88 / 127
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
遠雷・一
しおりを挟む
外に出ると、急激に光が差してきて当夜は片目を眇めて手を額まで持ち上げた。どこか空いている場所ないかと周囲を見渡す。
「あれ、帝花高か?」
白いシャツに灰色のスラックス。知っている色合いの制服に、当夜は首を傾げた。その中に見慣れた少年がいて、当夜は目を大きく見開く。
「どうしたんだ、剣司!」
徹を置いて駆け出した当夜は、どう見ても試合に負けましたといった雰囲気で周りを囲まれている剣司の元に辿り着く。
花壇の端に腰かけ、膝の上に置いた腕の間に顔を埋めて泣いていた剣司の前にしゃがみ、肩を揺する。
「渋木……?」
声を掛けられた剣司は意外といった体で顔を上げ、道着の袖で顔を乱暴に拭った。
「今日、ここで飛び入り参加OKの試合があったんだよ。コイツ、高校初だからってめちゃくちゃ気合い入れてたんだけどな」
「大人とやったのか? 剣司ならそこそこいったんじゃ……」
「流石に年齢別に分かれてたよ。だから、相手は同じ年頃の奴ばっか」
「なのに負けたのか? 剣司が?」
信じられない、と驚きに満たされた顔をする当夜に、周りも困惑を返す。
「俺たちもコイツなら勝てるだろうって、見送ったんだよ」
「優勝したらレギュラーにするって約束もしてたしな!」
だけど、剣司は負けた。たかが高校生相手に。
「そんなに強いのか?」
「強いよ! 俺に勝ったこともあるんだからな!」
力説する当夜に、元気が出たようで良かったと徹は安堵する。
「お前がいたら勝てたのかもしれないな……アイツに」
「いや、コイツでも」
「なに言ってんだよ、渋木なら勝てるって!」
言葉を濁す顔見知りの男たちに、当夜は困惑する。当夜の腕っぷしが強いことは、この場にいる誰もが実感している事実だ。
その自分が、負けると思われている。
当夜の実力を知らない、初見の者に身体のせいで侮られることは多い。だが、そうではないのだ。純粋に負けるかもしれないと思われたのだ。
「どんな人だったんだ。二メートルくらいの巨人とか? 地面割るくらいの力持ちとか?」
「お前と同じくらいだったと思うけど」
「えっ、もうちょい小さくなかったか?」
「だとすると、かなり小さいな」
徹がそう言うと、当夜がムッと眉を吊り上げて睨み付ける。
「ふっざけた奴だったよな!! 防具も竹刀も持ってきてねえし」
「試合の前まで、俺じゃ無理だ、負けるし痛いから嫌だとか泣いてたしな!」
アレなんだったんだよ、無理矢理出させられたとか? いや、めちゃくちゃ勉強してんのにテスト前にやってないとか言う奴じゃね? 俺ああいうの嫌いだわーと好き勝手に交わされる言葉に当夜は片眉を下げた。
「でも、顔可愛かったよな」
「は? アイツ男だろ。なにお前、そういう趣味なわけ」
「いやっ、顔は可愛かったろ!? ロリ系っつーか、童顔で。打ち込む前とか、ミステリアスな感じがしてさあ!」
「お前よく見てんな……試合一瞬だったろ」
ドン引かれた男は、ええっと驚愕の声を上げた。
「全部一本で決めてたもんな」
「即試合終了だったよな~」
すげえわアレ、と感心する様子を見ていた当夜は、いいなと言った。
「そんな強い奴なら俺も見てみたかったな」
それを聞いた周りはピタリと会話を止め、視線で合図をする。
「俺らも、お前とアイツの試合は見てみたいけど……」
「アイツに当たった奴は全員負けたし、正直敵取ってほしいよな! まだ近くにいると思うし」
「すっげード金髪だったから分かりやすいだろうしな」
竹刀貸すからと近くにいた者から二本渡された当夜は、困惑しながらも「ありがとう」と苦笑いをした。
「言っとくけど、割ったら弁償だぞ」
「割らないってば」
じゃっと走り出した当夜に、徹がえっと言う。追うかどうか悩んだが、周りに審判がいないとと言われて、慌てて遠ざかっていく当夜の後ろを追いかけ走り出した。
「俺も行くよ。幼馴染のくせに試合見に来たことないから、ルールとか知らないだろ」
そう言って剣司も走り出し、周りはおーと手を振る。
