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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
遠雷・四
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指を差して宣言された比売は、心底共感できない異物でも見たかのように震える。
「やだね、俺はもう会いたくない!」
遠ざかっていく当夜の後ろ姿から逸らした比売の目から、わっと大粒の涙が飛び出した。
「……ひっ、ひどの恨みなんかっ、買いたくないのにぃ~~!」
子どものように泣きながらも転げ出した言葉に、勝輪丸は目を閉じて口を弧に描く。
「比売くんは可愛いなあ」
「また変なこと言うし……怖いってえぇ。お前本当に俺を食うなよぉ」
食べない食べない、と言いながら、勝輪丸は比売を抱えたまま歩いていく。
門を通り、総合体育館の敷地内から出ると、塀にもたれ掛かって腕を組む男が目についた。
「……あれっ、おじゃる?」
「おお、これは珍しいな。如何した、御蛇本殿!」
柔和な笑みを持って話しかけると、俯いて閉じていた目を開けて顔をこちらに向ける。チッと舌を打たれた勝輪丸はおやあと笑みを崩す。
「伊和様がお待ちだ。……けど、ソイツ怪我させたんなら、治療してから行った方がいいな。俺らがお守をサボってたって怒られる」
眉を顰められ、鋭い目で見られた比売は肩を揺らしてまた謝罪の言葉を口から出そうとしたが、
「比売くんは悪くないからな。お叱りを受けるなら俺だ」
当然のこととして勝輪丸がからりと笑って受け流す。
「それより、伊和殿は何の用があってここまで来たんだ?」
「大阪に残ってる奴らが痺れを切らしかけてるんだと。そっちばっかり楽をするなってな」
「楽をするな? 退屈でしかないんだが、妙なことをおっしゃる!」
まったく笑えないぞと言う勝輪丸に、御蛇本は紺の髪を掻き乱し、大げさに息を吐きだす。
「俺だって、なんのためにいてんのか分からねえよ。アンタの気持ちは分かる」
でも、今までは動くなって指令だったろと言うと、比売を睨み付ける。
「ソイツ以外はな」
「比売くんは特別だからなあ」
二人の視線を受けた比売はうっと言葉を詰まらせるが、俺だってぇと小さな拳を握った。
「俺だって、怖いことはしたくないんだぞっ!」
分かっているよと勝輪丸が肯定するが、御蛇本は侮蔑の表情を浮かべる。
「まあ、どのみち化け物を淘汰するまで、終わらんだろうな。すぐにここも変わる」
ははっと楽しそうに笑う勝輪丸に、眉を寄せては悲痛な表情になった比売はそれは嫌だと擦り寄った。
「皆が仲良くすればいいのに。なんで、そんな簡単なことが出来ないんだよぉ……」
「それはまあ、人を食うからだなあ!」
なにを言うんだと呆れた顔をされた比売は眉を下げ、そっかと勝輪丸に縋りつく。しばらく歩くと、次第に睡魔に襲われてきたらしい比売が船をこぎ始める。
「んなアホなこと出来るわけないだろ。伊和様のお気に入りは気楽でいいな」
「そうかあ? 俺は、比売くんの可愛い夢は好きだぞ。叶わないだろうが、叶えてやりたいとは思うな」
勝輪丸を意外だという顔で見つめた御蛇本は、アンタそういう奴じゃなかったのにと複雑そうに表情を曇らせる。
「なら、さっさと二人一緒に死ねよ」
「お断りだ。比売くんだけはなにがあっても生きてもらわないと困る」
残酷なことを言っている自覚があるのか、ないのか。呆れかえった御蛇本はひでー奴と冷めた声色で切り捨てる。
「あーあ。泣くぞ、ソイツ」
「いいや。比売くんがいなくなった俺の方がいっぱい泣くぞ」
この子は俺の特別だからなと眠る比売を大事そうに抱え、額に口づけた。サラサラと零れ落ちる金の髪が、柔らかに比売を彩る。
世界中の幸せや優しさを集められたら比売になるのではないかと、そう思える程に愛しい人。
