51 / 121
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
言葉はいらない・一
しおりを挟む
当夜は徹と別れると、自分の家へと向かった。門と玄関の扉を開けて中へ入っていく。赤くなっている気がする顔を冷ましに、洗面所に足を伸ばして冷水で顔を洗った。タオルで顔についた水滴を拭い、鏡を見る。白い頬に水が伝って落ちていった。
当夜は洗面所を出ると、二階にある自室まで上がっていく。ボディバッグに財布とハンカチと携帯を詰め込むと部屋を出て階段を下りる。家を出て門を開けると、そこには徹が立っていた。
「ごめん、待った!?」
「いや、僕も今来たところだ」
「そっか、よかった」
ほっと緊張を解いて当夜は徹の傍へと駆け寄っていく。並んだ二人は歩き出した。
「アマテラス機関の支部って近いのか?」
「電車で三駅だ。そんなに遠くない」
「あ、そうだったのか。雅臣さんの車乗った時のこと、よく覚えてないんだよなあ……」
暗かったし、疲れていたから場所まではつかめなかった。徹と一緒に地下を通った時も喧嘩をしていて計ることができないままだったので、支部の位置は正確には分かっていない。
「あの時は暗かったからな、仕方ない」
「昨日も寝ちゃったけど、徹が連れて帰ってきてくれたのか?」
「いいや、僕じゃない」
駅についた二人は百九十円の切符を買い、改札を通り抜ける。階段を下りてホームまで行き、到着していた電車に乗り込んだ。入った後すぐにドアが空気の抜けるような音をさせて閉まる。
そう混んではいなかったが、満席だったために二人は入口の前に並んで立った。
徹は上に吊り下げてある吊り手を握ったが、当夜は車体の壁についている金属製の棒を握る。
「で、昨日はどうしたんだ?」
「雅臣さんに車で送ってもらったよ」
「えっ昨日も!?」
ああ、と言うと当夜はうわーと呟いた。
「なんか悪いな、毎回送ってもらってて」
「昨日までは装備が万全じゃなかっただけだろう」
「あーそっか、なんかあるんだっけ?」
徹が頷いて見せると、当夜はあれ? と言った。
「どうした」
「いや、そういやさ……俺の制服って破けたはずなのに元通りになってたなって」
一駅目に着き、下りる人はいなかったが入ってくる人のために徹が当夜の肩を抱いて座席側に寄せる。休日出勤らしきサラリーマンがふうと重いため息を吐きながら乗り込み、ドアは閉まった。
「あれは機関からの支給だ」
「えっ、いいのか!?」
「いいだろう。僕も最初は貰ったし、何人かもそうしてる」
「そうなのか?」
ああ、と徹は微かに口の端を上げて見せる。
「そっか。けど、お礼言わないと……鏡子ちゃんも雅臣さんも時間あるかなあ?」
「さてな、僕には分からない」
そう言うと当夜がそうだよなと眉を下げてしょげるので、徹は慌てて、
「行ったら訊いてみよう」
と付けたした。それを聞いた当夜はパッと晴れやかな笑顔になり、うんっと大きく頷く。それを見た徹は安心を得た。どんなことであろうとも、当夜を苦しめたくはない。
二駅目に着いた。今度は一人が下りて、誰も乗らない。煙草の煙のように燻る空を車窓から見た徹から言葉が突いて出る。
「雪でも振りそうだな」
当夜も空を見上げ、ぷっと吹きだした。
「今は春だから、降りゃしないだろ」
ケラケラと明るく笑った当夜は、ドアに背を向けて徹と正面で向き合う。座席側の、人に見え辛い方の左手で、徹の右手を握った。
「心配?」
指を絡めて手を繋ぎ合う。分け合う体温が心地良い。
「ああ、心配だ」
「けど、心配しなくていい。大丈夫だ」
窓に目を剥けることなく、二人は三分間黙って駅に着くのを待った。明日になったらぼやけ、一年後には記憶していないかもしれないような、小さな会話でこの時間を埋めたくない。そう感じたからだ。
