忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

稀なる眼・三

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 中に入ると、クロスシート上に並んだ座席が目に入ってきた。この列車は持ち主である桜鶴の好みで、和の洋式になっているため、座席は桐で作られている。
 目を楽しませてくれる精巧な透かし彫りを横に進んでいくと、ようやく求めていた人物に出会うことができた。
「おばんです~」
 雅臣が緊張感なく話しかけると、色素の薄い金髪を揺らして狐に似た悪戯っぽい目を細めて、軽薄そうな男が笑う。
 仲上なかがみがい。大阪支部に所属している、ベテランのパイロットだ。肩程に伸ばした茶色がかった金髪と、狐のような目が特徴的な青年だった。
「鏡子ちゃん、久しぶりやなあ。今日もめっちゃ可愛えわ」
「ありがとう、涯くん」
 肘掛けについた腕の肘を曲げて枕がわりにしている涯の膝の上に、子ども特有の艶のある黒髪の少年が座っていた。
 癖のない髪がサラリと零れ落ち、丸い頬が露になる。俯きがちになっている顔の、瞼は伏せられており、眠っているようだった。
 眉間に皺を作りながらも文句を言わずにもう片方の腕で支え、胸にもたれかけさせているらしい涯が、雅臣の視線に気付くと口に指を当てる。しー、と合わせた歯の間から漏れ出た息。
「コイツ地図代わりにせなアカン所まで行ったから、疲れとんねん。話あんなら明日にしたって」
「あなたも疲れているのにごめんなさいね。雅臣も一緒にお願いできるかしら?」
「男だらけで寝るとかホンマ勘弁してくれって感じやけど」
 まあしゃあないなと髪を乱暴に掻き乱す涯は、女性以外には素っ気ないようでいて、案外世話見が良い青年だった。
 子どもから好かれる性質らしく、大阪支部に行くとよく小さなパイロットたちからまとわりつかれている姿が見かけられる。
「合宿だとでも思って頂戴。これには気を遣わなくてもいいから……きゃっ!?」
 大きく揺れ、突然のことに踏ん張りが効かずに足が宙に浮いた鏡子の肩と背に手を回した雅臣が自身の方に引き寄せた。
「なっ、なに!?」
 雅臣の腕に抱えられながらも状況判断を進めようとする鏡子に、涯がひらりと手を振る。
「心配あらへん。アホがっ、雑やねん!」
 この場にはいない誰かを罵った涯の耳を、キーーーーンというハウリングの音がつんざく。
『司令っ、雅臣さん!! 大至急、後部に来てくれえッ。今すぐだ、今すぐっ! 大変なことになってしまうぞっ!!』
 聞こえてきた太い男の声は懐かしい音を含んでいて思わず頬が緩みかけたが、緊張を持っている強張った声でしかなくて二人は顔を見合わせた。
『新しいパイロットが出現したけどな、はよ処置したらんと死んでまうで。頭から落ちよったから、鉄神も大破や』
 こんなぐっちゃぐちゃの鉄神見たことないで、という高い女の子の声に、涯も立ち上がる。
「寝かしとりたかったけど、こらアカンな。起きぃ、燕。仕事やで」
 立ち上がって抱えたままの子どもを揺すると、随分と大人しい様子で目を開けた。大人びた目をくるりと涯に合わせ、それから雅臣に向ける。
「……記録だけにはさせないから、安心して」
 パイロットの初戦死亡。ありえない事態ではなく、度々起こりかけてしまうものだ。そうなれば、鉄神だけでも記録を取るようにしている。
「生きましょう、雅臣!」
 鉄神は私が修復する、と意気込む鏡子に雅臣は頷いて見せる。
「奇跡に殺されるなんて、そんな馬鹿な話あっていいものじゃないわ」
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