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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
愛とか愛じゃないとか・四
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「雅臣さん、鏡子ちゃんはどれくらいで来ると思う?」
「タタラヒメなら多分……十五分もあれば来れるね」
「じゃあ、徹が来たら下りよう。カグラヴィーダ、手伝って!」
上に向かって呼びかけると、老人のような声がなんだと応えた。
「これが、カグラヴィーダの声なのか」
「そうだよ。カグラヴィーダ、俺は雅臣さんを抱えて飛び降りる。その後、俺の声に従って動いてほしいんだ」
「なんだって!?」
そんなことは無理だ、と雅臣が身を乗り出してくるが、当夜はううんと首を横に振る。
「小さい声しか出せない。けど、お前は俺がどこにいて、なにを言っても聞き取ってくれるだろ」
『無論。聞き取れぬはずがなかろう』
「だよな。じゃあ、頼んだからかな!」
怪しまれるのが一番良くない。自分の好戦的な面はすでに敵にも知れ渡っているはずだ。そう考えた当夜は、尚も機体を動かす。
「なんで駄目なんて言うんだろうな。今、すっごくカグラヴィーダと繋がれている気がするのに」
『儂もそう感じている。お前が近い』
「神様に近づきすぎてはいけないんだよ、当夜くん」
雅臣が隣までやってきて、中腰になる。カグラヴィーダから引き離すように当夜に身を寄せ、抱きしめた。
「神様に選ばれたとしても、ただの人だ。戻ってこれなくなるところまで行ってしまってはいけないよ」
涙が出そうになった。鏡子に触れた時は、あんなに温かいと思ったのに、今は冷たい。
「行きたいんだ。このまま、いたいんだよ……俺」
「どうして、君はそこまで愛すんだい」
「俺はカグラヴィーダと一緒なんだ」
迷いがあっても、敵は討たないといけない。すでに慣れた手先は、着実に鉄と土の間に剣を沈ませ、紙のように切り裂いていく。
「俺、愛されたことがない」
なら徹はと言いそうになり、雅臣は口を閉じて俯いた。彼が言っているのは徹や、友達、知り合いの大人ーーなどという曖昧で血の繋がりのない存在ではないのだろう。
純粋に、無条件に愛されていておかしくない存在に、愛されないと言っているのだ。
「君のお父さんと僕は話したけれど、心配していたよ」
「心配は心配だ。愛がなくても出来る」
厳しい口調で言い返してから、当夜は小さく音を雫す。雅臣の方にほんの僅か首を動かし、伺い見る。
「……ごめんなさい」
小さな手が、軋む音を微かに立てた。幼子である彼の目の縁は赤く、恥じらいを含んでいる。
「僕は親がいないから君の気持ちを全部分かることはできないけれど、察することは出来た」
手の上に、己の手を重ねて雅臣は笑いかけた。
「一緒じゃないけど、似てるね」
淡い色合いの爪をトントンと小突かれた当夜は、困ったように眉を下げーー笑う。
「ありがと、雅臣さん」
どういたしまして、と雅臣が返すと、
「待たせたわね、皆」
という涼やかな声が響いた。
「早いね。流石タタラヒメ」
「本物じゃないから。私が頑張って速度上げたのよ」
はあ、と息を吐く鏡子と、その後ろで控える徹の姿が三つある内の右側のモニターに映り込む。
「というか、由川司令の運転が上手なんだと思います。すごく、安心できます」
「ふふっ、任せておいて」
滑らかな動作で空を駆ける、白い羽を持った機体。
「……綺麗」
数時間に見た時よりも、ずっと安心できる。鏡子が乗るだけで、目映い程の美しさを放つ。
「そうでしょう」
満足げに笑う鏡子は、可愛らしい。守ってあげないといけない人を、こんな危ない所に連れてきてしまった罪悪感に胸が痛まないわけではなかった。
「あ……っと、鏡子ちゃんっ。変な奴がいるんだ! 金髪で、気障ったらしい白い服を着た男! 範囲二キロ以内にソイツがいないか確かめてからじゃないと、俺も雅臣さんも出れない」
「そういうことね……徹くん、準備はいい?」
「はいっ、お願いします!!」
空を滑るように、鏡子と徹が遠ざかっていく。
「タタラヒメなら多分……十五分もあれば来れるね」
「じゃあ、徹が来たら下りよう。カグラヴィーダ、手伝って!」
上に向かって呼びかけると、老人のような声がなんだと応えた。
「これが、カグラヴィーダの声なのか」
「そうだよ。カグラヴィーダ、俺は雅臣さんを抱えて飛び降りる。その後、俺の声に従って動いてほしいんだ」
「なんだって!?」
そんなことは無理だ、と雅臣が身を乗り出してくるが、当夜はううんと首を横に振る。
「小さい声しか出せない。けど、お前は俺がどこにいて、なにを言っても聞き取ってくれるだろ」
『無論。聞き取れぬはずがなかろう』
「だよな。じゃあ、頼んだからかな!」
怪しまれるのが一番良くない。自分の好戦的な面はすでに敵にも知れ渡っているはずだ。そう考えた当夜は、尚も機体を動かす。
「なんで駄目なんて言うんだろうな。今、すっごくカグラヴィーダと繋がれている気がするのに」
『儂もそう感じている。お前が近い』
「神様に近づきすぎてはいけないんだよ、当夜くん」
雅臣が隣までやってきて、中腰になる。カグラヴィーダから引き離すように当夜に身を寄せ、抱きしめた。
「神様に選ばれたとしても、ただの人だ。戻ってこれなくなるところまで行ってしまってはいけないよ」
涙が出そうになった。鏡子に触れた時は、あんなに温かいと思ったのに、今は冷たい。
「行きたいんだ。このまま、いたいんだよ……俺」
「どうして、君はそこまで愛すんだい」
「俺はカグラヴィーダと一緒なんだ」
迷いがあっても、敵は討たないといけない。すでに慣れた手先は、着実に鉄と土の間に剣を沈ませ、紙のように切り裂いていく。
「俺、愛されたことがない」
なら徹はと言いそうになり、雅臣は口を閉じて俯いた。彼が言っているのは徹や、友達、知り合いの大人ーーなどという曖昧で血の繋がりのない存在ではないのだろう。
純粋に、無条件に愛されていておかしくない存在に、愛されないと言っているのだ。
「君のお父さんと僕は話したけれど、心配していたよ」
「心配は心配だ。愛がなくても出来る」
厳しい口調で言い返してから、当夜は小さく音を雫す。雅臣の方にほんの僅か首を動かし、伺い見る。
「……ごめんなさい」
小さな手が、軋む音を微かに立てた。幼子である彼の目の縁は赤く、恥じらいを含んでいる。
「僕は親がいないから君の気持ちを全部分かることはできないけれど、察することは出来た」
手の上に、己の手を重ねて雅臣は笑いかけた。
「一緒じゃないけど、似てるね」
淡い色合いの爪をトントンと小突かれた当夜は、困ったように眉を下げーー笑う。
「ありがと、雅臣さん」
どういたしまして、と雅臣が返すと、
「待たせたわね、皆」
という涼やかな声が響いた。
「早いね。流石タタラヒメ」
「本物じゃないから。私が頑張って速度上げたのよ」
はあ、と息を吐く鏡子と、その後ろで控える徹の姿が三つある内の右側のモニターに映り込む。
「というか、由川司令の運転が上手なんだと思います。すごく、安心できます」
「ふふっ、任せておいて」
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「……綺麗」
数時間に見た時よりも、ずっと安心できる。鏡子が乗るだけで、目映い程の美しさを放つ。
「そうでしょう」
満足げに笑う鏡子は、可愛らしい。守ってあげないといけない人を、こんな危ない所に連れてきてしまった罪悪感に胸が痛まないわけではなかった。
「あ……っと、鏡子ちゃんっ。変な奴がいるんだ! 金髪で、気障ったらしい白い服を着た男! 範囲二キロ以内にソイツがいないか確かめてからじゃないと、俺も雅臣さんも出れない」
「そういうことね……徹くん、準備はいい?」
「はいっ、お願いします!!」
空を滑るように、鏡子と徹が遠ざかっていく。
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