忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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三章/夏歌えど、冬踊らず

失っても、失うとしても・一

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 三日後の放課後、全員のスケジュールが合うと言われた日に、当夜たちはアマテラス機関の東京支部へと集った。
「俺、土槻とつきじゅうって言いまっす!!」
 よろしくおねしゃーっす!! と勢いよく頭を下げながら出された手に、当夜はよろしくと手を振り返す。
 誰かが握らない限りは頭を上げないつもりなのだろうと悟った徹が当夜を見やったが、どうにも行く気配がない。気が乗らないのだろう、と徹は仕方なく歩み寄り、手を取った。
「はあ~っ、二人共イケメン? ッスね!」
「徹、格好良いだろ」
 何故か自慢げに笑う当夜に、徹は気恥ずかしくなりながらも止めろと返す。
「習くん、紹介するわね」
 ふふっと和やかそうな笑みで様子を見守っていた鏡子がこちらに片手を向けてくる。
「まずは、渋木当夜くん」
 どうして当夜からなのか。一瞬抗議しようかと思った徹だったが、恐らく強さ順や入ってきた順ではなく、鏡子に近い順なのだろう。きっと、絶対に。
「近距離、中距離混合タイプ。あなたの前に入ったパイロットだけど、多分……うちのエースだと思うわ」
 もうそれは否定しない。多分でも恐らくでもなく、当夜が一番強いし、一番殺意があるに違いない。当夜自身も納得していて、頷いてしまっているし。
「こちらは暁美徹くん。遠距離支援タイプの機体のパイロットよ」
「僕はテスト一週間前になったら来なくなるが、それまでよろしく頼む」
 鏡子からの紹介を受けた徹は腕組をしたまま小さくお辞儀をする。
「君はテストはいいのか?」
「だいじょーぶっすよ! 俺、阿東保泉あとうほずみなんで!」
「なんだと?」
 あの有名なアホ高かと言いそうになった徹の脇腹に当夜が肘鉄を入れ、そっかと笑う。
 阿東保泉――通っている生徒が半グレもどきのヤンキーか成績不良しかいないという意味で有名な高校だ。その悪名高さから制服となっている短ランを見ただけで逃げる者もいる。
「あっ、でもでもっ。俺なんかにビビんなくていいっすよ!」
 ただの馬鹿なんでと何故か照れる習に、徹は信用できるかと眉の皺を深めた。
「それに……渋木当夜さんに敵うわけないっすから……」
 ツンツンと人差し指を合わせる習に、当夜はあーと声を上げ、徹は額に手を当ててそうだったなと深くため息を吐き捨てる。
「当夜くん、なにしたの?」
 血の気が多いよねえと笑う雅臣に背中をバシバシと叩かれた当夜は、あははと苦笑していた。
「春くらいに、先輩らが美里ヶ原高校ってスカしててムカつくからガッコ行ってシメてやろーぜって言い出して」
「うちの校門まで大勢で来て、外周ランニングをしていた陸上部に絡んだんだったな」
 五月頭の話だ。いかにもな格好をした不良に囲まれる前に逃げ出せた陸上部員は焦って正門まで駆けてきて――
「それで逆に当夜くんに絞められちゃったと」
「そうだ」
 当夜にぶつかった。
 泣きだしそうな程に狼狽した先輩たちに縋りつかれた当夜は全員を庇って、前に出て行った。
 背の低い当夜が睨んでも奴らは笑っていたが、当夜が負けるはずもなく。
「全員病院送りとか? まさかねえ」
「そんなことしないよ! やったら俺も不良じゃん」
 正当防衛の範疇だよ、と眉を下げた当夜が言う。横で見ていた徹が「無傷ではあったな。精神的に負った傷は治らないだろうが」と冷静に呟いたので、雅臣はわあと息を漏らした。
「ビックリしたッスよー、俺! ちっちゃい子がうちのテッペン治めてた先輩らをシメたんスから!」
 巨躯を両肩と背中に負ぶった当夜はそのまま三駅程先にある阿東保泉に乗り込んでいった。そして、職員室まで行って教師に直談判を持ちかけたのだ。
「二度とうちの生徒に手を出すな。出したら今度は俺がこっちに行く、だったか。あの教師倒れそうだったぞ」
 そう脅しをかけてくる、比べ物にならないくらい偏差値が上の学校の制服を着た小柄な少年に教師は顔を青くさせた。
「わー、怖いねえ」
 パチパチと手を叩く雅臣は、ヤンキー漫画の話だとでも思っているのだろうか。
「笑いごとじゃない。コイツ、警察に顔が効くんだ」
「いいことじゃないか。権力は使わないとね」
 知り合いの警察官に話を通して、先程の言葉通りに自分がやった行為を”正当防衛”にさせた。
「だって仕返しに来られたら他の人が困るじゃん」
 俺がよくてもさと頬を膨らませる当夜の額を指で弾いた徹は、哀れにも出会ってしまった習を伺う。
「渋木当夜伝説しか俺は知らなかったんスけど。こんな顔だったんスね!」
「言っておくが、お前が十人に増えても勝てないからな」
 そんなことくらいはコイツでも分かるだろう、とは言えなかった。
「先輩がホレたって言ってたから、女の子だと思ってたッス」
「は?」
 惚れた!? という言葉の方が先に口を突いて出ていく。
「なんだと、どういうことだ!」
 当夜を抱きしめた徹が叫ぶと、習はぽかんと目を大きく開いて見上げてくる。
「へ? だから、ホレたって。男なら強い男にホレるのは当然ッスよ!」
「そんなことを言うのは誰だ!! 当夜も警察も行かなくていいと言い張るから見逃してやったのに、厚かましい奴らめ!」
「えっ、なんのことっスか」
「僕はソイツら全員、退学にしてやるつもりでいたんだ」
 たまたま教師から頼まれごとをされて残っていた徹は、当夜が阿東保泉に行ったと聞いて、学校まで慌てて行ったのだ。
 なのに、当夜は穏便に済ませてもらったと言い張るし、警察は相手も反省しているようだからと言ってくるしで……
「徹底的に潰すんなら、アクガミにすればいいのに」
「それとこれとは別だ」
 むっと眉をしかめた当夜は、徹の背中に手を回す。徹がそこにいるのを確かめるように撫で、首に軽く噛みついた。
「徹が学校の中にいたから頑張ったのにさ、徹ずっと怒るじゃん」
「怒られないと思っている方がおかしい」
 がじがじと何度も噛んでくる当夜を引き剥がし、徹はやめろとこめかみに青筋を立てて見下す。
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