「叶えさせられるものなら、叶えてあげたいさ」
信じていたいんだ、比売くんの夢をと勝輪丸は淡く微笑んだ。
「やだね、俺はもう会いたくない!」
遠ざかっていく当夜の後ろ姿から逸らした比売の目から、わっと大粒の涙が飛び出した。
「……ひっ、ひどの恨みなんかっ、買いたくないのにぃ~~!」
子どものように泣きながらも転げ出した言葉に、勝輪丸は目を閉じて口を弧に描く。
「比売くんは可愛いなあ」
「また変なこと言うし……怖いってえぇ。お前本当に俺を食うなよぉ」
食べない食べない、と言いながら、勝輪丸は比売を抱えたまま歩いていく。
門を通り、総合体育館の敷地内から出ると、塀にもたれ掛かって腕を組む男が目についた。
「……あれっ、おじゃる?」
「おお、これは珍しいな。如何した、御蛇本殿!」
柔和な笑みを持って話しかけると、俯いて閉じていた目を開けて顔をこちらに向ける。チッと舌を打たれた勝輪丸はおやあと笑みを崩す。
「伊和様がお待ちだ。……けど、ソイツ怪我させたんなら、治療してから行った方がいいな。俺らがお守をサボってたって怒られる」
眉を顰められ、鋭い目で見られた比売は肩を揺らしてまた謝罪の言葉を口から出そうとしたが、
「比売くんは悪くないからな。お叱りを受けるなら俺だ」
当然のこととして勝輪丸がからりと笑って受け流す。
「それより、伊和殿は何の用があってここまで来たんだ?」
「大阪に残ってる奴らが痺れを切らしかけてるんだと。そっちばっかり楽をするなってな」
「楽をするな? 退屈でしかないんだが、妙なことをおっしゃる!」
まったく笑えないぞと言う勝輪丸に、御蛇本は紺の髪を掻き乱し、大げさに息を吐きだす。
「俺だって、なんのためにいてんのか分からねえよ。アンタの気持ちは分かる」
でも、今までは動くなって指令だったろと言うと、比売を睨み付ける。
「ソイツ以外はな」
「比売くんは特別だからなあ」
二人の視線を受けた比売はうっと言葉を詰まらせるが、俺だってぇと小さな拳を握った。
「俺だって、怖いことはしたくないんだぞっ!」
分かっているよと勝輪丸が肯定するが、御蛇本は侮蔑の表情を浮かべる。
「まあ、どのみち化け物を淘汰するまで、終わらんだろうな。すぐにここも変わる」
ははっと楽しそうに笑う勝輪丸に、眉を寄せては悲痛な表情になった比売はそれは嫌だと擦り寄った。
「皆が仲良くすればいいのに。なんで、そんな簡単なことが出来ないんだよぉ……」
「それはまあ、人を食うからだなあ!」
なにを言うんだと呆れた顔をされた比売は眉を下げ、そっかと勝輪丸に縋りつく。しばらく歩くと、次第に睡魔に襲われてきたらしい比売が船をこぎ始める。
「んなアホなこと出来るわけないだろ。伊和様のお気に入りは気楽でいいな」
「そうかあ? 俺は、比売くんの可愛い夢は好きだぞ。叶わないだろうが、叶えてやりたいとは思うな」
勝輪丸を意外だという顔で見つめた御蛇本は、アンタそういう奴じゃなかったのにと複雑そうに表情を曇らせる。
「なら、さっさと二人一緒に死ねよ」
「お断りだ。比売くんだけはなにがあっても生きてもらわないと困る」
残酷なことを言っている自覚があるのか、ないのか。呆れかえった御蛇本はひでー奴と冷めた声色で切り捨てる。
「あーあ。泣くぞ、ソイツ」
「いいや。比売くんがいなくなった俺の方がいっぱい泣くぞ」
この子は俺の特別だからなと眠る比売を大事そうに抱え、額に口づけた。サラサラと零れ落ちる金の髪が、柔らかに比売を彩る。
世界中の幸せや優しさを集められたら比売になるのではないかと、そう思える程に愛しい人。
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信じていたいんだ、比売くんの夢をと勝輪丸は淡く微笑んだ。
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