忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

王様と騎士・三

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「なーんか、ビックリ。当夜たちでも喧嘩すんのな」
「ここまで派手なのはあんましないだけで、しょっちゅうするって」
 放課後、別々に帰ろうとしていた当夜と徹の腕をつかんで引きずるようにしてきた赤木の横を歩く当夜は、短くため息を吐いた。
「徹、いつになく機嫌悪いなー。当夜が絡むとなんでも気ぃ悪くすっけど」
「心配しすぎなんだよ、徹は」
「当夜、殺しても死にそうにねーのにな!」
 頭の後ろで手を組み、ははっと笑った赤木に、当夜はそーだよなと同意する。
「俺、人より頑丈な方なんだけどなー」
「一回さあ、当夜が徹庇って砲丸にぶつかったことあったじゃん?」
「あー、あったあった。身体測定ん時な」
「幅跳びの順番待ちだったっけ? 徹の方に飛んできた砲丸、腕で防いだからマジでビビった」
 あははと笑いながら、当夜は頬を掻いた。
「あん時さあ、骨折れたんじゃないかって皆慌てたじゃん? けど、当夜ケロっとして徹のこと心配してっし、マジで折れてないしで。俺、あっコイツ強ーわって思ったんだよな」
「そういや、赤木と初めて喋ったのその日だったな」
「そーそー。いっつもムスッとした徹が俺の物! って感じで傍から離そうとしなかったから話しかけられなかったんだけど、あん時に話さなきゃ損! って気分になったんだって」
「まるで珍獣みたいだな」
 苦笑する当夜に、赤木は珍獣みたいなもんじゃんと笑う。当夜はひどいなーと笑いつつも、前を歩く徹の背中を盗み見た。
「気になんの?」
 見ていたら、赤木に脇を肘で突かれてしまう。
「なんかさあ、徹と当夜って王様と騎士って感じだよな」
「騎士なら、そんな心配しないだろー」
「んん、うんにゃ、徹は私の物を傷つけるでない! とか、立場的に守るって感じ。けど、実際体張って守んのは当夜だよな」
「言われてみれば、そうな気もするけど」
 どうだろうなと言う当夜に、赤木はそうだって! と断言した。
「……あ、そうだ。赤木、日曜弁当持ってくって言ったけど、なに頼まれてたっけ?」
「え?」
「弁当の中身。なんだったかすっかり忘れちまってさあ。悪いんだけど、もっかい言ってくれねえ?」
 片手を顔の近くまで持っていき、ごめんと当夜が言うと、赤木は目を細かく瞬きさせる。
「当夜が忘れるなんて珍しいな」
「うん、悪い」
「や、いいけど。なんだったかなー」
「卵焼きは出し入りが好きだったよな?」
「ちげーよ、甘い方だって。それは知ってるだろー?」
 赤木に否定されると、当夜はそうだったっけ? と首を傾げた。
「そうだって。ホント珍しいな」
「うん、どうしたんだろうな」
 変だなと俯きがちになる当夜に、赤木は大丈夫だって! と背中を叩く。
「徹と喧嘩したから、それでいっぱいになってるだけだろ? 気にすんなよ!」
「……うん、ありがとう」
 今度は忘れんなよーと言って、赤木は自分の好物や食べたい物を次々と言っていく。それを記憶していく当夜の耳に、ピピッという携帯の音が入ってきた。
「メールか? 音切っとけよ」
「学校を出てからつけたって。大丈夫」
 前を歩く徹のスマートフォンも鳴ったのだと知ると、当夜の意識はそればかりに集中してしまう。
「……すまない、用事ができたから先に帰る」
 そう言いだした徹はスマートフォンを手に持ったまま走り出した。加護と赤木は急になんだよと声で追うが、当夜だけは徹の名前を思い切り叫ぶと、後を追おうとする。
「お前は来るな、二人と一緒に帰れ!」
 だが、察したらしい徹に先んじて声をかけられてしまった。昨日徹に言われた犬以下だという言葉が脳裏によみがえってくる。
「当夜? 帰ろーぜ」
 心配そうな赤木の顔を見る前に当夜はキッと頭を上げ、スクールバッグの持ち手を強く握りしめた。
「ごめん、俺も行く」
「ええ!?」
 屹然と顔を上げた当夜に赤木は大声を出したが、加護はふーっと息を吐き出す。
「行けよ。事情は分からないが、とにかく徹を守りたいんだろ」
 当夜は目を丸くして加護の顔を見たが、加護は唇に笑みを浮かべているだけだった。当夜は頷き、また明日な! と言って駆けだす。
「おう! また明日!」
 手を振る赤木に振り返して、当夜は全速力で走っていった。勘だけを頼りに走っていき、少し前に走っていった徹の背中を見つけた。
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