「……着いたな」
時を惜しむようにゆっくりと手を離し、ホームへと下りる。電車を見送ることはせず、進んでいく。
当夜は洗面所を出ると、二階にある自室まで上がっていく。ボディバッグに財布とハンカチと携帯を詰め込むと部屋を出て階段を下りる。家を出て門を開けると、そこには徹が立っていた。
「ごめん、待った!?」
「いや、僕も今来たところだ」
「そっか、よかった」
ほっと緊張を解いて当夜は徹の傍へと駆け寄っていく。並んだ二人は歩き出した。
「アマテラス機関の支部って近いのか?」
「電車で三駅だ。そんなに遠くない」
「あ、そうだったのか。雅臣さんの車乗った時のこと、よく覚えてないんだよなあ……」
暗かったし、疲れていたから場所まではつかめなかった。徹と一緒に地下を通った時も喧嘩をしていて計ることができないままだったので、支部の位置は正確には分かっていない。
「あの時は暗かったからな、仕方ない」
「昨日も寝ちゃったけど、徹が連れて帰ってきてくれたのか?」
「いいや、僕じゃない」
駅についた二人は百九十円の切符を買い、改札を通り抜ける。階段を下りてホームまで行き、到着していた電車に乗り込んだ。入った後すぐにドアが空気の抜けるような音をさせて閉まる。
そう混んではいなかったが、満席だったために二人は入口の前に並んで立った。
徹は上に吊り下げてある吊り手を握ったが、当夜は車体の壁についている金属製の棒を握る。
「で、昨日はどうしたんだ?」
「雅臣さんに車で送ってもらったよ」
「えっ昨日も!?」
ああ、と言うと当夜はうわーと呟いた。
「なんか悪いな、毎回送ってもらってて」
「昨日までは装備が万全じゃなかっただけだろう」
「あーそっか、なんかあるんだっけ?」
徹が頷いて見せると、当夜はあれ? と言った。
「どうした」
「いや、そういやさ……俺の制服って破けたはずなのに元通りになってたなって」
一駅目に着き、下りる人はいなかったが入ってくる人のために徹が当夜の肩を抱いて座席側に寄せる。休日出勤らしきサラリーマンがふうと重いため息を吐きながら乗り込み、ドアは閉まった。
「あれは機関からの支給だ」
「えっ、いいのか!?」
「いいだろう。僕も最初は貰ったし、何人かもそうしてる」
「そうなのか?」
ああ、と徹は微かに口の端を上げて見せる。
「そっか。けど、お礼言わないと……鏡子ちゃんも雅臣さんも時間あるかなあ?」
「さてな、僕には分からない」
そう言うと当夜がそうだよなと眉を下げてしょげるので、徹は慌てて、
「行ったら訊いてみよう」
と付けたした。それを聞いた当夜はパッと晴れやかな笑顔になり、うんっと大きく頷く。それを見た徹は安心を得た。どんなことであろうとも、当夜を苦しめたくはない。
二駅目に着いた。今度は一人が下りて、誰も乗らない。煙草の煙のように燻る空を車窓から見た徹から言葉が突いて出る。
「雪でも振りそうだな」
当夜も空を見上げ、ぷっと吹きだした。
「今は春だから、降りゃしないだろ」
ケラケラと明るく笑った当夜は、ドアに背を向けて徹と正面で向き合う。座席側の、人に見え辛い方の左手で、徹の右手を握った。
「心配?」
指を絡めて手を繋ぎ合う。分け合う体温が心地良い。
「ああ、心配だ」
「けど、心配しなくていい。大丈夫だ」
窓に目を剥けることなく、二人は三分間黙って駅に着くのを待った。明日になったらぼやけ、一年後には記憶していないかもしれないような、小さな会話でこの時間を埋めたくない。そう感じたからだ。
「……着いたな」
時を惜しむようにゆっくりと手を離し、ホームへと下りる。電車を見送ることはせず、進んでいく。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる