんか用事?」
 たまには遊ぼうぜ~と短い眉が八の字になるのを見た当夜は、「……バイトみたいなもん? やってて」と言いながら鞄を担ぎ直す。
「じゃあ、徹は? まっさか徹も同じバイトやってたりすんの」
 徹が頷き、「親の手伝いだ」と言うので当夜は彼の隣に寄っていき手招きする。徹が腰を曲げて顔を近づけると、当夜は耳に手を当てて「徹は行ってこいよ」と言う。
「僕だけ除け者か」
「だって、どうせ昨日とやること変わらないよ」
 一日二日じゃ進展しないってと笑いかけると、徹は「それもそうだが」と前置きをしてから「なら尚更だ。当夜も行ける日にしたらいい」と断った。
「赤木、次はいつが休みなんだ」
「だからないんだって! 加護ぉ~~~~っ」
 赤木が後ろから加護に飛びかかったせいで、ぐおっという低い声が聞こえてきて、当夜は細く息を吐き出す。風に吹かれて乱れた髪を手で避け、顰めた顔を上向けると金の目と視線がぶつかった。
 おもありげな目線に、「なに?」と見つめ返すと首を振られる。
「髪の長さが日によって違うな、と」
「言っとくけど、まだハゲねーからな」
 徹から見たらなんかあんの? と頭の頂点に手を当てると、徹はふっと息を漏らして笑った。
「なにもないさ」
 こうして笑っていられるのならと前を向いて歩く徹の脛を蹴った当夜は「先行くから」と言って駆け出す。
 助走をつけてジャンプをした当夜が、自分よりも大きな赤木と加護に飛びつくと二人は先程よりも驚いたようで、悲鳴が上がる。
 足を二人の胴に回してバランスを取ろうとするも、全く別の方に動こうとしたのと背の高さが違うせいでずり落ちてしまう。
「なにをしているんだ、危ないだろう!」
 息を切らせながらも追いかけてきた徹の手に、背を支えられる。「木のぼり。徹に見下ろされないようにしてんの!」
「これ楽しいのかー……?」
「いーじゃんっ、このまま学校いこーぜ!」
 後ろ手を回した二人に足を掴まれた当夜は、「股関節おかしくなりそう」と笑った。
 赤木の肩に置いた手を離して、上背も安定感もある加護の背に覆いかぶさる。「俺でいいのか?」と言いながらも抱え直す加護に、当夜はうんと頷き「徹は体力ないから」と返す。
「それは確かに」
「持久走とか苦手そうだよな」
 口々に言われた徹は「短距離派だ」と、憮然とした顔をして腕を組んだ。
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