忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

曇天晴れず、歪む月・二

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「あそこまで走るよ!」
 先に走り出した雅臣を追って走っていくが、風かアクガミの鳴き声か。低く歌うような音に気が散らされる。
 地面に座り込んだ雅臣が白衣のポケットから認証カードを出し、マンホールに作られた細長い穴に差し込んだ。カードの大きさ丁度の穴に吸い込まれていき、ピピッと軽い音が鳴る。
 自動で浮き上がってくるフタの奥は電灯が灯され、冷たい空気が這い出てきた。
「徹くん、先に入って!」
「だがっ」
 有無を言わさず徹を開けたマンホールの中に突っ込んだ当夜と雅臣の背に悪寒が走る。いつの間にか近づいていたアクガミが膨らんでいる。
 身の危険を感じた二人が左右に離れると、蒸気が上がる程に熱された土がその場を覆った。
 次々に落下してくる金属や土に、雅臣は白衣の前を開けて当夜を招き入れる。抱きこまれる形になった当夜は目を白黒とさせ、雅臣の胸に手を当てて見上げた。すると、硬く冷たい感触がし、当夜はビクリと体を揺らす。
 ――拳銃だ。
 黒い塊はテレビや映画館で観た物と酷似していて、心臓がどっと音を立てた。
 消毒液と、錆びた鉄の匂い。歯を食いしばる雅臣の顔は真剣で、顎から伝った汗が落ちる。
 視界が開け、雅臣が力が抜けたように息を吐く。辺りを見回した当夜は護身用にと近くに落ちていたアクガミの一部であろう鉄棒を手にし、馴染ませるように振るう。
 アクガミが吐きだした土に扉を封じられてしまった当夜は舌打ちをし、雅臣の腕を掴む。もつれる足をなんとか動かしてついてくる雅臣に向かってくる金属体に当夜は鉄棒を両手で握りしめる。
 鉄棒を振るい、野球ボールのようにふっ飛ばした金属体はアクガミに返り、高い音を立ててぶつかった。
 よしっと拳を握った当夜を雅臣は呆然と口を開けて見てしまう。それに気付いた当夜はピースサインを作って見せるが、すぐに影が落ちてきて絡んだ視線は外れ、上がっていく。
 真上にきた泥と金属が混合したアクガミの下部が盛り上がり――発射された。当夜は雅臣の背を強く強く突き飛ばし、自分も回避行動を取ろうとする。だが、地面に当たった衝撃で爆風が生まれた。
「うわあっ!」
 爆風に吹っ飛ばされた当夜は、空中でもがき回転する。背中から落ち、さらに受け身を取った当夜はすぐに地面に手をついて立ち上がった。
「雅臣さんッ!!」
 当夜と違い、派手に地面に打ち付けたらしい雅臣は顔を伏せた状態で倒れていた。当夜は駆け寄っていき、傍らに座る。肩を抱いて上体を持ち上げると雅臣が呻く。
「う……」
 近くに落ちている眼鏡はひび割れ、フレームが折れていた。膝の上にのせた雅臣の黒髪が解けて広がる。空を覆う宵闇のような前髪がハラリと落ち、雅臣の相貌が露になった。
「――――えっ」
 こんな状況だというのに、思わず見惚れてしまう蠱惑的な美貌。視線を外せなくなった当夜に向かって手が伸びてくる。宝石のように光が瞬く碧の眼が開かれ、苦し気に寄り、再び閉じてしまう。
 その時、奇怪な笑い声が当夜の耳をくすぐってきた。
 弾かれたように首を上げると、ほんの少し離れたビルの屋上に人が立っていることに気付く。
「なんだ……アイツ」
 月夜に眩しく映る金の髪。純白のスーツに、黒いショートグローブを身に着けた怪しい男。アクガミを従えているようにも見えるその姿に、当夜は目を細めていく。
「ああ――やっと見つけたよ。僕だけの太陽」
 キザったらしく閉じていた眼が開いた。芝居がかった調子で言葉を紡ぐ男の目は、悍ましい暗さを潜めた銀。無機質な金属のようなそれに見下ろされる。
「僕を見て、僕を愛して、僕の腕の中で囀ってくれ。その綺麗な口で、僕に捧げる愛を歌って」
 眉を引き寄せて口を歪に開けた美丈夫は、悩ましい息を吐き出し、首を小刻みに左右に振りながらも上げていく。
「どうしてあげようか。興奮が止まらないよ」
 開かれた両腕に、当夜は目を怒らせて睨み付けて雅臣を抱く手に力を込めた。
「気っ色悪い! 誰なんだよ、アンタは!!」
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