忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

愛とか愛じゃないとか・二

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「――さん。起きて、雅臣さ」
 んん、と唸りながら身を捻った雅臣は、腕を伸ばそうとしてなにかに阻まれる。自室に最低限の荷物しか置いていないはずで、壁もこんなに堅くて冷たくなかったはずなのだが、
「鏡子ちゃん、もうちょっと寝させて……朝ご飯、適当に食べてていいから……さ」
 もうちょっと待って、という寝ぼけ眼の声は、
「ええ~、俺、鏡子ちゃんじゃないんだけど」
 困った調子の、若い男の子の声にかき消された。
「えんくん……? ごめん、運んでもらってる最中だった……」
「誰それ。俺、女の人じゃないし、その”えんくん”でもないけど」
 眉を吊り上げ、唇を尖らせた少年が覗き込んできて、雅臣は仰け反ろうとする。だが、危ないよ、とやんわりとした口調で引き戻された。
「当夜くん、ここ……もしかして」
 鼓動する臓腑の如く動めく、赤に染まった室内は見覚えがある。当夜専用の機体である、カグラヴィーダのコックピットだろう。
「そ、カグラヴィーダの中」
 白く長い髪を鬱陶しげに後ろに払った当夜は、大丈夫? と言った。
「体痛くない?」
 失神か、脳震盪かとにかく状態が悪かったであろう雅臣は、大丈夫と返す前に状態を確かめようとしてーー固まった。
「雅臣さん?」
 大きな目を丸くさせる当夜は、自分よりも幾分か若い。思い切りの良い言動ばかりするので普段は気にも留めないが、黙っていれば幼い顔立ちをした可愛らしい少年だ。
「僕が倒れていたから、支えてくれたんだね。ありがとう」
 大人の男としての矜持で騒がず、引きつっているかもしれないが笑顔でそう言うと、当夜はううんと首を横に振る。本当に、頑固で何故か妙に戦いたがる以外はいい子だ。
「雅臣さん、もうちょっと食べた方がいいよ。軽すぎ。徹くらいしかないだろ」
 あははと笑いながらも手や目を動かす当夜に、雅臣は体を動かそうとして止める。戦闘中に動くなんて、当夜の邪魔をするわけにはいかない。
「あ、下りたいなら下りていいよ。窮屈だよな」
 年下の男の膝に乗せられている状態になっていた雅臣は、えっと言う。
「後ろに人が入れるくらいの広さあるからさ」
 それは知っている。基本的にどの鉄神もスタッフが入り込んで輸血パックを設置する程度のスペースは用意されているからだ。
「分かった。じゃあ、一瞬前を塞ぐよ。ごめんね」
 ついさっき一度戦闘が終了したばかりだ。しかも、当夜の神装はまだできておらず、負担が大きい。それなのに、帰宅途中で襲われて連戦だ。大の大人の男を膝にのせたままは辛いだろう。
 膝から下りて中腰になって、右側を通り後ろへと回った。背中に回ると、破れた服の下、当夜の白い肌に突き刺さるナイフのような形状をした管の先が見えるようになる。カグラヴィーダが当夜に与えた傷は、ここから出れば直るが、これはあまりにも痛々しい。
「雅臣さん、揺れるからちゃんと掴まってて!」
 いくぞとカグラヴィーダに命じると、当夜は今までは寝ていたかと思うくらい、凄まじい勢いで手と機体を動かし始めた。
 カグラヴィーダはまだ微調整をされていない。当夜自身が、今この場で戦いながら行っている。
 一ミリのズレも発生しないよう、なめらかに動かせるよう、威力を上げるため、様々な理由で、現場で変えていかなくてはいけない。
 こんな芸当が出来るパイロットは他にいない。パイロットシートの背もたれに抱きつき、激しく揺らされながらも雅臣は当夜のつむじを見下し、感嘆のため息を雫す。
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