「あれ、帝花高か?」
白いシャツに灰色のスラックス。知っている色合いの制服に、当夜は首を傾げた。その中に見慣れた少年がいて、当夜は目を大きく見開く。
「どうしたんだ、剣司!」
徹を置いて駆け出した当夜は、どう見ても試合に負けましたといった雰囲気で周りを囲まれている剣司の元に辿り着く。
花壇の端に腰かけ、膝の上に置いた腕の間に顔を埋めて泣いていた剣司の前にしゃがみ、肩を揺する。
「渋木……?」
声を掛けられた剣司は意外といった体で顔を上げ、道着の袖で顔を乱暴に拭った。
「今日、ここで飛び入り参加OKの試合があったんだよ。コイツ、高校初だからってめちゃくちゃ気合い入れてたんだけどな」
「大人とやったのか? 剣司ならそこそこいったんじゃ……」
「流石に年齢別に分かれてたよ。だから、相手は同じ年頃の奴ばっか」
「なのに負けたのか? 剣司が?」
信じられない、と驚きに満たされた顔をする当夜に、周りも困惑を返す。
「俺たちもコイツなら勝てるだろうって、見送ったんだよ」
「優勝したらレギュラーにするって約束もしてたしな!」
だけど、剣司は負けた。たかが高校生相手に。
「そんなに強いのか?」
「強いよ! 俺に勝ったこともあるんだからな!」
力説する当夜に、元気が出たようで良かったと徹は安堵する。
「お前がいたら勝てたのかもしれないな……アイツに」
「いや、コイツでも」
「なに言ってんだよ、渋木なら勝てるって!」
言葉を濁す顔見知りの男たちに、当夜は困惑する。当夜の腕っぷしが強いことは、この場にいる誰もが実感している事実だ。
その自分が、負けると思われている。
当夜の実力を知らない、初見の者に身体のせいで侮られることは多い。だが、そうではないのだ。純粋に負けるかもしれないと思われたのだ。
「どんな人だったんだ。二メートルくらいの巨人とか? 地面割るくらいの力持ちとか?」
「お前と同じくらいだったと思うけど」
「えっ、もうちょい小さくなかったか?」
「だとすると、かなり小さいな」
徹がそう言うと、当夜がムッと眉を吊り上げて睨み付ける。
「ふっざけた奴だったよな!! 防具も竹刀も持ってきてねえし」
「試合の前まで、俺じゃ無理だ、負けるし痛いから嫌だとか泣いてたしな!」
アレなんだったんだよ、無理矢理出させられたとか? いや、めちゃくちゃ勉強してんのにテスト前にやってないとか言う奴じゃね? 俺ああいうの嫌いだわーと好き勝手に交わされる言葉に当夜は片眉を下げた。
「でも、顔可愛かったよな」
「は? アイツ男だろ。なにお前、そういう趣味なわけ」
「いやっ、顔は可愛かったろ!? ロリ系っつーか、童顔で。打ち込む前とか、ミステリアスな感じがしてさあ!」
「お前よく見てんな……試合一瞬だったろ」
ドン引かれた男は、ええっと驚愕の声を上げた。
「全部一本で決めてたもんな」
「即試合終了だったよな~」
すげえわアレ、と感心する様子を見ていた当夜は、いいなと言った。
「そんな強い奴なら俺も見てみたかったな」
それを聞いた周りはピタリと会話を止め、視線で合図をする。
「俺らも、お前とアイツの試合は見てみたいけど……」
「アイツに当たった奴は全員負けたし、正直敵取ってほしいよな! まだ近くにいると思うし」
「すっげード金髪だったから分かりやすいだろうしな」
竹刀貸すからと近くにいた者から二本渡された当夜は、困惑しながらも「ありがとう」と苦笑いをした。
「言っとくけど、割ったら弁償だぞ」
「割らないってば」
じゃっと走り出した当夜に、徹がえっと言う。追うかどうか悩んだが、周りに審判がいないとと言われて、慌てて遠ざかっていく当夜の後ろを追いかけ走り出した。
「俺も行くよ。幼馴染のくせに試合見に来たことないから、ルールとか知らないだろ」
そう言って剣司も走り出し、周りはおーと手を振る。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!



初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる