忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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二章/少年よ、明日に向かって走れ!!

揺れるシャツの奥・三

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 当夜は冷蔵庫を開け、中を覗いた。買った食材は両家の間で均等に分けているため、食材がないという状態にはならない。勿論、作るメニューによって無くなる速さは違うが、その場合はもう一軒から取ってくることにしていた。
「魚、魚。なにがあったっけ」
 ごそごそと冷蔵庫を探っていた当夜は鮭を取り出して調理台に置く。
「よっし、鮭を焼こう!」
 当夜はまな板に置いた鮭に塩を振り、クッキングペーパーを巻く。そうして置いておき、小鍋を取り出して水を入れ、火にかけた。棚から椀を取り出し、その隣の棚からとろろも手に取る。椀の中にとろろを入れておく。
 フライパンをコンロにかけて油を入れ、薄力粉をまぶした鮭をその上にのせる。中火でじっくり焼いて、しょうゆと水を回しかけて、味を絡めた。
「うしっ、こんな感じかな!」
 仕上げにバターを加えて絡め合わせておき、コンロからフライパンを下げる。
「当夜、取って来たぞ」
 すると、ちょうど徹が玄関から歩いてきた。手には当夜がよく買い物に行くときに使っているエコバッグが抱えられている。
「ありがとう!」
 当夜が喜び勇んで近づくと、徹はバッグを手渡してくれた。受け取って中身を確認すると、当夜の私服と下着が入っている。
「すまない、勝手にバッグを使ってしまったが良かったか?」
「いいよ、ありがとな!」
「これくらいなんともない」
 冷えない内に着替えてこいと肩を叩くと、当夜はうん! と頷いてバスルームの方へと走っていく。徹は揺れるシャツの裾に目が釘付けになった。
(綺麗な足だな……)
 願わくばシャツの下まで見てみたいという欲望くらいは徹にもある。だが、当夜は気づかないし、こんなに明るい内から口にいていいものではない。胸の内に留めるしかなかった。
「あ、徹! お茶淹れといてー!」
 そう叫んだ当夜は、バスルームの扉を開き、脱衣所に入る。徹のシャツを脱いでカゴに入れて下着を身に着けると、ふっと緊張の糸が解けた。やはり下着がなかったことは心もとなく、恥ずかしい。
 脱いだシャツから徹の、なんとなく森などの景色を思い出させるような、爽やかな匂いもして、まるで抱き締められているようだったので、余計に照れてしまう。
(だって、徹すっげえ見つめてくんだもん)
 赤くなった顔をカゴから取った徹のシャツで隠し、収まるのを待った。だが、余計に匂いが気になってしまい、当夜はそれをカゴに入れ直して、洗面台で顔を洗う。両手で頬を軽く叩き、よしっと気合いを入れてからタオルで拭った。ロゴ入りの赤いシャツにパーカー、カーゴパンツを履いてから外に出る。
「ごめん、おまたせー」
 戻ると、徹はお茶碗に飯を盛っていた。当夜の方に体ごと向け、
「おかえり」
 と目元を和ませる。それを見た当夜は照れもどこかへ吹っ飛んでいき、柔らかい徹の気持ちに包まれた気分になった。好きだなあ、と強く思う当夜の顔もほころんでいき、とろけるような笑みを浮かべる。
「うん……っ」
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