51 / 127
二章/少年よ、明日に向かって走れ!!
言葉はいらない・一
しおりを挟む
当夜は徹と別れると、自分の家へと向かった。門と玄関の扉を開けて中へ入っていく。赤くなっている気がする顔を冷ましに、洗面所に足を伸ばして冷水で顔を洗った。タオルで顔についた水滴を拭い、鏡を見る。白い頬に水が伝って落ちていった。
当夜は洗面所を出ると、二階にある自室まで上がっていく。ボディバッグに財布とハンカチと携帯を詰め込むと部屋を出て階段を下りる。家を出て門を開けると、そこには徹が立っていた。
「ごめん、待った!?」
「いや、僕も今来たところだ」
「そっか、よかった」
ほっと緊張を解いて当夜は徹の傍へと駆け寄っていく。並んだ二人は歩き出した。
「アマテラス機関の支部って近いのか?」
「電車で三駅だ。そんなに遠くない」
「あ、そうだったのか。雅臣さんの車乗った時のこと、よく覚えてないんだよなあ……」
暗かったし、疲れていたから場所まではつかめなかった。徹と一緒に地下を通った時も喧嘩をしていて計ることができないままだったので、支部の位置は正確には分かっていない。
「あの時は暗かったからな、仕方ない」
「昨日も寝ちゃったけど、徹が連れて帰ってきてくれたのか?」
「いいや、僕じゃない」
駅についた二人は百九十円の切符を買い、改札を通り抜ける。階段を下りてホームまで行き、到着していた電車に乗り込んだ。入った後すぐにドアが空気の抜けるような音をさせて閉まる。
そう混んではいなかったが、満席だったために二人は入口の前に並んで立った。
徹は上に吊り下げてある吊り手を握ったが、当夜は車体の壁についている金属製の棒を握る。
「で、昨日はどうしたんだ?」
「雅臣さんに車で送ってもらったよ」
「えっ昨日も!?」
ああ、と言うと当夜はうわーと呟いた。
「なんか悪いな、毎回送ってもらってて」
「昨日までは装備が万全じゃなかっただけだろう」
「あーそっか、なんかあるんだっけ?」
徹が頷いて見せると、当夜はあれ? と言った。
「どうした」
「いや、そういやさ……俺の制服って破けたはずなのに元通りになってたなって」
一駅目に着き、下りる人はいなかったが入ってくる人のために徹が当夜の肩を抱いて座席側に寄せる。休日出勤らしきサラリーマンがふうと重いため息を吐きながら乗り込み、ドアは閉まった。
「あれは機関からの支給だ」
「えっ、いいのか!?」
「いいだろう。僕も最初は貰ったし、何人かもそうしてる」
「そうなのか?」
ああ、と徹は微かに口の端を上げて見せる。
「そっか。けど、お礼言わないと……鏡子ちゃんも雅臣さんも時間あるかなあ?」
「さてな、僕には分からない」
そう言うと当夜がそうだよなと眉を下げてしょげるので、徹は慌てて、
「行ったら訊いてみよう」
と付けたした。それを聞いた当夜はパッと晴れやかな笑顔になり、うんっと大きく頷く。それを見た徹は安心を得た。どんなことであろうとも、当夜を苦しめたくはない。
二駅目に着いた。今度は一人が下りて、誰も乗らない。煙草の煙のように燻る空を車窓から見た徹から言葉が突いて出る。
「雪でも振りそうだな」
当夜も空を見上げ、ぷっと吹きだした。
「今は春だから、降りゃしないだろ」
ケラケラと明るく笑った当夜は、ドアに背を向けて徹と正面で向き合う。座席側の、人に見え辛い方の左手で、徹の右手を握った。
「心配?」
指を絡めて手を繋ぎ合う。分け合う体温が心地良い。
「ああ、心配だ」
「けど、心配しなくていい。大丈夫だ」
窓に目を剥けることなく、二人は三分間黙って駅に着くのを待った。明日になったらぼやけ、一年後には記憶していないかもしれないような、小さな会話でこの時間を埋めたくない。そう感じたからだ。
「……着いたな」
時を惜しむようにゆっくりと手を離し、ホームへと下りる。電車を見送ることはせず、進んでいく。
当夜は洗面所を出ると、二階にある自室まで上がっていく。ボディバッグに財布とハンカチと携帯を詰め込むと部屋を出て階段を下りる。家を出て門を開けると、そこには徹が立っていた。
「ごめん、待った!?」
「いや、僕も今来たところだ」
「そっか、よかった」
ほっと緊張を解いて当夜は徹の傍へと駆け寄っていく。並んだ二人は歩き出した。
「アマテラス機関の支部って近いのか?」
「電車で三駅だ。そんなに遠くない」
「あ、そうだったのか。雅臣さんの車乗った時のこと、よく覚えてないんだよなあ……」
