忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

隙を無くして・一

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「おや、暁美。君も来ていたのか」
 ヤタドゥーエの調整を終えた徹は、リフトを使って下りていく最中に声をかけられた。見下ろすと、そこには四葉の姿がある。
「はい。六条さんも来られていたんですね」
「ふふ、私たちは本当によく似ているようだ」
 徹はリフトを下りて格納庫を歩む。その隣についてくる四葉に、そうですねと微かに口に笑みを滲ませて見せた。
「それで? 今日は想い人くんも一緒なんだろう?」
 どこにいるんだい、とからかうように目を輝かせて見てくる四葉に、徹は仕方のない人だ、と眉を下げて苦い笑みになる。
「来てますよ」
「そうかい。ならば、もう身体の調子は戻ったんだね」
「ええ。当夜は元が丈夫ですから」
 身体面だけならば徹の知り合いの中で最も頑丈だろう。そう確信できるポテンシャルを当夜は持っていた。
「それは良かった」
 にっこりと目を細めて笑う四葉に安心する。
「今は神装の採寸をしているはずです」
「そうか、それは――」
 四葉は言葉を切り、唇に指を押し当てた。言葉を言い惑うかのように少しの間黙ると、口の片端をわずかに引き攣らせ、眉をしかめる。
「大変だね」
 徹は肩の力を抜かし、ええと吐息のような声を吐きだした。
「僕たちは適合率が低く、あまり効かない体質ですからいいんですが……」
「想い人くんだと、そうはいかないかもしれないねえ」
 うんうんと頷き合う二人の横を機材を抱えたスタッフは不思議そうに首を傾げて通り過ぎていく。
「おや? だが、おかしいねえ」
「なにがです?」
「いや……」
 四葉がためらって徹を見ては、床に視線を落とした。
「確か、雅臣さんは今日お休みだったはずなのだが」
「え?」
 訊き返した徹に、四葉は私の記憶間違いならばすまないのだが、と言葉をさらに重ねる。体を半身捻り、ほらと腕を真っ直ぐに上げた。
「帰って来たらしいんだよ、岩草が。まだ機体は戻ってきていないらしいがね」
「岩草さんが?」
 当夜が乗るカグラヴィーダが収まっている四番ブロック。その前の三番ブロックに人が集まっている。準備をしているのだろう。別の支部に行っていたパイロットが帰ってきた喜びと不安に徹の胸が揺れ――
「まさか!」
 跳ね上がった。
「あの人まで帰ってきてるんですか!?」
「あ、ああ。そうだと思うが」
 四葉は徹の勢いに若干のけぞりながらも首を縦に振る。
「そんな……あんなのがいたら、当夜は……!」
 背を丸めて頭を抱え、叫ぶ徹に、四葉は手を伸ばすかどうか悩んだ。
「始先輩に手を出すような奴だ! 当夜になにもしないはずがない……六条さん!」
「なんだい?」
「僕は当夜の所に行きます。六条さんは、由川司令にお時間があれば呼んできて頂けますか?」
 四葉の両肩を抱いて真剣な目で言う徹に、四葉はああと応じる。そのまま四葉に背を向けて走り出した徹は、ギリリと奥歯を噛みしめた。
「当夜……!」
 階段を駆け上がり、すぐ近くにあるエレベーターの上ボタンを手の平でバンバンと何度も叩くように押す。早く早くと気持ちばかりが急くが、そんなことは分かりもしない機械が相手だ。いつものペースを変えずに来たエレベーターの扉の隙間をかいくぐるように入り込む。
「当夜、当夜!」
 押し入ったエレベーターの地下二階のボタンを連打して、おまけに閉ボタンも連打する。扉が閉まると、徹は頭を抱え、息を重く吐きだしながらしゃがみ込む。
「なんであの人はこんなにタイミング良く帰ってくるんだ」
 帰ってこなくていいのに、とまでは言わないが、今日はいなくて良かったくらいには思ってしまう。それくらいの人物だ。
「無事でいてくれ、当夜」
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