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三章/夏歌えど、冬踊らず
夏、足音・一
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薄藤色の半袖シャツのボタンを留め、まだ朝は肌寒いので上に紺色のベストを重ねる。黒のズボンに足を通し、当夜は唸った。
昨日、ネクタイをつけなかったら徹に「不良になるつもりか」と眉を顰められたのだ。学校行事以外では自由着用なのだし、もう少し暑くなったら許してくれるだろうかと面倒臭がりながらもネクタイを巻く。
鏡を見ながら位置や形を調整し、「うんっ」と出来栄えに納得がいってから部屋を出る。
階段を下り、洗面所で身支度を整えてから台所へ行く。今日は徹がこちらの家へ来る予定になっているので、先に朝食を作ろう。それから起こしに行けばいい。
「サッパリした物がいいよなあ。徹、夏前にバテやすいし」
なにがあったかなと冷蔵庫の中を覗いて食材を取り出す。とりあえず、長芋と卵を調理台まで持っていき、カウンター下の収納から乾燥ワカメを出してたっぷりの水を張ったボウルに浸けておく。
長芋を千切りにして、こちらは酢水に。それから鍋に水を入れてコンロにかける。
炊飯器の蓋を開けると、ぶわりと蒸気が立つ。それを吸い込んだ当夜はうっとりと目を閉じた。
「はあぁ~……この匂いだよなあ」
目を閉じて匂いを堪能する当夜の腹が、くうぅと鳴る。手で押さえ、早く作ってしまおうと小口ネギを入れ、しゃもじでご飯を掻き混ぜていく。
昨晩仕込んでおいたのだ。砂糖と味噌を混ぜて炊飯器の底に敷き、米とひき肉を重ねて炊く。久しぶりにタイマー式の炊飯器を使ったので不安だったが、ちゃんと炊けていてよかった。
これで昼と、おやつ用におにぎりを作る。焼きのりをコンロの火で炙ってからアルミホイルの上へ。ラップで握ったおにぎりをのせて、包んでいく。
自分のなら衛生面もそこまで気にしなくてもいい。けど、これは徹の分だから、形よりも優先すべきだ。
一個握ったところでお湯が沸いたので火から下ろし、卵をそうっと入れる。
「あ、味噌汁」
タイマーを設置したところで、はたと気が付いた当夜がどうしようと口に手を当てた。
昔、徹に毎日味噌汁が飲みたいと言われたことがある。てっきり冗談だと思っていたのに、真夏でも律儀に文句を言わずに飲んでいるから本当にそれが理想なのかもしれない。
「つ、作るか」
毎日作っていると流石にレパートリーがなくなってくる。どうしようかと腰に手を当てて唸った当夜は、「そうだ」と目を開いた。
戸棚と冷蔵庫から探し出した缶詰と半玉のキャベツをぽんと上に投げる。立ち上がって受け止めると、調子はずれの鼻歌を口ずさみながら歩いていく。
洗ったキャベツを手で千切り、鯖の水煮缶を汁ごと水に投入する。そのまま火にかけ、まな板の前へと戻る。
まだまだ残っているキャベツを半分ざく切りにし、一緒に取ってきたピーマンや人参、豚肉も切ってしまう。フライパンを持っていき、サラダ油を熱す。
まずは豚肉だ。色が変われば野菜を加えてさらに炒める。しんなりしてきたら合わせておいた調味料を加えて、仕上げに醤油を回し入れて完成。隣の味噌汁ももういいので一旦火を止めておく。
冷蔵庫から作り置きのさつまいもとベーコンのサラダやいんげんとまいたけの炒め物を出してきて、弁当箱にもりもり詰める。徹のだけ菜花のからし醤油も入れておく。
弁当もできたし、そろそろ起こしてこよう。そう思った時だった。
昨日、ネクタイをつけなかったら徹に「不良になるつもりか」と眉を顰められたのだ。学校行事以外では自由着用なのだし、もう少し暑くなったら許してくれるだろうかと面倒臭がりながらもネクタイを巻く。
鏡を見ながら位置や形を調整し、「うんっ」と出来栄えに納得がいってから部屋を出る。
階段を下り、洗面所で身支度を整えてから台所へ行く。今日は徹がこちらの家へ来る予定になっているので、先に朝食を作ろう。それから起こしに行けばいい。
「サッパリした物がいいよなあ。徹、夏前にバテやすいし」
なにがあったかなと冷蔵庫の中を覗いて食材を取り出す。とりあえず、長芋と卵を調理台まで持っていき、カウンター下の収納から乾燥ワカメを出してたっぷりの水を張ったボウルに浸けておく。
長芋を千切りにして、こちらは酢水に。それから鍋に水を入れてコンロにかける。
炊飯器の蓋を開けると、ぶわりと蒸気が立つ。それを吸い込んだ当夜はうっとりと目を閉じた。
「はあぁ~……この匂いだよなあ」
目を閉じて匂いを堪能する当夜の腹が、くうぅと鳴る。手で押さえ、早く作ってしまおうと小口ネギを入れ、しゃもじでご飯を掻き混ぜていく。
昨晩仕込んでおいたのだ。砂糖と味噌を混ぜて炊飯器の底に敷き、米とひき肉を重ねて炊く。久しぶりにタイマー式の炊飯器を使ったので不安だったが、ちゃんと炊けていてよかった。
これで昼と、おやつ用におにぎりを作る。焼きのりをコンロの火で炙ってからアルミホイルの上へ。ラップで握ったおにぎりをのせて、包んでいく。
自分のなら衛生面もそこまで気にしなくてもいい。けど、これは徹の分だから、形よりも優先すべきだ。
一個握ったところでお湯が沸いたので火から下ろし、卵をそうっと入れる。
「あ、味噌汁」
タイマーを設置したところで、はたと気が付いた当夜がどうしようと口に手を当てた。
昔、徹に毎日味噌汁が飲みたいと言われたことがある。てっきり冗談だと思っていたのに、真夏でも律儀に文句を言わずに飲んでいるから本当にそれが理想なのかもしれない。
「つ、作るか」
毎日作っていると流石にレパートリーがなくなってくる。どうしようかと腰に手を当てて唸った当夜は、「そうだ」と目を開いた。
戸棚と冷蔵庫から探し出した缶詰と半玉のキャベツをぽんと上に投げる。立ち上がって受け止めると、調子はずれの鼻歌を口ずさみながら歩いていく。
洗ったキャベツを手で千切り、鯖の水煮缶を汁ごと水に投入する。そのまま火にかけ、まな板の前へと戻る。
まだまだ残っているキャベツを半分ざく切りにし、一緒に取ってきたピーマンや人参、豚肉も切ってしまう。フライパンを持っていき、サラダ油を熱す。
まずは豚肉だ。色が変われば野菜を加えてさらに炒める。しんなりしてきたら合わせておいた調味料を加えて、仕上げに醤油を回し入れて完成。隣の味噌汁ももういいので一旦火を止めておく。
冷蔵庫から作り置きのさつまいもとベーコンのサラダやいんげんとまいたけの炒め物を出してきて、弁当箱にもりもり詰める。徹のだけ菜花のからし醤油も入れておく。
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