暗かったし、疲れていたから場所まではつかめなかった。徹と一緒に地下を通った時も喧嘩をしていて計ることができないままだったので、支部の位置は正確には分かっていない。
「あの時は暗かったからな、仕方ない」
「昨日も寝ちゃったけど、徹が連れて帰ってきてくれたのか?」
「いいや、僕じゃない」
駅についた二人は百九十円の切符を買い、改札を通り抜ける。階段を下りてホームまで行き、到着していた電車に乗り込んだ。入った後すぐにドアが空気の抜けるような音をさせて閉まる。
そう混んではいなかったが、満席だったために二人は入口の前に並んで立った。
徹は上に吊り下げてある吊り手を握ったが、当夜は車体の壁についている金属製の棒を握る。
「で、昨日はどうしたんだ?」
「雅臣さんに車で送ってもらったよ」
「えっ昨日も!?」
ああ、と言うと当夜はうわーと呟いた。
「なんか悪いな、毎回送ってもらってて」
「昨日までは装備が万全じゃなかっただけだろう」
「あーそっか、なんかあるんだっけ?」
徹が頷いて見せると、当夜はあれ? と言った。
「どうした」
「いや、そういやさ……俺の制服って破けたはずなのに元通りになってたなって」
一駅目に着き、下りる人はいなかったが入ってくる人のために徹が当夜の肩を抱いて座席側に寄せる。休日出勤らしきサラリーマンがふうと重いため息を吐きながら乗り込み、ドアは閉まった。
「あれは機関からの支給だ」
「えっ、いいのか!?」
「いいだろう。僕も最初は貰ったし、何人かもそうしてる」
「そうなのか?」
ああ、と徹は微かに口の端を上げて見せる。
「そっか。けど、お礼言わないと……鏡子ちゃんも雅臣さんも時間あるかなあ?」
「さてな、僕には分からない」
そう言うと当夜がそうだよなと眉を下げてしょげるので、徹は慌てて、
「行ったら訊いてみよう」
と付けたした。それを聞いた当夜はパッと晴れやかな笑顔になり、うんっと大きく頷く。それを見た徹は安心を得た。どんなことであろうとも、当夜を苦しめたくはない。
二駅目に着いた。今度は一人が下りて、誰も乗らない。煙草の煙のように燻る空を車窓から見た徹から言葉が突いて出る。
「雪でも振りそうだな」
当夜も空を見上げ、ぷっと吹きだした。
「今は春だから、降りゃしないだろ」
ケラケラと明るく笑った当夜は、ドアに背を向けて徹と正面で向き合う。座席側の、人に見え辛い方の左手で、徹の右手を握った。
「心配?」
指を絡めて手を繋ぎ合う。分け合う体温が心地良い。
「ああ、心配だ」
「けど、心配しなくていい。大丈夫だ」
窓に目を剥けることなく、二人は三分間黙って駅に着くのを待った。明日になったらぼやけ、一年後には記憶していないかもしれないような、小さな会話でこの時間を埋めたくない。そう感じたからだ。
「……着いたな」
時を惜しむようにゆっくりと手を離し、ホームへと下りる。電車を見送ることはせず、進んでいく。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
かいせん(line)
たくひあい
BL
「特異能力科」では超感覚的知覚や異能を元に、非科学的な未解決事件などを密かに調査を行っている。 サイコメトラー(心が読める)界瀬絹良と予知能力を持つ藍鶴色は、そこでのパートナーでもあり恋人だったが…
『能力を使うことは心を使うこと』
居場所の無い人たちが紡ぐちょっと切ないBL。

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
幼馴染の御曹司と許嫁だった話
金曜日
BL
親同士の約束で勝手に許嫁にされて同居生活をスタートすることになった、商社勤務のエリートサラリーマン(樋口 爽)×国立大一年生(日下部 暁人)が本当の恋に落ちてゆっくり成長していくお話。糖度高めの甘々溺愛執着攻めによって、天然で無垢な美少年受けが徐々に恋と性に目覚めさせられていきます。ハッピーエンド至上主義。
スピンオフも掲載しています。
一見チャラ男だけど一途で苦労人なサラリーマン(和倉 恭介)×毒舌美人のデザイナー志望大学生(結城 要)のお話。恋愛を諦めた2人が、お互いの過去を知り傷を埋め合っていきます。
※こちらの作品はpixivとムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる